マテリアル・シンカロン   作:始原菌

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 僕は力のマテリアル。雷刃の襲撃者(レヴィ・ザ・スラッシャー)

 

 それはちゃんと憶えている。あとは――あとは、えーとなんだっけ?

 いや憶えてる。憶えてはいる。なくしてない、決して。ただ思い出せない。はっきりとしない、すっごくあやふやだ。

 

 ――ああ、それにしても体が軽い、()()()()

 

 何から何まで力が溢れて止まらない。気分が良すぎて精一杯。他の何もかもが、今の僕に付いてこれない。許容値(キャパシティ)ぎりぎりの衝動が、雷雨を伴う嵐のように内部で駆け巡っている。

 じゃあ吐き出そう。いっぱい暴れよう。その名の通りに『力』を振るおう――でも。それは何のためだっけ? 僕は何をしたかったんだっけ? 

 思い出そうとしても、心の底から上がり切る前に奔流に吹き飛ばされて、散り散りになってしまう。奥底にはちゃんとある。いくら吹き飛ばされても決して消えない。それだけは判る。でもそれが何なのかが判らない。

 えーっと、うーんっと、あ、あー! 何か! 何かこう、闇的な……王的な……探してた? ような? たぶん? たしか、そうだった……ような……そうだったかな……そうかも……!

 探しているのなら、どこかに行けばいいってこと。

 じゃあまずは立ち塞がる何もかもを打ち倒そう。うん、思いっきり暴れるのは気分もいいからそれがいいんじゃないかな。

 

 ああ、一つ思い出した。

 それがボク(レヴィ)の役目だ。

 

 敵を倒す。先陣を切って■の障害を排除する。そう、教えてくれた、そうしたいと思った――誰が言ってくれ、誰のため――ああ奔る、奔る。雷が奔る。力が僕を待っている。はやくはやくと、駆体を内から焦がしながら叫んでいる。戦おう、薙ぎ払おう、蹂躙しよう、殺し尽くそう何もかも。

 

 この身を嵐と化して、何もかも(僕自身も)吹き飛ぶまで。

 

 

 

 

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 今のシュテルに戦闘能力は無い。

 

 シュテゆモードの戦闘能力は地域のボス猫とギリギリ渡り合えるくらいである。強力な攻撃魔法を使えば反動で自壊する。何よりこの場においては、渦巻く魔力にまず耐えられない。

 が、無いのは()()()()()()

 

 ――条件を整理する。

 

 紫苑とシュテルの第一目標かつ最優先事項はレヴィの確保。そのためにまずレヴィからジュエルシードを引き剥がさねばならない。

 ここで重要なのは、シュテル達のジュエルシードへの優先度が大幅に下がっているという事。これに関してはなのは達にも事前に通達してある。故に同盟関係への違反にはならない。

 極端な話、今回のシュテル達はジュエルシードが誰の手に渡ろうが()()()()()()のだ。

 確実にレヴィを狙っている黒騎士は明確な競合相手である。

 だが、今この場において――フェイト達とは()()()()()

 

『という訳です』

『…………それを、私に信じろと?』

『信じられないのであれば撃ってもらっても構いませんよ。その分こちらも撃ち返しますが。とはいえ、互いに無駄な消耗をしている場合でもないでしょう』

 

 わずかに動きを見ただけだが、フェイト・テスタロッサは優れた魔導師であるとシュテルは判断した。少なくともこの場の魔導師の中では抜き出ている。

 ただ決して万能ではない。

 速さと鋭さに特に優れ――その分、打たれ弱い。強大な攻撃力の化身、かつ自身を上回る速度を持つ今のレヴィとは致命的に相性が悪いはず。

 

『役割分担、といきましょう』

 

 シュテル達は前に出て、レヴィの無力化に専念する。その間だけフェイトは邪魔をしない。シュテル達はその後のフェイトの邪魔をしない。

 持ちかけた提案は大まかにはこうだ。

 何の保証も強制力も無い、仮初の決まりごと。だが互いにこれを守った方が都合がいい。

 フェイトはジュエルシードの確保は絶対に譲らない。しかし他の事では話が通じる。事前になのはから聞いていた印象は恐らく間違っていない。

 

『では、忙しいのでこれで』

『………………』

 

 フェイトからの了承はなかった。

 しかし跳ね除ける否定の言葉が無いのなら、肯定も同然だ。

 

(こちらは、まあこんなものでしょう。後は――)

 

 戦闘能力が無いからといって。

 戦いに参加できない訳ではない。

 

 

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【さて。こちらの事前の準備も済みました。そちらの用意は?】

