Fate×Dark Souls   作:ばばばばば

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4話

 バーサーカーは槍に心臓を貫かれ意識が闇に落ちる。

 

 バーサーカーが次に気づいた時には遠坂邸の篝火の前にいた。死ぬのには慣れたものでそのまま先ほどの戦闘を分析していく。

 

(最後の槍による一撃、急所を避けたのにいつの間にか心臓に刺さっていた。追尾?いや違う、確かに私は避けた……、避けた先の心臓に槍を刺したのではない、心臓を刺した槍が避けた先にあった……? ありえないがそうとしか考えられない……、必中する槍……、どうする……)

 

 バーサーカーはいつものようにこのまま、自身の死因とその対策について考え始めようとするが、今回はマスターの安否を確かめなければいけないことに気付く

 

 いくら時間を稼いだとはいえ凛が無事かは分からない、急いで学び舎に行かなければならないとバーサーカーは走る準備を整えてすぐ駆け出した。

 

 バーサーカーの心配とは裏腹に凛はすぐに見つかった。

 

 凛も学校から遠坂邸に戻ってきていたのだろう、バーサーカーが凛を見つけたのは目的地の道すがらであった。しかしその様子はどうも不自然だ。

 

「無事だったかマスター」

 

「その声バーサーカー?こっちは無事よ……」

 

 なにやら凛は疲れた顔をして下を向いている。さらに言えばその表情はどこか苦々しい。バーサーカーへの返事もそのままに歩き出してしまう。

 

 凛が落ち込んだ原因とは聖杯戦争の争いに巻き込まれた哀れな少年についてなのだがバーサーカーはそんなことは知る由もないので凛の態度を不思議に思った。

 

「どうかしたのか?」

 

「ちょっと問題があってね……」

 

「問題というと?」

 

「もう終わったことよ、ただ自分の魔術師としての未熟さに呆れてるの」

 

 話は終わりだと黙り込む凛に、いかにバーサーカーといえどもマスターが何やら落ち込んでいることだけは奇跡的に気付いた。

 

 彼なりに元気づけようとしたのか、凛の後ろをしばらく歩き何と声かけようか、たっぷり悩みこんだ後、凛を呼び止める。

 

 

「そんなに下を向いていると上から奴隷が降ってくるぞ」

 

 

 どうして人を元気づけるのにこのような言葉を選んでしまったのか

 

 

「……は?」

 

 凛は急に声をかけてきたバーサーカーとその内容の脈絡のなさに困惑する。

 

「……下を向いているとだな……、上や物陰からの奇襲や遠くからの攻撃に気付けない」

 

 その後も宝箱は一度殴れだの曲がり角には敵がいると思えだの不意打ちの危険性をバーサーカーは長々と説明しだした。それを聞いた凛はしばらくあっけにとられながらも当然の疑問を問う

 

「急に何言ってんのアンタ?」

 

 

「うむ……、いや……、つまりだな……、マスターには不意打ちを警戒してもらうためにも是非に顔を上げて過ごしてもらいたいというかだな……」

 

「えっ……、もしかしてソレ、私を励ましてるつもりなの?」

 

「そうだが?」

 

 凛がこの迂遠な言葉をこのサーヴァントの気遣いだと気付けるのはひとえに彼女の優秀さゆえで、常人ならバーサーカーはただ延々と不意打ちの危険性を述べ続ける謎の男となるだろう。

 

 バーサーカーのいつも通りの頓珍漢ぶりに呆れてしまったが、そのおかげで少し調子が戻ったのか、凛が顔を上げ一応の礼を言う。

 

「まぁでも、バーサーカーも人に対してちゃんと気を使える奴だったのね」

 

 どうして人に礼を言うのにこのような言葉を選んでしまったのか、彼女もバーサーカーのことは言えない

 

「何を言う、私はもともと気遣いの人だ」

 

凛は後ろに振り返りながらバーサーカーに話しかける。

 

 ちょうどバーサーカーが陰密を解いてこちらの方を向いていたので目が合った。

 

「まぁ、気遣いには感謝するわ…………、でもね……」

 

 凛はそこで言葉を切りバーサーカーと見つめ合うとふいに口を開いた。

 

「バーサーカー……、あなたに聞きたいことがあるの」

 

「なんだ?」

 

「ねぇ……、バーサーカー?」

 

「どうしたマスター」

 

 

 

「何故そんな格好してるの?」

 

