明けましておめでとうございます。(フライング)
話はオブジェクトを撃破した後に遡る。
「おーい、生きておるかー」
………
「死んだか」
「生きとるわッ!!!」
ガバッ!と瓦礫の中からヘイヴィアが立ち上がり叫ぶ。
謎の紫の光の洪水が直撃する寸前に、クウェンサーとヘイヴィアはオブジェクトの瓦礫の陰に飛び込んで難を逃れていた。
直撃していたら既に消し飛ばされ、この大戦から脱落していただろう。
「なんだ生きておったか」
「命からがら助かった奴に言う言葉じゃねぇ!何だあのごんぶとビーム!?オブジェクトが半分溶けかかってんぞ!」
無線機に向かって吠える。
ヘイヴィアが盾にしたオブジェクトの装甲は、半分ほど熱したプラスチックのように溶けて捻じ曲がっていた。
「
「そういえば敵に捕らえられてやがったなあの灰色マッスル…」
そこでヘイヴィアが余計な事に気付いた。
「てか、何でこっちに撃ってきたんだ?」
クウェンサーとヘイヴィアがいる場所は黒の陣営の本拠地であるミレニア城塞からそこそこ離れており、背後には森が広がっているだけで特に何も存在しない。
「(オブジェクトの残骸ごと俺逹を消し飛ばそうとした…?)」
そうならばかなりマズい。
クウェンサーとヘイヴィアが生きている事が分かれば直ぐに追撃が来るだろう。
そもそもこの大火力を放った赤のバーサーカーはどうしているのか。
「別に汝らが狙われた訳ではないぞ?」
「へ?」
「あれはルーラーに向けて放たれた物だ」
「ルーラーっていうとアレか、イレギュラーが起きた聖杯戦争に召喚されるっていう」
何かしらのイレギュラーの発生した聖杯戦争において、ルールに公平を期すため召喚されるマスターのいない管理者。
そして、
「……」
「如何した?」
「いや、何でもない。それでルーラーがどうしたんだ?」
「彼奴めに放たれた一撃を、宝具を展開して受け止めたのだ。そして受け流された分が向きを変えて汝らを襲ったのだな」
「つまり?」
「流れ弾だな。汝らは完全に巻き添えを食らった訳だ」
「チクショウとばっちりじゃねぇか!!」
ヤケになって叫ぶ。
聖杯戦争において「死因・流れ弾」など笑い話にもならない。
「赤のバーサーカーも既に消滅している。大聖杯の吸引も始めておるぞ…。そういえば貴様の片割れは何処へ行ったのだ?」
そう言われてヘイヴィアも気がついた。
そういえばクウェンサーの姿をさっきから見ていない。
「まさかアイツ死んでるんじゃないだろうな…」
そう言って周りを見渡す。存外、すぐに見つかった。
盾にしたのであろうオブジェクトの残骸と一緒に、少し離れた地点で転がっていた。
消滅していないということは生きてはいるのだろう。だが、
「嘘だろコイツ気絶してやがる…」
首をガクガクと揺さぶっても、ビンタしても一向に目を覚まさない。
外傷も特に見当たらないということは、頭に強い衝撃が加わった事による脳震盪だろう。
「見つかったならばよい。黒のサーヴァントも空中庭園に向かってきている故、早く登ってきて防衛に回れ。」
「はいはい…、コイツは俺が担いで行くしかないのか…。」
気絶したままのクウェンサーを肩に担ぎ上げ、ミレニア城塞へと目を向ける。
「にしても、正気を疑う光景だな…」
黒の陣営の本拠地であるミレニア城塞、その大部分は赤のバーサーカーの一撃、ルーラーの防衛により逸れてしまったそれが直撃していたことで瓦礫の山になっている。
そして、その頭上に鎮座する空中庭園により、ゆっくりと巨大な球体が吸い上げられようとしていた。
赤のキャスターの宝具である、「
この宝具は『逆しまである』という概念を用いて浮遊する空中要塞である。
内部では水は下から上へ流れ、植物は上から下へと育っていく。
その『逆しまである』という概念を用いて、ミレニア城塞の地下からこの聖杯大戦の核である大聖杯を吸い上げる。文字通り引っこ抜いて奪い取る事こそが、今回の戦闘における最優先目標であった。
そして、その目的は半ば達成されつつあった。
既に大聖杯は半ば持ち上がりつつあり、完全に空中庭園に格納されるまでそう長い時間はかからないだろう。
というか、