「できてる」

 

 紫苑の右手にあるのはルシフェリオン・ガンナー、ヒートバレル。

 高速戦闘でブラストバレルの長い銃身を取り回す技量もなければ時間もない。そもそも射撃を当てられる相手ではない。

 だから射撃武器としては使用しない。右手の中のグリップをくるりと回し、銃をトンファーのように持つ。左手ではアーキアの柄を強く握りしめた。

 

【征きますよ】

「うん」

 

 出力を一気に引き上げる。

 紫苑の奥底でリンカーコアが稼働し、魔力を吐き出す。ADクローク(ジャケット)各部の赤い装飾部が込められた魔力で発光する程の。これまでと一線を画す規模での魔力行使。

 言葉のとおりに、出し惜しみなしの――最大出力(フルドライブ)

 

「パイロシューター、ブーストバレット!」

 

 銃口に炎弾が灯る――が、発射はされない。あくまで銃口の先端に留まったままで、燃焼。銃器ではなく即席のブースターとして扱うための特別弾頭。

 発射のような飛翔。

 更に加速、加速、炎熱変換の特性すべて加速に費やして紫苑の身体が加速し続ける。最高速度を容易く更新しつつ、雷の渦へ――

 

「遅い遅ーい! 全然遅いッ!!」

 

 辿り着く前にレヴィの攻撃が命中する。

 遠慮0のフルスイング。振るわれたバルニフィカスはもはや雷光のそれ。一撃だけでも墜落し、地面にのめりこむほどの破壊力がある。

 だが墜落し切る前に次が来る。墜落しても次が来る。衝撃でバウンドして跳ね上がる最中にも次が来る、次、次――合計十二発の直撃の後に、ようやく攻撃を受けたと知覚する。痛みが次の痛みで上書きされて、今感じているのが果たして最新の痛みなのかすらも判らない。

 

「……、…………ッ!」

 

 ()()()()()()()

 故にフルドライブ。()()()()では、レヴィの速度には絶対に追いつけない。前に出るなら絶対に攻撃を受ける。加えて受ける場所を選ぶのも間に合わない。

 だから魔力()を常に全身に巡らせる。炎を着込む。どこに攻撃を受けようとも、僅かでも威力を減衰できるように。

 

「――――――――ッ!!」

 

 声を出してなどいられない。口を開ける時間が惜しい。雷の嵐に翻弄される体と視界を、吹き出した炎で立て直す事を試みる。

やることは決まっていて、かつシンプルだ。

 耐える。

 進む。

 リソースはそれだけに割り振る。

 攻撃はしないのではなく、できない。余裕がない。

 だが紫苑はシュテルというジョーカーを有している。ほんの一瞬でも接触して、こちらにシュテルが居ると気づかせればそれでいいのだ。

 だからなによりも、前へと進むことだけを優先する。

 痛みを押しのけて。息をするのも惜しみながら。一歩進んだら、数十歩分を戻されるのだとしても。食い下がり続ける。

 

 訪れるその時を、決して逃さぬように。

 

 攻撃を受けた紫苑が地を転がるも、吹き出す炎で無理やりに制動。一撃の重さは変わらないが、今度は場所が悪かった。

 そこは緩やかに前進を続けていた黒騎士の進路上であったから。レヴィのみを見据えている紫苑は振り向かない。後ろで振り上げられている長槍に気付いていない。

 進路上の紫苑をどかすように。

 無機質かつ無造作に。黒い槍が振るわれた。

 

 けれどもシュテルがそれを捉えている。

 

 あくまで外に出ていないだけで、シュテルもまたずっとフル回転状態にあった。

 紫苑の意識は、どうしても攻撃を受けた地点に注意が向く。そうすると他の箇所への割り振りが僅かとはいえ薄くなる。

 シュテルはそこを埋める。

 降り注ぐ攻撃に対して最適な魔力防御を割り振り続ける。いくら紫苑が頑丈でも、この補助がなければとっくに落ちているだろう。

 

【おや?】

 

 すでに緊急回避の用意も終えて――振るわれた漆黒の長槍が、曲がる。正確にはその軌道が、曲がる。横合いから飛来した()()()()()()が命中したからだ。

 次いで飛来する数発が黒騎士の体勢を崩す。装甲は抜けておらず、恐らくノーダメージ。しかしレヴィの攻撃と行動の余波が渦巻く最前線で、それは致命的だ。揺らいだところに流れ雷を受けた黒騎士の姿が、明後日の方向に流されていく。

 

【割り込みを抑制しただけのつもりでしたが、思った以上に上手く運びました。とはいえ、あまり当てにはしないように】

 

 シュテルの注意に、紫苑は答えない。

 シュテルも答えが来るとは思っていないし、求めていない。

 二言三言の間にも、雷は休むこと無く降り注いでいる。それどころか、激しさを増しているようですらあった。

 いや、確実に増していた。

 

 それは、何故かといえば。

 

 

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「こいつ」

 

 レヴィの漏らした小さな呟き。

 そこに隠しきれない苛立ちがあった。力の限り、何にも構うこと無く、吹き荒れていた嵐の主に。激情という、乱れが走る。

 

「こいつ……!」

 

 撃っても、殴っても、斬っても、打っても、叩いても、焼いても!

