黒魔女にっき。   作:宇宮 祐樹

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『ウイスティリア』

「歓迎」「優しさ」「恋に酔う」「確固たる」


 ――――「決して離れない」


『黒の花』

 

「それじゃ結局、ミーシャちゃんは生まれつき黒魔法を使えてた、ってこと? じゃあ眷属との契約とかも簡単に済んだわけ? なんか生贄とか、代償とかそういったのもなかったわけなん?」

「そういうのを用意した覚えは……うん、やっぱりないよ。普通はそういうの用意するの?」

「むしろ用意しなかったら対価として釣り合わないでしょ。自分より高位の存在を呼んでおいて、無償で自分に仕えてくださいって……それ、受諾されるほうがおかしいと思うんだけど」

「そうなのかな……? りっくん、どう?」

 

 そうミーシャがおなかに抱えたフェンリルに問いかけると、フェンリルはわふ、と眠たげな瞳を真上のミーシャへと向けた。どうやら否定するような意志はなく、むしろそのミーシャを好意的に受け取っているようにも思える。そんな黒魔女とその配下の眷属を見て、ウィスティは再び頭に手を当てて唸った。

 黒魔法を研究している立場上、その手に関しての知識はそれなりにあるはずだった。しかし目の前の彼女を見ていると、どうも全てがぎこちなく感じてしまう。ぼさぼさの茶髪を掻きながら、ウィスティは諦めたような視線を、隣に座っているアイリスへと投げかけた。

 

「もー私はダメもわからんね」

「しょうがないわよ。誰にだってそういう事はあるわ。自分の見ているものだけが全てじゃないんだし」

 

 長年付き合ってきたアイリスからのその言葉に、ウィスティががっくりと肩を落として嘆息を一つ。あれだけの黒魔術を目の前で見せられた挙句、自分の持っている知識まで覆されてしまっては自信もなくなってしまうというもの。

 

「うーん……私に魔力が無いのが悔やまれる……」

「魔力があっても黒魔法は無理よ? ミーシャちゃんはあんなんだけど眷属の使役って相当きついんだから」

「ちょっとあんなんって何よ!」

 

 むきー、と足をじたばたさせながらミーシャがアイリスを睨む。そのまだ子供のような様子のミーシャと先ほどの眷属を召喚したミーシャがウイスティの中で重なり、彼女は再びため息を漏らした。

 

「あー、ミーシャちゃんがうちの研究所に来てくれたらなー。ちらちら」

「ダメよ? ミーシャちゃんは私の友達なんだから」

「半分だけでも?」

「だーめ」

「本人の前でそういう会話しないでよっ!」

 

 もう、と頬を膨らませながら、ミーシャが膝の上のフェンリルの毛並みを撫でる。既に呼び出されてから一時間弱が経過した今、フェンリルはとても暇そうに欠伸をついていた。それを見かねたミーシャが、フェンリルの顎の舌へと小さな手を伸ばす。

 

「ごめんねりっくん。でもほら、最近お散歩できてなかったし……ノールドに行ったら一緒にお散歩しようね?」

「わん」

「よしよし、いーこいーこ。もっふもふー」

「わふぅ」

「……あれ、ほんとに悪魔とかと同類なのかね? 私にはただの犬にしか見えないんだけど」

「あら、目の前で見せられてもまだ疑っているのかしら?」

 

 にっこりとほほ笑むアイリスに、ウイスティが黙り込む。吹き荒れる風と共に眼前へと現れた、月色の爪と牙を持つ風の狼。そのぎらぎらと輝いていた瞳は、今は眠たげに細められていた。

 腕の中のフェンリルを見つめるウィスティに、ふとミーシャが不思議になって問いかけた。

 

「ねえねえ、ウィスティさんはどうして黒魔法を研究してるの?」

「あ? えー……そうさね。えーと……」

 

 突然投げかけられた質問に、ウィスティが困ったように言いよどむ。隣のアイリスは面白そうなものを見ているように笑みを浮かべたまま黙しており、そんな彼女に促されるままウィスティが続けた。

