モンスターが怖いから私はガンナー   作:友夏 柚子葉

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現状把握

 

 結論から言おうか。ウチはいつも通りの日常を終えて就寝し、夢を見たと思っていたが、それは現実で何故かモンハンの世界に入ってしまった。

 何を言ってるかわからないよね?ウチだって分からない。気がついたら我らの団のカッコイイおじ様の団長の腕の中に居たわけだからね。一瞬ドキッと心がときめいて、下腹部がキュンキュンしちゃったよ。まぁすぐ冷めちゃったけどね。取り敢えずどうしてこうなったかの経緯を再確認しよう。

 

今日?昨日?どっちでもいいけどさっきまでボクっ娘とこの世界の外側からこの世界の住人を操って発掘武器の最大値を求めていた。

 ↓

ボクっ娘が帰り、晩御飯シャワーなどを済ませてお布団へダイブ。

 ↓

夢を見る→最大値の大剣が目の前にあるも取れ無い上に進めないので戻る。

 ↓

何故か落ちた。

 ↓

何故かMH4(G)の世界に迷い込む。

 ↓

大海原に投げ出され、運良く我らの団に拾われる。

 ↑今ココ。

 

 色々とツッコミどころが多いがそれをしたところで現状が変わるわけでもないから一旦考察は胸にしまっておこう。

 

 ん?それはそうと今ウチは何してるか?それはね。毛布に包まって屋台の料理長のアイルーちゃんから貰った暖かい<塩ミルク>を飲んで体を温めてるよ?

 

 どうやら夢の段階で落ちたあと、あの<チコ村>に近い海域にドボンしたらしくてね、海にプカーって浮いてたら丁度ゴアマガラから逃げてきた我らの団に拾ってもらったらしいのよ。そこから団長に抱えられてたってわけらしい。それなりに長い時間海に浮いてらしくて体温も凄い下がってて大変だったとか。だって嵐だったもんね。アレで生きてたウチを凄く褒めてあげたい。

 

 ゲームではナグリ村でキャラバンを船に改造してもらってから大海原に出て、そこからごま油…じゃなくてゴアマガラと遭遇して何とかハンターさんが撃退しているうちに逃げ切ってこの遭難者が行き着くアイルー達と竜人族のお婆ちゃんだけが住むチコ村に辿り着いたってストーリーだったよね。

 

 そう言えばゴアマガラ撃退イベントでは<大海原>って名前のフィールドなんだけど、実はそこはそのイベント1回きりしか遊べない物凄く貴重なステージだったりする。乗っているのもジエン・モーランやダレン・モーランで使われる撃龍船じゃなくてしっかりとイサナ船だったね。違いは船頭の撃龍槍のスイッチの位置が違ったのかな?撃龍船は普通に斜面と言うか階段だけど、イサナ船は梯子を登らなければならなかった気が…まぁ後で見学させてもらおう。

 

 ホットな塩ミルクを飲み終えて「ご馳走様」と料理長へ一言。椅子から立ち上がり村を散歩しようとする。しかしそれは叶わず体が砂浜に崩れ落ちる。あ、今一時的な下半身不随なの忘れてた。どうやら長く続いた低音状態により神経が著しく衰弱して運動神経が軽く麻痺しているらしい。これは医学的にどうなのかと疑問に思うが、この世界は現実であって夢でもあるからアリなんだろう。ご都合主義万歳。

 

 幼児の様に必死に物に縋り、立ち上がろうとするも足が体を支えてくれない。仕方が無いので立つことは諦めて再び席に戻る。

 

 

「お嬢も大変ニャルな」

「まぁ生きてるだけマシって感じだよ」

「ム…。確かにその通りニャル。生きてる事だけでワタシ達は幸福を感じるのニャ。……だから今回の事は本当に残念ニャルな…」

「ん?料理長ちゃん何かあったの?そう言えばほかのキャラバンのみんなも何処か暗い顔だったけど」

「ん?そうかそうか。お嬢はワタシ達と出会ったばっかりだから何も知らないニャルか。今のキャラバンの面子はバルバレって街で団長に声をかけられて集まった仲ニャルよ」

 

