マテリアル・シンカロン 作:始原菌
▲▼▲
この2基はマテリアルである。
大まかにはデータ――電子生命体に分類される。故に本来『性別』など存在しない。少女の姿をしているのは、写し取った対象がその姿だった以外の理由はない。
だから、そこに居るのは
少女の姿の形をした
ただし。
これを正確に把握しているのは、当のマテリアル達と関わりの深い紫苑のみ。
なので、なのはを始めとする他の大多数にとっては。
今この状況は――レヴィと名乗る女の子が全裸で突っ立っている以外に見えないのである。
「だめ――――――っ!!」
耳まで真っ赤になったなのはが紫苑にグワバァ! と飛びかかった。動作的には倒す、吹き飛ばす、ではなく。自分の体全部で紫苑の顔(視界)を塞ぐ感じである。
「もがが」
紫苑もさすがに顔をすっぽり塞がれては身動きが取れない。
というかまず息ができない。
「フェイトちゃんお洋服! お洋服貸してあげて!!」
「きっ、着替えなんて持ってきてないよう!!」
フェイトもなのはに負けないくらい真っ赤っ赤な顔でおろおろしている。
何せ自分そっくりなレヴィが全裸なのだ。フェイト的には自分が全裸なのとほぼイコールである。おそらくこの場で一番恥ずかしいであろう。
【紫苑! ゴー! ゴーゴーゴー!!】
「もがががが」
シュテルが全力で急かすも、紫苑は呻くのみ。
さすがになのはを力づくで引っ剥がすのは躊躇が大きい。というよりか、一瞬で視界が綺麗にすぽっと塞がれたので自分の状況がよくわかっていないだけである。
【いい加減にしなさいナノハ!!】
「だめ! 紫苑くんはだめ!!」
「もっがもがもっががもがが」
「はっ……私のジャケットを脱いで渡して、もう一度ジャケットを構成すれば実質二着になる……?」
「フェイトーっ! 早まるんじゃないよ!!」
「僕どうすればいいんだこれ」
大炎上のシュテル。頑なに紫苑の顔面にしがみつくなのは。絶対的に酸素が足りない紫苑。混乱しすぎて自分も脱ぎ始めたフェイト。必死に主人の奇行を食い止めにかかるアルフ。事態の混沌さに手も足も出ないユーノ。
しっちゃかめっちゃか、である。
戸惑う、騒ぐ、慌てる。それに必要なのは感情、心。ではそれがないのならば、いかな状況であろうと揺れることはない。
わいわい騒ぐ一団を一切気にせず漆黒の鎧は歩を進める。
荒れ狂う雷をその鎧で跳ね除けながら、黙々とレヴィを目指して。
黒い両腕は表面装甲が破損し、めくれ上がっている。だがそれはあくまで表面のみ。腕としては何の支障もなく稼働する。その右腕をレヴィに向けて、
【Capture of the Ma......】
「うるさいな」
目前の鎧そのものか。もしくは発動しようとしたコードに対してか。
レヴィの顔に明確な嫌悪が浮かび――
立っているだけのレヴィから、雷が噴き出す。雷撃であり、洪水でもある。それほどまでに莫大な量が。
干渉に対し、レヴィの姿は解けない。どころか逆に向けられた腕どころか、決して軽くないはずの漆黒の鎧がいとも容易く吹き飛んだ。
そこに種も仕掛けもありはしない。もっと単純な道理。強制力を――より大きな単純な『力』で押し流しただけ。
ついでにまーだわちゃわちゃしていた魔導師たちの一団も余波で丸ごと吹っ飛んだ。
「何だおまえは。僕はおまえなんか知らないぞ。知らないけど――何故だか
ぎりぎりと、レヴィの顔が敵意に歪む。
感情の昂りに呼応するように、更に雷がその激しさを増した。すでにレヴィの周囲は放出した雷で破壊しつくされているというのに。それだけの凄まじさであるのに。
まだ、上昇する。
「僕の魂が、こう叫ぶ」
無秩序に跳ね回る雷が、突如反転しレヴィに群がる。
そのまま雷に焼かれるかといえば、当然ながら否である。
「
レヴィの身体を駆け巡りながら、雷が物質へと変じていく。形状は
衣服を構成してもなお余りある膨大な雷をレヴィは
「殺してしまえ。糧としろ。そうすればこの不快感もきっと消える――ッ!!」
一撃の様相は落雷に似て、しかし遥かに超える破壊力。音を追い越しかねない速度の一撃が
先程吹き飛ばされ、レヴィの眼前に居ないはずの黒騎士に。
理由は単純明快。振り上げて、振り下ろす。その間に『移動』が挟まっていただけ。ただし、目に映らないほどの超高速。
インパクトによる衝撃で黒騎士の身体が杭打ちのように地面にのめりこむ。加えて一拍遅れて発生した
「
「でもシュテルのお友達なんだよね!? じゃあ、戦う必要はないんだよね!?」
【ふむ……】
周囲では無秩序に跳ね回る雷に加え、無数の瓦礫が飛び交い続けている。常人は当然にしても、並の魔導師ですら立ってはいられないだろう。紫苑もなのはも前面に高出力の魔力盾を展開して、何とかその場に踏み止まっている。
