モンスターが怖いから私はガンナー   作:友夏 柚子葉

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ウチにとっての生命倫理

 

 

 

 

 

──────なぜ人は飛べないのか?

 

 この大空を自由に飛びたい。それは人類誰もが1度は願った事がある夢。そして夢に敗れ、何故重力に逆らえないのかをどこかの誰かに言葉にしないで聞いた筈。……まぁ答えも理由も皆わかってるけどね?

 逆に言えば空を飛ぶのに必要な器官と筋力があれば飛べるのかな?鳥は私達が美味しく食べてる胸肉と言う自身の体の70%近い大きさを占める筋肉と、それを使う翼があるから飛べる。鳥体型を人間バージョンにコンバートした場合の結果は…想像に任せるよ。

 

 つまり何が言いたいかというと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボク、気付いたらナルガクルガになってたよ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「あら、そんなアプトノスダッシュじゃスグにティガレックスに追いつかれちゃうわよ?フフ…ほらちーちゃんもっと頑張らないと」

「うぅぅぅぅぅう!!!」

「フフ…ジンオウガが超電雷光虫を飛ばしてきたわ」

「いやぁぁぁぁぁぁああわぁぁ!!!」

「避けたらすぐに立って動かないと上からブラキディオスが降ってくるわよ?」

 

 マタタビを腰に付け、猫ちゃん達に追われながらの砂浜500本ダッシュや、ジンオウガの超電雷光虫弾を模した閃光玉を緊急回避で躱し、止まったポイントに向けて飛び込み爆破してくるブラキディオスをイメージさせた小タル爆弾が降ってくるのから逃れる。

 ガンナーさんが仕掛けてくるタイミングは本当にランダムで、小タル爆弾が終わった直後に閃光玉が飛んでくることもあれば、10分経っても何もしてこない時もある。

 ついでに猫ちゃん達に捕まったり躱せれ無かった回数分だけ今晩のおかずが1品減り、7本連続で躱せたら1品増えると言うシステム。15本連続でスペシャルなデザートが追加。もちろん被弾したら真っ先に消し飛ぶけどね?

 

 決意を固めてから翌日。本格的にガンナーの戦い方を教わる為にウチは筆頭ガンナーこと、お姉さんに弟子入りした。

 死んじゃうかと思う程、見た目に寄らず凄くスパルタな特訓を用意してくれたガンナーお姉さん。弟子入りから1週間経ったけど未だにランメニューしかやらせてもらってない。

 今日の分が終わり、7日目にして漸く追加のおかずが勝ち越したよ。スペシャルデザートは貰えなかったけど…。

 

「フフ…お疲れ様。明日からは次のステップに移りましょう」

「え?!ホント!?」

「あら、私は嘘は言わないわ?」

 

 お姉さんの言葉に心を踊らせる。晩御飯を食べ終え、ソフィアちゃんや娘ちゃんとガールズトークをしてから寝床に行く。

 確実にハンターになって来てる…!そう思えるほど毎日のトレーニングが楽しくて充実してる。爆弾降ってくるのは怖いけどね?

 明日からはどんなトレーニングをするのかな?弾込めかな?武器のメンテナンスのやり方かな?将又撃ち込みかな!?

 明日の昼が愛おしい。明日からやることに想像を膨らませ、あれだったらいいな、これだったらいいな、そんな事を考えるだけで掛け布団を抱き枕にしながら悶々と転がる。

 

 

 

 そして次の日の朝。ウチはお姉さんから防具を着てくるように言われた。それを聞いた時、ついに武器の使い方を教えてくれる!!………そう思ってましたよ。えぇ。うん。うん……。

 防具を身に纏いお姉さんの前に立つ。すると後ろから加工屋お兄さんがやって来てウチの腰に先週1度だけ扱ったヘビィボウガン<ボーンシューター>を納刀状態で取り付けた。それからお姉さんの一言だった。

 

「今日からは武装した状態で前回のトレーニングをするわ。フフ…前回まではインナーだけで身軽だったけど今回からは…。ルールは変わらないから頑張ってね」

 

 ……ウチ帰ったら長距離選手になろうかな?