 

「……ミーシャちゃんはさ、十年前くらい前に起こった事件って知ってる?」

「十年……? ううん、知らない」

「そか。学会の界隈では結構有名なんだけど……」

 

 まあそれはいいや、と置いて、ウィスティが列車の車窓へと肘をかけた。

 

「十年前にね、一人の魔女がある大きな魔法を使ったんだ」

 

 そう遠くを見ながら語りだすウイスティは、どこか疑問のあるような、まるで遠くの誰かを思っているような表情だった。

 

「それも結構おおきな魔方陣らしくてね。分類的に言えば、今でいう召喚陣。でもそれは少し特殊な魔法でね。結果的にその魔法を使った瞬間、その魔女は別の怪物になってしまったんだ」

「怪物?」

「そう、怪物」

 

 告げられたその言葉に、ミーシャが首をかしげる。

 

「龍の翼を背負い、古びた樹と蠢く蠅の腕を持ち、紅と蒼に瞳を染めた魔女。召喚陣の応用なんだろうね、あれは。それはもう魔女でも……人間でもない。怪物に成り果てた」

「……もしかして、ウイスティさんはそれを……」

「うん。目の前で見たんだ。ちょうどその近くに住んでいたから」

 

 遠くを見据えるその瞳には、恐怖とも疑問とも思えるような色に染まっていた。

 その時を思い出すかのように、ウイスティはぽつりとその名前を紡ぐ。

 

「フリティラリア……そいつは、そう呼ばれている。とある花の名前なんだけどね。でも言われてみれば、あれは花にも見えたかもしれない。黒色の、不気味な花だった……」

 

 目を伏せて、瞼の中の暗闇でウイスティは思い出す。夜の闇に包まれて咲いたその黒の花には、言い表せない何かが宿っていたような気もした。

 いつしかの記憶を放し、ウイスティは目の前の黒い少女へと続ける。

 

「フリティラリアは一言でいえば災害だった。目につくものは全てを破壊し、殺し、自らの糧にしていった」

「殺す、って」

「被害で言えば、森一つにそこに立っていたお屋敷ひとつ。でもそれだけみんな殺されたんだ。小さいなんてもんじゃない。あれが人間だったとは……私は思えない。だから怪物に……フリティラリアという存在に、なってしまったんだと思う」

 

 めらめらと燃え盛る焔。緑だったものは一瞬にして黒に溶けていき、全てが無へと帰っていく。それは人であったことも、魔女であったことも、全てが泡沫のように消えていくように。

 森を一つ焼き、人を殺してまで求めたものは何か。そんな疑問を、ウイスティはずっと抱いていた。

 

「それでそのふ、ふぃら……怪物は?」

「最終的には捕まえられた。まあ結構な騒ぎだったからね。近くに住んでいる魔女たちが協力して、フリティラリアを抑えたんだ。幸いその怪物も魔力が長く続かなかったらしくてね、一夜で収集はついたけど」

「けど?」

「……一夜で森を一つ焼き払い、その上で近くの屋敷に住む人間を全員殺したんだ。もしもそこで止まらなかったらと思うと、ね」

「ひええ」

「ミーシャちゃん、フェンリルが苦しそうよ」

 

 ぐえ、と舌を出しているフェンリルに目をやりながら、ウィスティが続ける。

 

「それでその事件の後に、その魔女は捕えられたんだ。罪人としてではなく、研究の対象として」

「研究? なんで?」

「無論、その魔法だよ。魔女っていうのは自分の魔法を高めるためなら何でも使うらしいね? それがたとえ人を殺して怪物になった同族だとしても……」

 

 と、ウイスティがからかうようにアイリスの顔を覗き込む。帽子の下のアイリスの表情は固まっているように冷たく、その視線はいつもの様子からは想像できないほどに鋭い。

 急に空気が変わったことにミーシャがおろおろと視線を泳がせると、アイリスは嘆息をついてふてくされながら口を開いた。

 