 

 そうそう。今作の最初は撃龍船で団長と出会って、バルバレに居る鍛冶屋のお兄さんと看板娘ちゃんと合流してから話が進んでいたね。チュートリアルで肉焼きや調合を済ませて、そこから後々の仲間になる竜人商人のおじいちゃんや料理長の依頼を受けて仲間になってナグリ村へと出発したんだよね。そうそう。あとナグリ村で鍛冶屋の娘ちゃんが連れてってって駄々こねてパーティに加わったね。

 

 ちゃんと団長も鍛冶屋のお兄さん&娘っ子。賭け好き竜人商人料理長ペアも看板娘ちゃんも全員居る。しかし何故こんなにもお通夜ムードなんだろう?確かゲームではこんな珍しい村に辿り着けた事が幸運だとトレジャーハンターの団長は凄く喜んでいた筈だからこんな雰囲気にはなる筈が無いのだけど…。

 

 

「実はさっきこの船を謎の黒い竜に襲撃されたニャルよ。団長や看板娘はアレを<ゴアマガラ>」と呼んでたニャルな」

「ゴアマガラ…」

「それに我らの団の旦那(ハンター)が立ち向かったニャルよ」

「…あれ?そのハンターさんは今何処にいるの?」

「それがニャルな…ゴアマガラとの戦闘で命を落としてしまったニャルよ…」

「………え?」

 

 

 我らの団のハンターが…死んだ?え?どういう事?ハンターが死ぬ?いや…だって力尽きたらその力尽きたらハンターを回収するネコタク代として報酬金が1/3減ってBCに戻されてあと2回じゃないの?大海原の戦いだって一時撤退と言うことで船内に強制送還された筈。

 まさかクエスト失敗されずにダウン回数が4/3に突入してそのまま命を落とした?それとも大海原に投げ出されて命綱が切れて生死不明の行方不明になったとか?ウチには訳が分からない。

 

 

「途中までは順調だったニャルよ。あと少しで討伐…それが出来なくも撃退程度に持ち込めたはずニャ。本当にあと1歩のところだったニャルよ?けどその1歩の手前で…あの黒いヤツが変形したのニャ」

「変形?」

「元は四足歩行の丸い頭だったのが狂竜ウィルスと呼ばれる鱗粉を撒き散らしている内に肩の鉤爪が足となり6足歩行へ何もなかった頭には禍々しい角が生えてきたニャルよ」

 

 

 変形…狂竜化だって?どうだったかは分からない。ウチの場合は大剣で頭殴ってたら先頭に移動して撃龍槍当てたらすぐに撃退したからあまり情報は持っていないけど、確かあのイベントではゴアマガラは狂竜化はしなかったはず…なのに狂竜化した?そしてその戦いでハンターが死んだ?

 

 大海原撃退戦ではダウン回数3/3になるとナグリ村に戻された。しかし話を聞いている限りそんな事は無かったらしい。ゲームと話が異なっている。

 

 

「確かにニャルガクルガの様に怒れば尾棘が逆立ったり、放電する度に背中の蓄電殻に電気を蓄えるラギアクルス。自らの電気のボルテージを高め超帯電状態に変化するジンオウガ。粘液の反応速度を上げるブラキディオス。一定条件下で能力の長所を伸ばすモンスターは多く存在するニャルが、あの黒いヤツだけは他の奴と違って異質だったニャルよ。条件下かで変化することは変わり無いニャルけど」

「物知りだね料理長ちゃん」

「そりゃワタシは旅の途中で多くのハンターの旦那達に腕を奮ってきたニャル。お代の他にも旦那達が今までに狩ってきたモンスター達の特徴を己の武勇伝も混ぜながら語ってくれたニャルからな。……でも今回だけは今まで聞いてきた話よりも惨かったニャル」

 

 

 悲嘆の溜め息を吐き、たった一瞬に感じた数秒の出来事を話してくれた。

 

 

