Fate/Object   作:あんぼいな

24 / 26
ヒサシブリ…


踊る阿呆と撃つ阿呆 ミレニア城塞強襲戦X

と、いうことで

 

「スコップは持ったなヘイヴィア‼」

「応よ‼散々あの爆乳上官に掘らされたんだ、俺達のスコップ捌きを見せてやる......‼」

 

 土木工事再びである。

 

 

 

 

 黒のセイバーの元マスターである男と穏便に"お話"した後、クウェンサーとヘイヴィアは城塞の庭からスコップを盗み出して戦場から1km程離れた地点で穴を掘っていた。

 

「にしてもこんな思いっきり体晒してて大丈夫なのかよ、敵のアーチャーに頭抜かれでもしたら笑い事じゃすまねぇぞ」

「アーチャーがテスト勉強中に部屋の隅のホコリがどうしても気になるタイプならともかく、今はこっちのサーヴァントも暴れてるんだ、こっちに構う余裕が無いことを祈ろう」 

「結局神頼みかよ、信心組織じみてやがる…」

 

 えっさほいさと掘り進める二人、しかし単純作業はつい無駄話が進むものでもあり

 

「なぁ…、俺達働かされすぎじゃないか?」

「確かに…、昨日黒のアサシンと戦わされてロクに休む間もなく今度はオブジェクトだ。このヘイヴィア様を顎で使いやがってドSめ…」

「こっちなんて片足持ってかれたあげく心臓食わされたんだぞ。カニバリズムの趣味は無いのに」

 

 クウェンサーはうぇっぷ、吐きそうと青い顔で口を押さえる。

 

「それが無けりゃあそこで死んでただろ、セイバーのマスターに感謝しておけよ…あれ?」

「どうしたヘイヴィア、女帝サマにいいイタズラでも思いついたの?」

「イイ感じに赤っ恥かかせる方法があればいいんだがな。って違う、クウェンサー、お前黒のアサシンの見た目覚えてるか?」

「そんなの殺されかけたんだから当然……あれ?」

「というか真名まで自分でバラしてた気がするのに全然思い出せねぇ…」

「なんだろう、喉元まで出かかってるのに出てこないこの感じ…」

「流石に二人まとめて記憶障害とかはないだろうな。」

 散々殺し相手の見た目どころか名前、獲物まで思い出せなくなっているのは異様でしかない。

「となると宝具かスキルか…」

「だろうな。ただ…」

「ああ…」

 

 確証は無い、だが己の魂がそう言っている。

 

「「ロリっ娘だった気がする……!!」」

 

 

 

 

「仕掛けも終わったところで言うのも何だが、本当にこの地点で合ってるのかよ。そもそもそれだって割と眉唾物だって聞くが」

「俺の所属してた『安全国』の学校は何の役に立つかもわからない技術を研究してる奴でいっぱいでね、これも研究テーマの一つとしてやってたはずだ。確か地磁気がどうとかって言ってたっけ…」

「確証があるわけじゃねぇのかよ!本当に大丈夫なんだろうな…」

「なんだかんだで昔から使われてきた手法だ、後は俺達の幸運を信じよう」

「テメェといると不運ばっかの気がするがな…」

 

 ヘイヴィアは大きな溜め息を吐いた。

 生前から散々巻き込まれていたが、その腐れ縁がまさか死後まで続くハメになるとは。

 

「これからどうするんだ?あのオブジェクトまだ空中庭園に向けて砲撃してるが」

「さっきから数えてるがもうすぐ5発撃ち終わる、そしたらこっちに気付かせればいい」

「主砲は弾切れになるだろうが、副砲が使われる可能性は?」

「さっきから竜牙兵に群がられても全て撥ね飛ばすことで対処している。副砲を撃てばわざわざ移動しなくてもいい位置でもだ。恐らくあの副砲は見た目だけだ」

「無視して弾薬の補充に行く可能性」

「さっきまでの会話からして黒のキャスターは俺を生け捕りにしようとしている。無防備に立っていたらチャンスだと思って突っ込んでくる筈だ」

「勝算」

「充分にある」

 

 

 

 

 

