黒魔女にっき。   作:宇宮 祐樹

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 朝の白い光を浴びて、ミーシャがうん、と伸びをする。

 

「……やっぱ、よく分かんないなあ」

 

 観念したようにミーシャがつぶやいて、地面へと寝転がった。宮殿の裏庭には昨日に芽吹いた青い花が揺れていて、ミーシャがそれを一つ摘むと、朝日に照らして弄りだす。

 そんな彼女の傍には、首のない騎士が佇んでいた。

 

「デュラおじさんはなんか感じる?」

「何も。私は魔力にそこまで理解があるわけではないから」

「そっか……」

「だがまあ、不穏な空気があるのは分かる」

 

 地面へまっすぐ突き立てた剣へ手をかけて、デュラハンはそう呟く。おそらくここにある魔力が異質すぎて、一般人でも違和感を感じてしまうのだろう。これから来る人は大変だな、なんてことを、ミーシャはふと考えていた。

 しばらくして青い花を放り出し、ミーシャが体を起こす。

 

「いちおう、もう一周してから部屋に戻ろっか。もしかしたら、何かあるかもしれないし」

「承知した」

 

 剣を引き抜いて背中へ吊るし、デュラハンがそう答える。ミーシャも服をぱんぱんと叩きながら、前を行く甲冑の隣に寄り添った。

 

「やっぱり、これから来る人たちの中に犯人が混じってるのかな」

「その可能性は高い。だが、これだけの広さを持つ宮殿だ。外部からの侵入も警戒するべきだろう」

「だよねー……となると、もうちょっと眷属さんに頼ったほうがいいのかな」

「存分に活用するといい。そなたの為であるなら、我らはいくらでも力を貸そう」

「うん、ありがと!」

 

 なんて会話をしていると、裏庭から表の玄関へとたどり着く。その正面の門は固く閉ざされており、いかなる外敵をも阻み――

 

「あっ」

 

 そうぽつりと漏らした、ミーシャの視線の先には。

 門の上に跨る、三角帽子をかぶった少女の姿があった。

 

「…………」

「…………」

 

 …………。

 

「あ……」

「あ?」

「アイリスーー!! アイリス!! なんか玄関に変なのが!! 縄! 縄持ってきて!」

「ちょっ、ちょっと待て!! 待って、その前に下ろして!! ちょっ、おい!! 帰ってきて! ちょっとぉーー!!」

 

 

「侵入者をひっ捕らえました!」

 

 ばん、と扉を強く開き、ミーシャが執務室へと足を踏み入れる。

 驚いたアルヴァニアが向けた視線の先にあったのは、ぐるぐるに縛られた少女の姿であった。あまりにも急なその後継に、何か言葉を探していると、ミーシャが縛った彼女を床へと放り投げる。ぐえ、とつぶれた声を上げる少女に、思わずアルヴァニアはがたり、と席を立った。

 

「なっ……何をして?」

「正門から侵入しようとしてたみたいね」

 

 ミーシャの後ろに立つアイリスに、アルヴァニアはそうか、と相槌を打つことしかできなかった。しかしながら、床に寝転がる少女はなんとか顔をそちらへ向けると、急いだ口調で返す。

 

「そっ、そんなんじゃないよ! ちゃんと私は招待で……」

「はん、そんな言い訳が通用すると思ってるの? 証拠はいろいろあるんだよ? 今ゲロゲロ吐いたほうがいいと思うけど」

「……とりあえず、君の名前を教えてくれるか」

 

 問い詰めるミーシャを制しながら、アルヴァニアが問いかける。

 すると彼女はすぐに助けを求めるよう、彼方を向いて語りだした。

 

「ぼくは、ルリカラ。蒼魔女のルリカラっていうんだ」

「ルリカラ……?」

 

 何かに気づいたようにして、アルヴァニアが机の上にある資料へと手を伸ばす。

 そうしていくらかの文字へと目を走らせると、手元へと視線を落としたまま、呟いた。

 

