モンスターが怖いから私はガンナー   作:友夏 柚子葉

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最大値

 

 

 試験前でもない。バイトもない。学校もない。やる事があるとするなら、いかに充実した睡眠時間を確保して、昼過ぎに目を覚し、自然に目が覚めれば二度寝したいと願う頭の欲求に逆らって3DSに手を伸ばしモンハンを布団の中でするという日常を楽しむ使命だけ。オールフリーな休日って凄くいいよね。ビールは飲まないよ?

 3DSの電源を押して起動待つ。その間に現在の時刻を確認するためにスマホを手に取る。時刻は14:23。とてもいい時間。時刻の下には寝ている間に溜まった通知の数々が表示されてる。今日の天気や漫画アプリの更新。青い鳥のSNSの通知。そして緑の吹き出しのメールアプリ。所謂LIN〇。ズラーっと下に同じ送り主からのメッセージが羅列している。

 

 

『起きてるー?モンハンしよ?(05:34)』

『ねぇねぇ~起きてるんでしょー?140ラーラー行こうよ~(05:37)』

『1054素むらs3睡眠虫棒取りにいこ~。1728も出るまで付き合うからさ~(05:42)』

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『起きてないんだ…まぁいいや!もう時間だからまた後でね!(07:57)』

 

 

 5分置きにLIN〇を寄越すとは貴女はメリーさんか!?

 大体貴方ならウチの生活習慣と睡眠時間把握してるよね?それに虫棒と大剣じゃグループ違うから2倍あのゴリラ達と対面しなきゃいけないじゃない!もう4桁後半超えてるのにゴール品が出ないとか、もはや作業の領域になっている今、そんなウチにはモチベはない。

 

 そもそも何故貴女はそんなに早起きなの?ラジオ体操すら始まってないよ?あ…今日仮面ラ〇ダーの日だから早起きなのね…それによく見ると放送時間3分前で通知が切れている。視聴した後すぐ寝たんだと思うけど…。子供かな?

 さて、取り敢えず相方に「起きた」とだけ連絡をして…と。そうしたらきっとインターホンを押しに来るはず。

 

 3DSが立ち上がりモンハンを開始する。

 大剣は良いよね。重い一撃。火力。行動を予測して溜めを置く。火力。圧倒的パワー。火力。

 

 P3rdぐらいからだったかな?モンスター達のモンスター達によるモンスター達の為の振り向きが少なくなったのって。

 

突進攻撃をした後は『頭に3溜めを入れてくださいご主人様!』なんて言わんばかりに可愛らしく無防備に振り向いてくれていたあの頃。それが消えちゃったのは。

 だからといって、弱くなったわけじゃ無いんだよね。大剣って振り向きだけじゃないし。

 

何度シリーズを重ねても、その圧倒的火力は健在。動きが遅いって点に目を瞑ればシンプルで扱いやすくて強い。流石にハメとかはヘビィやライトに劣っちゃうけど、それは住む世界が違うから大した問題じゃない。それにクシャのような頭を殴ればダウンが取れるモンスターでは大剣4でダウンハメが出来たりするからね。ただの案山子ですなwwwって感じになっちゃう。

 

 

 

「ふふっ…納刀集中抜刀会心は大正義なのよ!」

「そうだねー。ボクの睡眠と合わせれば寝起きドッキリ溜9だもんねー」

「ヒィィィイイキキィイャヤァァァアア!!!??」

「アヴベェ!?」

 

 

 

 いつの間にかウチの布団に入り込んで隣に居たボクっ娘に憎しみを込めた朝の挨拶に頭突きする。ゴチンッ☆といい音が鳴った。

『Nooooooo!!』と頭を抱えて右へ左へ寝返りを打ちながら悶えている。あまりにもうるさいので布団からの脱出を試みた。

 しかし逃がしてくれない。足を掴まれちゃった!そのままダラ・アマデュラのように足から腰へと体を巻き付けながら登ってきて、終いにはあろう事かウチが押し倒されちゃった。そしてその手は何故か上半身の服の中へ。

 

 

 

「うぅっ…痛いよちーちゃん。脳震盪で倒れたらどうす───むふふ。相変わらずちーちゃんのまな板は薄っぺらいねー。ブラ浮いてこなブベラッ!?」

「う、うるさい!触るな変態!勝手に入ってくるな変態!ブラなんて浮いてこないもん!!女の子の魅力は家事スキルであってお胸じゃないんだから!!」

「流石…ちーちゃんの…石…あた……ま。石だけに…」

 

 

 