 立ち上がって来る。食い下がってくる。視界に入ってくる。鬱陶しい以外に、どう言えば良いのかわからない。すこぶる爽快に、気分良く暴れ回っていたのに、今ではすっかり苛立ち一色。

 

「こいつ、どうやったら死ぬんだッ!!」

 

 とうとう我慢しきれずに、咆哮のような怒声が飛び出た。

 レヴィとしてはすでに気持ち三回くらい殺しているのだが、相手は何事も無かったかのように向かってくる。

 たまたま視界を羽虫が横切る程度なら、大抵そこまで気にはならない。ましてやわざわざ殺そうなどと思うほうが稀。適当に振り払って終わりだろう。

 しかしその羽虫が再度こちらに向かってきたらどうだろう。それも振り払っても何度も何度も向かってきたらどうだろう。

 そうなったら、障害物から排除対象へ変えざるをえない。

 本気で、叩き潰すつもりで叩かれても。それは仕方がないことだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 とっくに殺すつもりでやっているのに、一向に死なない。

 

 苛立つほどに心を揺さぶられる理由は、実のところもう一つ。

 紫苑が向かってくれば来るほど、必然として目に入る――その炎。それもまたレヴィの心の奥を逆撫でていく。

 

「あ゛――ッ! も――――ッ!! あったまきた!! まとめて吹き飛べッ!!」

 

 駄々をこねるようなに、いやいやと頭を振るレヴィ。それだけで周囲が抉り取られるような太い雷が何条も撒き散らされる。今のレヴィは、その行動の総てに破壊を伴う。

 しかし今までは、ただ行動に破壊がくっついていただけで。

 

「天破ッ!」

 

 天高く掲げられたバルニフィカスに、雷が吸い込まれていく。

 これは()()()()()()行動――すなわち、魔法。

 

「雷! 神!! 槌!!!」

 

 振り下ろしたバルニフィカスが地面に吸い込まれ、ほんの一瞬だけ静寂があった。

 

 直後にはただひたすらに破壊があった。

 

 レヴィを爆心地として、巨大な雷が迸る。何もかもを飲み込み、その全てを砕いていく極大の雷。その規模たるや通常の破壊は当然として、眩い稲光が視覚をも砕くようで、轟く雷鳴が聴覚を砕くようですらあった。

 本来より桁違いの魔力を流し込まれたそれは、もはや広域範囲殲滅術式と呼べるもの。

 逃げ場はなく。

 逃げるよりも早く。

 

 全てを、蹂躙する。

 

 

 

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【そう。それを】

(それを、待っていた!)

 

 どれだけ紫苑達が防御を固めようとも、意思が固かろうとも。この魔法を至近距離で喰らえば無事では済まない。残りのリソースをすべて防御に費やしても、戦闘不能は確実。

 ただ、事前に来ることが判っていたとしたら、どうか。

 来ると判っていて、備えていたとしたら。

 

『――ナノハ!!』

「うん!」

 

 事前の()()()()()の通りに、シュテルが合図を送る。

 雷が弾けるその寸前。狂ったように続けていた前進から一転、最大速度で紫苑が後退する。代わるように、その前に飛び出す人影一つ。

 白いバリアジャケットの魔導師の少女――高町なのは。

 この場で最も高い防御能力を持つ、魔導師。

 

「レイジングハート――お願い!!」

『Round Shield』

 

 ここまで高町なのはが戦闘に参加していなかった理由は一つ。

 彼女は『盾』という役目を請け負っていたから。

 あえて撃たせた大規模攻撃を受け止めるためだけに、ここまで温存し、準備をさせていた。生じる桜色の見た目は、小さな円形の盾。津波のような雷に対して、あまりに頼りない。

 しかしそれは高町なのはが全リソースを注いだ盾だ。

 他者から善性を信頼される少女が、守るために行使した魔法だ。

 

「う、うぅ……う゛ぅ゛ー…………!!」

 