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 むぅーーーーーんんん…。

 ここ何処だろ?空は暗くて月が出てるから時間的には夜なのは間違いないよね?それとドライアイスを水が張られた桶に入れたように霧が低い位置で充満してる。

 ここは街じゃないけど霧が有名な場所も言ったらロンドンを思い浮かべる。あと日本だと北海道の知床かどっか東の方にある街が日本のロンドンとか呼ばれるらしいよ!詳しく覚えてないけど地理でやったのはうっすら覚えてる!けど違うよねー。

 

 鏡が無ければ水辺もないからボクの今の姿は確認出来ないけど、尻尾や翼のブレードを見る限りナルガクルガって事は分かるんだよねー。体毛は緑じゃないし亜種じゃないのは確か。かと言って原種のように真っ黒でも無ければ希少種のように暗い紺色でもない…。

 爪や尻尾の先が少し白いから多分アルビノ個体なのかな?

 でもこの前人っぽい人達が来たから話しかけたけどびっくりしちゃうだけだったんだよねー。なんか目の前にいるのにボクのこと見えないらしいし、「伝説のアレがここら付近に居るのか!?」なんて口走ってたよ。伝説って??

 

 一応自分じゃわからないけど霧隠れが出来るらしい。つまり発情期にさえ入らなければ滅多に吼えないから見つかることは無い!この世界のモンスターの中ではハンターという脅威から最も疎い存在になる。……けどそれじゃあつまらないよねー。折角ナルガクルガの希少種(っぽいもの)になれたんだから色んなところ行ってみたいのがこのボクという存在!

 

 あとこの体って全然お腹空かないんだねー。もう今日で30回月が登ったからこの体になって丁度ひと月。先週辺り1回凄いお腹空いたけど翌日にはお腹いっぱいになってたから、多分気の所為だよね!てことで出っ発ーーーぅ!

 

(ガシャン)

 

 うん?なんか踏んだ気がする。………矛と盾?それに銃?それと大きな剣。あと兜が3つ?……あぁ思い出したよ。これなんか先週から落ちてるんだよねー。

 ───そう言えばいつか来た人間も同じ様な物身に纏ってたようなー…。

 

 

 

 

……何か引っかかるけど、分かんないからいいや☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったー!ラストジャスト15本連続回避!計算された勝利のスペシャルデザートゥゥ!」

「あら、まだ1本残ってるわよちーちゃん」

「……………え?」

 

 ドカーン!

 そんな爆音が砂浜を揺らすさざ波の心地よい自然音を掻き消す。……負けたけど得るものはあったよ…。最後まで油断はダメだって事を…。

 プスプス…。とマンガなら髪からそんな擬音が出ているヤ○チャポーズ。もはや絶叫も出ない。……防具が無かったら即死だった。

 防具付き砂浜ダッシュを始めて2週間、漸くまともになってきたよ…。毎日が筋肉痛と超回復の繰り返しだし、被弾する爆弾が痛いし、たまにお姉さんの目が笑ってないし…。

 腹筋は6個に割れ始めたし、下腿三頭筋から大腿二頭筋まで溝が出来るほどムッキり膨れ上がってるし、腕なんかは力入れなければ華奢だけど手を握ったら全然可愛くない。多分これが世間でいうゴリラ女なんだと思う。ハンター辞めたくなってきたよもう…。冗談だよ?

 

「そうね…これぐらいまで来たら明日からは狩り中の立ち回りに入ってもいいかしら?」

「えぇー…明日から立ち回り練習なの……なの!?」

 

 撃沈してた体が復活する。完璧に疲弊しきった体に活力が戻った気がしたけど気がしただけだったから、立ち上がろうとしてガクンッと再び砂浜とI LOVE Chuu. 陽射しの強い日の砂浜は鉄板だからね…顔の皮が爛れるところだったよ。

 リロードはやり方を先に教えて貰ってたから、寝る前とかに何度も練習してたんだよね。だからトレーニングメニューには入れないらしい。撃ち方とかは立ち回りの中に入ってるのかな?

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティガ骨格は飛べるけど飛行には向いてないって分かってたけどここまでなんて…。体感でエリア2つ分ぐらいしか飛べない!おこだよ!!

