夜兎の営む呉服店   作:とんちき

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天パと過去

 侍の国。この国がそう呼ばれていたのは今は昔の話。

 廃刀令によって武器を失った侍たちは、宇宙からの使者である天人に実権を握られ今や形無し。街中を歩くのは人間じゃなくて宇宙人。法律も天人第一のモノに変わり、人様にとっては街中に出歩くことすらキツい時代になってしまった。元人間の俺からしたら同情もんだよ。

 

「銀さん、今月の依頼何回来たの?」

「ゼロ」

「お金は?」

「ゼロ」

「パフェ食べる?」

「頼む」

 

 力なくテーブルに突っ伏すこの天然パーマは坂田銀時。マダオと呼ばれる人とすら呼べない最悪の人種で、間借りしてる部屋の家賃を五ヶ月も払ってないというその度胸には尊敬の念すら覚える。まぁ、それでもやるときはしっかりやる人で俺も少なからず恩があるから、こうして俺の店に来てくれた時はパフェ作って上げるけど。

 

「神楽だけでもギリギリだってのに、あいつバカでけぇ犬拾って飼い始めやがった所為で銀さんもう限界。パフェ幾つ食っても足りねぇよこんちくしょう」

「あ、一杯目はタダでいいけど二杯目からはお金取るからね」

「そんな殺生な!」

 

 銀さんと違ってウチは余裕あるけど、やっぱりそういうところはしっかりしとかないとね。この人、甘やかすと何処までも甘えてくるから引き時は大事。

 と、パフェを食べ進めていく銀さんがため息を溢す。

 

「お前はいいよな、店儲かってるみたいで。ていうか神楽と同じ夜兎なんだからアイツの面倒もお前が見ればいいじゃねぇか」

「それでもいいですけど、神楽ちゃん銀さんのとこ割と気に入ってるみたいですし多分無理だと思いますよ。それに、俺が面倒みたら銀さん収入の3分の2は減ると思うよ。神楽ちゃんがウチで偶にバイトして、そのバイト代を俺が万事屋に上げてるんだから」

「あのね、そのバイト代が神楽とクソ犬の食費で飛んでるの。むしろーマイナスなの、それじゃ足りないのそこんとこ分かる?」

「そこはホラ、神楽ちゃんみたいな可愛い娘と一緒に一つ屋根の下で暮らせるんだから我慢しなよ」

「俺はロリコンじゃねぇえええ!」

 

 立ち上がって猛抗議してくる銀さんを宥める。

 まぁ、俺も神楽ちゃんと一緒に暮らせって言われたら抵抗あるし当然だと思う。勿論、男女の間で起こる抵抗ってヤツじゃなくてもっと現実的なものだよ? 俺たち夜兎ってよく食べるし、神楽ちゃんに至っては俺の倍は食べる。しかもあの子、不器用で店の品物よく壊すから扱い辛い、あとよくゲロる。これらのことを考えるとやっぱり神楽ちゃんには万事屋で生活してもらうのが一番だと思うんだ。ほら、銀さんってなんだかんだ面倒見いいし、窮地に立たされれば少しは働くでしょ。

 

「でも銀さん、前よりいい顔してますよ。きっとメガネくんと神楽ちゃんのお陰ですね」

「んなわけあるかバカ野郎。アイツらのせいでジャンプすらゆっくり読めねぇってのに」

「ジャンプとパチンコ以外にもやること出来て良かったじゃないですか」

 

 昼近くまで寝て、起きたらジャンプ読むかパチンコするかして、夜になったら町に繰り出す。これが銀さんの基本サイクルだった。うん、字面だけどこれサイアクだよね。もうニートを越えてマダオって呼ばれるだけあるよ。

 それがメガネくんと神楽ちゃんが来てからは依頼を割りとしっかりやるようになったし、メガネくんのお陰で規則正しい生活もしてるようで何よりだ。

 

「お前、今日なんかやることあるんじゃねぇの?」

 

 俺に構ってないで、やることあるならやってこいよ。遠回しにそう言われ何か依頼はあっただろうかと過去の記憶を思い出す。

 

「お偉いさんから一件と、真選組(サツ)の制服が三着、後は銀さんの着物の手直しぐらいしかないよ」

「あれ、俺頼んでたっけ?」

「この前破けたから直してくれーって言ってたじゃないですか。まぁ、銀さん引くほど同じヤツ持ってるから気づかないのも無理ないですけど」

「あー、そういやそんなこと言ったな。どのくらいで直りそうよ」

「二日も経てば終わりますよ。バイト終わりの神楽ちゃんに渡しとくんでそれ受け取ってください」

「いつもサンキューな」

 

 珍しい。銀さんが素でお礼言ってきたよ。まぁ、こういう時は大概何か裏があるって経験済みだから特に驚きはしないけど。

 

