霊夢のお兄ちゃんになったよ!   作:グリムヘンゼル

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お久しぶりですね……。
完全にリハビリです。


第30話

レミリアは、先程の弾幕ごっこの被害で、所々破けたり煤けたりしている薄桃色のドレスのままではあるが、彼女から溢れ出るカリスマ性や魔性ともとれる魅力は一片たりとも害われることはない。

 

「俺は俺で霊夢のため、博麗の神社のためにできることをするだけだ。たとえ平凡だろうと、その他大勢と変わらない、特殊な能力もない只人であっても、霊夢や神社のために物事を成すことに変わりない」

「あらそう?なら、その丈にあった行動をすることね」

「善処する。そろそろ博麗の者として、今後のことについて話し合いたいんだがいいか?」

「無粋ね。もう少しお喋りを楽しもうという気概はないのかしら。交渉したいのでしょう?ならせめてテーブルまでエスコートするのが男性としてのマナーではないかしら。それともマナーを知らないのかしら?」

「悪いが知らないね」

 

彼女が差し出した手を掴み強引に立ち上がらせテーブルまで誘導する。お世辞にも紳士的ではないが、相手は大物妖怪、俺程度の力で怪我するような柔な存在でもない。

椅子を引いてレミリアを座らせたら、俺も近くの椅子に座る。

 

「妥協点もあげられない程酷いエスコートね」

「流してくれ。こっちはそんな風習ないんだから。それより今後についてさっさと話つけるぞ」

「仕方ないわね」

 

ふう、とレミリアが溜息を吐くが、そうしたいのは俺も同じだ。この仕事がどうでもいいとは言わないが、さっさと終わらせて家に帰りたいんだから。

 

「まず、今回の異変についてなんだが、博麗側に直接的な被害はない。巫女の服が少し破損した程度だから、そこは許容しよう。だが博麗以外の者について。まだ調べた訳ではないが、この館から出ていた雲によって被害を受けた人に対する謝罪と治療を要求する。あの雲に有害な物が含まれていないなら話は別だが」

「それなら問題ないわ。あれはただ太陽を隠すために作ったもの、有害な物は含まれてないわ。もし体調を崩した人間がいるなら、その場合は謝罪も治療もきっちりさせてもらうわ」

 

こともなさげにさらりと快諾してくれたが、本当にいいんだろうか?

 

「それはありがたい。では人里関連でもう一つ尋ねたいんだが、今後食料品や日用品を入手するために人里に出入りすることがあるだろう。そこで敢えて質問させてもらうが、人里への出入りを希望するか?」

「そうしたいところだけど、たとえ一夜限りだとしても異変を起こした張本人たちがすぐに一般集落に行ってしまえば怯えられるかもしれないし、私もそんな厚顔無恥な行為はしたくないわ。幸い、この紅魔館にはある程度備蓄はあるのだしそれが消費され次第、そちらの人里に伺わせてもらうわ。ただし謝罪や治療が必要な場合はそちらを優先させてもらうけれど」

 

こちらの意見を尚も快諾するレミリアにある種の不信感を抱きながら、他に話す内容を考える。

 

「ああ、その人里の出入りについてだけど、私の妹であるフランドールは、私が許可を出すまでは出入りさせないようにしてほしいの。私の妹は姉の私が言うのもなんだけど強大な力を持ってるわ。その力のせいか性格が不安定で、外に出すには不安があるの。今までは周囲に被害が及ばないように、地下に閉じ込めておくことしかできなかったわ。だけどここなら武骨なハンターも追ってこないでしょうし、庭先くらいなら出しても問題ないでしょう。でもね、まだあの子は人間を見た経験すら殆どないのよ。人間の里で大勢の人間を見て、どんな行動をとるか簡単に想像できるわ」

 

確かフランドール・スカーレットというキャラクターはありとあらゆるものを破壊する程度の能力を持つ。強大な能力ゆえか、不安定な性格ゆえか、紅魔館の地下に閉じ込められ、紅魔郷以降は割と自由にあちこち出入りしている印象がある。

よくよく考えてみれば、幼少期に幽閉されれば能力の有無にかかわらず性格は歪んでしまうだろう。もし物心つく前に閉じ込められていたとすれば、社会に関わらず人と関わらず、常識を学ぶこともなく成長し、善悪の区別もままならないだろう。まともな人格形成の基礎となる時期は言わずもがな幼少期に重きを置いていることは容易に想像がつく。

 

そもそも妖怪は科学的意味では生物に分類されないため、人間の心理学や精神医学が当てはまらないのかもしれない。

 

妖怪とは、人間と同じように母親から生まれるだけではない。妖力や魔力といった力の吹き溜まりから発生することもある。だからレミリアが発生した場所から同じようにフランドールが発生し、それを姉妹と公言すればDNAなどで検査することもない妖怪社会では、公言するだけで親族となることは割と普通のことではある。

 