「……ミーシャ、彼女を解放してやってくれ」

「えっ!? なんで?!」

「それは、君と同室になる魔女だ」

「は?」

「ん?」

 

 放たれた言葉に、ルリカラとミーシャが同時に声を上げる。

 

「ちょっ……本当に?」

「ああ。ここの名簿に、彼女の名前が書かれている。そのルリカラという魔女は、今回の夜会の参加者だ」

 

 ぽかん、と口を開けたミーシャへ、アルヴァニアが続ける。

 

「なぜこんな時間に来てしまったのかは分からないが……だがまあ、来てくれたのなら手間が省ける。だからその縄をほどいて、君の部屋へ案内してやってくれ」

「そ、そんなこと……」

「けれど、客人なんだ。それなりの出迎えをしなければならない」

 

 おろおろとしながら振り向くと、ルリカラはむふ、と口元へ笑みを浮かべた。

 

「ほら、僕は怪しくないって言っただろ? だから早くほどいてくれよ」

「んぎぎ……このクソガキ……舐めてるとつぶすぞ……!」

「クソガキ!? 君の方がどう考えたって子供だろ! 年上にナメた口を利いてると痛い目に合うんだぞ!?」

「その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ! はいもうダメで~~す! ごめんなさいって言うまでほどいてあげませ~~ん! ざまあみやがれ!」

「……埒が明かんな」

 

 自らの手で顔を覆いながら、アルヴァニアが呆れてつぶやく。このままのテンションだと顔を踏みつけそうなミーシャへ、ようやく後ろのアイリスがとがめに入った。

 

「ミーシャ、その辺で勘弁してあげて。アルヴァニアが言う以上、彼女も夜会の参加者なのよ」

「でも……」

「ルリカラもごめんなさい。この子、ちょっと疑いすぎるところがあって」

「……別に、ほどいてくれるんならいいけどさ」

 

 アイリスが魔力を込めると、ルリカラの体を縛る縄がひとりでに解けてゆく。

 青い色の少女であった。

 み空の羽織と、灰色の袴に身を包んだ、十六ほどの女性。紺がかかった黒髪を後ろで一つに縛っていて、頭の上には魔女のしるしでいる三角帽子。そしてまた腰には、鞘に納められた一振りの刀が差されていた。

 こちらを睨むその瞳は、すくような青色で、大人びた顔立ちが凛とした雰囲気を漂わせている。

 何の興味もなしに縛り付けたミーシャは、はじめてちゃんとした彼女の姿を見た。

 

「……何さ、君は」

「別に? 魔女なんだなって思っただけ」

「君の目は節穴かい? この頭の上の三角帽子が見えないの?」

「じゃあその腰の剣は何よ。剣って。あれ? もしかして杖持てないタイプの魔女? ダサくね?」

「あん?」

「なに?」

「二人とも、その辺にしてね」

 

 再び激突しそうな彼女らを押しのけて、アイリスがため息をひとつ。喧嘩する犬みたいだな、という感想を少しだけ抱きながら、ミーシャの方へと語りかけた。

 

「私はこれからアルと用事があるから、ミーシャがルリカラを案内してあげて」

「は? 誰がこんなのと同じ部屋に……」

 

 ごっ。

 アイリスの拳が、ミーシャの脳天へとめり込んだ。

 

「お願いね?」

「わかりました……」

 

 アイリスは一定の許容を超えると割と暴力に訴えるタイプの白魔女であった。逆らうと待っているのは虐殺である。前世はゴリラなんじゃねえか、と思っても、ミーシャは賢いので口にすることはやめておいた。

 そんな思考をしていると、ふと耳元に声がかかる。

 

「仮にも魔女よ。ちゃんと見張っててね。何かおかしな動きをしたら、すぐに懲らしめちゃっていいから」

「……なるほど。わかったよ」

 

 アイリスとミーシャが小さく言葉を交わすと、こくり、とうなずき合う。

 

「じゃ、行くわよ。ほら、あんたもついてきなさい」

「……ふん」

 

