死ぬと過去に戻る死に戻りの能力を手にし、四度目のループが始まった。
そこでこの能力はどうやら一定回数の死を迎えてしまうと完全リセットされるという仮説を建てなければならない事態になってしまった。
現に目の前にいるアッシュはあの店には絶対にいなかったはずの人物だ。
トンチンカンをおそらく軽々と倒したであろう彼女の存在はきっと今までのループで倒せなかったエルザを倒せるのではないだろうか?
エルザが来るタイミングも覚えている。
あとは徽章さえ取り返せば……。
そこで足が止まった。
そう、このループでは一つだけ違うことがあった。
しかしそれは大きくこの先起こるはずだった未来を変えてしまう出来事ではないのだろうか?
「……いや、それは有り得ないか」
考えれば徽章は依頼されていたから盗んだものだ。
それの代わりが彼女が盗まれたものになったということはないだろう。
「……そうなりゃここまで気にする必要なく俺の異世界生活が始まるのによー」
今はどうやってあの歩く地雷を対処するかだ。
彼女の探しているモデルAが鍵を握っている気がするが、どうすればいいのやら……。
「何一人でブツブツ言ってんの?」
「……へ、まさか声に出てた?」
今までの独り言を全部聞かれていたと思うと恥ずかしくなる。
アッシュは変なものでも見るようにこちらをじーっと見つめる。
「……あんたって、なんか変わってるわね」
「そうかな? 俺って別にミステリアスなキャラ目指してたわけじゃないんだけど……そっち路線もありかもしれねーな」
気まずい雰囲気を何とかしようとしてみたが、どうやら逆効果だったようだ。
アッシュは呆れた顔をしている。
「……あんたって、中々不器用な男だねー」
それだけを言い残して会話は終了。
先程の雰囲気からなにか変わることもなく例の場所に向かった。
「……で、ここがその目的地ってわけ?」
「あぁ……。ここで……」
一度は既に全滅していた。
二度目は皆生きていたのに自身の失言のせいでまたしても全滅。
三度目は……そもそも辿り着くことすら出来なかった。
これで最後にしてやる。五度目はない。
無いと思いたい。
……多分、大丈夫だ。
作戦は決まっていた。
今回はまずアッシュの盗まれたものの回収を優先。
その後に偽サテラの盗まれたものも回収してエルザを言葉巧みに回避する。
戦闘に持ち込んでしまう場合は、二度目の時の知識を活かしてアッシュと共に戦う。
……こんなに都合よく動くのか?
もっと考えなければいけないのではないのかという思うが、これが無理なら五度目を迎えるしかない。
目処を付けるとすれば、二度目のリセットだ。
その時にはこの一件とは完全に無縁の存在になろう。
それまでは色んな手を使って抗ってみせる。
「……よし」
スバルは足を一歩前に出し、構える。
アッシュは何かを察したのか少し後ろに下がった。
「すいませーん!! 合言葉分かんねえから無理矢理入らせて貰うぜぇ!!!」
蹴った。
勢いよく扉を蹴り、一発でダメならと何発も蹴る。
そうして古い蝶つがい変形しはじめた頃だった。
「やっかましいわぁ!! 合図も合言葉を知らんからって扉を壊す気か!!」
扉を開けた早々に目の前の大男、ロム爺はこちらを睨みつけた。
しかし、それも計算のうちだ。
「……取り引きがしたい。こっちが出すのは魔法器で要求するのは彼女が盗まれたものだ」
「………なんじゃと?」
ここからだ。
やってやろうじゃないか、前回の失敗を活かして。