 ……なーんって言っても仕方ないよねー。飛べないわけじゃないけど飛べる訳でもない。跳んでるが正しい表現だねー。

 

 ナルガになってから2ヶ月経ったけどなんか全然生活に困らない…。むしろ楽しい?けどちーちゃん居ないからどこかつまらない。ちーちゃんの塩ラーメン食べたいよ!!!………あ、でもちーちゃん味噌しか食べないから塩ラーメン一緒に食べた記憶が薄いや。

 

 そういえばね、なんかボクおかしいんだよ。体から霧が出せるようになったし、尻尾振ったら衝撃波というか真空刃が出るようになったのさ。

 霧を出すコツは掴んだから夜ならいくらでも隠れられるし…あ、でも自分の周りだけ霧が出てるって逆に不自然だよね。使い所が難しいね〜。

 衝撃波…いや、真空刃って言った方が的確かな?とにかく切れ味紫ぐらいスパスパ物が切れちゃうの!凄くない!?1回楽しすぎてそこら辺の山を真っ平らにしちゃった(´>ω∂`)

 まぁそんなことしちゃったから「ヤマツカミの出現かー!?」なんてハンターズギルドの皆様がこっちに御足労しちゃった訳だから隠れたんだけど…。力の使い過ぎってあまり良くないねって事を学びましたマル。

 

 さらに不思議な事に!ボクのこの体って山斬ったらなんでかお腹いっぱいになったの!!これって伐採された木々達の断面から漏れたこの世界特有の自然エネルギーを吸収してるって事かな!?舌にはとっても美味しい味が残ってたし、前のお腹いっぱいよりも満腹感あったし、これはすごい発見なのさ!!

 ……でもお腹いっぱいになる為にその都度山平らげるのは大変なんだよね〜。アプトノスとか狩って食べても焼いてないからそこまで美味しくないし、謎の満腹感に比べたら全然だし。ボクって意外とグルメ?

 

 さて、そろそろ次の場所に飛び立とぅ!ここの場所はもう観光し飽きたしね。木の実とか探したけど同じのばっかりだから食生活がつまんなくなっちゃった。

 次はどこに行こうかな〜。砂漠もいいし雪山も捨て難い…樹海なんてすごく面白そうだよね〜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────おっと、旅立つ前に珍しいお客さんがお目にかかれたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全身真っ黒で異様な雰囲気を醸し出してる大型モンスター。

 

 初見の時にはちーちゃんがボコボコにされてたMH4のメインヒロインちゃん。

 やっぱりこの世界にもいるんだね〜。

 

黒蝕竜<ゴア・マガラ>

 

 

 モンスターの体になった今のボクだと大変危険な相手。

 だって即死ウィルスの病原体だよ!?古龍でもなく、なんの抗体を持ってないボクが相手するなんて馬鹿げてるよね!!?

 

 さっさと霧を出して逃ーげちゃお♪

 

 

 

 

 

 

 

 

『GYAAAAAaaaaaaaaLLAaaaaaaaa!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………へぇ〜。このボクに角も出して6本足になって威嚇するって、つまり喧嘩売ってるって事だよね?

 いいよ。相手してあげる。それに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───君ノ手ト喉カラ、トッテモ美味シソウナ匂イガスルノ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひたすら引き金を引き続ける。

 

 

 指に力を入れる度に聞こえる絶命の音。高級耳栓があればこの音すら聞こえないのだろうか。

 

 

 ご飯を食べるというのは命を貰うということ。それは動物でも植物でも同じ。違いは貰う時にこの悲鳴が出るか出ないか。ただそれだけ。けれどそれ程。

 

 

 今回のターゲットは原生林に生息する『垂皮竜<ズワロポス>』。わんちゃんみたいな顔に緑の大きな体。基本的に動かないしこっちに襲ってくることも無い。……ガンナーの練習には丁度いい役らしい。

 

 

 料理長ちゃんからズワロポスのお肉が欲しいから狩って来て欲しい。そんな食料調達が目的のクエストだけど…それは建前。本当はウチにガンナーとして、ハンターとして、命を狩り取るという行為をする為に銃の扱いを実践で覚えさせようという内容。

 

 

「この子達はあくまで私たちが生きる為に。だから気にしなくていいわ……なんて事言わないわ。まだ抵抗があるなら村に戻って的を相手にしましょう」

 

 

 後ろで見守ってくれてる師匠が言う。

 その言葉はウチの慰めになる言葉。けれどひねくれ者で、小心者なウチには別の意味に取ってしまう。

 

 

『フフ…貴女ってハンターには向いてないわね。料理長ちゃん待たせてるからもういいわ、私がやっておくわ。まだ貴女に実践は早すぎたね』

 