 再度頭突き。訳の分からない事を言いながら変態は地に沈んだ。この犯罪者を警察に突き出せばいくら報酬金が貰えるかな?……え?1銭たりとも貰えない?なら裁判かけて不法侵入と強制わいせつと名誉毀損で訴える。それも出来ないならスタンを取れている今この瞬間をチャンスと見て財布から迷惑料を抜き取……4円!?うまい棒どころか5円チョコすら買えないじゃない!イケメン英世さんも、美女一葉さんも、愛しの人諭吉大先生も居ない。なんと…なんと憐れな人なんだろう。

 

 

「ねぇねぇちーちゃん今から朝ごはんでしょ?ボク今日からガスも水道も止められててお湯も沸かせられないの。ここは1つ腹ペコなボクと一緒に円卓を囲まないかい?」

 

 

携帯の充電や仮面ライダーの視聴、3DSの充電ができてる辺り電気代だけはちゃんと払ってるらしい。流石ウチをモンハンに引き摺り込んだゲーマー。

 

 

「はぁ…また止められてんの?それとちーちゃん言うな。ラーメンでいい?というかラーメンしかない」

「塩がいいな!」

「残念ウチは味噌しか食べないから他はない」

「塩を置いてないとは…ちーちゃんの鬼!悪魔!貧に」

「何を言ったかは聞こえなかったけど…次は本気で目狙うわよ?」

「さ、サーイエッサー!」

 

 

 後ろから抱きつき、ふくよかなその腹立たしいモノを自慢するようにウチの背中に押し付けながら何か言いかけたけど、ウチには聞こえなかった。

 ただ確実なのは、このウチにシャープペンシルのキャップ側を壁に投げ付け、反動で跳ね返ってきたのを相手の目にスナイプさせるだけの事をあの畜生ボクっ娘は言いかけたのだろうね。

 

 さて紹介が遅れたけど、このたゆんたゆんな魅惑のボディをした変態ボクっ娘が早朝から5分置きにLIN○を送り続けた仮面ライダーメリーさん。幼馴染みで狩友でウチの数少ない友達。ピッキングに何故か長けてて、よくウチの家の錠を外して入ってくる。プライバシーの欠片もウチには無い。

 

 取り敢えずモンハンは起動したものの、お腹がすいた上にこの変態が来た所為で狩りをする気にはなれなかった。ネギ・キャベツを刻みモヤシと一緒に炒める。炒め終わったら台所の棚からインスタントラーメンを2袋取り出し沸騰したお湯に入れる。後は盛り付けて食べるだけ。

 狭い居間ではウチの布団を畳んで卓袱台を取り出し布巾で拭いていたボクっ娘の姿があった。やっぱり塩ラーメンじゃないのが気に食わないのか不貞腐れながら準備している。けど空腹にスープ程度では変えられなかったらしいね。

 

 

 

「う〜んんん!やっぱりちーちゃんの作るラーメンは美味しいね!」

「インスタントなんだから誰が作っても同じでしょ。それとちーちゃん呼ばないで」

「えぇー?なんでそんな事言うの?いい呼び方なのに…ショボン↓↓」

「ショボン↓↓…じゃないでしょ!?身長があまりにも小さいからちーちゃんってウチそんな不敬極まりない渾名(あだな)は嫌!」

「小さいのは身長だけじゃなくておむn…あっー!あぁっー!!待って!ごめんボクが悪かったからラーメン取らないで!取り上げないで!!」

 

 

 

 ウチの身長は140以上150未満と、いくら女の子とは言えど19歳のピチピチ大学生にしては小さすぎるサイズ。140cm代というのは日本人小学校高学年女子の平均身長と同じ値。いくら経っても小さいままなので周りから『ちびっ子ちゃん』略して『ちーちゃん』と呼ばれ始め、いつの間にか定着してる。決して千尋・千秋・百地のように名前に『ち』が入ってるからちーちゃんと呼ばれてるわけじゃないのに…。寧ろ苗字にも名前にも『ち』なんて一文字も入ってない!

 

 だけどこんな憎たらしく肉々しい身体を持つ幼馴染みとギャーギャー騒ぎながらグータラと過ごす。コンプレックスを常に逆撫でされながらも、この1日はウチにとってもとても楽しい日常だ。

 

 

 

 それから2人とも食べ終わって、昨日の晩御飯に使った食器を合わせて昼ご飯の丼ぶりを鼻歌を歌いながら洗う。鼻歌はモンハンのオープニングやラスボスとの最終決戦で良く流れている<英雄の証>。

P2ndG時代にラオシャンロンに竜撃槍を当てたら流れ始める曲だけど……この曲を聴くためだけにラオシャンロンに挑んで、見事流れる前にロマンの竜撃槍フィニッシュを決めて涙を流した狩人がウチ以外にも何人か居るはず。