「そうね。私は違うけど、彼女はそうみたいよ?」

「彼女って?」

「ローザ」

 

 ミーシャの問いかけに、アイリスはつまらなさそうに答えた。

 

「彼女もフリティラリアを捕えて研究を始めた魔女の一人なの」

「え? でもそれって十年前で……」

「そう。彼女は十年前から学会と繋がりがあったってわけ。言葉遊びでもなんでもない、本当に才能だけでそこまで上り詰めた人間、ってこと」

 

 アイリスは理解が追い付かない、と言ったように肩をすくめる。その隣のウイスティも呆れたような笑みを浮かべており、改めてミーシャはそのローザという存在の異常さに気が付いた。元々人の頭に猫の耳を付ける時点で頭のおかしいド畜生ゴミカスクソ魔女だとは思っていたが、それを凌駕するほどだった。

 

「そんなド畜生ゴミカスクソ魔女もその魔法を研究したかったんだ?」

「ミーシャちゃん、言葉づかい」

 

 急な暴言に少しだけ驚いたが、ウイスティはとりあえず続けることにした。

 

「ま、今まで誰もみたことのない魔法だったからね。ローザさんだけじゃなくて、他の人もこぞって参加したらしい。それでその魔女の魔法が解明されて、今の私達に伝わった」

「今の? それってどういう……」

「つまり、ね」

 

 とウイスティが伸ばした指の先には、ミーシャの腕の中ですやすや眠るフェンリルの影。

 

「その研究で生まれたのは、黒魔法ってわけ」

「え、そうなの!?」

 

 放たれたその事実にミーシャが声を荒げ、それにうんざりするようにフェンリルが瞳を開けた。くあ、と固まったままのミーシャを置いて欠伸を一つすると、フェンリルは再びミーシャの腕の中で眠りに落ちる。

 

「むしろ知らなかったことが驚きだよ。黒魔法が一般的に浸透していないのも、そういう理由」

「ぜんっぜん知らなかった……」

「仕方ないわ。ミーシャちゃんはずっと引きこもりだったんだし」

「引きこもりじゃないわよ! ちゃんとお外出てるし!」

 

 日々研究に没頭しながら家でゴロゴロ過ごす黒魔女が、教師という職を手にしている(?)アイリスへ吠える。ミーシャは職を持たぬ黒魔女であった。働こうとしても子供だと思われたので門前払いが多かった。

 無職の引きこもりであるミーシャはふん、とそっぽを向いて車窓へと目を向ける。既に陽は真上へと昇り、そろそろミーシャのお腹の虫は鳴きだしそうだった。

 

「……それで、結局ウイスティさんが研究を始めたのは、なんで?」

「んー、ね。まあ一言でいえば、彼女の事を知りたかった、って感じかなあ」

 

 どこかふわふわとした彼女の物言いに、ミーシャが首を傾けた。

 

「彼女は……フリティラリアは、何がしたかったんだと思う?」

「何が、って……わかんない」

「そうだよね、私も分からない。だから私はそれが知りたいの。彼女が何を思ってフリティラリアに成り果てたのか。どうしてあんな災禍をもたらしたのか。その理由を知るために、私は黒魔法の研究を続けている」

 

 まだ進展はないんだけどね、とウイスティは肩をすくめて笑った。

 

「だから今日の黒魔法についての発表にもうっかり顔を出しちゃったの。黒魔法ってそもそもの資料とかが足りないし、見つけたのは片っ端から使わないと」

「そうねえ……あなたもどちらかというと引きこもりだったわね」

「いやいや私はちゃんと仕事だし」

「ちょっとアイリス、『も』って何よ『も』って」

 

 隣のアイリスに笑いかけて、ふとウイスティがミーシャと同じように車窓の外へと視線を向ける。小さな枠の外では若々しい緑色と透き通る青色が広がっており、遠くにはうっすらと赤い煉瓦の街並みが見えてきた。

 