 軋むだろう。

 圧されるだろう。

 ひび割れもしよう。

 

 ――けれども決して砕けない。

 

 高町なのはは、誰かが危ない目に遭うのを見過ごせない。ジュエルシード集めが危険でもユーノを手伝う理由はそこにある。

 暴走するレヴィで荒れ狂うこの場において、本来じっとしてはいられない。

 どれだけ止められても、どれだけ無茶をしてでも。紫苑達や、あるいはフェイトを助けるために危険に飛び込んでいくのだろう。

 シュテル達にとって、なのはの存在も能力も決して害ではない。

 ただ不確定要素ではある。前線の人数が増えて乱戦になれば、予期せぬ事態も考えられる。とはいえただ来るなと言って、素直に聞くなのはではない。

 

 だから。

 シュテルはなのはに()()()()()と頼んだ。

 

 止められぬのならば、存分に動いてもらえばいい。

 最もなのはの得意な分野かつ、最もシュテルの利になる役割で。

 

「通さ、ない……!」

 

 津波の落雷に晒されても、高町なのはは屈しない。

 盾だけでなく、レイジングハートの外装にも亀裂が走る。けれども、白い魔導師は屈しない。水色で渦巻く中で、ちっぽけな桜色の光が決して消えることはない。後ろで誰かを守っているという状況が、彼女の魔法をより輝かせる。

 永遠に続くかと思われた雷の津波が、少しずつ緩やかに収まり始めた。発動の時とは逆に中心へ向かって消滅していく。

 桜色の盾も消えていく。レイジングハートが外装の破片を零しながら、内部構造を展開し排熱。コアの宝玉が頼りなく明滅している。限界、という言葉が連想される状態だ。

 それは、杖だけでなくその持ち主も。

 白いバリアジャケットの端々が、相当に焼け焦げている。すすで汚れた顔は疲労が色濃い。足にも力が入らないのか、がくりと膝をついた。

 

『期待以上ですナノハ!』

「高町さんありがとう! 行ってくる!」

 

 級友達が、自身の影から飛び出していく。

 無事な二人(守りきった)を、なのははへにゃりと笑って見送った。

 

 

 ▲▼▲

 

 

「ふー……すっきりしたー!」

 

 すっかり見晴らしの良くなった周囲を見回しながら。

 レヴィはあーひと仕事終えたーみたいなノリで呟いた。大規模な魔法による消耗がむしろ心地よい。気分爽快! みたいな表情である。

 

「さーってと。これからどうしよっ、か…………うん?」

 

 無意識に、口から出た言葉は途中で止まる。

 何故、今、まるで隣の誰かに問いかけるような言葉を発したのだろうか。

 横を向いても誰も居ない。

 逆を向いても、誰か居るわけがない。

 

「あれ?」

 

 ぽつんと、一人立っている。

 そのことに強烈な違和感があった。

 けれども周りには誰も居ない、何も無い。

 たった今、レヴィ自身が吹き飛ばしてしまったから。

 

「…………あ、れ?」

 

 レヴィの体が、がくんと傾く。

 力が抜けたのではない。魔力はいまだ十二分以上に駆け巡っている。

 なのに何故か、身体がうまく動かない。高揚感がするすると身体から引いていく。代わりに身体の端から倦怠感が登ってくる。

 まるで気付いてしまった心の喪失に、身体が連動しているようだった。

 

「……ん? んん!?」

 

 そんなレヴィの意識と視界で、炎が灯った。

 連続する爆発で進路上の瓦礫を振り払い。迫ってくる人影がある。それは赤い炎を推進力に変えて、突撃してくる紫苑の姿。

 気付くのが遅く、紫苑が速い。あっという間に距離が詰まる。それでもレヴィのスピードならば、ここからでも十分に巻き返せる。

 はず、だった。

 

「まだ生きてたのかお前、――」

 

 バルニフィカスをフルスイング――遅い。先程までより明らかに遅い。それに先端の魔力刃が消えている。レヴィは消した憶えがないのに。

 

 ――レヴィは『力』のマテリアル。

 

 その名に違わぬ高い攻撃力を持ち、大規模な出力運用を想定している。

 だが、常に()()()()()()()()()()()ことまでは想定していない。

 無限の供給に耐えきれず、駆体の方に必ず限界が来る。

 紫苑達が攻撃を喰らい続けたのも、好き放題暴れさせたのも、大技を誘ったのも、総てはこの瞬間のため。

 

「ッ――こ、のッ!」

 

