「──という訳で、将ちゃんに依頼されて俺も瑠璃丸を探しに来たんですよゴリさん」
「まさか長門くんが上様の話していた友人だったとは驚いたな。よし、そう言うことなら断る理由は無い。一緒に瑠璃丸を探し出して上様にお返ししよう!」
地面に頭を埋める銀さんと土方さんを傍らに、近藤さん率いる真選組の人たちに俺がここにいる訳を説明すると快く承諾してくれた。やっぱりゴリさんは話が分かる人だね。そのゴリラ顔とすぐに全裸になる癖とお妙ちゃんに対するストーカー行為さえなくせば基本的にゴリさんは常識人だと思う。……あれ、もしかしなくてもゴリさんって存在自体が警察案件なんじゃ。あ、ゴリさん警察の人だったか。こりゃ世も末だな。
「将軍様のペットって言っても、カブトムシのために警察が動くってどうなんですか……」
「メガネくん世の中には踏み込んで良いことと悪いことがあるんだ。命が惜しかったらツッコミは控えたほうがいいよ」
「ていうか長門さんが銀さんに依頼して来た仕事って、もしかしなくても今やってるカブトムシ取りなんですか?」
「そうだよ。将ちゃんに瑠璃丸捕まえて来いって言われてさ。報酬弾むからーって銀さんに依頼したんだけど、銀さん面倒だって言って断ったんだよ」
「なんで僕は買い物なんか行ってたんだ……! 僕がその時その場所にいれば!」
悔やんでも時既に遅し。俺の依頼はあの腐れ天パが丁重にお断りしました。ゴリさんたち真選組の協力が得られたんで今更頼まれても依頼は出せませんよ。
「あー! ながもんカブトムシ持ってるネ!」
「ん?」
と、神楽ちゃんが俺の捕まえたカブトムシたちを見て目を光らせていた。そう言えば、元を辿れば神楽ちゃんがカブトムシ取りに行きたいって銀さんたちに言ったんだっけ。なるほどなるほど。
「ほんとでさぁ、呉服店の兄貴中々のサイズをお持ちで。どうでぃ、俺のサド丸といっちょカブト相撲でも」
「ながもん止めたほうがいいネ。あのマゾ丸に私の定春27号とあけぼのXはやられて永眠したアル」
「マゾ丸じゃねぇサド丸でぃチャイナ娘。ていうかお前の使ってたのカブトじゃなくてふんころがしだったじゃねぇか。しかも相撲見て興奮したお前が勝手に」
「誰が興奮させたか考えてみろ! 誰が一番悪いか考えてみろ!」
「完全にお前でさぁ」
うーん、やっぱり神楽ちゃんは何処かズレてるよね。俺ならふんころがしなんて絶対触れないよ。
「神楽ちゃん、そんなにカブトムシ欲しいならこの中から好きなの上げるよ? 元々店舗で売るつもりで獲ってたヤツだし」
「え、本当アルか!?」
「あ、ずるいでさぁ兄貴。くれるってんなら俺にもくだせぇ」
「お前は引っ込んでるネ、このカブトムシは私の物アル!」
「バーカ、このカブトムシは俺のでぃ。お前こそ引っ込んでろチャイナ娘」
銀さんやメガネくんからよく聞いてたけど、神楽ちゃんと隊長さんって本当に仲悪かったんだね。カブトムシの入ってるカゴ置いた瞬間に奪い合い始めたよ。ていうか、そんなに強く引っ張り合ってると
「「ハッ!?」」
あーあ、カゴ割れちゃったよ。百均で買ったものだから別にいいけど。
カゴから解放され一目散に逃げ出すカブトムシ。俺の目には札束が空を飛んでいるように見える。
「かーぶーとッ! 狩りじゃぁあああ!!」
「ん? 銀さん起きて──」
「テンメ長門! なんで将軍様からの依頼だって言わなかったんだ! それ知ってれば俺だってあの依頼受けたよカブトムシ捕まえまくってたよ!!」
「いや、言おうとしたら銀さんが電話切って──」
「これアレだよ。連絡不行き届きってヤツだよ! もっかい一から説明して俺に依頼受けさせろください!!」
逃げたカブトムシを追っていく神楽ちゃんと隊長さんを見送っていると、銀さんが胸倉を掴んで依頼の再要求をしてきた。別にそうしてもいいけど、俺もう真選組の人たちと協力してるから独断じゃ出来ないんだよね。