 

 

「ふんふふふーん♪ふふふんふんふーんふふふんふん♪」

「ねぇねぇちーちゃん!」

「キャァァァアァァアァ!!??」

「グフゥッ!?」

「ァァアア、あっ、ごごごめん!」

「……ふふっ。相変わらずちーちゃん良い蹴りするね…」

 

 

 気持ちよく英雄の証を奏でながら食器洗いをしていたところ、後ろから音もなく近づき話しかけてきた。驚いてしまったウチは条件反射で後ろ蹴りをボクっ娘のお腹に入れちゃう。流石に悪いとは思うけど、英雄の証と皿洗いに集中してる中足音も立てずに後ろからいきなり話しかけるボクっ娘にも責任があるって言いたい。

 丁度全部スポンジで洗い終わったので泡を水で流して籠の中に置き、それから漸くボクっ娘の心配をする。

 

 

 

「だ、大丈夫?」

「酷いよちーちゃん!いくらボクとは言え女の子の大切な所(下腹部)にキック入れて…」

「そ、そうだね。子供産めなくな…」

「──子供出来ちゃったらどうするのさ!お詫びとしてちーちゃんの慎ましいお胸に」

 

 

 

 ゴチンッ☆

 子供が出来たらの部分で心配したウチが馬鹿だと思い、襲ってきた所に頭突きをして沈静化。これで貞操と暫くの静寂が守られた。

 

 ふわぁぁぁ…と欠伸をして時間を確認するともう15:04。起きてから30経っていた。卓袱台を片付けて布団を敷き直す。そして布団に入り、モンハンをする。

 

 

「140はラーラーか右ラーどっちがいいかな?」

「復活早いね。ゴリラはもう当分いいから右ラーかイビル行こ」

「抱き合わせは?」

「黒ティガ以外ならなんでもいいよ。あの子苦手」

「はいはーい。お隣失礼するよ」

「邪魔よ。貴女用の椅子そこにあるじゃない」

 

 

 

 そうウチが指差す先にはこんな狭っ苦しいボロアパートの1室には不釣合な、リサイクルショップで購入したそれなりに豪華な1人がけのソファが置いてある。この12畳の部屋が狭く感じるのもそのソファの所為だったりする。自分も座るけど、元はボクっ娘がウチの部屋にいる時に座る為の椅子が欲しいって言い出したから、割り勘で出して買った物。しかし買ったは良いものの座ろうとしてくれない。何でだろ?

 

 

 

「だってあそこはちーちゃん抱っこしながら座るところだもん」

「ウチをテディベア扱いするなー!」

「そうそう。さっき聞きそびれたんだけどさー。あ、ラージャン寝たね。極限解けてなくて怒ってもないからボク右側にしびれ罠置くよ。落とし穴よろしくぅ〜」

「ん?了解。ところで聞きたい事って何?1…2…3!」

 

 

 

 抗竜石【心撃】【属撃】を付けたボクっ娘が怒らせる前に極限化ラージャンを眠らせることに成功。ウチは怪力の丸薬を飲み、抗竜石は【剛撃】だけを付けて睡眠3倍溜3を頭に叩き込む。すると起きるのと同時に極限化が解け、確定でハンターから見て右側に大きく転ぶ。そしてその先にはボクっ娘が置いたしびれ罠。

 

 

 すぐに納刀して頭に向けて抜刀溜3。また納刀。抜刀溜3。またまた納刀。抜刀溜3。そして薙ぎ払い。それが済むとしびれ罠の拘束が解ける。そして解けたと同時にラージャンの怒りがMAXになり怒髪天を衝く。怒った瞬間のラージャンの次の行動は確定バックステップ。そしてそして、そのバックステップ先には…ウチが仕掛けた落とし穴。再び納刀集中抜刀会心の餌食になるラージャン。

 

 

 ボクっ娘が攻撃をやめている。それを確認したウチは最後の溜3と薙ぎ払いをして攻撃をやめた。すると落とし穴からラージャンが抜け出し、天に飛び、着地して…寝た。ボクっ娘による2回目の睡眠。

 

「あのね、もしもモンハンの世界に入ったらどうする?って聞きたかったんだよ」

「ん?VRによる仮想世界へのフルダイブでモンハンの世界に行けたらってこと?まぁウチは変わらず大剣使うかな?」

 

 怪力の丸薬を飲み、再び頭に睡眠3倍溜3を叩き込む。ついでに使用武器は<角王剣アーティラート>の極限化【攻撃】。ゴール品が出ずにお世話になった人も多いんじゃないかな?会心率は-20%だけど、抜刀会心を前にすればそんなものは然程問題じゃない。確定会心じゃなくなるけど、8割もあれば充分なんだよね。