「瓦礫までビュンビュン吸い上げられているんだが、俺に今からあそこに飛び込めと?」
「ああ、いかに貧弱とはいえ一応はサーヴァントなのだ、当たっても死ぬことはなかろう?」
「死ななくても痛てぇんだよ!!」
そんなヘイヴィアの叫びを聞き届けぬまま、ブツリと無線が切られた。
「…………」
「…あの女いつか絶対にシバいてやるッ……!!」
・
・
・
・
・
「それで妙に体が痛いのか、もっと丁寧に運べなかったの?」
「もっぺん気絶させて欲しいならそう言えよ、銃床で額かち割ってやるからさぁッ!!」
ドカドカドカッ!!!!とヘイヴィアが人波に向かってライフルを連射する。
頭に命中したホムンクルスは倒れるが、それを踏み潰して次の一団が迫ってくる。
「というか何なのあれ?いきなり世界観がゲーセンのゾンビ撃つやつになってるけど」
「さっき聖杯を奪い返しに黒のサーヴァント逹が来たことは言っただろ?そんで黒のランサーとそのマスターが合体した」
「合体???」
「そいつが近くにいたホムンクルスを噛んで、あのゾンビを増やしてった訳だ」
「噛んで…?そういえば黒のランサーの真名はヴラド三世だったっけ」
ブラド三世、ブラド・ツェペシュといえば、15世紀における
そしてドラキュラ伝説として有名なのが、人を噛んで吸血し、噛まれた方は眷属にされるというもの。
「それは分かった。いや合体のくだりはよく分からないけど…」
そう言いながら手に持った爆弾をある程度密集した所に投げ入れ、爆破していく。
半ば吸血鬼になっていることで筋力は上がっているが、ロクに頭が働いていないのか動きは鈍重になり、かつ体の耐久度は上がっていないことは救いであった。
バラバラに爆破するなり頭を撃ち抜くなりすればキチンと死んでくれる。
「なかなか数が多いな…。そういえばその黒のランサーの方はどうなってるんだ?」
「ああ、やつは暴走してんのか敵味方関係なく襲いかかっててな、まあこっちのランサーとライダーとアーチャー、向こうのアーチャーとキャスターにルーラーもいたし大丈夫だろ、多分…」
「そうか…、あれ?ヘイヴィアはそれを見てたんだろ、なんで一緒に戦ってないんだ?」
「あんな超人共の天下一武闘会に割り込めるかよ、足手まといになりそうだし気配遮断使って逃げてきたんだよ」
「なんか情けなくない?」
「気絶してたヤツが言うなよ」
そのまま一定の距離を保って撃ち続けていると、徐々に数は減り、いつしか立っているホムンクルスは0になり、廊下はホムンクルスの死体で埋め尽くされていた。
「終わったー!死屍累々だなぁ…」
「…なぁヘイヴィア、これ誰が片付けるんだろうな…」
「…言うなよクウェンサー、薄々分かってはいるけどよ…」
後程訪れるであろう作業を思い浮かべ、苦い表情をするクウェンサーとヘイヴィア。
そこへコトミネからの通信が入った。
「アサシン、可能な限り早急に礼拝堂に来てください。」
「「イエッサー、アサシン了解」」
それだけの短い通信で念話が切られる。
「念話だって分かってるけど、つい無線機口元に持ってっちゃうよね。」
「生前からのが癖になってるんだろ。」
・
・
・
・
・
そうして向かった礼拝堂には、クウェンサーとヘイヴィア以外の空中庭園に乗り込んできたサーヴァントが勢揃いしていた。
だが、
「(なんか様子がおかしくねぇか…?)」
「(ああ、もっとバチバチしてるものだと思ってたけど…)」
敵意は確かにある。だがその場の空気を構成しているのは困惑であった。
そして何より、シロウ・コトミネが同じ陣営であるはずのライダーとアーチャーから敵意を向けられている。
つまりは
「
「自ら明かした、というよりはルーラーの真名看破によってですかね。元々ここで明かすつもりではありましたが」
「そうかよ、そりゃ敵意ってか殺意も向けられるわけだ」
そして、クウェンサーとヘイヴィアはシロウ・コトミネの
「そこに立つって事は、テメェもマスターを裏切ってやがッたのかッ…」
「ああ、悪いなライダー、アーチャー」
否、
「「俺達もこっち側だ」」
そして、聖杯大戦は歪んでいく。
決定的に、取り返しのつかない方へと。
今年もよろしくお願いいたします(フライング)