「さっきも言ったニャルが、序盤は本当に旦那が優勢だったニャルよ。ただ問題は変異してからだったニャ。大きな咆哮で怯んだ旦那を横に拡散するブレスで吹き飛ばし、受身を取った旦那をその禍々しい5本目の腕で鷲掴みにして締め上げてから船の帆柱に叩きつけて、落ちてきたところ6本目の腕の惨爪で首・胸部・腹部・足の四つに切り裂き分けたニャルよ…」

「うっぷ…!?」

 

 

 話を聞いただけで吐き気がこみ上げる。先程飲んだ塩ミルクが胃液と絡んで酸っぱい液体と化して喉を登り、口から出ようとする。

 想像しただけで先程まで感じなかった血の匂いが潮の香りと共に鼻の奥へ流れ込んで来た気がした。船の方を見たくはないが勝手に首がそちらの方へ向き、ついさっきまでばら撒かれていた臓物や無表情の生首達を録画したビデオの映像を見ているようにそこにあると現像させる。

 

 ウチは至って普通の家庭で生まれ育った身。畜産農家の娘でなければ肉屋の娘でもない。学校の職業見学で屠畜場(とちくじょう)に行ったわけでもない。生き物の臓物を目にしたのはテレビでやる医療ドラマかスーパーで買った鮮魚を卸す時にお腹を裂いて中を出した程度。

 

 確かに魚も立派な生き物だ。けれど魚の臓物程度で吐き気を催したりグロイと思った事はそこまで無い。同じ臓物ではあるが魚と地上で生きる家畜や人間のとは大きく見方が違う。

 

 

「ほら少しぬるいお湯ニャルよ。さっきホット塩ミルク飲んだばっかりニャルからいきなり冷たいものを入れるとお腹下すニャルよ」

「…ありがと料理長ちゃん。大体の事は分かったよ」

「ところでお嬢は何処の生まれニャルか?」

「ウチの生まれ?」

 

 

 ウチの生まれは日本の埼玉の…ってそんな国や地方は無いのか。だとすれば何処にしようか?この世界の住人となった今、元いた世界の国籍などは通用しない。さて…どこの村がいいか?うーん…。

 ……いや、特段悩む事でも無かったね。ウチが生まれたのは…。

 

 

「ウチはポッケ村って言う北の山の麓にある小さな村が生まれだよ。実はウチもハンターやってたの」

「ポッケ村ニャルか。確かポポノタンやホワイトレバー、ドドブラリンゴが名産だったニャルな」

「流石料理長ちゃん食材については物知りだね」

「ニャハハ。料理人とはまず食材を知らなければいけないニャルからな。食通になるのは道理ニャルよ」

 

 

 なるほど。確かにそうかも。

 というかウチもうドドブラリンゴどこで取れたか覚えてないんだけど。トレジャーとかあのボクっ娘と金冠高得点取って以来全くやってなかったからね。それに何年前の話って感じ。もう覚えてないよ。しかしまぁ…ウチもなんやかんやでP2ndGが良かったと思う懐古厨だ。今に生きる人から見れば文句の付けようのない<懐古虫:ドス・セカジー>なんて呼ばれる害悪モンスターなんだろう。どう呼ばれようと気にはしないけどね。

 

 それと別に今のモンハンが嫌いってわけでもないんだよね。それぞれのシリーズで思い出があるからこそ、どのシリーズが一番面白かったかと順位付けしたくなるのも人間の性ってやつだよ。

 

 

「ふぅ…悲惨な現実を見つめ続けてうだうだ止まってるわけにもいかないね」

「ム?お嬢はこれからどうすニャルか?」

「ちょっと散歩しようかなー?ってね。だーんちょーさーん!!」

「ん?どうしたちびっ子」

「抱っこして。そして散歩に連れてって。それとウチはちびっ子じゃない」

「そうかそうか!それなら他の皆が呼ぶように俺もお嬢と呼ぶか。はっはっは」

 

 

 腕を広げて団長さんに抱っこを要求する自分。これを第三者から見たら父親に甘えたい娘にしか見えないだろう。料理長ちゃんもいきなりの事でその細い目を丸くしていた。

 

