霊夢のお兄ちゃんになったよ!   作:グリムヘンゼル

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少しだけペースが戻りだしました。




第21話

予測できていないわけではなかった、と言い訳することはできる。原作の事を考えれば、今は紅霧異変の始まりで、ルーミアは一面のボス。霊夢か魔理沙に早々に倒されたのだろう。可哀想とは思うが、人食い妖怪という側面もあるため、こうして目のあたりにすると恐怖からか喉が急速に乾燥するような錯覚に陥る。だが、ここで恐れおののくだけでは仕事にはならない。決死の覚悟で話しかける。

 

「大丈夫か?立てるか?」

 

本当はこう言いたかったんだが、微笑みを浮かべながら手を差し伸べる爽やかイケメンにはなれなかったようで

 

「えっと……だっ…大…丈夫……か?立て……る?」

 

どもってしまうし、笑みはぎごちないという、これが現実。初対面の見た目幼女に対して刀を携えた男がドモリながら話しかけている図が完成した。一見すれば幼女を誘拐しようとしている弱気な不審者のように見えるが、実際は殺人鬼と無力な一般人だということを忘れないでほしい。

 

「ありがとっ!……っとと」

 

一応の体で差し出した手をとって立ち上がったルーミアは、まだ足が覚束ないようでふらふらとして、このままではまた倒れてしまいそうだった。その様子はか弱い幼女そのままで、だからだろうか、俺の口は自分勝手に動いていた。

 

「よかったら…………背中に乗るか?」

「ホント!?やったー!」

 

ひいぃ!背中に飛び乗られた俺はすぐに後悔した。首元にかかる吐息は死神の鎌だ。ルーミアはやろうと思えば俺を殺すことができる状態になっている。俺の生殺与奪の権利は、今ルーミアの手中にあると言っていい。冷や汗を流しながら後悔するがもう遅い、諦めよう。

 

「霊夢……紅白巫女とか、白黒の魔法使いとかがどこに行ったか知ってるか?」

 

気分を変えるために話しかけるが、一向に動悸が治る気配がしない。せめてこの心臓の音がこいつに聞こえないことを祈るばかりだ。

 

「えっと、多分あっちだと思う」

 

ルーミアが指差した方向は変わらず森だが、俺が来た方向ではないので、確実に間違っている、ということはなさそうだ。その後もルーミアを背負って、話しながら森の中を歩く。一応自己紹介もしておく。

 

「俺は博麗白鹿。博麗の巫女の補佐をしてる。お前は?」

「あたしはルーミア、闇を操る能力をもっている妖怪よ」

「昼間に寝るとき便利そうな能力だな」

「怠惰なあなたは食べていい人類?」

「多分、俺食べたらお前が殺されるだろうから、食べちゃ駄目な人類。今まで俺が原因で滅された妖怪が何体いたことか」

 

ここ十数年で追いかけられた妖怪の数は数えきれない。たった一回追いかけられただけでも、運が悪ければ百を超える妖怪が俺を襲うこともあるのだ。とても両手両足の指を使っても数えきれないだろう。

追いかけて来る妖怪の全てが言語を理解できないかなり下級の妖怪ではあるが、俺を食い殺すには五体でも十分な数だ。一匹相手にするのが精々な俺は、毎回お決まりのように霊夢に任せているのだ。

 

「じゃあ、あなたは食べないようにするわ」

「そいつはありがたい。実は何時喰われるか、肝を冷やしてたところだ」

「それにあなた、そこまで美味しそうな匂いがしないもの。」

脅威が近くにあっても慣れるのが早いのは普段から死にそうな目に遭っているためだろう。できれば慣れたくはなかったけど、これも日頃の成果なのか、もう俺の心臓は平常運転に戻りつつあった。

 

「なあ、そろそろ歩けないのか?」

「えーやだー」

「駄々こねるな。手繋いでやるから」

「ならいいよ!」

 

スルリと俺の背から降りたルーミアは、そのまま俺の利き手を掴んだ。もしものとき余計な荷物であるルーミアを置いて逃げるつもりだったのに、利き腕を塞がれてしまった。外道と言うことなかれ。何度でも言うが、こいつは幼女の皮を被った人食い妖怪。人として容赦できる相手ではない。対応の仕方が完全に子供に対するそれだが、俺の身に着いた習性というか習慣というか、身に染み着いたものだ。脊髄反射とも言えるそれは、無意識に行っているので、俺の意志とかこれっぽっちも関係ない。

 

「着いたー。たしかここを通ったと思う」

 

森を抜けた先にあったのは霧がかかった湖だ。ここは天狗の住処である妖怪の山の麓にある通称霧の湖で、現在は昼間のため霧がかかっているが、夜になれば月明かりが湖畔を照らす素晴らしい場所になるだろう。妖怪が出なければ、という但し書きがなければの話だが。

 

「ありがとう、ここまで案内してくれて。助かったよ。ここまで来れば、あとはあいつらの後を一人でも追いかけられそうだ」

 

それじゃあな、と手を振りそうになって、言い忘れていたことを思い出した。

 

「そうだ、この異変が終わったらうちの神社で宴会開く予定なんだ。お前さえよければ来ないか?そこまで美味い物はないかもしれないが、ある程度の味は保証するから」

「行きたい!……でも、あの紅白巫女に退治されないかな?」

 

喜色満面な笑顔は妹が原因で悲壮満面になってしまった。自分がしでかしたことではないが、妹のせいで宴会に来たくないと思われると、こちらも悲しくなる。

 

「大丈夫。あいつはこういう異変が起きているときとか、悪さをしてるときぐらいしか妖怪を退治しようとはしないから。それに俺からも言っておくから」

「なら絶対行く!やっぱりナシ、とか言うのはダメだからね!」

「はいはい約束な。それじゃあまたな」

「うん!バイバイ!」

 

軽く手を振って、湖の方に向き直る。さてどうやってこの湖を渡ったものか。先に行った二人のように飛んでいくなんてことは才能の面から不可能だし、徒歩で行こうにも目的地は湖に浮かぶ島だから行けない。湖自体は琵琶湖とかとは比較にならないほど小さいが、それでも反対岸には歩いて一時間くらいかかる大きさ。飛べない歩けないとなると、普通の人間に残された普通の選択肢は一つしかない。俺はおもむろに服を脱ぎ、なるべく小さくなるように工夫しながら腰に巻く。

 

「ちょっと何やってるの!?こんなところで突然脱ぎだして!」

「何だ?俺の肉体美でも見て惚れたか?」

 

声がしたので、もしかしてルーミアが戻って来たのかと振り返って見るが姿はなかった。横を見ても、飛んでいると思って上を見てもいないので、普段のストレスから聞こえたただの幻聴だと判断して、湖に入ろうとしたら今度は止められた。

 

「やだ!こっち来ないでこの変態!」

「人を変態扱いとは何様だ。どういう了見で謗ってんだ?」

「目の前で脱ぎだしたら、誰だってそう言うわよ!」

「そんなこと言うくらいなら、隠れてないで出てこいよ」

「分かったわよ!…………斬りかかってこないでね?」

「おい、さっきまでの威勢はどうした」

 

しょうがないわね、とぼやきつつ湖から現れたのは、人魚として知られるわかさぎ姫だった。ただ、現れた場所の距離が十メートル以上離れていたので、恐怖心とか畏怖の念とかを感じることができない。この滲み出る小物臭、どうやら俺と同類の力のない者らしい。可哀想に……。

 

 

 

 

 




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