 5発の弾を発射し終えたオブジェクトが城塞に向けて転進するのを確認し、クウェンサーは指先大に丸めたハンドアックスに信管を突き刺した

 そして、

 

「たーまやー!」

 

 投げ上げて起爆した。

 

「なんの掛け声?」

「『島国』では花火の時にこう叫ぶんだってさ、フローレイティアさんが言ってた」

「『島国』の謎文化かよ…それよりも構えろ!ヤツがこっちに気付くぞ!」

 

 1km程離れているせいで少し小さく見えるオブジェクトが数瞬停止する。

 旋回しこちらに正面を向け突撃の準備を整える。

 そして、大量の車輪が地面に食い付き、

 

 ゴッッッ!!と衝撃波を撒き散らしながら、突撃を開始した。

 

 地面に轍を刻みながら突進してくるオブジェクトは、数秒もかからずにクウェンサー達を撥ね飛ばすだろう。

 生身ならともかく、今の赤のアサシンはサーヴァントだ、激突の際の速度を調整すれば()()()しないだろう。

 そう"黒のキャスター"は考え、

 

「やれ、クウェンサー」

「ああ」

 

起爆用無線器のボタンが押し込まれた。

 

 

 

 

 くぐもった爆発音とともにオブジェクトの正面の地面が盛り上がる。

 そして、大量の土が逆さに流れる滝のように巻き上げられ、地面にぽっかりと穴が口を開ける。

 その質量分の土が無くなり、落とし穴が発生した地面に、4つの車輪のブロックの内1つが足をとられ、

 そして、ドリフトするかのように機体を派手に横滑りさせ、オブジェクトが停止した。

 

 内部に操縦者が存在した場合、凄まじい重量を持つオブジェクトが振り回されることで発生したGによって、体が水風船のように弾けていただろう。 

 その場合であればこの時点でクウェンサー達の勝ちだ。

 しかし

 

「チッ!まだ動いてやがる!」

「てことは内部に操縦者がいないパターンだったか…」

 

 オブジェクトは動きを止めず、地面に食い込んだブロックを抜き出すためにギャリギャリと地面を削りながら車輪を回していた。

 このままではいずれオブジェクトは抜け出し、再び攻撃を開始する。

 

 

 

 城というのは、王族や貴族などの居住空間であると同時に、敵の侵攻を防ぐための防衛施設でもある。

 そのため、城内には籠城を前提とした施設が設けらるのが普通である。

 たとえば敵の侵入を防ぐための堀と跳ね橋、たとえば食料を貯蔵するための倉庫、たとえば水を確保するための井戸。

 井戸とは穴を掘って地下水を汲み上げる装置であり、地下では地上の川と同じように帯水層中を地下水脈が流れている。

 城塞中に侵入した際に、井戸に十分な量の水が蓄えられている事は確認した。

 つまりこの近辺には地下水が豊富に存在しており、その帯水層にまで爆発によって衝撃を届かせることができれば…?

 

 ちなみに、

 地下水の位置を探す場合、専用の機材が必要となるが、裏技としてダウジングという技術がある。

 科学的な根拠は薄いとされているが確かに昔から利用されてきた技術であり、極論であるが、針金が二本あれば地下水の位置を探り当てることが可能であるとされている。

 

・ 

 

 

 オブジェクトの足元の土が湿り気を帯び、色を濃くしていく。

 爆発の衝撃で罅割れた地盤から地下水が上がり、周辺の地面に浸透していく。

 さらにオブジェクト自身がが嵌まった穴から抜け出す為に車輪を回すことで水分を含んだ地面がさらに撹拌され、柔らかい泥状に変化する。

 

 異常に気付き、車輪を停止させた時にはもう手遅れだった。

 穴に嵌まった車輪のブロックがズブズブと泥に沈み、オブジェクトの傾きが徐々に大きくなっていく。

 傾きが限界に達し、ぶわりと反対側の車輪が浮き上がる。 

 そして、50mの巨体が、その側面を地面に叩きつけられた。

 

 

 

 

 轟音とともにオブジェクトが地面に叩きつけられ、機体表面にイガグリのように生えていた副砲がへし折れて辺りに飛散する。

 しかし。

 

「駄目だ。あの野郎、倒れる瞬間に主砲を振り回して地面に当たる箇所を調整しやがった!!」

 