「ホント、お前にはいつも助かってるよ。着物の手直ししてくれたり、パフェ作ってくれたり、神楽や新八の面倒まで見てもらってる。お前にはホント頭があがらねぇよ」

「何言ってるんですか。そもそも、俺がこうして地球で平穏に暮らせるのも銀さんのお陰ですよ。パフェぐらい作るの訳ないですって」

 

 銀さんの眼光が鋭く光る。その言葉を待っていたと言わんばかりに。だがしかし

 

「じゃあパフェもういっ「まぁそれとこれは別の話。無料分は一週間で一杯です」そんなー!」

 

 大の大人がパフェ食えなかったぐらいで泣きつかないでください。ていうか、一週間でパフェが一杯タダで食えるんだからそれだけでも感謝して欲しいものだ。

 

「ってあり? 食材切らしてる……あーそうか、この前神楽ちゃんに食われたんだったな。銀さん、俺ちょっと買出し言ってくるんで店番頼んでいいですか? 帰ったらパフェ作ってあげるんで」

「マジでか! おう任せろ、泥棒が来たらこの俺がボッコボコにしてとっ捕まえてやるからよ!」

「やり過ぎないようにしてくださいね。サツ来ると面倒なんで」

 

 まぁ銀さんより腕の立つヤツなんてココにはそういないし、銀さんが問題起さない限りは大丈夫だろう。丁度昼時だし近くの商店街でセールしてた気もするから、何も問題起さないでいたらパフェ以外にも何か作ってあげよう。

 

「それじゃ頼みますねー」

 

 

 

 

 

 

 

 この世界に転生して、早いものでもう20年。

 

 事故で死んで目が覚めたら5歳の子供、それも宇宙人に囲まれた状態で目を覚ました時はまだ夢の中にいるんじゃないかとさえ思ったな。

 転生か憑依か、何にせよ前世の俺とはまったく違う誰かとしてこの世界に生まれ、夜兎という一般人とはかけ離れた戦闘種族と知った時はビックリしたもんだ。人なんて軽く握りつぶせるほどの怪力、兎の如き強靭な脚力、まるで漫画やアニメの世界に来てるような実感さえ覚えた。いやまぁ、バカでかい蛇とか竜とかがいるこの世界だ、実際は俺が知らないだけで何かの漫画かアニメの世界だったりするのかもな。

 

 思い返せば戦ってばっかりの人生だったな。

 自分が今まで何をしていたのか分からず、家族や友人の記憶すらこの体にはなかった。頼る当ても自分が何をするのかも定かでないまま、ただただ戦い続けた。本能が俺に訴えていたのだ、死にたくないと。だから、その本能に従って今まで戦い続けてきた。2年前のあの日、銀さんとこの星で出会うまで。

 

《やりてぇことをやればいい。テメェがやりてぇことくらい、テメェで決めやがれ》

 

 銀さんにとっては大したことしたつもりはないのかもしれないけど、俺にとっては大きすぎる恩だ。一生かかっても返せそうにないほどの。

 だから、最近なんだかんだ言いながらも楽しそうな銀さんを見れて少し嬉しい。お登勢さんは俺が来るまではもっと酷かったって言うけど、それでも今の銀さんと俺の知る銀さんを比べれば天地の差だと思う。やりがいというか何と言うか、銀さんも俺と同じでやりたいことを見つけられたのかなと、そう思う。

 

 基本的にはマダオの銀さんだが、やる時はやるし決める所はしっかり決める。

 そんな銀さんだからメガネくんや神楽ちゃんは惹かれたのだろう。銀さんに救われた人は本人のその気がなくても何故か惹かれてしまう。カリスマとは言い辛いが、それと似たようなのを銀さんは持ってる。正直、羨ましい。俺もマダオになればそんなカリスマが身に付くだろうか……いや、止めておこう。やっぱりマダオにはなりたくないや。

 

「今日もお天道様は忌々しいほどに輝いてることで」

 

 番傘があるとはいえ、夜兎の俺にはやっぱりこの光は辛いや。

 神楽ちゃんは偶にこの太陽の下を全力疾走してるけど、大丈夫なのだろうか。まぁ、あの子はちょっと特殊だしきっと大丈夫なんだろう。あんまり追求するとそんな設定あったなとか言われそうだしこれ以上考えるのは止めておこう。

 

「あ、酢昆布切らしてたっけ。神楽ちゃん怒るだろうし買っておくか」

 

 一ダース150円。まぁ酢昆布の需要なんて今時神楽ちゃんぐらいしかないしこんなもんだと思う。ついでにメガネくんのメガネも買っておいたほうがいいだろうか。あのメガネくんよくメガネ壊すし。

 

《メガネくんじゃねーよ! 新八だよ!!》

 

 メガネくんはからかうと本当に面白い。銀さんが気に入るのも分かるという物だ。

 そうだ、このメガネを銀さんに渡してまた一芸してもらおう。きっと面白くなるぞ。

 

「すみませーん。このメガネ10個ください」

 

《どんだけメガネ買うんだよ!》

 

 そんな突っ込みが、何処かから聞こえた気がしたが気のせいだろう。

 

 


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