Fate/Object   作:あんぼいな

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それでは、どうぞ。


かくれんぼには十秒数えろ シギショアラ夜間市街地戦Ⅵ

さて、黒のアサシンを追撃すると言った所で、手負いとはいえ自分よりも敏捷値の高い相手に追いつけるモノだろうか。

「とか思ってたんだけどな……。」

「どうしたのー?」

「いや、なんでもないよ。」

正面を向く、黒のアサシンがいる。

もう一度向く。やっぱりいる。

「はぁ……。」

考えてみれば簡単な事だった。

魔力が足りず、腹を空かせる黒のアサシン、そんなモノに魔力の塊であるサーヴァントが単騎でホイホイと近づいていったのだ。

向こうからしてみれば、餌が自分で寄って来るようなものだろう。

では何故クウェンサーはこんなにも落ち着いているのだろうか。

それも簡単なことだ。

 

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「(こんな状況、あの"島国"の言葉で何て言うんだっけ。)」

左手のあった場所から伝わる痛みに耐えながら、クウェンサーは考える。

「あ、あれだ。 絶体絶命。」

その瞬間、黒のアサシンのナイフが振るわれた。

 

 

赤のセイバーが壁を駆け登る。

先程までこちらを狙撃、爆撃していた敵を壁の上に目視する。

茶髪を後ろの低い位置で後ろに纏めた男だ。 弓を持っている事から、アーチャーで確定だろう。

走りながらも思考する。

 

アサシンからの援護もある、

充分だ、ここで仕留める!

 

上から射られるが、避け、時には弾きながら接近する。

壁が途切れた所で一太刀目、紙一重で躱される。

だが本命は次!

上部にある塔に着地。そのまま傾斜を利用し滑り降りる様に接近する。

「獲ったぞアーチャー‼」

右から左への胴切り、そこから連続しての袈裟斬り、どちらも後ろに跳ぶ事で回避される。

「なにっ‼」

その体勢が崩れた所へ、アーチャーが落下しなが何本もの矢を放つ。

鎧や剣に弾かれる。だがその内の一本が、セイバーの上腕へと突き刺さった。

 

「(これは無傷では勝てんな……。)」

落下しながら壁を見上げる黒のアーチャー。その視線の先には、矢が当たったことで激昂し、赤雷を撒き散らす赤のセイバーが映っていた。

後転で勢いを殺しながら着地、右手を前に出し、左手を後ろに引き込み迎撃体勢を整える。

「くたばりやがれッ‼」

赤のセイバーが赤雷を纏い、魔力放出で彗星のように加速して降ってくる。

剣を振り下ろされた瞬間、左手でセイバーの腕を掴む。肩に刃が食い込むが、ダメージを無視して右手を脇腹へ。

ベクトルを捻じ曲げ、地面に叩きつけるようにして投げ飛ばす。

それは、古代ギリシャにて伝えられし、現代では失われた格闘技。

 

「失礼、これがパンクラチオンです。」

 

「ガハッ!」

吐血するセイバー、だが瞳は闘志が漲り、今にも襲い掛からんとする表情だ。

立ち上がろうとしたその時、

「避けろセイバー!」

後方から聞こえる声、その声は。

「遅ぇぞアサシン!」

そう答え、背後に振り向くセイバー。だが、一瞬でその表情が固まる。

それもその筈、ヘイヴィアが肩に担いでいる武器をセイバーもアーチャーも見た事は無いが聖杯からの知識により知っている。

それは近代において、兵士が単独で運用出来る中で最も破壊力の高い兵器の一つ。

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「テメェ俺ごと爆殺する気か⁉」

「文句なら後で聞く!全力で逃げろ!」

引き金が引かれ、弾体が黒のアーチャーに向け発射される。

シギショアラに、再び爆炎の花が咲いた。

 

 

「クッソ、キツいな……。」

脚を引きずりながら歩くクウェンサー、そのふらついている様子は一見すると酔っ払いの様だが、よく見るとシュルエットがおかしいのが分かる。

まず左手は肘から先が存在せず、切断面はスッパリと切られたようになっている。

また、その身体には幾つもの切り傷が刻まれ、所によっては医療用のメスが突き刺さったままになっている。

これらの傷は全て、黒のアサシンによって付けられたものだ。

黒のアサシンとクウェンサーの戦闘は完全にかくれんぼの様相を呈していた。

クウェンサーが隠れながら逃げ、それを黒のアサシンが追跡、襲撃する。そこからまたクウェンサーが逃走する。このやり取りをもう幾度も繰り返していた。

そして今も……。

「あはっ、見ーつけたっ!」

「チッ‼」

前に跳ぶようにして避ける。そこに上から降ってきた黒のアサシンがナイフを突き立てる。

「あなたしぶといね!普通だったらもう死んでるのに!」

「生憎、スキルで戦闘続行持ってるからなっ。」

「そっかー。でもそろそろお腹減った!」

そう言ってナイフを投擲する。

右肩に突き刺さり、倒れ込むクウェンサー。

そこに追撃しようと黒のアサシンが接近するが、

「これでも食らってろ!」

掌サイズの直方体が投げつけられる。

「また?」

それはハンドアックスという爆弾である。

しかし、先程から何発かクウェンサーが仕掛けたトラップを見た黒のアサシンはその効果範囲を既に把握していた。

後退し衝撃から顔を守る。だが……。

ゴトッ

「あれ?」

爆発が起きない。

それもその筈、そのハンドアックスには信管が付いていなかった。

「あっ!」

前を向く。既にクウェンサーは逃走しており、気配遮断によって気配も追えなくなっていた。

「あはっ、あははははっ‼」

つい、笑いが漏れる。

「そっか、まだ逃げるんだ。楽しいなぁ。早く殺して食べてあげないと‼」

再び追跡を開始する。

「待っててね。すぐに殺してあげるから!」

 

かくれんぼはまだ続く。




ありがとうございました。

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