黒魔女にっき。   作:宇宮 祐樹

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『追究』

 

「おさけ?」

「はい」

 

 次々と運ばれてくる郷土料理に目を輝かせながら、それをハムスターのように口につめ込んでいるミーシャへ、ローザがふと声をかけた。同じくもそもそと白身魚のスープを口に運んでいるウイスティがそれに気づいて、ローザに声をかける。

 

「いやアウトでしょ」

「むっ! 誰がアウトよ! これでも私はお酒飲めるんだから!」

「ダメです。これは大人の悪い飲み物なんだから」

 

 明らかに身長も体重も知識も風貌も胸も雰囲気も何もかもが足りていないミーシャが、ウイスティにむすっとした顔を向ける。いつもなら彼女の見栄を張った戯言として流せるが、今回ばかりはそうはいかない。ウイスティは腐っても大人の女性なのだ。正しく子供を導かなければいけない。

 

「ローザさんも。いくらお客さんだからって、子供にお酒進めちゃダメでしょ」

「あ、あら……?」

 

 なんて普段は見せないような正義感を見せるウイスティに、アイリスが不思議そうに首を傾げて言う。

 

「何言ってるのウイスティ。ミーシャちゃんは私と同い年よ?」

「あ、アイリスこそ何言ってるのさ。もしかしてもう酔ってるの?」

「ええと……アウイスティ様がアイリスのご同輩でしたら、おそらくミーシャ様もウイスティ様と年は同じはずですが……」

 

 その言葉にウイスティが驚いたように斜め前、アイリスの隣のミーシャへと視線を向ける。そこには明らかに十と五にすら届いていないような黒魔女が、同じような年頃の銀髪少女二人と一緒に酒瓶を囲んでいるのが見えた。

 

「ジオラ―、このお酒なにー?」

「えと、ぶどう……しゅ? よくわかんないけどワインみたい!」

「……ミーシャさま、そそいであげる」

「ありがとソフィー! ん~、いい匂い! 最近飲んでなかったからたまんないわ!」

 

 グラスに注がれていく艶やかな紫色に、ミーシャが思わず目を細める。これだけ見ればただのぶどうジュースをイキって呑んでいるような少女にしか見えないが、辺りに漂う高級な香りがそれをかき消した。そこにいるのは、明らかに酒を喜んで飲まんとしている幼女だった。

 

「こ、これ大丈夫なの……?」

「大丈夫って言ってるじゃない。ソフィーちゃん、私にもくれるかしら?」

「……ん、わかった」

 

 とてとて、とソフィーがワインを持ってアイリスの隣へと立つ。そしてミーシャにしたのと同じようにアイリスのグラスへワインを注ぐと、そのまま流れるようにしてウイスティの方へと視線を投げる。

 

「ウイスティ様も、いる……?」

「いや、あたしはお酒ダメだからいい……」

 

 そもそもこんな幼い少女に酌を刺せている時点で色々とおかしいが、目の前の黒魔女を見るとそれがものすごく小さい事に思えた。風邪の時に見る夢の様にとてつもない違和感がウイスティを襲う。

 いつのまにかローザの手にもグラスが握られており、それを確認したミーシャが耐えられなくなったようにしてグラスを掲げる。

 

「かんぱーいっ! んぐ、んぐ……」

「あら一気飲み」

「素晴らしいですね。さ、アイリス。私たちも頂きましょう」

「おかしい……おかしくない?」

 

 ついに突っ込みが追い付かなくなったウイスティは、明らかに歪な絵面に何も関与しないアイリスたちへそんな言葉を投げた。しかし当の本人たちはどこ吹く風。まるで同じようなタイミングでグラスを煽り、同時に唇を離す。

 

「あら美味しい。ちょっと甘いのね」

「ふふふ、そうでしょう? 今年のは少し面白いんです」

 

