霊夢のお兄ちゃんになったよ!   作:グリムヘンゼル

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日に日に1話の文字数が増えていく。文字数が増えるのは嬉しいけど夜中でないと筆が進まないのは何とかならないか……。


第12話

慧音さん、いやこれからは俺の先生となる訳だから慧音先生と呼ぼうか、その慧音先生から頂いた教材を胸に抱え、博麗神社へと向かう。今日は、博麗神社に向かうのみの予定となっており、稗田の家に行くことはしないようだ。どうやら本当に俺に着いて来てくれる気はないようで、さながらこれは、初めてのお使い、みたいなものだろう。初めてにしてはかなり難易度が高い気がするが気にしたら負けだろう。

今日は寺子屋の見学と博麗神社への道を覚えるだけの予定らしい。憶えることが少ないので楽でいいのだが、帰れば宿題という名の、ミミズののたくった様な文字を現代文に解読する作業が残ってる。久々の宿題に懐かしく感じるものはあるがそれよりも、面倒くさいという気持ちが強い。せめてもう少し一文字一文字がはっきり書かれているのであればもう少し簡単だったのだが、文字が続けて書いてあるので、蛇とミミズがこの教材の中に何匹いることか、考えるだけでため息が出る。

 

「どうした?急に溜め息なんかついて?」

「これから帰ってする宿題を思い出して憂鬱になってるだけだよ」

「なんだ、宿題が嫌なのか。意外、という訳ではないが、そこまで嫌がるものか?お前なら即刻済ませてしまうと思ったが」

「簡単な作業なら、帰って終わらせようって気にはなるけど、読めないものを写本するのは、模写と一緒だと思う。絵を真似ることと文字を真似るのとでは難易度が段違いじゃん。それを思ったら溜め息くらい普通に出て来るよ」

「お前にも苦手なことがあったのだな」

 

何を仰いますやら、俺は極々一般的な普通な人間だぜ?苦手なことの一つや二つ、あって当然でしょう。むしろ今まで俺をどう思っていたのか。

 

「そりゃ、嫌いなことも苦手なことも沢山あるよ。今まではそんなこと言ってられないくらい大変だっただけ」

「なるほどな」

「霊夢の世話とか」

「うぐっ」

 

今でも忘れない、あの苦痛は忘れない。あの地獄の数週間。体はボロボロ、精神はズタズタ、赤ちゃんの世話に対する知識はスカスカ。日々の家事と霊夢の世話で多忙を極めた俺は、人生で初めてともいえるレベルでキレた。幼い体に過度な疲労は本当に死ぬかと思ったからな。墓場に埋もれても、閻魔様に審判されても覚えていてやる。末代まで呪ってやる。関係者も含めて!俺が含まれるが関係ない。人を呪わば穴二つ、ってな。自殺覚悟で挑んでやろうとも。

 

「一生忘れる気はないよ」

「このことは全面的にこちらが悪いからな、何度だって謝る。だが何度も掘り返されるとこちらも腹が立つからな。加減はしてくれ」

「もちろん。俺に対する扱いが改善してるから、そこまで言う気はないよ。お母さんたちとケンカしたときに伝家の宝刀として鞘に納めておくよ」

「忘れる気は?」

「微塵もない!」

 

今度は藍お母さんがため息をつく。あきれたのか諦めたのかは知らない。身から出た錆だ。この伝家の宝刀で削ぎ落とすまで残るのだ、諦めてほしい。

 

「はあ、ここからは道なりに進んでいけば、博麗神社に到着できるだろう。道は単純だがここら一帯からは人が通行することは滅多にない。そのため下等な妖怪も出没しやすい。十二分に警戒して進め。ちょっとでも道から外れればそこは白鹿にとって、死が隣り合わせの世界だ。決して道から外れないように心に刻んでおけ」

「大丈夫。どんなことがあっても道からは外れない。まだ死にたくないし。親より先に死ぬなんて親不孝なことはしたくないから」

「私達は妖怪だから、確実にお前が先に死んでしまうんだが?」

「なら気合で生きてやる」

「まったく、お前は……。ありがとうな」

「どういたしまして」

 

