マキ「完全に本編終わって力抜いたわね」
筆者「だってきりいいんだもん!」
マキ「でももうちっと続く言ってたでしょうが!」
ヒロト「まあまあ、ほら始まっちゃうよ?」
マキ「メテオシャワーは終わってからよ」
未来での試合を終えた花瑞達は現代へと帰還した。エリカと一緒に。
エリカには依然として世界を消し去る力が残っている。彼女にはセカンドステージチルドレン用に作られた薬は効かないのだ。彼女もそれを初めて知った時には絶望し、そこで初めて世界を消滅させてしまったのだった。だがその力を使うことはもうないであろう。これから花瑞達と共同生活を学んでいくのだから。
「っ!!? なんでっは、は、は、入ってきてるの!?」
「私もお風呂に入る」
「じゅ、順番だから!」
「いいじゃん、二人くらい入るんだし」
花瑞が帰宅早々に疲れと汚れを落とすためにお風呂に入っていると、エリカがノックもなにもせず突然ドアを開けてきた。花瑞も驚いてしまい取り乱しておりその身体を隠すことも忘れている。
「も、もしこれで入ってるのがお兄ちゃんだったらどうするの! わ、私だからいいけど…入るならせめて先に教えてね? ふ、ふぅ…ほんと驚いた」
「じゃあ入る」
結局花瑞が居るのもお構い無くエリカは湯船に浸かろうとした。
「待って! お風呂はみんなが入るから先に身体の汚れを落としてから入るんだよ」
エリカが汚れたまま入ろうとしたところを手を掴んで止めてお風呂の椅子に座らせる。
「お湯を毎回変えればいいじゃん、どうせ身体を洗ってもお湯は汚れるんだから」
「それだとお金がかかっちゃうんだよ。お互い気持ち良く使うために守らないといけないことが沢山あるんだよ? あ、これシャンプーね。こっちはリンスで、トリートメントもあるから」
「一人ならこんな気遣いしなくて済むんだけどなぁ……」
「みんなと一緒に生活するにはこういうことが出来ないとね」
普段シャンプーも使わないのか、それとも知らなかったのかプッシュ式の容器からシャンプーを出せないでいるエリカを見かねて花瑞が代わりにとってやり、そのまま髪の洗い方も教えた。
「それにしても、今まで髪を洗ったことないのになんで元からサラサラだったの?」
「能力で汚れとか細菌だけ死滅させてた」
「便利だねぇ、でももしかしたらエリカちゃんの能力も無くせる方法が未来でも見つかるかもしれないからちゃんとお手入れの仕方も覚えてね?」
「花瑞はもうやってくれないの?」
「ひとりで出来るようにならなきゃね」
「むぅ…」
頭を触られるのが気持ち良かったのか明日もしてもらいたかった様子で少しムッとする。
「ほらほら、身体も今みたいな感じで洗うんだよ。デリケートなところもあるから私のをお手本にエリカちゃんがやってね?」
花瑞はエリカの力加減を教えるために泡立てたスポンジで腕だけを洗ってあげてそこからは自分の洗いかたを見せて見様見真似で洗ってもらった。
「はい、そしたら泡を全部シャワーで落としてお風呂入ろ?」
「手間がかかるのね……」
「そうだねぇ、私もエリカちゃんも髪が長いから他の人より時間はかかるかも」
その後ふたりはポカポカになるまで湯船に浸かった。しかし体を拭かずに出ようとするエリカを再び止めて身体をタオルで拭くこととその理由、さらには全裸で廊下に出ようとしたから最低でも下着を身に付けることを教えた。
「あぁ!? ま、マキのアイスがない!」
一時間とたたないうちに次なるトラブルが発生、冷凍庫のアイスが消えていた。
「あ、誰のとかあったんだぁ…」
やはりエリカが食べていたようだ。
「自分が置いたのじゃないなら食べないでしょ!」
「そ、そんなものなの?」
「あぁぁそこからかぁ! 冷蔵庫は共有だけど中のものは自分の物って分かれてるの! マキのお風呂後の楽しみだったのに!」
エリカは食べてしまったものは仕方ない。と言ってしまいマキはさらにカチンと来てしまう。
「人のもの食べたなら謝りなさいよぉぉ! ごめんなさいって! むぅ!」
「もぉ、さっきからうるさいですよぉ。何があったんです?」
「ベータ! エリカがマキのアイス食べたのよ!」
「あー、私達民度高いから名前とか書いてませんでしたからねぇ。やっぱこれからは書いときましょうか」
「ま、まあ確かにそれはそうね。でも、食べ物の恨みは恐ろしいわよ?」
「はいはい、私がエリカを連れて同じのを買ってきますから。何を食べられたんです?」
「ハーゲンダッツのクッキー&クリームよ!」
「う、ちょっと高いの食べたんですね……仕方ありません。エリカ、初めてのお使いといきましょう」
「お使い?」
「そう、ミッションはハーゲンダッツのクッキー&クリームの購入。とりあえずエリカは花瑞の親戚ってことで近所の方には通しておきますのでその設定を守るように」
「まあわかったわよ」
エリカを連れて買い物に行こうとしたがいつも財布を置いている場所に財布がない。