 酒に弱いウイスティは、彼女らの会話に訝しげな視線を向けることしかできなかった。酒が甘いというのはどういう事だろうか。少なくともあのアルコールの香りと、飲んだ後の浮遊感に慣れていないウイスティは、どうにかしてそんなことを考え続けていた。

 なんだか聞こえてくるのは、ものすごいペースで繰り返される喉の音と、度々聞こえてくる下品な笑い声。視界の端ではジオラとソフィーがわたわたと慌てる様子がちらついており、何やら大変そうな様子が伺えた。

 が、ウイスティには全く関係のないことである。私は知らん。知らないったら知らない。しるもんか。

 

 ちらりと現実に視線を向ける。

 

「だぁっはっはっは! 美味しいわねコレ! ほらほらソフィーちゃーん! もう一本ちょーだいっ!」

「み、ミーシャさま、もう一瓶あけたの……? あんまりのみすぎると……」

「あによー黒魔女のわたしに文句あんの? しゅひんよ! しゅひん! いいからもっと呑ませなさいよ!」

「はーいはーいミーシャ様ー! もう一本持ってきたよー! ほら!」

「んぁ? 今度はジオラちゃんがついでくれるのー? えへへー、ありがとー! いいこいいこー」

「……ソフィー、今のうちに追加で二本くらい持ってきといて。ミーシャ様の相手は私がするから」

「ねえちゃ……まかせた」

 

 飲み干した空瓶をぷらぷらと振り回しながら、ミーシャが注がれたグラスをジュースを飲むかのようにくぃ、と煽る。そこには子供らしさも品性もなく、唯一つ残るのは、どうしてアイリスがゴーサインを出したのかという疑問だけであった。

 目の前に広がっている惨状にウイスティが疑問符を五つくらい並べながら、助けを求めるようにしてアイリスの方へと視線を投げる。

 

「あらあら、ミーシャちゃんがご機嫌そうで何よりだわ」

「ええ、そうですね。あんなに喜んでもらえて何よりです」

「びゃァーっはっはっはっは! んぐ、んぐ、あーヴめえ! やっぱりお酒さいこー! フゥー!」

 

 地獄である。これだからウイスティは酒が好きになれなかった。

 

「でもそろそろミーシャちゃんが吐きそうだわ。私、ちょっと見てくるわね」

「ついにゲロのタイミングまで理解するようになったの?」

「ええ。だって友達ですもの」

 

 関係ないと思う。ウイスティはほんのりと?を赤らめるアイリスに訝しげな視線を向けた。

 そんなことはつゆ知らず、椅子の上で短い手足をぶんぶん振っているミーシャにアイリスが優しく声をかける。

 

「ミーシャちゃん、私すこし酔っちゃったみたい。よかったら一緒に外で涼まない?」

「むー? でもわらひ、まらぜんじぇん飲み足りないろ……」

「お願い、ね?」

「もぉ、しょうがないわねえ……仕方ないからついてってあげるわ!」

 

 ぴょこん、と椅子を飛び降りたものの、ミーシャはふらふらとおぼつかない足取りでアイリスの方へと歩いて行く。そんな彼女の体をぽす、と受け止めながら、アイリスは申し訳なさそうな顔でウイスティの方へと頭を下げた。

 

「それじゃあ、私たちは少し涼んでくるわ。あとは二人で、ね?」

 

 ぱたん、と扉が閉められて、大きな食堂に残ったのはローザとウイスティの二人だけ。ジオラとソフィーはすでに隙を見つけてキッチンの方へと退散しているらしく、先ほどの喧騒はとうの昔のようにも思えた。

 

「えと、そうですね……ウイスティ様、他に何か御用はありますでしょうか? よろしければデザートなどでも」

「あー、うん。そこまではいいよ。なんだか、疲れちゃって」

「そうですか? ですが……いけませんね、どうにも何かしないと落ち着かなくて」

「そんなに気を使わなくてもいいよ。でもそうだね、少しローザさんとお話がしたいな」

「話、ですか?」

 