 

 

「そうじゃなくてね、ここの世界ハンター大きいから分かりづらいかもしれないけどドスランポスの平均が7mだからね?レックウザと同じサイズだよ?」

「え?逆にレックウザって7mしかなかったの!?そっちの方が驚き」

「そんな大きいモンスターが目の前に出てきたら臆病でビビリでチキンな小心者のちーちゃんが戦えるかなー?って」

「そんなラオシャンロンだろうと糞蟹だろうとウカアカだろうとミラだろうとウチの手にかかれば余裕よ。寧ろ一方的にボコボコにするわ」

「イキリオタクだねー。あ、【心撃】回復したから極限化戻るよぉ〜」

 

 

 

 ボクっ娘の言う通り再度極限化したラージャンを前にしてウチは使ってなかった抗竜石【心撃】を使い、極限肉質に刃を通せるようにする。本当にこのクソ肉質を考えた人に私は小キックハメしてから昇竜拳をお見舞いしてやりたい。そして担当者を天井に突き刺し、社長も辞めさせ、代わりにウチがその椅子に座って次回作を歴代最高傑作にして見せよう!

 

 

 ……にしてもなんなのこのゲーム。ローカル通信なのに前に飛んでいったはずの飛鳥文化アタックが後ろから飛んできたよ?その内クエスト出発時に一部メンバーを置いて出発する置いてけぼりバグでも起こりそうだね。

 

 

 

 

「あぁーん!もぅ、また準最大だ!なんでこんなにボクの元へ最高の睡眠棒が来てくれないの!?」

「物欲センサー先輩働きすぎだよね。そろそろウチに1728大剣を担がせてほしい」

「最大値来ても切れ味がねー」

「武器スロに強欲珠とか着いてたら捨てたくなる。刀匠なら最高」

「………別に睡眠虫棒なら今使ってるナイトメアの方がいいんじゃない?睡眠値高いし」

「なにそれ!!それならちーちゃんもアーティのままでいいじゃん!!」

「大剣は別なのー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁこんな今日も他愛もない話をしながら140を周り、ゴール品が出ずにお開き。晩ご飯は適当に済ませてご就寝。ラーラーをひとりでやってもいいんだけどかなりめんどくさいから野良でも入ろうかと思ったけど、色々と気が進まずセーブして終了。電源をしっかり切って充電器に差し込み部屋の電気を消す。

 

 

 なんなら変わりない一日の終わり方。こうして瞳を閉じて眠りにつき、次目を覚ました時にはまたもポカポカ気持ちの良い日差しが一番高い位置から差し込む時間になる。

 ……にしても本当に出ない。出なさすぎない?こうなれば夢の中ででもいいから1度でも1728刀匠素村大剣を担いでみたい。そんな夢のような事を思いながら意識を手放していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───白い靄の中。その大事何かを手に取ろうとして手を伸ばす。だけど届かない。追っても追っても届かない。常に同じ距離が保たれている。

 

 そもそもウチは何を目指して走っているの?いや、そんな事よりもここは何処?夢の中?右手を動かそうと思えば動かせれる。歩こうと思えば歩ける。けど現実っぽくない。だとすると明晰夢の中に入り込んじゃったのかな。

 

 明晰夢だと分かったけど、どうすればいいか分からない。前に進んだところで進んでる気がしない。ならば後ろに戻ってみよう。

 やることが決まった。ならば次は行動に移すのみ。回れ右をして一歩踏み出そう。

 よし、踏み出せた!そして落ちた!…ん?落ちた?

 

 

『寒いほどの突風。下から上へ突き抜ける圧力。何故かうつ伏せの体勢のウチ…完璧に落チテルゥゥゥゥゥ!!??』

 

 

 

 ヤバイヤバイヤバイ!パラシュート!パラシュー…無い!?そりゃ着けた記憶が無いんだから着いてないよね!?けどこのままじゃ地面に叩きつけられてザクロにな------。

 突然の落下とその恐怖からウチは意識を手放してしまった。

 

 そして目が覚めると………見覚えのあるオレンジ色の帽子をかぶった白髪白髭のおじ様に抱っこされていた。……あなたは…我らの団の団長?

 

「お?漸く起きたかちびっ子。体に痛みはあるか?」

「いっ…たい……」

 

 痛みを感じる…どうやら夢ではないようです。




今更になって4Gをやり直してます。
皆さんはどのシリーズの初期防具が好きですか?私は2ndのマフモフシリーズが一番思い出があり好きです。

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