 確実に劣化している一撃。

 だがそれでもまだ速く、重い。

 戦斧が紫苑の胴、左側にめり込んだ。鋼鉄の塊の刃が半分以上その体に沈み込む。ずぐり、と何かが砕けるような、潰れるような音と共に。ごぶ、と口からこみ上げた体液が、レヴィの顔を赤く汚す。

 ()()()()()

 がらんと音を立ててアーキアが地面に落ちる。空けた左手で、胴にめり込むバルニフィカスを抱え込みながらぐいと持ち主を引き寄せる。

 がちゃりと音を立ててルシフェリオン・ガンナーが落ちる。空けた右手で、眼前のレヴィの肩口を――掴む。

 

「届いたぞッ!」

「だからどうしたッ!」

 

 同時に吠える。

 赤い炎と青い雷。互いの身体より放たれた魔導が押し合うように衝突する。

 実のところ、限界が近いのはどちらも同じ。けれどもただの力の押し合いであれば、供給源が健在なレヴィが確実に有利。

 ただの押し合いであれば、だが。

 

『いくら寝ぼけているとはいえ。私のことがわからないなどと言ったら、さすがに怒りますよレヴィ』

 

 もう、()()()()()

 すでに触れている。ただ一言の呼びかけが、決着の合図。

 

「…………………………ぁ」

 

 獰猛な獣のようだったレヴィの顔が

 呆気にとられた表情に変わり。

 何が、誰がそこに居るのかを理解していけばいくほど、崩れていき。

 くしゃくしゃの、泣きそうな顔で、そして。

 

「あ、ぁ――し、シュテ、」

 

 大切な。大切なその相手の名前を呼、

 

 

 

『い ま で す ! !』

 

 

 

 シュテルが好機! と全力で吠えた。

 接触しているのでレヴィにも聞こえたそれは、指示だった。

 何かこう、気のせいでなければ、いまだやってしまえみたいに聞こえる指示。

 

「え?」

 

 そう、まだやる必要がある。

 レヴィが止まって終わりではない。半ば融合しているジュエルシードを引っ剥がさねばならない。だが今の無茶苦茶なレヴィに、生半可では通じまい。

 

 ――とっておきの無茶に、火が入る。

 

 レヴィの眼前、超至近距離でドッ! と赤い炎が本日最大の燃焼を見せた。

 上昇する出力はもはや発光で収まらず、装飾より実際に炎となって立ち昇る。

 

「え???」

 

 渦巻く炎はより強く、より熱く。

 膨れ上がるのではなく内へ内へと凝縮され、そして。

 ()()()

 

「ヴォルカニック――――バアアァァ゛ァ゛ンッ!!!」

 

 生命をふり絞るが如きの絶叫。

 魔力と命を注がれて発動するは極炎の魔導。

 元になった魔法(ヴォルカニックブロー)は『炎パンチ』。

 その改変であるこの魔法(ヴォルカニックバーン)は、ざっくりいうと『炎身体全部』。

 まあ、要するに。

 自爆である。

 

 

「ア゛――――――――――――!?」

 

 

 レヴィの悲鳴を伴って、立ち昇る火柱が周囲を明るく染め上げた。先程の広範囲殲滅雷撃に比べれば範囲こそ狭いが、その分一点集中だ。破壊力では劣らないだろう。

 

 ちょっと離れたところで見守っていたなのはは、なんかいい感じに明るくなった周囲に『あれ、もう朝?』みたいな声を上げていた。

 もっと離れた所で瓦礫の下敷きになっていたフェイト(範囲攻撃は寝耳に水)は、込められた破壊力に単純に引いて『うわっ……』と声を漏らした。

 

 火柱が鎮まっていき、押しのけられていた夜の色が周囲に降りていく。

 あらわになるのは、夜の闇よりなお黒く焼け焦げた爆心地。

 立っているのは、一人だけ。

 

 

【Capture of the Material】

 

 

 状態を正確に言うのならば。

 内に2()()の存在を宿した、紫苑という一人。

 

 

 

「し、紫苑くん! 大丈夫!?」

 

 なのはが駆け寄りながら呼びかける。

 紫苑は立っている。いるが、見事に全身真っ黒だった。

 無事! と言い切るには苦しい見た目である。

 

「ぼへっ」

 

 紫苑は炭混じりの声未満の呻きを上げながら、右手をぐっと掲げた。

 顔中を真っ黒にすすで汚して、口からぷすぷすと煙を吹き上げながら。その様に深刻さはなく。ちょっと間の抜けたもの。

 

「あっ思ったより大丈夫そう……」

 

 

 

 







回収回。
本来の味方を味方に焼き戻しただけで敵対勢力は割と健在な模様。

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