 バーサーカーは下ばき、いわゆるパンツ以外何も身に着けていなかった。

 

 

 

「鎧は重いので外している。マスターを探しに急いできたんだ」

 

 理由は分かる。だがうら若き乙女を男が後ろから裸でついていくことの免罪符にはならない、そんな奴に気を使われて感謝してしまった私が哀れではないかという怒気をこめて凛はバーサーカーを睨む。

 

「なぜ怒っているんだ?」

 

 どうやら伝わっていないようである

 

「今すぐ着替えて」

 

「こちらの世界では……」

 

「着替えて」

 

「……そうか」

 

 彼は素直に以前マスターにもらった服に着替え、しばらく無言で歩く

 

この時、こちらでは全裸は不死人達にある種の様式美をもって親しまれており、そう珍しい恰好ではなく、指輪などを併用することでその有用性はあると説いて反論しようとしたが、凛を怒らせる可能性が強いこと、すでに彼女の右のこぶしが強く握りこまれていることから黙っておいた。

 

「マスターは結局、何に落ち込んでいたんだ?」

 

「その話はもういいわよ、話題に出さないで」

 

 先ほどまで落ち込んでいると思ったら、今度は(バーサーカーの視点では)急に怒り出した凛、バーサーカーはその怒りの火をそらすために適当な話題を探す。

 

「そういえば話は変わるが、私が最後に死んだ時、ランサーが何やら人を追いかけていたな」

 

「同じ話題よ!!!」

 

 彼女はバーサーカーに襲い掛かる。悲しいかな、バーサーカーもそらした火の先に油壷が置いてあるとは思わなかっただろう、バーサーカーは思えば運もなければ気づかいもできない男だった。

 

 怒りに任せてまくしたてるように話す凛の話によると、どうやらあの追いかけられた人影は凛と関係のある少年であり、残念ながらランサーによって致命傷の傷を負ったので、凛は少年を自らの魔術で命を助けたという経緯があったとバーサーカーは知った。

 

 バーサーカーも話は分かった。だが、なぜそのことで凛が落ち込んでいるのかが分からなかった。

 

「少年を救ったのだろう、なぜ落ち込んでいるんだ?」

 

 バーサーカーは頭蓋骨が陥没して視界が歪み、強烈な吐き気を覚えながらも凛に問う

 

「私たちがあそこで戦っていなきゃ巻き込まれることもなかったわ……、それに魔術は一般人には見られてはいけないの、最初は私も見殺しにするつもりだったわ、でも見られた上で私の都合で彼を助けた。本当に自分が嫌になるわ……」

 

 魔術の秘匿という概念は凛から聞いていたが今の説明でようやくなぜ彼女が落ち込んでいるのか理解した。

 

 それは凛の甘さではあるがバーサーカーはむしろそれを好ましいと感じる。

 

 しかしそれとは別にバーサーカーは一つの疑問が浮かんでいたので凛に問う。

 

 

「マスターは彼を助けたがランサーの方は魔術の秘匿やらのためにもう少年を狙わないのか?」

 

 

「あっ……」

 

 凛は自身の間抜けさを叱責する。彼女は自分がその発想に気付かないことに怒りながらもすぐさま行動を開始した。

 

「その通りだわ、バーサーカーすぐにあいつのところに行くわ、わざわざ助けたんだもの、殺されてたまるかってのよ」

 

 バーサーカーも神妙な顔で凛に問う。

 

 

「急がねばなるまい、遠くまで走るなら脱いでもいいか?」

 

「駄目に決まってるでしょ……」 

 

 

 バーサーカーは彼女の自分についての認識が気遣いの男から気違いな男になりかけていることを知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衛宮士郎にとって今日という一日はあまりに色々なことがありすぎた。いうなれば運命の夜といってもよい。

 

 放課後に弓道場の掃除をした後に黒いヤギのような化け物と青い槍兵が殺しあっているのを見てしまい、化け物を殺した槍兵に心臓を突き刺されたのがつい一刻

 

 さらにその槍兵がまた表れてこちらにいやそうな顔で

 

「どいつもこいつも死んだら蘇る……、どうなってんだ全く、どうして同じやつをこうも日に何度も殺さないといけないんだ」

 

 なんてわけのわからないことを言いながら殺しに来たのが少し前。

 