「あ、今御兄妹で夕飯の買い出し中でしたっけ。マキさん現金持ってませんか?」
「なんで食べられたマキがお金まで貸さなきゃならないのよ!」
「あとでちゃんと返しますから。ベータを信じてください」
マキは五百円玉を親指で弾いてベータに渡した。
「溶けないうちに戻ってきなさいよね」
「はぁい、それじゃお留守番おねがいしま~す♡」
ベータがちょっと買い物に出る程度にも関わらずオシャレな服に身を包んでいるのに対してエリカはてきとーな服を雑に着ているだけ、そんな良くも悪くも目立つ二人組が田舎の市街地を抜けて徒歩10分のところにある最寄りのコンビニへと到着した。
「そのうち服も買いましょうね? それじゃ引きニートの御兄様方のファッションですから」
「素体がよければどうにでもなるんじゃない?」
「恐ろしい自信ですね。残念ながらそのダッサイ寝巻きみたいなダボダボの服でかわいいなんてことは……」
改めてエリカを見ると花瑞に負けず劣らずの美少女が使い古したダサめの服を着ている姿があんがい悪くないのかもしれないと思い知らされてしまい少し言葉を失う。
「……まあもっとマシな服にしましょう。その方がいいですから…もったいない」
正直近所のアイスを買うだけのお使いにそんなおしゃれをする方が変なんじゃないかというツッコミを入れる人がいるかもしれないが、年頃の女の子で尚且つ何度目かの挑戦で手に入れたかもわからない平和な世界で生きることができるベータにそんな野暮なことを言う人はいないだろう。
「やあベータちゃんいらっしゃい。そちらの嬢ちゃんは?」
個人経営の古びた駄菓子屋のおじさんが初めて見る赤い髪の美少女についてベータに尋ねる。
「あ、こちら花瑞の親戚に当たるエリカちゃんです♡ しばらくこっちで暮らすのでよろしくおねがいします♡」
「おぉ、花瑞ちゃんの親戚かぁ。どおりでべっぴんさんなわけだ。アイス一個サービスしたるよ」
気前のいいおじさんの御厚意に甘えてアイスをひとつ多く手に入れたエリカはベータの後にならってお辞儀をして帰路に着いた。家に着くときには丁度花瑞とアフロディも帰ってきたところだった。
「おかえり~、今日はシチュー作るから二人も手伝ってね」
「シチュー?」
「クリーミーで美味しいよ。ベータちゃんと一緒にニンジンとジャガイモを切って欲しいな」
ベータに手取り足取り包丁の使い方から教わって野菜を調理していく。完成形もわからぬシチューのためにエリカは精一杯ジャガイモとニンジンを一口大に切る。
アフロディが涙ひとつ溢さず切った玉ねぎやマキが大きめにカットした肉を花瑞が受け取り鍋にかける。
「これが…シチュー」
完成した料理を見てエリカは目を輝かせる。生まれてはじめて見る白い料理。温かくていい香りのするそれをスプーンですくってそのまま口に入れる。
「あつっ!」
「出来立ては熱いからふぅーして食べないと火傷しちゃうよ?」
そういえば食べ方ひとつ取ってもわからないのだとうっかりしていた花瑞が息を吹き掛けて冷ますやり方を見せ、スプーンの持ち方も教える。
「おいひい」
「よかったぁ~」
美味しいものを食べて笑顔を見せたエリカにほっとして花瑞も笑みを溢す。
夕食を食べ終え気付けば寝る時間になり各々寝支度を済ませてベッドで寝ていたのだが花瑞の部屋にノックもなしに誰かが入ってきた。
「!?……エリカちゃん?」
「一緒に寝かせなさいよ」
「い、いいけど…どうしたの? 一人で寝るの怖かった?」
「まさか…わたしはずっと一人でいたのよ? 今更怖いわけないじゃない……………初めて誰かと寝れるんだからそうさせてよ」
花瑞はエリカが心の中にずっと溜めていたであろうその最後の言葉を聞いてやさしい声で「おいで」と言って自分の布団でエリカを包み込んだ。
「あったかいのね…」
「エリカちゃんも暖かいよ」
お互い顔を向き合ってそのまま眠りについた。
「ふふ、まるで姉妹ですね」
ベータはこっそりと扉を開けてふたりの寝顔を見て微笑む。
「未来を……世界を救ってくれて本当にありがとう花瑞さん。あなたと出会えて本当に良かった。彼女が自立できるまで……あとどれくらいかわからないけどよろしくおねがいします」
眠っている花瑞にそう語りかけるベータの目から涙が溢れる。長い長い旅だった。エリカにとっては更に長い時間だったであろう。他の世界では叶わなかった彼女達の笑顔がここにはある。これからも──
クララ「良い話だなぁ」
杏「お前がそういうと何かこっちの気持ちが削がれるからやめろ!」
クララ「とんだいちゃもんだな。私には平和な日常を噛みしめさせてくれないのか」
杏「……悪かった」
クララ「やたら素直だな、平和ボケか?」
杏「お前のボケは相変わらずだなぁ?」
クララ「いいだろ? こういう奴が必要なのさ」
杏「…そうだな」
クララ「えっ、真面目にお前なんか変なもの食べたか? いつものツンが柔い」