 ぷい、とそっぽを向きながら、ルリカラがミーシャへとついていく。先ほどと比べてだいぶ静かになった執務室で、アイリスは再びアルヴァニアへと向き直った。

 

「警戒しなさすぎよ? あれは一応侵入者なのに」

「だが、彼女は客人でもある。せっかく来てくれたんだ。あれでは可哀そうだろう」

 

 煮え切らないが、彼の主張はわかる。まったくもう、と頬を膨らませながら、アイリスは魔法陣を開き、アルヴァニアへと声をかける。

 

「じゃあアル、初めてしまいましょうか」

「……彼女は、大丈夫なのだろうか」

「彼女って……ミーシャのこと? まあ、大丈夫だと思うけど……」

 

 親友であるアイリスがそう言うのなら、そうなのだろう。仲の悪さに内心ドン引きしているところはあるが、さすがに客を無下に扱うことはなさそうだ。そこに問題はない。それくらいは、信頼はできると思う。

 

 ただ。

 扉をくぐるルリカラの青い瞳が、じっとこちらを見つめていることだけは、確かに感じられた。

 

 

「まったく、なんでこんな奴と一緒の部屋に……」

「それ、僕のセリフなんだけど。泥棒しないでくれる?」

「は?」

「あ?」

 

 八度目の睨み合いであった。そのせいでいつまで経っても目的地へたどり着かない。たびたび発言に食いついてくるルリカラに、ミーシャのイライラはそろそろ限界に達しそうだった。

 

「いや、てかもう限界かも。本当に痛い目を見たいようね?」

「ふぅん? できるんだ」

「そんな口調いられるのも今のうちよ。ヒィヒィ泣かせてあげるんだから」

 

 魔法で黒い杖を取り出して、魔力を込める。あとでアイリスに怒られるだろうが、そんなことは関係ない。ミーシャにもプライドというものはあった。

 周囲を取り囲む空気が一瞬にして重いものへと変わり、凍り付くような感覚をルリカラに与えている。対する彼女は腰の刀へと手をかけるだけ。魔力の発現も、魔法陣が開かれる様子も、一切ない。

 

「…………?」

 

 その行動に、ミーシャは少し眉をひそめた。

 魔女と魔女の争いである。いうなれば、魔力と魔力とのぶつかり合い。この世界をゆがめる力が衝突し合い、果てには現実を改変させてしまうほどの闘争。

 しかしながら、これはそれではない。

 

「何? そっちが来ないなら、こっちから行くけど」

「いや……」

 

 そう言葉を残して、ミーシャは黒い杖を下ろす。

 たとえ下ろしたとしても、自分が傷つくことはないように思えたから。

 

「あなた、もしかしてそんなに魔力がない?」

 

 問いかけに、ルリカラが少し不機嫌そうにして、

 

「……それが、何?」

「何、って」

 

 それで流してよい問題ではないことを、ミーシャは知っていた。

 

 魔力とは、魔女にとて欠かせぬものであった。

 この世界を作り替え、人智を超越するための歪な力。確たる石を持って生み出された、自らの願いの昇華。先天的、後天的な差はあれど、魔力というのは、常に魔女とともにあるもの。

 その魔力があるからこそ、魔女は魔女足りえるわけで。

 

 つまり――魔女は、魔力を隠せない。

 そしてまた、魔女とはそう呼ばれるほどの魔力を有して然るべきであり。

 ミーシャが感じている違和感は、自らを魔女と呼称しながら、ルリカラは明らかに少ない魔力の量しか保有していないことだった。

 

「……弱い者いじめになっちゃうじゃない」

「どういうこと?」

「私だって、何の力もない人間をいたぶる趣味はないもん」

「……なんだって?」

 

 その言葉を置き去りにして、ルリカラの姿が消えた。

 銀の剣閃が、空を駆ける。光よりも早く引き抜かれた刀身はミーシャの首元へと吸い込まれるように向かってゆき――そして、止まる。

 捉えたのは、ミーシャの背丈よりも巨大な蟲の脚。

 その瞬間、目の前に紅の複眼が迫るのを、ルリカラは見た。

 