 そして極めつけは物置の中、急に現れた。金髪でドレスのような鎧を身に着けた可憐な少女、その少女が獣じみた速度の槍兵と互角以上の戦いを繰り広げ、ついには相手を退けたのがついさっき。

 

 ようやく会話らしい会話をすれば彼女はセイバーというらしい、聖杯戦争だのマスターだの聞いたことのない単語の羅列にもう彼の頭はパンク寸前の状態である。

 

 そして今現在、槍兵とのケガも癒えぬまま

 

「外の敵は二名、この程度の重圧なら一瞬で倒しうる相手です」

 

 などといって軽やかに跳躍してどこかに行ってしまった。

 

「おいおい……ケガしてただろッ!」

 

 ケガをした女の子が戦う。それを理解した士郎は後先考えずに飛び出していく、音のする方を頼りに彼女を追いかけ、そこでみたものに彼は驚愕する。

 

 まだ暗闇に慣れていない中、何やらいくつかの人影がうごめいているのがかろうじて見える。

 

 相手は士郎が想像もできないような高度な魔術を一瞬で発動してセイバーに打ち込んでいる。

 

 しかしその攻撃がセイバーには微塵も効いている様子はない、そのまま突進するセイバーから、かばうように誰かが魔術師の前に出る。

 

 闇に目が慣れた士郎は今まさにセイバーが人を切り殺そうとしていることに気付いた。

 

 誰かが誰かの命を奪おうとしている。それに気づいた士郎は後先も考えずに叫ぶ

 

「止まれセイバーーーーーーーー!!!」

 

 瞬間に手の甲に軽い痛みが走り、そしてその痛みに反応するようにセイバーの動きが瞬間的に硬直する。

 

「なっ!?」

 

 セイバーの剣は止まった。しかし、それは攻撃された者が助かったことにはならない

 

 

 ちょうど雲間からでた月の光が照らすその光景は凄惨だった。

 

 

 男の仕立ての良かったのだろうワイシャツは血まみれで、両腕は力なくぶら下がっており、執念だけで手に剣と盾を握る。

 

 動きを止めたセイバーの剣は男の首の中ほどまで食い込んでおり、のどに突き刺さった剣が膝に力の入らない男の自重を支えていた。

 

 いっそそのまま振りぬいてしまえば楽に死ねただろうに男は苦悶の表情を浮かべ、口の端からは赤い泡を吹き出している。

 

 あの男はもう助からない、士郎はそう思った。

 

 しかしその残酷を超えておぞましいというべき光景を士郎は見てしまう。

 

 何と男は無理やりにのどに生えた剣を自力で動いて引き抜こうとしているのだ。にちゃにちゃと肉がこすれる音、男は片手で傷を押さえて剣を体から抜き取ると、そのまま平然と片手で持っている剣をセイバーに向けた。

 

「止めろ!」

 

 思わず声に出してしまうが今度は動きを止めることなくそのまま剣をセイバーの悔し気な顔に振りかぶりっている。

 

「待ちなさい、バーサーカー」

 

 しかし剣が今まさに振り下ろされる正にその時、男は急にその動きを止める。

 

 士郎はその目線の先を追うと、魔術師と思われる人影がいた。そして何やらしばらく見つめあうと、納得したような顔をしてセイバーから離れていく

 

 が、その男は取り返しのつかない無理をしすぎていたのだろう、剣という栓が外れた首から、血をあたり一面に吹き散らしてしまう。

 

 血を喉から吹き出しながら叫ぶ男の断末魔は喉から空気と一緒に抜けてしまい滑稽な風切り音を鳴らし、男は空気に溶けるように消滅した。

 

 その男の最期に士郎は気を取られ、呆然としてしまう。

 

「ごほんッ!」

 

 そしてわざとらしい咳払いと足音に意識を戻した。

 

 士郎はセイバーと戦っていた魔術師がこちらに歩いてくることに気付く、……そして、士郎はその魔術師の姿に見覚えがあった。

 

 

 

「こんばんは、衛宮君」

 

「おっ……おまえ!遠坂!?」

 

 

 彼女のあまりも場違いで完璧な笑顔にとうとう彼の頭はパンクしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バーサーカーが遠坂邸で目覚めた時、すぐに彼女の元へ向かう。

 

 バーサーカーがセイバーを殺そうとした時、凛からの念話でセイバーを殺すのを止めるように指示があった。

 

