春雪異変も終わり、宴会からも数日が経過した。時折誰か訪れることはあっても基本的に俺と霊夢だけの日常に戻ってきた。
朝起きて、ご飯作って、霊夢が起きてきたら朝ごはん食べて、洗濯して干して、境内の周りの掃除を霊夢に任しているうちに家の中を掃除して、昼ご飯の準備して食べて、食べ終わったら自由だ。買い物するなり、薪を作るなり、内職をするなりして、夕方まで過ごし、日が傾きかけたら夕飯の準備をして食べて、風呂に入って寝る。
そんな日々の中、今日は昼から買い物に出ることにした。藍が一緒に買い物に行こうと以前言っていたが、今回は予定が合わなかったようで本日は一人で人里に来ることになってしまった。おかげで雑魚妖怪(霊夢にとって)と生死を賭けた鬼ごっこををすることになってしまった。
必要な物を買い、時間もあるので人里の中を散策するついでに団子屋で団子を買って食べ歩きする。
どうやら最近は桜も満開になったことからあちこちで宴会の予定が組まれている。商魂逞しい店主たちは、宴会メニューをセットを販売していたり、別の店と提携して屋台を出していたりと、ちょっとした祭りのようになっている。
人里の平和を享受していると、後ろから女性に声をかけられた。聞き覚えのある大人の女性の声の正体は、寺子屋の教師、慧音先生だ。そのまま慧音先生に誘われ茶屋に入り饅頭と熱い緑茶を注文する。
「今回も無事異変を解決したようだな」
「どうも。全て恙なく終わることができましたよ、異変も宴も」
「それはよかった。だが今回の宴会は助っ人に私は呼ばれなかったが大丈夫だったのか?」
「その節はお世話になりました。今回は俺以外にも紅魔館のメイドさん、白玉楼主人の従者、八雲の妖獣、飛び込みで七色の魔法使いなんかも手伝っていただきました」
「ほう、人間だけでなく妖怪や魔法使いまでも手伝ってもらったのか。お前の友好関係も博麗の巫女同様に混沌としてきたな」
「やめてくださいよ。そもそも俺の親が誰か知ってるでしょ」
「それでもだよ。よくもまあ偏見も持たずそんなに多種族と接することができると感心しているんだ」
「もっと普通に人間とだけ友好関係を結べとは言わないんですね?」
「そりゃあそうさ。お前は自衛の手段を持ち合わせていない。昔は剣を習っていたようだが今は刀を差してすらいないし、そうなればお前を守るものなんて何もないに等しい。そこら辺の名もない妖怪に対してなら逃げ切ることができるだろうが、空を飛べる妖怪や多少でも強い妖怪に対しては逃げることもできず食われてその人生の幕を降ろすことになるぞ」
「ええ、わかっていますよ。でも家に引き籠っていては精神的に病んでしまいますから、ときには出ないと。もちろん安全には考慮していますよ。霊夢に外出の時にはお札を持たされてますし。しかも出回ってるやつ以上の効力の物を」
「ほう、それは知らなかったな」
そりゃあ、こんなもの出回っていては困る。人里で配っているものは墨に霊力を浸透させたものを使ったお札。俺のは霊夢の血を文字通り使ったお札。その効力の差は素人でも何となく理解できるだろう。普通のは妖怪除けくらいだが、俺のは俺に害を与える者から直接的に守護してくれるものだ。
「そりゃあ普通の人間には言いません。純粋な人間ではなく、そこらの妖怪なら倒せるできる人にしか言いませんよ。こんなものを普通の人間に知られたら量産させられる羽目になるし、そうなれば霊夢が確実に倒れる」
「なるほどな、そういう類のものか。了解した、口外しないよう注意しておこう」
「で、霊夢の俺に対する家族愛を知った慧音先生は俺に何か御用でしょうか?」
そもそも呼び止められ、あまつさえ茶屋に連れられた理由がわからない。
「ああ、そうだった。別にお前に説教したくて誘ったわけではないんだ」
「内密な話ですか?」
「ああ。と言ってもそこまで重要な話ではない。今度同窓会も兼ねて宴会を開くことになったんだがお前もどうかと思ってな」
「……もしかして俺に幹事させようとしてます?絶対嫌ですからね。この前も宴会したばかりでしばらくは嫌だと思ってるんですから」
「そうせくな。お前には私が連れてくる奴の相手をしていればいい」
「あーもしかしなくても妹紅さんですか」
「ああ、あいつにはもう少し人付き合いをさせたいんだ。酒も入れば人は大らかになるからな。私の教え子ならそこまで心配しなくていいだろう」
「いやいや無理でしょ。そもそも妹紅さん参加しませんよ。宴会の席に慧音先生が行ってもついてくるほど、四六時中一緒じゃないでしょうに。教え子も全員が全員いいやつじゃないんですから」