【いえ。これは戦わないと無理ですね】
事態の
「なんで!?」
【先程から色々と接触を試みていますが、一切通じている様子がありません。今のレヴィは常に大出力の雷を
「シュテルが出ていけばさすがに気付くんじゃないのか」
【ええ、もちろん。ただ出られないのです。これだけ膨大な魔力の渦の中では、シュテゆモードでは駆体が維持できない。通常駆体はまだ使えませんし】
レヴィは『力』のマテリアル。
攻撃力が高いのは元々の特性だ。大出力の攻撃を放つために、大きな力を扱う機能がある。
けれども、決して無限の出力を持っている訳ではない。大量に使えばそれだけ早く息切れする。外部からの干渉を丸ごと吹き飛ばす程の大出力、本来ならば数秒も保つまい。
それが出来ている理由は一つ。
減ると同時に、補給されているから。
【恐らくレヴィ自身にもこれは
原因という名の魔力タンク。色合いから本来の装備品と間違いそうになるが、後付であるそれ。レヴィの胸の中心で輝き続ける――
【だから戦う必要があるのです。殴りつけてでもレヴィからジュエルシードを引き剥がさない限り、事態は決して好転しません】
「わかった。行こう」
シュテルの許可が出たのなら、紫苑に進む必要はあっても躊躇いは一切無い。
爆発の如きはためきで、炎翼が嵐を突き破る推進力を発揮する。飛来する瓦礫は魔力盾で弾き、噴き出た炎で焼きながら。レヴィめがけて一直線に飛翔する。
「やら、せるか……っ!」
「だめだ、フェイト! 危ない!!」
水色の雷を押しのけるように金色の雷が奔り、フェイトも動く。主人にアルフも続いた。
迂闊に動けない状況であるのはフェイトも当然判っている。それに紫苑とシュテルの目的はレヴィであって、ジュエルシードではない。だがそれをフェイトは知らない。自分より先にジュエルシードに誰かが向かう事を、見過ごす事はありえない。
「二人とも待って!」
『なのは、無茶しないで!』
「でも放っとけない!」
二人に遅れてなのはも飛び出した。ユーノが念話で静止するのは、離れた位置に居るから。この災害の如き事態が現実へ干渉するのを抑えているのは、ユーノが貼った結界のみ。だからユーノは吹き飛ばされた際にあえて更に離れ、結界の補強と維持を真っ先に行っていた。
動く影はもう一つ。
めくれた地面をもう一度めくり返すように、黒騎士が這い出てくる。
凄まじい力で地面に叩き込まれたにも関わらず、鎧の表面には一切の損傷が無かった。
「………………邪魔だ」
レヴィがぽつりと呟いた。
黒騎士は雑に蹴り飛ばされ。
紫苑は振るわれたバルニフィカスの直撃を受け。
アルフは自分が魔力弾を食らったと気付く間もなく気絶し。
唯一回避したフェイトも後先考えない機動を制御できず墜落し。
最も後だったために唯一防御の間に合ったなのはの魔力盾が一瞬も保たずに砕け散る。
――たった一言を呟き終わるより先に、全員への攻撃が完了している。
速い。早い。ただただ単純に、疾い。
この場の魔導師の中で最も反応速度と行動速度の速いフェイトですら、全力を振り絞っても避けるだけしかできない。それでいて最も防御能力の高いなのはの魔力盾をたやすく砕く威力がある。
魔導師でなく生物でもない黒騎士のみが、純粋な装甲の防御力でもって一撃を耐久する。起き上がった黒騎士は、しかし思考ルーチンに変化が生じている。その右腕より黒い光が染み出していき、巨大な突撃槍を形作る。
「僕は帰るんだ。あの温かな闇の中に。血と災いが渦巻く永遠の夜に」
まだ動いている相手が居ることを確認して、レヴィは一際高いビルの上にまるで落雷のように着地する。
「我が剣の前に……みんな死ねッ! 僕は飛ぶッ!!」
殺意に応えるように、バルニフィカスの先端より光刃が奔る。
避けるための速度が無い。
耐えるための防御力が無い。
それは、
倒れていい理由にはならない。諦めていい理由にはならない。その程度で止まることなど、紫苑自身が自分を許さない。
――
だから紫宮紫苑は立ち上がる。
ダメージはある。激痛もある。立っただけで、口から血液が吹き出ていく。生命がこぼれているという感触があった。けれど。身体がどのような状態でも、心が尽きぬ限り紫宮紫苑は稼働する。
――
恐怖はない。高揚だけがある。
燃える、燃える、炎が燃える。尽きぬ闘志の証明として紅蓮の炎が噴き出して、燃え上がる。吐き出した血液はこびりつく間もなく、蒸発して消えていく。
「バーンアップ――――ルシフェリオン」
見上げる先にて迸る、災害の如き雷光に挑む。
――命をかけて、約束を果たせ
寝 ぼ け て る 時 の レ ヴ ィ
超高火力+スーパーアーマー+EN回復(特大)+目視が難しいレベルのスピード = つよい
寝惚けてる時は一人称が「僕」なので表記は仕様です。起きたら戻ると思います。