微笑ましい親子のひと時ともいえる時間。だがそんな心の安らぐ時間は長くはもたなかった。突如茂みから、ガサリと不自然な音が立ち、藍お母さんが警戒をした。

 

「××××××××××××」

 

出てきたのは芋虫。しかしただの芋虫ではないことは一目でわかる。昆虫独特の目と芋虫独特のブニブニとしている体はそのままに、足には継ぎ接ぎともとれる多種多様な手足。哺乳類鳥類爬虫類その他様々な種族な手足は常識外で、生物として成り立っていない。見ているだけで吐き気を催す気持ち悪さ。そして何よりその全長は俺より大きい。

見た瞬間全身から怖気が走り、鳥肌が立つ。初めて感じる脅威に足が震えて、藍お母さんの服の裾を掴むが、頼りの藍お母さんは微動だにしない。顔を覗き込めば、顎に手を当て考え込んでいる様子。

 

「お母さん!早く逃げよう!食われるって!!」

「まあ待て」

 

揺すってみるが、期待した反応は返ってこなかった。何考えてるかは知らないけど、早くして!食われるから!ここでデッドエンドは嫌だ!

 

「先程私が言ったことを憶えているか?」

「どれのこと言ってるかは知らないけど早くしてよ!」

「博麗神社への行き方だ」

「このまま道なりに!」

 

こんな時になんでそんなことを聞くの?そんなことどうでもいいじゃん!!

 

「よし、それじゃあ頑張って博麗神社まで一人で来てみろ。なに、気合で長生きしてくれるのだろう?ならばこれくらい容易いだろう?大丈夫、幸いこいつは鈍足だ。食われることはあるまい」

 

そういって藍お母さんは俺が止める間もなく、スキマを開いてこの場から消えた。一瞬の事だった。俺の命が風前の灯火というか、蝋燭をバーナーで焼き払われてる気分になった。何が大丈夫だ、問題大ありだ!

 

「××××××××××」

 

後ろで妖怪が言語化しにくい何かを言っているが、もちろん何を言っているのかは理解できない。ただ何となく笑われた気がした。せめて同情してほしい。

はっとして、現実を思い出す。俺と妖怪だけのこの状況、妖怪という名の死神は割とすぐそこに、接触イコールジ・エンド。

 

 

「…………くっそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

あらん限りの声で叫ぶが助けなんて来ない。スキマで紫母さんか藍お母さんが俺を助けてくれるかもしれないと、一縷の望みを賭けてみるが、何も反応はない。泣きそうになりながらも走る。だが相手は鈍間な芋虫、すぐに距離は離れるだろう、そんな当たり前ともいえる予測は、妖怪の様子を見るために振り返ったときに粉々に打ち砕かれた。

 

「×××××××××××!!!」

 

相も変わらず何を言っているのかはわからないが、相手が俺を猛スピードで追いかけていることはわかった。理解したくはないが、あの妖怪はどうやら体を丸めて転がることによって追いかけてきたのだ。

 

「いぃぃぃぃぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

もう振り返らない、振り返る余裕なんてないと悟った俺は、必死に走る。元から妖怪に立ち向かうなんて発想はない。ただ走って走って、博麗神社まで死ぬ気で走る。

ただ、大声で叫んでいたせいだろう。様々な妖怪が押し寄せてくる。何度か真横からとか前から来たが、一度も止まらず走った。博麗神社の鳥居が見え、長い階段を上る。この段階で、百鬼夜行さながらの大行列になっており、先頭を走る俺では、たとえ剣があったとしても収拾はつかないのは確実だ。

 

階段を登り終えて、母さんたちを探す。まだ足を止めてはならない。もはや気力だけで走っている状態。足は鉛のように鈍く重いが、それでも走る。

 

「封魔陣!」

 

どこからか聞こえた声と共に、背後の妖怪が発していた声が一斉に消える。恐る恐る足を止め振り返ると、そこには今まで追ってきた妖怪が幻想のように何もいなかった。

 

「ちょっと、大丈夫!?怪我してない!?痛いところない!?」

「主に足と心が痛みます」

 

安心したせいか、一気に意識が遠のく。それ以降のことを俺は憶えていない。




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犬魔王カナタ様、誤字報告ありがとうございます。

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