「――ッ!」

 

 息を飲みながら後ろへと跳んで、再び刀を前に構える。

 顕現したベルゼビュートは、その脚に持った杖を地面へと突き立てた。

 

「……ミーシャは戦わないといったから、僕も戦わない。けれど、もう一度彼女へと手を出したなら、僕は君を殺す。二度とミーシャへ危害が加えられないように、最善を尽くそうと思う」

 

 蝋燭のようなひとみが、ぼう、とルリカラのことを見つめる。

 そうして彼女は、初めて自分が相対している存在を認識した。

 

「……君、は」

「別に、本当にあなたと敵対するつもりはないよ。無論、今後もそうだっていう保証はないけど。

 

「そういうことだから、もうやめときましょ。これだといつまでたっても私たちの部屋につかないし、だからこれ以降も喧嘩はなし! いい?」

「……わかったよ」

 

 未だに不満は残るけれど、観念したようにルリカラは息を吐く。握った刀を一回だけ振ると、ぱちん、という音とともに鞘へ納めた。

 前を行く黒い魔女の隣へ、青い魔女が駆けよって、そのまま歩く。

 

「……僕は、魔女の見習いなんだ」

 

 幾分かの時間を空けてつぶやいた言葉に、ミーシャが隣を見上げた。

 

「見習い?」

「そう。君たちと違って、僕は生まれついての魔女じゃない。だから、他の魔女……僕が先生と呼んでいる人に、魔法を教えてもらっている」

「だから魔力がそんなに無いんだ」

 

 なるほど、とミーシャが心の中だけで頷く。

 

「魔法、まだあんまり使えないんだ。この三角帽子も、先生がお情けでくれた。いつか立派な魔女になるんだから、持っておきなさいって」

「でも、アルヴァニアさんの前では魔女って名乗ったよね」

「だって、そうじゃないとみんな見てくれないでしょ? 嘘でもいいから、魔女として振舞おうかと思って。君にはバレちゃったけどさ」

「だから、さっきまであんな口調だったんだ」

 

 いくらか柔らかくなった彼女の言葉に、ミーシャが納得したように頷く。

 

「……あとで、謝っておいたほうがいいかな?」

「別にいいんじゃない? 一般人から見たら、魔女も見習いもあんま変わんないし」

「そう、かな。それだったらいいんだけど」

 

 おかしいように、ルリカラが口元へ笑みを浮かべる。初めて見る、笑った顔だった。それに興味が惹かれて、ミーシャが続けて問いかける。

 

「ルリカラはなんでこの夜会に参加したの?」

「あの人と結婚したいから……っていうのは、もう分かるか。えっと、じゃあ、先生に楽をしてもらうため、って言えばいいのかな」

 

 探るような言葉に、ミーシャも首を傾げる。

 

「彼と結婚すれば、私はこの国のお姫様になれるんでしょ?」

「そうだね」

「だから僕、お姫様になって、先生に恩返しがしたいんだ。先生、女手一つで僕を拾って育ててくれたから。その、お姫様になって何ができるか、っていうのは分からないけど……でも、必ず先生の力にはなれると思う。それを見つけるのも、僕がここに来た目的になるのかな」

「じゃあルリカラは、その先生のためにアルヴァニアさんと結婚するの? 自分のためじゃなくて?」

「先生が幸せになってくれるのなら、それでもいい。そうすることが恩返しになるのなら、僕は何でもするさ」

 

 まっすぐな瞳から感じるのは、彼女の確かな意思。それが嘘ではないということを、ミーシャは疑いなく信じられた。

 ただ何か、得体のしれない違和感だけは拭えない。何か根本的なものがズレているような、そんな感覚。目を離すとどこか危険なところへ転がってしまいそうな、そんな危機感に似ていた。

 

「ミーシャはどうしてあの人と結婚したいの?」

「私? 私は黒魔法の研究のために」

「……ん?」

「アルヴァニアさんを材料にして、黒魔法の研究をもっと進めるの」

「そ、そう……」

 

