「なぁぁぁ!」
よくわからない絶叫を上げているのは皇マキ。マネージャーや八神等と宿舎から出て久遠監督の良くない噂の情報を集めようとするも当然外に出る前に監督に止められたのだ。
「くっ、あとは任せた!」
「何もするまえから大袈裟な…まあ、任せておけ」
八神はやれやれといった感じにマキの思いを受け取りつつさっさと目的地に向かっていった。
その頃、花瑞はヒロトの部屋にいた。朝食を取ったあとに来るように誘われていたのだ。
「回りの部屋から何か壁にぶつかる音がするだろ? マモル達、部屋でボールを蹴り始めたんだ」
「あっ、なるほど。室内で練習してるってことですね」
「あぁ。それでだ、俺は更に強い連携を編み出す方法を思い付いたのさ」
そういうとヒロトは自身に目隠しをしてボール壁に蹴り始めた。
「凄い! まるで見えてるみたいにボールを自在に操ってる」
「花瑞、適当なところに移動してみてくれ」
「えっ? はい」
ヒロトは壁に何度かボールを当てたあとにそのボールをぴったりと花瑞のいるところへパスした。
「すっ……すごい。どうやってるんですか?」
「半分は感覚を研ぎ澄ましてるおかげ、もう半分は相手のことをよく理解してるからここに来るだろうなって予想ができるのさ。ほら、次は花瑞の番」
そうして花瑞に目隠しをさせる。
「うっ、これ難しい」
ヒロトは簡単にやってみせていたが当然初めてでこれをやるのは至難の技である。蹴ったボールの行方がわからず自分の頭に当たったり、完全に見失ったり。それを部屋の出口で見守るヒロトは熱心に観察している。
だんだんと感覚が研ぎ澄まされる。ボールの動きが見えてくる。
次第にボールをトラップしてからまた壁に蹴れるようになり。ダイレクトで返せるようになる。
「よし、花瑞。今から俺は部屋の何処かに移動するから三回ボールを壁に蹴ったあとにパスしてくれ」
「はっ、はいっ!」
自分の知るヒロトという人物像、今の気配、彼から出てくるすべての関知できる感覚を数秒の間に最大まで吸収する。
「ここっ!」
花瑞がパスを出したのはベッドの上。そこには見事ヒロトがいた。
「さすがだね、花瑞。ほら、目隠しを取るからこっち来て」
花瑞はよたよたと歩きながらベッドの方に向かう。しかし、ボールを操ることにはなれていても目隠しで歩くのは不馴れだったからか、ベッド直前で転んでしまう。
「な、なにやってんのよあんた達!!!」
三階に戻ったが花瑞がいないので探しに来ていたマキがこの瞬間に現れた。目にしたのは目隠しを付けられた花瑞がベッドにいるヒロトの前で倒れているところ。
「変態! 信じらんない! ドスケベヒロトぉぉ!」
マキは何かとんでもないことが起こる直前かと勘違いして顔を真っ赤にさせながら花瑞を一瞬で拾い上げて三階へと駆け上がった。
「あ、あの…マキ?」
わけのわからないまま三階に連れ戻され、目隠しをはずされている最中の花瑞。事態が飲み込めず混乱している。
「花瑞ガード緩すぎ! もっとガードを鍛えて!」
「ガード……うん、わかった」
花瑞は、オフェンス的な特訓をしていたけど本職はディフェンスなんだからもっと守備面の特訓をしろということを言われたのだと勘違いしていた。
「騒がしいなぁ……また二人でいちゃついてるのか?」
「違うわよ!」
クララが大声を出すマキを静かにさせるために部屋に現れた。
「あっ、それより…二階のみんな、部屋で特訓してるんだって。ボールを壁に当てて。ヒロトさんに教えてもらったの」
「……もしかして、さっきのってそういう特訓?」
「……? そうだけど」
マキは勘違いに気付き、早速特訓してくるといって部屋へと帰っていった。
「マキ、多分物凄い勘違いしてたな」
クララはそれだけ言い、自分も同様の特訓をするために部屋に戻った。
一方その頃、マネージャー+八神、杏は、久遠監督の過去に起きた事件を知った。
すぐにでも知らせた方がいいのではないかという意見を八神以外の全員が出したのだが、八神のみただでさえ監督に関する不信感が高まっているなかで実際に試合に出る選手にこれ以上刺激しては試合以前の問題になりかねないと判断し、彼女達のみでこの問題を追求し、必要となった場合には伝えることになった。
クララ「ここだけの話」
八神「唐突だな、というかこれは何の空間だ?」
クララ「ここは後書きの空間というやつ。乗っ取った」
八神「乗っ取った……早めに用件をすませて返して上げろ。誰にだかは知らないが」
クララ「ヒロトは花瑞のことラブなのはまあ当然なのだが」
八神「当然……なのか?」
クララ「マキも好敵手とかを通り越した感情を持ってる」
八神「……まあ、見ればわかる気がしないでもないが、いいのか?」
クララ「女の子同士でも問題はないんじゃないか? 本人次第」
八神「花瑞のやつも随分と大変なものを持っているな」
クララ「ちなみに花瑞はマキのそれには気付いてないしマキ本人も自覚はない」