霊夢のお兄ちゃんになったよ!   作:グリムヘンゼル

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おおお待たせしましたぁぁぁぁぁ!!


第11話

藍お母さんと手を繋いで人里へと向かう。恥ずかしくはあるけど、一緒にお出かけができるのは嬉しい。

藍お母さんは紫母さんと比べて一緒に出掛ける機会は少ない。原因は紫母さんの「藍、あれやっといて」の一言にあるため、藍お母さんだけを責めることはできない。藍お母さんは上司である紫母さんには、不満に思っていたとしても仕事に関することは逆らわない。逆に私生活となると紫母さんは途端にだらしなくなるので、藍お母さんはそのお世話で大変そうだ。

 

「一つ言い忘れていることがある」

「何?重要なこと?」

 

人里に入る直前、まだ誰の視界にも入っていないときに藍お母さんが割と真剣な顔で話しかけてきた。

 

「そうだ。これから通うことになる寺子屋、周囲に人がいる状態で、我々八雲の関係者であることを伏せておけ。里では妖怪は『悪』として扱われる。それは幻想郷の関係者である紫様も私も例外ではない。今までは白鹿が理解できないと思って言わないでいたが、お前は存外に聡明だ。以前人里に寄ったときにも私たちは姿を変えていただろう?里に妖怪が入ればそれだけで不安になる。有事の際には致し方ないが、平時であれば安寧を保つべきだ。ゆえにこれからは人里では我々の名前は極力呼ばないように」

「わかった」

 

そうだよな。普通の人にとって妖怪は敵だ。捕食者と被捕食者の関係は容易には崩せない。俺のように幼いころから育てられたり、事前に知識を持っていないと妖怪は危険な猛獣と一緒だ。それが近辺を歩いているとなれば平静を保てる人間は少ないだろう。過去に周囲の人間が食われたとなれば、その恐怖もさらに大きくなるのは確実。妖怪側とも人間側とも取れる俺の立ち位置はかなり危うい。この立ち位置が揺らがないように、今は立場を伏せておく必要がある、そういうことだろう。

 

「では行くとしよう。私の姿は変わるが動揺して名前で呼ぶんじゃないぞ?」

「はーい」

 

うっかり名前呼ばない。これだけを守っておけばとりあえずは問題ないということだろう。大丈夫だ、問題ない!

 

「盛大に危険な予感がしたんだが?大丈夫か?」

「大丈夫!」

「では……、名前で呼ばない、八雲の関係者だと言わない。はい復唱」

「名前で呼ばない!母さんたちとは関係ない!」

「うん、まあ、意味は一緒だから問題あるまい…………」

 

そのまま藍お母さんは人里用に人相を変化で変えた後、人里へと入り(くだん)の寺子屋へと到着することができた。道中油揚げが店先で売ってあった。そこで藍お母さんは少しだけ立ち止まったが、苦渋の決断でもするかのように苦虫を噛み潰した顔で早足で歩く、なんてことがあったが、特に問題はない。今後藍お母さんを労わるときは油揚げを食卓に出すようにしようとかは思ったけど。

 

「失礼、本日寺子屋について、話をする予定の者だが」

 

ノックをして戸に向かって話す。すると建物の中から何かくぐもった声が聞こえた。どうやら留守ではないようだ。

ドタバタとこちらに向かってくる音が聞こえて、相手が急いでくれているのがうかがえる。

 

「すまない!お待たせしました!」

 

勢い良く開いた戸から出てきたのは、青のメッシュが入った銀髪ロングの美人さん、東方で先生と言ったらこの人、上白沢慧音先生だった。

その髪は慌てて出てきたせいか、少しぼさぼさになっているが整った容姿に変わりはない。身長は下から見上げる形なので正確には分からないが、藍お母さんよりは低く見える。慧音さんはかなり高身長のイメージがあったから意外だ。もともと高身長の紫母さんや藍お母さんで見慣れてるせいか、より一層低く見える。それでも現代の成人女性の平均身長よりは高く見えるけど。

 

「丁度今授業をしているところで手が離せないんです。待たせるのも申し訳ない。よろしければ、授業を見学して行きませんか?雰囲気を掴むのに必要でしょうし」

「どうする、白鹿?私はお前の判断に任せよう」

 

いやこういうのって、大体親が判断するものじゃない?お母さんの事だから、俺のことを尊重してのことだけど、もう少し普通の親みたいな演技はしないのかな?

 

「じゃあ、見学させてください。お願いします」

「殊勝な心がけだ。こういったことは大体の子が嫌がるものだからな。それでは着いて来てください。教室に案内しましょう」

 

案内されるままに着いて行く。中は一般的な民家と同じようで板張りの廊下を歩く。教室は玄関の目と鼻の先で靴を脱ぐまでもなく、教室内が見える。教室内には10人程度の子どもが座りながらこちらに好奇の視線を向けてくる。

 

「それでは後ろに椅子を用意してあるので、そこに座って見学していてください」

「分かった」

「わかりました」

 

慧音さんと同じタイミングで教室に入る。約10対の幼い瞳が俺の一挙手一投足を見ている。害がないのは理解できるが、緊張するのは変わらない。とにかく視線を合わせないように、俺は彼らの視線をすべて無視し、椅子に座って慧音さんに視線を合わせる。

 

「お前ら、物珍しいのは分かるが前を向け。授業を再開するぞ。事前に説明していた通り、彼らは今後一緒に勉学に励む仲間になる。その子に格好いいところを見せてやってくれ」

 

慧音さんに言われた通りに全員が前を向いたが、授業が再開されるとすぐに何人かは後ろの俺をチラチラと見るそそっかしい子が何人かいたが、手を振ってあげると満足して前を向いたので、ファーストコンタクトは上手くいったと思っていいだろう。

 

ただ、授業内容はというとそこまで面白いものではなかった。幻想郷の歴史を主軸とした読み書きの授業は、小学生低学年を対象にした授業と一緒のように思える。現代人として慣れたシャープペンシルやボールペンが使えないため、筆だけでは多少苦労するがそこまでではないだろう。

 

授業が終わり、子どもたちは名残惜しそうに俺を見ながら帰り、残った俺たちは寺子屋の事務室、というよりは慧音さんの私室に招かれた。

 

「ふう、お待たせしました。授業はどうでしたか?」

「中々にしっかりとした授業をしているようで安心して任せられそうだ」

「ありがとうございます。君にも感想を聞きたい。面白かったか?」

 

クソつまらなかったとか言ったら怒られるよね、せっかく見学させてもらえたんだから。本音言えば眠かったの一言で終わるが、それでは体裁が保てないし。

 

「面白そーでした」

「おお、そう言ってもらえるか。ありがとう」

「では、お願いしていたように、ここで勉強させてあげてください」

「分かりました。では君にはこれをやろう」

 

渡されたものは二冊の本。ページ数はそこまでなさそうだが、これは何だろうか?教科書?

 

「君にはこれを写本してもらう。授業中にやってもいいし、家に筆と墨があるなら家でやってもいい。できた物を私に提出することが、最初の宿題となる」

 

これくらいならすぐに終わるかなとか思いつつ、パラパラと教材をめくるが、衝撃の事実が発覚した。

 

 

 

教材に書かれていたのはくねくねとしたよくわからない、現代人からしたら馴染みのない文字。

 

そう、草書体である。

 

読めねえ!!




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