 本来であればクウェンサー達は、オブジェクトの主砲をオブジェクト自身の下敷きにすることにより破壊するつもりであった。

 しかしオブジェクトは倒れる寸前、バットのように主砲を振り回すことで機体の角度を無理矢理調整し、主砲とは反対側の面で地面と衝突し、主砲の損傷を回避していた。

 仮にオブジェクトとはいえ、その装甲は鋼ではなく石でできている。

 つまり元となったオブジェクトよりも軽量であり、恐らく数十体のゴーレムで引っ張り上げれば、再び戦闘を開始できるだろう。

 だが。

 

「逆に都合が良いかもしれない、このまま主砲を鹵獲してしまおう」

 クウェンサーがなんてことは無いように言う。

 ヘイヴィアは唖然とし、

「待て待て待て!話を飛ばすな!第一どうやってオブジェクトをバラすんだよ!さっき対戦車ミサイル撃ち込んだときは傷一つつかなかったじゃねぇか!」

「大丈夫だ、もう終わってる」

 と、対するクウェンサーは気楽なものだった。

「はぁ?」

 と、ヘイヴィアが疑問の声をあげた瞬間。

 

 ビキィ!と、オブジェクトに亀裂が入った。

 

「こいつの装甲は岩石を板状に加工して、そこに錬金術の術式を埋め込んでいる」

「ああ、さっき尋問したデブが言ってたな…。確か着弾の瞬間に硬化させることであらゆる攻撃に対処するだとかなんとか…」

 

 敵からの攻撃を受けた瞬間にその部分の装甲板を魔術により硬化させて弾き、球体の曲面で受け流す。

 そのようなコンセプトだったのだろう。

 

「でも、硬化するのは衝撃が加わった部分の装甲板だけだ。瞬間的な攻撃ならそれで十分受け流せるかもしれないけど、一点に圧力をかけ続けるようにすれば、周りの装甲板にもダメージは蓄積されていく。」

 

 オブジェクトに入った亀裂がさらに増えていく。

 

「それに、岩は通常のオブジェクトに使われる鋼と違って靭性が低い、粘り強さが無いんだ」

 

「つまり、自分の重量で押し潰される」

 

 グシャリ。

 まるで卵を床に落としたように、オブジェクトが圧壊した。

 

 

 

「さて、それじゃあこいつと俺達を回収してもらわなきゃな」

「ああ、いい加減休みが欲しい。一丁女帝サマにお願いしてみるか」

 そう言って無線機を取り出し、空中庭園にいるキャスターに繋ぐ。

 暫く呼び出した後、応答があった。

 

「アサシンか、こうして通信してきたという事は死んではないようだな」

「「休みをください!!」」

「よほど毒漬けにされたいようだな…?」

「「すいません冗談ですぅーッ!!」」

 

 直接対面していなくても、身体は自然と正座の形を取っていた。

 

「というか今回の事は汝らの自業自得であろう」

「いやそうといえばそうだけど…。というか無線機の使い方覚えたんだな」

「ああ、あやつが使い方を紙に書いて置いていった。絶対に書いてある所以外を触るなと念押しされたが…」

「「(ありがとうコトミネ…)」」

 

 二人は内心でコトミネに感謝した。

 

「で、どうやってそっちに戻ればいいんだ?」

「今から大聖杯を()()()()()。それと一緒に上がってこればいい」

「はいはーい、了解でーす」

「ああ、それとだな」

 

 キャスターはなんてことは無いように言った。

 

「逃げるか隠れるかせねば死ぬぞ?」

 

「「は?」」

 

 振り向く。

 紫色の光が、まるで津波のように押し寄せていた。

 

 

「「ギャアアアアァーーー!!!!」」




オブジェクト:ゴーレム
全長…70m(主砲含む)
最高速度…時速350km
装甲…魔力硬化式石板
用途…対サーヴァント用ゴーレム
分類…0.5世代をモデルとしているが各所が魔術により強化されているため不明
運用者…黒の陣営
仕様…接地重量分散式車輪
主砲…岩石圧縮砲
副砲…未搭載
メインカラーリング…黒
操縦者…自動操縦→黒のキャスターによる遠隔操縦

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。