「テメェはコイツの依頼を断った。断られたコイツは俺たちに協力を求め、俺たちはそれに応じた。だったらテメェ等の出る幕はねぇよ、さっさと家に帰りやがれ」
銀さんと同じく復活した副長さんが銀さんを俺から離し、シッシッと虫を払うような仕草でそう言った。当然ながら、銀さんのこめかみに青筋が浮かぶ。この二人仲悪いから仕方ないね。
「んだコラ。お前等は町の安全守るのが役目だろぉが。こんなとこでロリ丸の尻なんざ追っかけてないでお前等こそ屯所に帰って少しは働けこの税金泥棒が」
「ロリ丸じゃねぇ瑠璃丸だ。次間違ったらその頭たたっ切るぞ腐れ天パ」
「ハッ、上等じゃねぇか。もっかい負かしてやるよ鬼の副長(笑)さんよぉ」
「ぶっ殺す」
あーあー、コッチはコッチで始めちゃったよ。真選組と万事屋ってホント仲悪いな。メガネくんとジミーくんが頑張って止めてるけど聞く耳持たないよ。あ、巻き込まれて気絶した。
「ちょトシも総悟も何やってんだ! そんなことより瑠璃丸を捕まえねぇと」
「「黙ってろゴリラ」」
「んだとぉおおお!」
唯一の頼りであるゴリさんも味方からの罵声に耐えられず全裸になって突貫。何故全裸になる必要があったゴリさん……しかしこれは
「カブトは私のものアル!」
「いいや俺のモンでぃ!」
「ちょこまか逃げんじゃねぇ!」
「そんなじゃ当たんねぇよバーカ!」
「お前らぁ、俺をみろぉおおお!」
「「……」」
まさにカオス。たかがカブトムシのために森を蹂躙し、将軍からの依頼そっちのけで斬り合い、ツッコミ不在の中全裸で走り回るゴリラ。
うーん、ついていけない。これはもう帰った方がいいな。将ちゃんには申し訳ないけど俺は充分頑張ったと思うし、後はみんなに任せよう。お腹も空いたしね。
▽
その後、万時屋と真選組は協力し合って瑠璃丸を探し出すことに成功した。
しかし隊長さんと神楽ちゃんの暴走により、捕まえた瑠璃丸はご臨終。将ちゃんのペットを殺したということで双方共に罪に問われかけたが、将ちゃんのカブトムシブームが過ぎ去っていたことで事なきを得た。結局のところ、将ちゃんの気分次第ってことなんだよね。
「そよちゃんもプレゼント喜んでくれたみたいだし、銀さんは相変わらず一文無しの平常運転。うんうん、良きかな良きかな」
《全然良くねーから!》
そんな声が何処から聞こえてきそうだが、マダオじゃない銀さんなんて想像できない。きっとその人は天パじゃなくてドストレートの銀髪なんだろうそうに違いない。
ほら、髪は人を表すっていうしね。銀さんみたいな天然パーマは心がぐにょにょになってるから髪もぐにょぐにょなんだよ。
「郵便でーす」
「ん?」
店の掃除をしてると郵便が届く。なんだろう、将ちゃんからお礼の手紙かな? それともそよちゃんからお茶会の誘いだろうか。
「差出人……は書いてない。誰だ?」
将ちゃんとそよちゃんなら必ず《将》なり《そよ》なり書く。商いなら店の名前とか書いてる筈だし、将ちゃんとそよちゃん以外に手紙のやり取りしない身からすれば差出人に皆目見当がつかない。
「取り合えず開いて見るしかないよな」
手紙開いたら呪い殺されたーなんてベタなRPGじゃあるまいし心配はないだろう。アレ、これもしかしてフラグ建った?
「《拝啓、草木の緑も一段と濃くなってきましたが、お健やかにお過ごしのことでしょうか──俺の毛は一段と抜け落ちていきます》……え」
どこかで聞いたことあるような自虐ネタがまず始めに目に付いた。その瞬間、俺は手紙の差出人が誰なのか悟った。
自虐ネタの癖にそれに触れるとキレるんだからどうしろっていう話だが、何度も何度もその理不尽に直面してきた俺は知ってる。
「《傘ぶっ壊れたから直しに
どうやら俺が建てたフラグは、特大の死亡フラグだったのかもしれない。
たくさんのお気に入りと評価を貰って本当に驚きました。ありがとうございます。
仕事の息抜きにと自己満足で書いた今作ですが、皆様に楽しんで貰えてるようで何よりです。
次回から海坊主篇に入ります。オリジナル展開を含みますのでご注意ください。