夜兎の営む呉服店   作:とんちき

2 / 6
メガネとチャイナ

 銀さん経由でメガネくんと神楽ちゃんとは比較的仲がいい俺。メガネくんは銀さんと一緒にボケて突っ込まれる程度には打ち解けていて、神楽ちゃんは同じ夜兎族ということで色々と面倒を見ているし、彼女のお父さんとも俺は面識があるので必然的によく喋るようになった。

 

 そんな二人が、銀さんを万事屋に置き去りにして俺の店へ訪れた。

 いつもは銀さんとこの店に来るだけに、二人だけという絵は何処か新鮮さを覚える。

 

「ながもん、朝からコイツ調子悪いネ。直して欲しいアル」

「折角の休みなのにすみません。神楽ちゃん、止めても聞かなくて」

 

 メガネくんが頭を下げる傍らで神楽ちゃんが差し出してきたのは俺たち夜兎にとっては必需品の番傘。調子が悪いとはどういうことなのか、取りあえず神楽ちゃんから番傘を受け取って確かめる。

 あ、ちなみにながもんっていうのは俺のことだ。勿論本名じゃなくて神楽ちゃんが俺の名前をもじって作ったあだ名みたいなもんだ。

 

「あ、番傘としての役割は果たすんだ。となると、仕込み銃とかが誤作動した感じかな?」

「朝新八が起こしに来たとき喧しいから永眠させてやろう思ったアルネ。そしたらなんか弾出てこなくて不発に終わったアルヨ」

「何物騒なこと言ってるの!? え、もしかして僕って朝から殺されそうになってたの!?」

 

 なるほど。まぁ、確かにメガネくんのツッコミも偶に鬱陶しく感じることあるし分からなくはない。けど神楽ちゃん、この世界にメガネくんのようなツッコミ人間ならぬツッコミメガネがいなくなったらもうお終いだと思うんだ。だから、永眠じゃなくて半殺し程度に済ませるのがベストだよ。

 

「あの、勝手に心の中覗かせて貰って悪いんですけど、僕のツッコミって鬱陶しい時あるの? 当たり前のことを当たり前に突っ込んでるだけなんだけど、え、もうそれすらもさせてくれないの? ツッコミしただけで半殺し確定なんですか? ていうかツッコミメガネって何だよ」

「メガネくん、まずは人の皮を被ったその偽りの姿じゃなくて本体を出してきなさい。お互い腹の内を曝け出せば銀さんなら何とかしてくれるよ」

「人の皮を被った偽りの姿って何!? 僕人として認知すらさせて貰えないんだけど、メガネに腹の内も何もないと思うんですけど! そもそも銀さんなら何とかしてくれるって言うけど僕の本体=メガネを定着させたの銀さんなんですけど! ていうかもうこれ何度目になるか分かんないけど僕はメガネくんじゃなくて新八です!」

 

 ゼェゼェとツッコミを終えたメガネくんを見て相変わらず面白い子だと、内心で笑いを堪える。

 

「少し時間かかるし、良かったら上がってく? 今日は休みだし何ならご飯食べてってもいいよ」

「私チャーハンがいいアル、いつものパラパラのやつお願いするネ!」

「あ、僕もお願いします。神楽ちゃんがいつも美味しいって言ってくるんで気になってたんです!」

「オッケー。じゃあチャーハンとメガネ入りチャーハンね。30分くらいで出来るからテレビでも見ながら待ってて頂戴な」

「メガネ入りチャーハンって何、もうそれ完全に僕が食べる流れだよね!?」

 

 この前メガネ10個買って余ってるんだよね。メガネくんいらないって言うし、あれ誰か貰ってくれないかなー。いっそこの店に出すか。うん、それもアリだな。

 

 

 

 

 

 

「神楽ちゃーん、直し終わったよ。ハイ」

「おー、サンキューながもん!」

 

 昼飯だけなのに三日分の食料は消えたと思う。夜兎基準の三日なので常人からしたら2週間分だろうか、それだけの量を食べ終え酢昆布を齧ってゴロゴロしてる神楽ちゃんに修理し終えた番傘を差し出す。単純に銃弾が詰まって出てこなかっただけだったので、直すのにそこまで手間はかからなかった。

 

「それにしても長門さんって基本何でも出来ますよね。掃除洗濯炊事、僕の知る限りだとどれもプロレベルの腕前ですよ。地球に来る前は何かしてたんですか?」

 

 そう言えば銀さんには言ったけど、二人には言ってなかったか。

 基本ここに来る前までは戦ってばっかりの俺だったけど、生活自体は割りとしっかりしていたつもりだ。そもそも一人で生きてきたようなものだし、夜兎の性質上たくさん食わないと生きていけない。そんでやっぱり、飯食うなら美味いもののほうが断然いい。戦闘で服とかよく血まみれになってたから洗濯にも力入れたし、元より綺麗好きだから掃除とかは前世の知識を駆使してやってるだけ。

 

 ただ説明するの面倒だし、ちょっとシリアスになる可能性もあるので適当に誤魔化しておこう。

 

「銀さんの無理難題に付き合ってたら出来るようになってた、それだけだよ。だから二人もいずれは出来るようになると思うぞ」

 

 うん、割と適当なこと言ったけどなんだか凄い説得力あるなこの言葉。よし、これからは何かあったら全部銀さんの所為ってことにしておこう。

 