「ま、何かの手掛かりがつかめればいいよ。今ある手がかりが黒魔法ってものと、あと一つ、変な場所だけしかないからね」

「変な場所?」

「そ。とある魔女が黒魔法を生み出し、フリティラリアが現れたのは――」

 

 と、ウイスティはミーシャの金色に染まった瞳を見つめ、告げる。

 

 

「――黄色い、花畑だったらしい」

 

 

 

 

「げゲっおぼろゲろおろろっゲェー! おゲろろろろっげゲろェー!!」

 

 

 ミーシャは学ばぬ女だった。既に本日二回目のゲロなので、吐しゃ物の中に胃液が混じっていた。

 大きなドーム状の駅のトイレの傍、黒いゲボ袋へ吐しゃ物が溜まっていく。傍を行き交う人が時たま怪訝な視線を黒魔女へ向けていたが、ミーシャはそれどころではなかった。

 

「ミーシャちゃん、ゆっくり吐いていいからね」

「うわー……ほんとにゲロ吐いてる……」

「ウィスティ、あなたもよ。ミーシャちゃんをあまりイジメないであげて?」

「あっははー、ごめんごめん」

 

 なんて会話を交わしている二人に、ミーシャがゲロを吐きながら鋭い視線を送る。その隣では、小さくなったままのフェンリルが心配そうにミーシャの顔を見上げていた。

 やがて胃液を吐き終わったミーシャがゲボ袋をアイリスへ突き出す。そうして虚空に消えていく黒い袋を眺めた後に、ミーシャは足元にとてとて寄ってきたフェンリルに俯いたまま口を開いた。

 

「なんで私だけこんな目に……列車嫌い……」

「わふ」

「ごめんねりっくん……私は乗り物酔いする黒魔女なんだ……こんな魔女でごめんね……」

 

 落ち込んだミーシャを慰めるように、フェンリルがその体をミーシャへ寄せる。そんなゲロを吐いて犬に慰められる黒魔女に、アイリスがさて、と調子を整えて声をかけた。

 

「ミーシャちゃん、そろそろ行きましょう。夜会のために今日の宿をとっておかないと」

「はーい。んじゃりっくん、お散歩しよっか」

「わう」

 

 フェンリルの首元を優しく撫でて、ミーシャが立ち上がる。そうしてまばらな人波に流されるように、ミーシャは駅の外へと足を踏み出した。

 

 ホームを抜けると、そこには赤レンガに彩られた街並みが広がっていた。

 

 駅を囲むようにして大きな通りが広がっており、そこから蜘蛛の巣のように小さな道が広がっている。駅の周囲には様々な店が立ち並んでおり、蜘蛛の巣の端に行くにつれて住宅が並ぶようになり、分かりやすく言えば、普通の街並みだった。

 駅の前に設けられた観光客向けの地図を手に取って、ミーシャとウイスティは二人揃って顔を上げる。

 

「わかんなーい」

「わからん」

「だから引きこもりって言われるのよ?」

 

 地図も読めない自宅警備員二人を差し置いて、アイリスがため息をついた。

 

「とりあえず軽く観光でもしながら宿を探しましょう。まだお昼くらいだし、昼食をとった後でも遅くないわ」

「ん、そだね。とりあえず泊まるとこだけ探しとかないと」

「ウイスティ、あなたはどこか行きたいところない?」

「べつにー? アイリスに任せるよ」

「そう。じゃあミーシャちゃんは?」

「うーん……私もあんまり……」

 

 そう地図に目を降ろして悩む声を上げるミーシャの袖を、ふとフェンリルがくい、と引っ張った。

 

「りっくん、どうしたの? どっか変?」

「……が……する」

「りっくん?」

「匂いが、する」

 

 ざわざわと風が蠢き、フェンリルの体毛が逆立つ。纏う疾風は勢いを増し、フェンリルの周囲には小さな竜巻が発生していた。月色の瞳はどこか遠くを見据えていて、あまりの異常なフェンリルの様子にミーシャの顔色が心配の色を帯びていく。

 