 思いがけぬウイスティの提案に、ローザが目を見張る。その彼女の瞳には、まさに震えるような、一歩先の崖に踏み出しそうなウイスティの姿が映っていた。

 

 (ただ)、ウイスティは(きわ)めるものであった。

 

 知りたいという欲求は万人に等しく存在する。ウイスティはただそれに従い、しかしながらそれに対して過剰なまでに貪欲だった。それこそ、まだ公に誰も手を出したことがない黒魔法を、自ら主任として研究するほどに、その欲望は大きいものだった。

 全てを悟り、全てを見極め、全てを識る。ただその欲のままにウイスティは生き、その人生を捧げてきた。ウイスティという人間が歩む道は、それ以外にないようにも思えた。

 

 故にウイスティリアという人間は追い求める。

 

「あんた、何を隠してるんだ?」

 

 眼前のローザの目が見開かれる。わずかに見えた驚愕の色を、ウイスティは見逃さなかった。

 

「私の悪い癖でね。昔っから妙にカンがいいんだ。といっても所詮はカンだから必ずしも当たる、というわけじゃないけど」

「…………」

「あんたの様子を見るに、それも違うみたいだね。それじゃあ、話をしようか。紅の魔女さん」

「どうぞ。聴きましょう」

 

 ローザとウイスティの視線が交錯する。かくして、対話は始められた。

 

「まず一つ。ミーシャの眷属たちが、あんたの事を言ってた。紅の魔女、って恨めしそうにね。おそらくあんたはあの眷属たち――というよりは、ミーシャに『何か』をしたんだろう。そうじゃなきゃ、ミーシャの配下である眷属がいきなりジオラやソフィーを襲う訳がない」

「あら。アレにも物を覚えられるほどの脳はありましたか」

「……けど当の本人はそれを知らないどころか、眷属たちを止めるようにしていた。つまり、眷属は覚えているけどミーシャ本人は記憶が無いんだ。いや、記憶を奪われているのかな。そこのあたりはまだ分からないけれど」

「つまり、私がミーシャ様の記憶を消した、と言いたいのですか?」

「そう言いたいんだけど、それも違う。あんたがしたのはもっと別のことだと思う」

 

 存外に動く口とは裏腹に、机の下の手は小さく震える。ローザの視線が自らの胸を穿つ杭のように感じられ、ウイスティは高鳴る心臓を何とか抑えながら続けた。

 

「二つ。彼女はフリティラリアの事を知らなかった。確かさっき、ミーシャは私と同い年って言っていたけど、それならなおさらフリティラリアの事を知らないのはおかしいはずだ。あんなものを見て忘れられる人間は、絶対にいない。だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だぞ? それを知らないわけないだろ」

「だから、記憶を奪われていると仮定したのですね」

「ああ、そうだ。でもこれはあんたのした事じゃない。というよりも、あんたは別に何もおかしいことはしていないんだ。だってあんたがミーシャの記憶を消したなら、わざわざ彼女を此処に呼ぶ必要なんてないだろ? だからミーシャの記憶を消したのはあんたじゃない」

「つまり、私の他にミーシャの記憶を消した人物がいる、と」

「そういうこと。けれど私の一番の疑問は、どうしてミーシャからフリティラリアの記憶を奪う必要があったのか、ってことだな。記憶を消す、ってことは憶えてほしくないことがあるんだろ?つまり、だ。ミーシャとフリティラリアには何等かの関係性がある。違う?」

「……些か、推理と言う割には飛躍しすぎですが」

「でもいいセンはいってるでしょ?」

 

 にやり、と口元に笑みを浮かべながら、ウイスティがローザへ勘ぐるような視線を向ける。対する紅の魔女はうっすらとした笑みを張り付けたまま、ウイスティの独白へただ耳を傾けた。

 

「今わかってることは、ミーシャはフリティラリアと何らかの関係を持っていて、その時の記憶を誰かに消されている。で、それとは別にローザさん。あんたはミーシャの眷属に恨まれるような事をしていて、それに関する記憶をミーシャは持っていない、ってわけ」