「何かすみません、銀さんがいつも迷惑かけて」

「鬱陶しかったらいつでも言うネ。私がぶっ飛ばしておくアル」

 

 ほら通じてるよ。やっぱり日頃の態度って大事なんだね。銀さんみたいなマダオは一度痛い目を見て改心する必要があるんじゃないかと割と本気で思ってきた。じゃないと俺みたいなヤツに嵌められていつかとんでもない事になると思う。でもまぁ、普段からとんでもないことにあってるっちゃあってるし、それでも直らないのを考えるともうどうしようもないのかもしれないが。

 

「銀さんにはもう慣れたよ。何だかんだそれなりの付き合いだしね。二人こそ、何か困ったことあったらいつでもおいで。仕事で出張ってる時以外は力になるからさ」

「ながもん」

「長門さん」

 

 二人には色々と感謝してるしね。銀さんほどじゃないが、困ったときは力になるさ。内容によってはお金貰うことがあるけどそこはホラ、夜兎を雇う資金だと思ってもらえれば。元より夜兎ってほとんどが傭兵だしね。

 

「そう言えば銀さんと長門さんって知り合ってどれくらいなんですか?」

「あ、それ私も気になってたネ」

「銀さんと知り合って? うーん、2年くらいかなー」

 

 時の流れは速い。あの衝撃的な出会いからもう2年も経つのだから。目を閉じれば今でも鮮明に思い出せる、銀さんとの出会いが。

 

《おい、このジャンプは俺のだ離しやがれ》

《そのジャンプは俺が先約済みです。先にトイレ済ましてたんです》

《ハッ、だったら名前でも書いておくこった。まぁ俺だったらジャンプ買ってからトイレ行くけどな》

《ええそうでしょうね。だから名前書いておきましたよ、ほらココ》

《え……あ、ホントだ》

 

 あの時の記憶はどれだけ時間が経っても忘れることはないだろう、うんうん。

 

「いやあの、何処からどう見ても衝撃的でも何でもないんですけど。百歩譲ってジャンプの奪い合いとかなら許せたけど、奪い合ってすらないじゃん。銀さん普通に譲って別の店に買いに行ってるんですけど」

「ながもんもジャンプ読んでるアルか。なんか意外アル」

「男はいくつになっても心は少年なんだよ。まぁ、中にはヤングとかビジネスとかに手を出す阿呆もいるけど、男ならやっぱりジャンプさ」

「自分の価値観押し付けすぎでしょ。それもう銀さんレベルですよ」

 

 銀さんほどまでは行かないよ。あれは俺とは次元が違う。この前なんてちょっとヤングに浮気したら裏切り者ー! って木刀で殴られて3週間は口利いてくれなかったよ。

 

「いや浮気したんかい! この人他人には超厳しいけど自分には激甘のタイプだよ絶対」

「そんなことないよ。ねー神楽ちゃん」

「! ソウアル、ながもんハ銀チャントハ違ウネ」

「酢昆布で買収されてんじゃねぇえええ!」

 

 何処から取り出したのかメガネくんのハリセンで神楽ちゃん共々叩かれる。ナイスツッコミ、これからもその腕を腐らせないよう精進したまえ。あと神楽ちゃん、酢昆布で買収されるのは俺だけにしようね。他の人に酢昆布渡されてもついていっちゃダメだよ? 

 

「今時酢昆布持ち歩いてるのなんてながもんだけアル。それに銀ちゃんから知らない大人から酢昆布は貰うなって言われてるアルね」

「酢昆布以外だったら?」

「場合によっては貰うアル」

 

 現金だよこの娘。銀さんと一緒に暮らしてるからどんどん銀さんに性格似てきてるよ。最近じゃゲロ吐きまくるし鼻くそはほじるしでヒロインの風上にも置けないよ。まぁ、神楽ちゃんも夜兎だし万が一はないだろう銀さんもいることだし。

 問題なのはメガネくんだ。メガネくんはただの一般人と何ら変わらないからここはしっかり言い聞かせておこう。

 

「いいかいメガネくん。知らない大人からメガネを上げるって言われても絶対についていっちゃダメだよ? いいかい、お兄さんとの約束だ」

 

 直後、顎に右ストレート。

 

「ついて行くかぁあああ! なんで僕だけメガネ!? メガネ上げるって言われてついていく奴が何処の世界にいるってんだ!」

「中々いいパンチ打つじゃないか。これなら誰に誘拐されても安心だな」

「いや物騒なこと言わないでくださいよもう」

 

 あ、でもメガネくんって童貞なんだっけ。

 

「メガネくん。綺麗なお姉さんに誘惑されてもついていっちゃダメだよ? ああいうのってカモからは絞れるだけ絞り取って最終的には裸にして路上に放り投げるようなヤツ等だから」

「……そ、そそそんなの当然じゃないですか! ぼぼぼ僕だって人を見る目くらいあああありますよ!!」

「新八鼻血出てるアル、何想像してるアルか気持ち悪いネ」

 

 うーん、これは一度痛い目をみないとダメそうだね。まぁ、それも経験だ。授業料だと思っていつか絞り取られるといいよ。あと神楽ちゃん、メガネくんにその軽蔑の眼差しは止めてあげて、メガネくん泣いちゃうから。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。