 いやーウチも分かる。誰でも思う。こんな容姿でこんな言動をしている女の子を小さい子扱いするなと言われても困る事を。でも初めて会う気のいい優しいオジサマにはこう強請る事が一番効果的なのだから。こんないい手段があるのに使わないテはない。

 

 

 案の定団長さんはウチを娘か孫と錯覚したかのように持ち上げて「高い高ーい」からのぐるぐる回って肩車。こんな事15年前にお父さんにやってもらったのが最後だった事を思い出す。子供扱いされて腹立たしいのと久々の肩車にとても嬉しいというか楽しいというか…とにかくハッピーな気分で満たされた。

 

 

「さて、お前さんはどこを探検したい?」

「探検じゃなくて散歩!」

「どっちも大して変わらないと思うなァ」

「言葉のニュアンスだよ」

「そうか!よし、どこから行こうか」

「じゃあまず船みたいな」

 

 

 幼く見える少女を肩車したオジサマの上でその少女がテシテシと目の前の頭を叩きながら進行方向を指さしている。…やばい。これは本格的に父と娘だ。いや待ってほしい聞いて欲しい。ゲーム画面越しだとさほど感じられないけど、この世界で直接会ったら君たちもわかるはず。この人の父性とダンディさは人を駄目にと言うか幼くする!甘えたくなるの!

 

 ということでまずはイサナ船の見学。とにかくゲームのまんまだった。船尾の方に大砲の弾があったり、船頭に行くための梯子があってて撃龍槍のスイッチがあった。船内は5部屋に分かれてて団長さんの説明曰く2人1部屋らしい。団長さんと鍛冶屋のお兄さん・看板娘ちゃんと鍛冶屋の娘ちゃん・商人おじいちゃんと料理長ちゃん。そしてクエストで使われるベースキャンプ。空き部屋ひとつ。……ちゃんと帆柱にはどす黒い赤と鋭い刃物で斬られたような三本傷があった。

 

 あとはチコ村の村長のおばあちゃんともお話したよ。ウチはどこか昔のおばあちゃんと似てるらしい。商人に向いてるのかな?それと白い臆病なアイルーちゃんとおしゃべりしたかった。けど団長さんの髭が怖いのか逃げちゃった。団長さんは「また臆病ネコ三郎に逃げられたなァ。怖いのか?ヒゲ」ととても落ち込んでいた。

 

 そうそうおばあちゃんのダンナさんは遭難して行方不明安否不明でおばあちゃんは今でもどうなってるか心配らしいけど4Gのイベントクエストで生きてる事がほぼ確定になったんだよね。なんてクエスト名だったかな?確か「朝にナントカコントカ覇を向かおうとも」みたいな名前だったはず。クエスト名なんて村最終とかぐらいしか覚えてないよ。…まぁこの情報を教えるかどうか悩むところだけど、今はやめておこう。あのアカムさんを狩ってから伝えるのが一番いいタイミングだろうね。

 

 その後はぽかぽか村に行った。管理人ちゃんアイルーとガールズトークで盛り上がったという事実だけをここに残しておく。

 

 

「ところで団長さん、筆頭オトモちゃんはいずこへ?」

「ん?あぁアイツならこの村の近くにある原生林に気を紛らせに行ってるぞ。折角新しい気に入った主人を見つけたのになァ。会ったら良くしてくれ」

「そっかー。そうだよね」

「ウム。よろしく頼むぞお嬢。さて、他にどこか行きたい場所はあるか?」

 

 

 他に行きたいところ…特に無いかな。あとは加工屋のお兄さんと娘ちゃんとおしゃべりしようかな?

 

 ------いや違うよね。この世界に入っちゃったんだからやる事はただ一つ。Let's Hunting(モンスター狩猟)!…と言いたいところだけど、今の体じゃ何も出来ないね。下半身動かないし。じゃあ何をしようかな?うん考えなくてもいい事だった。

 

 

「団長さんこの後暇?」

「お嬢とゆっくり話す時間ぐらいはあるぞ」

「…リハビリ」

「ん?」

「私の下半身が機能する訓練に付き合ってくれないかな?」

 

 

 そう。まずは動けるようにしなくちゃ。


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