 ルリカラの若干ひきつった顔に気づきもせず、ミーシャがふふん、と誇らしげに胸を張る。魔法の研究は、魔女にとって大切な仕事の一つでもあった。

 

「それにしても見直したわ、ルリカラ。あなた結構いいひとなのね」

「僕も君をちょっと見直したかな……」

 

 主に悪い意味ではあるが、当の本人は気づいていないらしい。ウキウキ気分のままでいるミーシャに、ルリカラは冷めた視線を送り続けていた。こいつはこういう人間なんだな。

 なんて会話を交わしていると、いつの間にか部屋の前に着いている。ドアノブへ手を駆けるミーシャのあとに続いて、ルリカラが足を踏み入れた

 

「ここが私たちの部屋。左のベッドはもう使ってるから、右のやつ使ってね」

「わかった」

「あ、それと枕元にある植木鉢は触らないでね。触ったら大変なことになるから」

「……気を付けるよ」

 

 何か黒魔法の一種だろうか。朝方の陽に照らされている黒い花を眺めながら、ルリカラはそう答えた。

 

「僕はどうしていればいい?」

「んー……何もすることないなら待機かな?」

「そうだね。じゃあじっとしてるよ」

 

 右側のベッドへと腰を下ろしながら、ルリカラが疲れたように息を吐く。そのまま腰に差した刀を鞘ごと抜くと、三角帽子と一緒に枕元へと纏めた。

 首をこきこきと鳴らし、いくらか休憩しているルリカラを確認すると、ミーシャが口を開く。

 

「じゃあ私、アイリスと連絡してくるから待っててね」

「分かったよ、行ってらっしゃい」

「行ってきまーす!」

 

 大きな声で返事を残して、ミーシャが部屋を去っていく。

 強く閉じられた扉を見つめながら、ルリカラはぽつりと漏らした。

 

「……黒魔法、か」

 

 

「ベルさん」

 

 部屋を出てすぐ、ミーシャが小さく漏らす。

 それに応えるように霧のように蟲が集まって、大きな蝿の形を成した。

 

「……今のところは、ミーシャと同じ見解だと思う」

「ベルさんもそう思う?」

「ああ。おそらく、彼女は恐怖になり得ない」

 

 そう言い切るベルゼビュートに、ミーシャも同調して頷く。

 

「明らかに魔力の量が少ないしね……たぶん、アイリスも分かってるよ」

「僕の蟲が感知できなかったのも、そのせいだと思う。それに、実際に彼女が魔法を起こしたとして、被害の想定は知れている。魔法の観点から述べるのならば、彼女は僕たちの敵じゃないよ」

 

 驕りや傲慢でもなく、それは事実であった。彼女の魔力量で魔法を発動させたとしても、人ひとりに危害を加えられるかどうかすらも怪しいだろう。ましてや、相手は黒魔女のミーシャである。蟻と象、というたとえがこれ以上にないくらい当てはまっていた。

 

「けれど、だからこそ注意しなければいけないんだと思う。彼女は僕たちの感知から逃れられるんだ。それになにも、アルヴァニアへ危害を加えるのなら魔法じゃなくてもいい。それこそ、彼女の使っている刀でも十分に使える」

「……ってことは、ずっと見張ってたほうがいいのかもね」

「脅威としての観点から述べるのなら、そうなんだろう。まだ彼女は何ができるかわからないから、そこも調査するべきだよ」

「そう、だね。何かあったときは頼むよ?」

「うん」

 

 返答する眷属は頼もしいが、しかしミーシャは顔を曇らせたまま考える。気になるのは、やはり彼女が纏う違和感であった。何かがおかしくはあるが、その何かが分からない。煮え切らないその感覚に、ミーシャが眉をひそめる。

 

「なんか……なんか、変なんだよなぁ……」

 

 魔力的な問題というか、彼女の精神的な問題というか。

 いずれにせよ警戒は解くべきではない。そのことだけを確認すると、ミーシャは再び後ろにある扉を開き、彼女と邂逅するのであった。

 

 


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