レミリアとフランドールは吸血鬼という共通点以外、似通っている部分を俺は知らない。

まずは容姿。顔の作りはまだフランドールの方をしっかりと見たことはないのではっきりとしたことは言えないが、姉妹で髪の色が違うのは血がつながっていないといえる原因の一つだ。

次に能力。レミリアが運命を操る能力でありながら、フランドールは破壊する能力だ。遺伝と能力の相関があるかはしっかりと証明はできないが、姉が運命を操るのなら、妹もそれに類するものであるほうが自然ではないだろうか。テンプレではあるが、血縁関係であるのなら全く反対の能力、例えば破壊と創造とかがあるだろう。だが、そういった関係の能力ですらない、運命と破壊。どういった関係性があるのかは俺は知らないしわからない。神主(ZUN氏)にでも聞けばわかるのだろうか。

 

「さっきから俺にとって都合がいいことしか言ってないが、本当にそれでいいのか?」

「私はこの紅魔館の主でフランの姉よ?立場に相応しいそれなりの対応が必要でしょう?誇りでフラン達の幸せが手に入るなら努力は惜しみはしないわ。最大の障害である太陽の排除は失敗してしまったけれど」

 

冗談交じりみたく笑っているが、彼女が本気で言っていることは知っている。でなければ異変なんて起こさないだろう。

 

「太陽がなくなったら人類滅びちゃうんでやめてください」

「しょうがないわね」

「食事はどうしてるんだ?見た感じ吸血鬼だろ?人間食わねえの?」

「食べれるけど、よく本人に聞けるわね。自分が食べられるとは思わないのかしら?」

「その時は逃げる。全力で逃げる。恥も外聞も投げ捨ててドン引きされる形相で逃げてやる」

 

俺の言葉だけでドン引きしているレミリア。生きるためならプライドなんていくらでも捨ててやるよ。数年も妖怪と鬼ごっこしたんだ。命の大切さは理解してる。

 

「で、やろうと思えば用意できるかもしれないけど?」

「どうやってよ?あなたたち人間を守る側でしょう?守る相手を差し出してどうするの?そもそも毎日人間を食べるわけじゃないの。庶民が毎日高級ステーキを食べないのと一緒よ。ほら、毎日ステーキだとどんなに好きなものでも飽きちゃうでしょ?」

「そういうもんか。じゃあさ、男より女の方がいいとか、年若いほうがいいとかないのか?」

「ないわね。何ならあなたのでも構わないのよ?」

「せめて肉じゃなくて血にしてくれよ?」

「私から言っておいてなんなんだけど、あなたの神経図太いわね。不老不死と言っていいレベルだわ」

「どうも。でも血を飲むとして、どれくらい飲むんだ?あと、血を飲まれたら、吸血鬼になるとかないのか?」

 

どこで聞いたかはもう忘れたが、吸血鬼に吸血されると吸血鬼になったりゾンビになったりと、種族的に人間をやめることになってしまう。まだ俺は人間でいたいし、霊夢が何をしてくるかわからない。

 

「量はグラス一杯程度よ。吸血行為で貧血とか干からびるとか以外の被害は特に聞いたことはないわ」

「そういうもんか。あっ、俺って一応神職、かどうかは微妙だけど、近しい職に就いてるわけなんだけど、そこんところは大丈夫?俺の血を吸ってお前が死ぬとかやめてね?」

「あら、私のことを心配してくれてるのかしら?」

 

いや、もし万が一そんなことになったら、紅魔館組総出で俺を殺しに来るから、予防線を張っておきたいだけだ、とは言えない。例えどんなにレミリアが他の紅魔館組に言おうとも被害を与えた俺を許さないだろう。絶対殺しにかかってくる。それに、こんなことを言ってしまえば交渉相手のレミリアを信用していないことになる。今後も付き合う相手の心象を悪くしたくはない。

 

「大丈夫よ――――――」

 

レミリアがこちらを安心させるように笑った後、姿が消えて、遅れて俺はものすごい衝撃に襲われた。

 

「ちょっと、危ないことするなって言ったでしょ!?帰るわよ!」

 

俺の危機を察した霊夢が俺を文字通り飛んで助けに来てくれたのだろう。今俺は上空を霊夢に抱えられているようでとても精神的にも肉体的にも辛い。

 

「待って霊夢!頼むから!俵抱きしないで!肩が腹に刺さって苦しいの!あとまだ宴会の日取り決めてない!」

「あーもう!三日後の日暮れから博麗神社で宴会するから!あんたたちはそれくらいにうちの神社に来なさい!いいわね!?」

 

了承してくれたのかこちらに手を振ってくれる。もしかしたらこうなる運命でも見ていたのかもしれない。

 

「早く帰るわよ」

「おう。帰ってさっさと風呂焚かないとな」

「その通り。あんたの戦場はここじゃないわ。家の中だけよ」

「何言ってんだ、違えよ。生活範囲全般だ」

 

 

 

 




いつも感想、誤字報告ありがとうございます。
今後もよろしくお願いします。

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