 

 ありもしない幻聴が目指すべき人を汚す。

 指の震えが止まらない。例えこれが食料調達がメインだとしても、影にある存在が罪悪感として現れてウチの心をジワジワと蝕む。

 

 

(「ぅぁ…ぁぁあ…」)

 

 

 黒い存在がウチを囲ってフォークダンスを踊る。その輪は徐々に狭まりいつしか飲み込み、染め上げようとしていた。

 

 嫌だ。嫌だ。こっちへ来るな。

 

 必死に黒い存在に引き金を弾く。

 被弾した黒い存在はシャボン玉の様に弾け、消えてしまった。

 

『人なら撃てる?』『人なら殺せる?』『人だから殺した?』『自分の方が強いから殺した?』『ならなら、これならどうかな?』

 

 

 奴らは自らの輪郭を崩し、周りの同種と合わさる。

 石油のような黒い水溜りはどんどん広がり、全員が混ぜ合わさったところで形を作る。

 

 大きな翼。鋭い爪。強靭な足に、全てを薙ぎ倒す尻尾。そして凛々しい甲殻。

 

 

(「あぁああぁ…」)

 

 

 雌火竜<リオレイア>。またの名を『陸の女王』。その姿となってウチの前に現れた。

 

 

 

(ぃ、いゃ…ゃめて)ゃめて…ぃやぁぁああぁぁあァ!!!」

 

 

 

 幻想に向けて銃を手に取り引き金を引く。

 

 撃っても撃っても。どんなに撃ち続けても陸の女王の膝は折れず、幼児の戯れを受けているかのようにニタニタと笑い続けるだけ。

 

 

 いや!いや!来ないで!!やめて!!

 

 

 命を奪う動作になんの礼節さも持たず、その1回1回に自らの悲痛な叫びを込め、自己を満たすだけにその行為を行う。

 4発撃ち終われば無意識のうちにリロード。

 

 今日この瞬間。銃を持った人間が何故あんなにも簡単に人を殺してしまうのかがわかった気がする。……いや、これはわかった気がするだけで本質は間違ってる筈。そうだと信じたい。

 

 

「ちーちゃん。それ以上やったら美味しいところ飛んでいっちゃうわ。もう大丈夫よ」

「はぁ…はぁ…」

 

 

 ガンナーさんがウチの肩に手を乗せ、止めをかける。

 その手の温もりがウチを現実へと引き戻し、心を落ち着かせる。目の前にあるのは黒い存在でも陸の女王でもない。赤い命の生命線が体外へと流れてしまって横たわっているズワロポスだけだった。

 

 弾の数を確認する。………7発減っていた。このエリアに居たのは4体。つまり一撃で仕留めた個体がいるという事実。

 

 

 

 

 

…………ウチが殺した。奪ってしまった。

 

 

 まだこの原生林で楽しく水浴びや散歩を楽しむ未来があった。

 周辺の村に何か迷惑をかけたわけでもない。食物連鎖の上位に位置するといだけでこの子達の脳天を撃ち抜いた。

 

『何を今更。現実世界でも人間は同じ事をやってたじゃないか。

 家畜を孕まし、出産させ、生まれたら母親と子をすぐに離し、早く大きくなるよう育てる。そして殺し、出荷する』

 

 誰かがウチの心で囁いた。

 

 確かにそうだ。それは当たり前だった。

 スーパーに並ぶ肉を、どれが安いか、どっちがお得か。そんな気持ちだけで手に取り、たまに食べきれず捨てる。

 ただ商品棚に並んでるの買い物かごに入れるだけ。そんな自分の手は汚してない様に見えるだけの場所で、綺麗な上辺だけを見ていた。

 

 生きる為には仕方ないとは言え、非人道的とも言える精肉システム。人間が行う畜産管理。命を頂くというのがどういうことか完全に忘れていた。

 

 昔はウチだって子供だった。無邪気に、なんの悪びれもなく道端で必死に生きる蟻を踏み潰したこともある。

 この世界に来てその行為がどれ程残酷だったかを知った。

 

 

 

 

 

 

 

───ウチはこのままハンターになれるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 あと何回この場所で気を失えばいいのだろうか。

 

 

 

 










ダメージ計算なんて野暮なことはしないでください(-∧-;)

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