あの異変、紅霧異変の終結から束の間の休息を過ごした後、今日は宴会当日の朝。俺はあることに思い至った。
食材、酒類、並びに人員の3つが不足していることに。
前者2つは事前に用意しておけばよかった物だが、宴会なんてしたことがない俺には宴会で出すメニューすら考えておらず日頃から食べているメニューだけで考えていただけに食材の種類が不足していることにここに至ってやっと気づいたのだ。酒に関しては、俺は日頃飲まないし、霊夢も未成年ということであまり飲ませたことはないため、多人数で飲むには、備蓄量が足りない。
お酒については霊夢が「魔理沙は飲んでいるのに!」と怒ってくるが、よそはよそ、うちはうちだ。若いうちから酒を飲むには成長の観点からみても、健康上の観点からみてもあまりよろしくはない。魔理沙にも霊夢に影響を及ぼすからあまり飲んでほしくはないが、魔理沙の親父さんからは問題視されていないため、あまり強くは言えない。
そして最後の人員不足について。料理は作る相手が1人2人と増えたところで作る手間は変わらないが、これが十人とかになるとさすがに話が違う。まずは当たり前だが作る量が違う。それに使う時間が違う。大量の料理を俺1人で手掛けるノウハウは生憎と俺には備わっていない。さらに配膳作業のことを考えるとせめてもう1人は人員を確保しておきたい。妖忌の爺さんや妖夢がいれば一も二もなくお願いするのだが、二人とも今回の宴会メンバーでは俺以外の面識はないし、妖忌の爺さんは行方不明だし、そもそも白玉楼への連絡手段を俺は持ち合わせていない。では近場の人物ではどうだろうか。例えば霊夢や魔理沙は今回の異変解決の主役、事前の準備には少し手を借りるかもだが、宴会中は存分に楽しんでもらいたいため頼めない。人里の人間ではどうかというと、俺以外との面識はあるが、人妖入り乱れた宴会に来ても怖いだけだろう。妖怪では俺と面識があるやつといえば、パパラッチ烏こと射命丸文がいるが、俺はあいつのことが個人的に嫌いだから声をかけたくない。
しかし1人だけあてはある。俺以外とも面識があり、妖怪がいても怖がらない人物が。
「けぇぇぇぇぇぇぇね先生!!助けてえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
上白沢慧音先生、人里の顔役であり、妖怪とも渡り合える、ワーハクタクでもある人物。お人好しの性格であるため、助けを求める声を無碍にはしないだろう。
「慧音先生いる!?」
「ん?どうしたんだよ、こんな朝飯時に」
突然の訪問に応じてくれたのは、慧音先生の自宅であるにもかかわらず藤原妹紅だった。彼女は彼女自身の自宅があるのだが、慧音先生の家に滞在することも多いためそこまで不思議なことではない。彼女だけこの家にいることもあるくらいだ。防犯意識が低いともとれるが、互いの信頼関係の深さからの行動なのだと窺える。つまり妹紅がいるからといって慧音先生がいるとは限らない。
「妹紅さん、慧音先生いる!?」
「おいおい、『先生』は卒業したんじゃないのかよ?」
「私がどうした?」
家の奥から現れたのはかっぽう着姿の慧音先生だった。
「おはようございます慧音先生。実は折り入ってお願いしたいことがあって…………」
「また、料理を教えてほしいのか?」
「掻い摘んで説明すると、先日あった異変解決に際して、博麗神社で宴会を開くことにしたのですが、そこで出す料理を作る人を探しているんです」
「それで、私に助力を求めに来た、と」
「その通りです」
「その宴会ってのは何時やるんだよ?場合によっちゃ慧音にも予定あるし行けないだろ?」
「そうだな。日程によっては寺子屋があるし、その準備も必要だからな」
「宴会は今日です」
「「はい?」」
わお、息ぴったり。でもどんどん顔が険しくなっていくのを見ると、この後俺が怒られるのは確定事項みたいに感じるんだよな。不思議だなー?
「どういうことだよ!?」
「そうだぞ!?今週末とか明日明後日とかなら納得できるが、今日は急すぎるだろう!?」
「ひぃぃ!許してぇ!」
「だいたい何故当日になってそんなことをいうのだ!?こちらの予定もあるが、そっちの段取りもあるだろう?」
「そうですね……。すいません……」
いやあ、言い訳のしようがないですわ。だって当日になるまで忘れてたんだもん。もう謝るしかないね。
「それで慧音は手伝ってやるのか?」
「いや、授業の準備があるからな。無理だ」
「え?そんなあっさり……。もっとこう、あれはないんですか?執行猶予というか……」
「口をはさむ、か?もう一度言うが無理だ。こちらも皆から子どもを預かる身だ。妥協はできんさ」
「そこをなんとか!」
「ならば、今度の授業で白鹿、お前が教鞭をとれ。それで今回の件は帳消しにしてやろう」
「わかりました!それでは昼過ぎに博麗神社まで来てください!じゃあ、よろしくお願いします!!」
了承が得られたなら、申し訳ないがここにはもう用はない。次だ。
「あっ、おい待て!」
「詳しいことは神社でお話しするのでー!」
慧音先生の家を出て、通りを走る。
「おっちゃん!団子、超特急で慧音先生の家に持って行って!!」
「俺の扱いぞんざいすぎねえか!?」
「お願いね!」
旬物の野菜と肉を大量購入し来た道を戻る。走って戻るがこれでは博麗神社に昼前までに戻ることは難しいだろう。霊夢なら文字通りひとっ飛びでいけるんだろうけど、生憎俺は真人間だから飛べない。やはりもしかしたら足りなくなるかもと買った食材がネックだ。だが、まだ手段は残ってる。人里を出たところであらん限りの声で叫ぶ。
「ルーーーーミアァァァァァァ!!飯食わしてやっから荷物持ってぇぇぇ!」
「任された!」
飯に釣られた
「博麗神社まで連れてって!」
「
おかしいな、今回で宴会まで終わらせるはずだったのに……
感想、ご指摘いつもありがとうございます。
最近はやっと執筆意欲が復活してきました。
これからもよろしくお願いします。