「りっくん喋れたんだ……ってか、大丈夫? どこか落ち着かないの?」

「ミーシャ、匂いがする……穢れた魔女の匂いが……!」

「へ? におい、ってどういう――」

 

 とミーシャがフェンリルの頭に手をかけた瞬間。

 風の爆ぜる音が、鳴り響いた。

 

「うわあああああああ!! りっくーん!? どうしたのよぉー!!」

 

 びゅぅ、と風が吹く音と共に、人の波を割るようにを緑の獣が駆ける。大地を蹴る四肢は大樹のように太く、纏う毛並みは突風のように靡く。一陣の風となったフェンリルは、何かに取り憑かれたように雑多を掻き分けて前へ前へと進んでいく。

 あまりの突飛な出来事にあんぐりと口をあけたまま固まるウイスティをよそに、アイリスが焦った顔で手のひらに転移の魔方陣を映し出す。

 

「りっくん! 待て! お手! おすわり! ちんちん! ちんちーん!」

 

 なんとか尻尾を掴んだミーシャがそう叫ぶが、フェンリルの進行は止まらない。ブンブンと自分のご主人さまを振り回しながら、赤煉瓦の街並みを駆けていく。

 

「止まってよおおお!! りっくーん!? りっくんってば! ちょっと!」

 

 何度命令しても聞こうとしないフェンリルに、ミーシャの機嫌が悪くなってゆく。そして息をすぅ、と吸い込むと、いつまで経っても主人の言いつけを聴かない眷属に向かい、口を開く。

 

「…………っ、フェンリル! 止まれ!」

 

 その言葉と同時に、まるで足に杭を打ち付けられたようにして緑の獣の脚が動きを止めた。その爪は地面に縫い付けられ、後ろから吹き抜ける風がミーシャの髪をなびかせる。

 ようやく言う事を聞いたフェンリルに、ミーシャが肩で息をしながら頬を膨らませた。

 

「……ミーシャよ、どうしてここで止めたんだ……」

「どうして? どうしてもこうもないよっ! あのね、久しぶりのお散歩だからってはしゃぎすぎ!」

「しかし、俺はあいつを……」

「しかしもおかしもないっ!」

 

 地団駄を踏んで、ミーシャがフェンリルの顔を見上げる。その顔はどこか失望したようであり、主人の命令をもってしても未だ諦めきれないような様子だった。

 そのフェンリルの不穏な表情に、ミーシャが少しだけ不思議になって首を傾げる。

 

「……りっくん?」

「ミーシャ、逃げろ。あいつは、お前の……!」

 

 フェンリルの瞳の向かう先。そこに立っていたのは、一人の女性だった。

 

 視界を照らすのは、一面の紅。伸びる赤い髪は背中まで続き、きらめくような金色の瞳はミーシャの方へと向けられている。雰囲気はアイリスに似ているが、アイリスにはない鋭さを感じさせるよう。

 まるで、焔を纏っているような雰囲気を漂わせているその女性に、ミーシャは思わず目を見開いた。周囲の人々なんて気にも留めず、その女性はミーシャとフェンリルの方へと歩く。

 

 そして呆けたような顔をしているミーシャの眼前に立つと、紅色の唇は開かれた。

 

「ごきげんよう、ミーシャ様」

 

 恭しく礼をして、その女性はミーシャの瞳を覗き込む。その色はどこか恍惚の色に染まっているようで、ミーシャは得体のしれない不審な感覚を覚えた。それこそフェンリルが駆られたその『何か』に気づいたような気がして、ミーシャは思わず後ずさる。

 そんなミーシャの様子を気にすることもなく、その赤い女性は頬に手を当てて続けた。

 

「そちらの眷属のお方もごきげんよう。先程まで何か騒ぎがあったようですが、この街に何かお気に召さない点でもございましたでしょうか?」

「だ、れ……?」

「あら、いけませんね。自己紹介をするのがまだでした。」

 

 くすり、と唇に手を当てて、彼女は告げる。

 

「私が、紅魔女のローザでございます。以後、お見知りおきを……」  

 

 


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