「まあ、私がとてつもなく怪しい人物に見えてきますね」

「でも実際、あんたは何もしてない訳だ。さっき言った通り、ミーシャを呼び戻す理由がないからね。けれどあんたはそれに関する何かを知っている。違うか?」

 

 嫌味そうに言うウイスティを、ローザが睨む。その表情からは余裕が消えており、ウイスティはそんなローザへにやにやと意地の悪そうな笑みを向けていた。

 

「ただの人間かと思っていましたが、中々に勘のいいようで」

「悪いね。でも私はあんたを責めるつもりはないし、あんたに口封じされる気も持っちゃいない。私が欲しいのはただの答えだ。あの黒い花の、真実が知りたいだけ」

「ですが、あなたはもう既に見つけているのでは?」

「……見つけている?」

「ええ。あなた自身も分かっている筈です」

 

 目を伏せるローザに、ウイスティが言葉を重ねる。その瞳には確かな意志が宿っていた。渇望とも、期待とも取れるような、ぎらぎらとした眼。その視線はただただローザの口元へと向けられている。

 そうして彼女は、一つの答えに――。

 

「あなたは、フリティラもぐもがもげもごむがままむ」

「は?」

 

 辿り着こうとした瞬間、その口を細い指が遮った。 

 

「ふごも!? ごがもごもごご」

「あらローザ、面白そうな話をしているのね」

「むぐー!? もがが? もごがももごごご!」

 

 突然現れたアイリスがローザの真後ろへ立ち、その顔を手のひらでふさぐ。割とその力は強いらしく、ローザは椅子の上でじたばたと暴れた後に、ようやく肩で息をしながらアイリスの束縛から抜け出した。

 

「あ、アイリス? なにしてんの?」

「いえ、少し驚かそうと思って。どうかしら?」

「そりゃ驚いたけど……タイミングってもんがあるでしょ!」

「ええそうですよアイリス。あなたらしくない」

「そうだった? ごめんなさいね……」

 

 どうしてか不満そうに口を尖らせるウイスティに、アイリスがしゅんと頭を下げる。口元を軽く拭いながら、ローザは改まってアイリスへ目を向けた。

 

「えと、それでアイリス、どうしましたか?」

「ミーシャちゃんが吐きそうになったから手ごろな入れ物を取りに来たの。どこかにない?」

「それでしたら、ジオラとソフィーに持って行かせましょう」

「そう? ありがと。じゃあウイスティも手伝ってくれる?」

「え? いや、私まだ話終わってない……って、待ってよアイリス! まだ聴きたい事あるの!」

「明日にでも聞けるでしょう? 今は一刻を争うのよ」

「ではここらでお開きに致しましょうか」

「えぇー! ちょ、ちょっとー!」

 

 アイリスに手を引かれ、ウイスティが強引に椅子から立ち上がる。やけに強いアイリスの手に日ごろから運動をしないウイスティは抗えることが出来ず、助けを求めるようにローザに目を向けるも、そこにいたのは優しそうに手を振るローザのみであった。

 

「では今宵はここまで。ゆっくり休んでくださいね」

「えー待ってよ! さっきの続きは!?」

「それもまた明日、ということで。よろしいですね、アイリス」

「……ええ」

 

 後ろからかかる声に、アイリスは振り向かずに応える。

 ――最後に見えたのは、ローザの吊り上がるような笑みだった。

 

 

「ほンっぬろろろっろろぼろろろ! おげぼろろろろろんっぬろろろぼろろ!」

 

 テラスに水音が響く。月明かりの下で、ミーシャはゲロを吐いていた。

 ゲボ袋の中をびしゃびしゃ満たしていく吐しゃ物へウイスティが心底嫌そうな視線を向けながら、黒魔女の小さな背中を摩る。本当にどうしてアイリスはミーシャへゴーサインを出したのだろうか。ただただ純粋な疑問がウイスティの頭を埋め尽くしていた。

 