「もちろんわかっているさ。だが私の教え子はある程度事情を理解してくれるさ、そもそも年の取り方がおかしいやつがここに一人いるんだ。妹紅を邪険に扱ったりしないはずさ。それにここだけの話、妹紅は男連中には結構人気なんだ。生徒の中にも初恋の人は妹紅だったと笑って明かす奴もいたからな」
「え、それ本当ですか?」
「もともとの身分が高かったからな。所作がところどころきれいだし、顔も美人だろう?それに子どもは幼ければ幼いほど内心を見透かす。悪人でないと分かれば、外見なんか気にせず接していたぞ」
マジか。意外と妹紅って子どもから好かれてたのか。外見が外見だし気味悪がられてるのかと思った。
「ああ、でも納得ですね。慧音先生の所に子どもを預けるくらい信頼してるんですから、その親が外見で人を判断するような人ではないのは確かですね。慧音先生も似たようなもんだし。じゃあ、なんです?妹紅さんの人付き合いできないのって、本人が自分は嫌われているっていう思い込みから来てる感じですか?」
「その通りだ」
「で、その問題の解決のために宴会に連れて行って、俺と飲ませて、あわよくば酔ったほかのやつから声をかけてくれないかな、という思惑ですか?」
「思惑、と言われると悪だくみしているかのように聞こえるが、概ねその通りだ。で、頼めるか?」
「確認ですけど、俺は妹紅さんと一緒に飲み食いしてるだけでいいんですよね?飯作ったり、酒を運んだりしなくていいんですよね?気楽にしてていいんですよね?」
「ああ、基本的には妹紅と一緒にいてくれると嬉しいが、他の人と多少一緒にいてくれても問題ない」
「分かりました。じゃあその話乗りましょう」
「見返りはどうする?何か欲しい物はあるか?」
「いりませんよ。慧音先生にはお世話になっていますし、むしろ俺が今まで受けた恩をお返ししているとでも思ってください」
「そう言ってくれると教師冥利に尽きるな。ありがとう」
「いえいえ。で、いつ開催予定ですか?というか幹事は誰なんです?」
「私だ」
「ということは、参加者って結構幅広く集めるつもりです?」
「もちろん、人里の古株の年配になった子たちや最近酒が飲めるようになった子たちも集めるつもりだ」
じゃあもしかして結構な大人数になるのでは?この人里で慧音先生の寺子屋に通っていなかった人物はそこまでいない。通っていなかったとしても何かしらの関りを持っている人物がほとんどだ。もしかしたら稗田家や霧雨家の当主たちも来るかもしれないな。となると多少堅苦しくなるかもしれないが、段取りの心配はほとんどないだろう。もちろん慧音先生だけでもちゃんとした段取りができると思うが、大きな家であれば何かしらの手伝いはしてくれるだろう。人手も助言も大きな家でなくても、慧音先生の人望なら進んでやる人間も多そうだ。
その後、宴会の日取りを聞いて家に帰った。霊夢と夕飯を食べながら今日あった出来事として宴会のことについて話すと、なんと霊夢も別の宴会に誘われているらしい。
「珍しいな。じゃあ宴会の日は神社に誰もいないのか」
「そうなるわね。まあ、問題ないでしょ。盗まれて困るようなものなんでそこまでないし、戸締りして結界でも貼っていれば万が一すらないでしょ」
「それもそうか。というか誰に誘われたんだ?」
「真っ赤な館の吸血鬼によ。来たのはあの従者だったけど」
「レミリアさんか。洋食中心だし、お酒も飲み慣れたものじゃないから、気をつけろよ」
「私は大丈夫だから。あんたは自分の心配でもしてなさいよ。というか行はいいにしても帰りはどうするのよ?酔っぱらって妖怪に食われるとかやめてよね」
「もちろんそこらへんには気を付けるよ。何なら里で一晩誰かの家に泊めてもらうのも手だし」
「それは駄目よ」
「は?なんでだよ」
「そうなったら次の日の朝ごはんがないじゃない」
「じゃあ、どうすんだよ。言っておくが俺だって何も気にせず酔いたいときはあるからな?」
「なら、私が迎えに行くわ。ついでに人里まで送ってあげる」
妹に迎えに来られるのか。なんとも微妙な気持ちにさせられるが、妥協点としては悪くないのか。行き帰りの安全は保障されるだろうし、人間だから人里の人間から必要以上に恐れられることもない。
ただ俺はこのとき完全に失念していた。
これから始まる地獄の日々を。
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