「ほらミーシャちゃん、まだ袋はいっぱいあるから。遠慮なく吐いてね?」

「うぼろろっぬろろぼろんぼ! おげれぼろろるぼろばばべべ!」

「ねえこれ大丈夫? 死なない?」

 

 割と高ペースで溜まっていくゲロに対し、ウイスティが口にした発言だった。ミーシャが独り入りそうな袋は既に、半分が吐しゃ物で埋まっている。もしかするとこのまま胃とか腸とかが出てくるんじゃないか、というくらいの勢いであった。

 袋の中に突っ込んだ頭を振り上げて、ミーシャが肩で息を吐く。

 

「やだ……まだ飲める……」

「いや無理でしょ」

 

 ほんのり顔が赤くなったミーシャに、ウイスティが間をおかず口をはさむ。既にアウトを通り越しているその状況にも関わらず、アイリスはやけに落ち着いた様子でミーシャに語り掛けた。

 

「大丈夫よミーシャちゃん。明日は夜会だもの。今日よりいっぱい飲めるわ」

「ほんと? じゃあもう寝ようかな……」

「ベッドには運んであげるわ。だからゆっくり眠りなさいね」

「んー……わかっ、た……」

 

 と、口の端にゲロを残したままミーシャがアイリスの方へと体を傾ける。しばらくするとすぐに規則的な息遣いが聞こえてきて、アイリスはそれを確認するとミーシャの小さな体をやさしく持ち上げた。

 腕の中で眠るミーシャに少しだけ視線を落とし、アイリスがウイスティの方へと視線を向ける。

 

「さ、ウイスティも寝ましょう。明日も早いことだし」

「…………」

「ウイスティ? どうかしたの?」

 

 不思議そうに顔を覗き込むアイリスに、ウイスティが静かに振り返る。その表情はどこか沈んでいて、瞳には微かな失望の色が映っていた。そうしてその虚ろのな眼のまま、ウイスティは口を開く。

 

「なんでもないよ。少しだけ考え事してただけ」

「そう? それならいいのだけど……」

「ああ、そう。考え事だよ。そうだ。これは只の妄想なんだから……そう、大丈夫」

「……ウイスティ」

 

 苦渋するように顔を抑えるウイスティに、アイリスが優しく語り掛ける。けれどその声をかき消すように、ウイスティは叫び散らした。

 

「ローザは過去に何をした!? 彼女の記憶を消したのは!? あんたらは一体何を隠してるんだ!? フリティラリアは何なんだ!? そいつは――ミーシャは何者なんだ!? 誰か教えてくれよ! なあ! アイリス!」

「…………」

「なあ、アイリスも知ってるんだろ? 教えてくれよ、私に! 本当のことを! なんであそこでローザを遮った? なんでアイリスはこの夜会に招かれた!? どうしてあんたはそいつと知り合った!? お前は何者なんだ!?」

 

 慟哭と渇望。欲に塗れた醜い人間は、宵闇に叫ぶ。

 

「分からないよ……なんで私は此処に居る? なんで、私は……知りたいと、思って――」

「ウイスティ、落ち着いて」

 

 縋るように蹲るウイスティの独白を、アイリスが受け止める。それはまるで手を差し伸べる聖母のようで、こちらに引きずり込もうとする魔女のようでもあった。

 結構重いし邪魔だったのでそこら辺に置かれたミーシャがすうすうと寝息を立てる中、アイリスがウイスティへと言葉をかける。

 

「ごめんなさいね。でも、明日全て終わらせてしまうから」

「終わらせる?」

「ええ。あなたの答えも見つかるわ。だから、もう――嫌なことは、忘れてしまいましょう?」

「わす、れ…………?」

 

 抱きしめられた腕の中、ウイスティはうつらうつらと瞼を閉じる。急激に襲い掛かる眠気の中、最後に聞こえたのはアイリスの囁くような声だった。

 

「全てを光へ。夢幻へ。純白のように、消してしまいましょう」

 

■ 

 


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