 バーサーカーも自分が死ぬ間際でチャンスは今しかないことを伝えたが死んだら姿を隠してついてくるように言われるだけである。

 

 バーサーカーも彼女の意図は不明だが従わない理由はないので先ほどの屋敷のあたりで待機した。

 

 すると凛からの念話がバーサーカーに届く、その内容を列挙する。

 

 どうやらあの殺し合いの場でなぜか話の主導権は彼女が握ったらしく、そして今は聖杯戦争に巻き込まれた例の少年に状況を説明をしている最中であること

 

 そして凛の聖杯戦争の説明のさなかどうやら少年、衛宮士郎は魔術師の中でも素人であり、魔術は強化の魔術しか使えず、聖杯戦争なんてものも知らないほぼ一般人に近い魔術師もどきであること

 

 あまりの素人ぶりに少年のサーヴァントであるセイバーもおかれている現状を理解させた方がいいだろうと凛の提案に乗り、聖杯戦争に最も詳しい監督者のもとに士郎を連れていく運びとなっていること。

 

 

 そのことを知ったバーサーカーは命令通り、凛たちのもとへ向かった。

 

 そうしてなんとかたどり着くと、セイバーが士郎に自分を女の子扱いするのをやめるよう言ってそれを士郎が拒み、凛がそれをからかうなど、先ほどの殺し合いが嘘のように多くの雑談をしながら歩いている姿を見かけ、奇妙に思いながらもバーサーカーは追跡を始める。

 

 道中セイバーがこちらの方に目を向けることが何度かあったがそのたびに凛のフォローで何事もなく、彼は目的地の丘の上の教会に到着した。

 

 いざ中に入ろうという時セイバーが教会内でなく外で待っていると話したため、士郎たちは何やら話し込んでいるようだが、バーサーカーは教会付近に書かれたメッセージに気を取られる。

 

「この先、嘘つきがあるぞ」 「悪い奴の予感……」「卑怯者」「やっちまえ!」「この先、敵に注意しろ」「危険地帯」「この先、用心深さが必要だ」

 

 聖職者は屑ばかりだと言ったのは誰の言葉だったか、バーサーカーはこの先の教会にいかなる曲者が待っているのか想像しながら、今回はメッセ―ジを凛に伝えた。

 

(一応は教会内で襲われることはないと思うわ、警戒すべき奴は恐らくアイツね、バーサーカーもここで待ってて、あのクソ神父は食わせ物だから、下手に自分のサーヴァントの情報を見せたら敵に売られかねないわ)

 

(わかった)

 

 バーサーカーは凛にとってこの戦争の監督者が兄弟子であり師匠であり後見人でもある存在ときいていた。だからであろうかクソ神父と言いながらもその響きにはどこか親しみを感じさせたのだが今の会話で違和感を覚える。

 

(しかし、クソ神父か……、クソ神父という言葉を最近どこかで聞いた気がするのだが……何か重要な……)

 

 その疑問はついぞ分からずにマスターたちがそれぞれ帰ってくる。

 

 そのまま士郎の元にセイバーが駆け寄る。士郎がどのような選択をしたかでセイバーの今後は大きく変化するのであるから彼女の目にも不安が見える

 

 しかし少年の目には強い決意が浮かんでいた。セイバーを見据えると真摯な態度で自分の決意を伝えた。

 

 

「俺に務まるかどうかは判らない、けど戦うって決めた。俺がマスターってことで納得してくれるかセイバー」

 

 そういって少年は右手を差し出す。

 

 セイバーはその右手をまじまじと見て握り返すと

 

「納得も何も……、私のマスターは初めからあなたです。再度誓いましょう。私はあなたの剣になると」

 

 

 バーサーカーの感性は既に干乾びてはいたがこの光景はなんとなく美しいものであるとは感じた。

 

 同時にバーサーカーは自身の境遇を振り返り、意味はないのだが凛を見る。

 

(……なによ)

 

 姿を見せていないのだから視線など分かるはずもないのだが恐ろしいほどの正確さで睨んでくる凛

 

(なんでもない)

 

(嘘ね、気配があったわ)

 

 気配とは衣擦れの音や些細な足音のような感知できない情報を無意識的に認識することであって、それをすべて断っている自分の視線に気付ける彼女は何者であろうかと凛に畏怖したバーサーカーは大人しく考えていたことを話す。

 

(ただ私が初めてマスターに手を伸ばしたときのことを思いだしていた)

 

(もう一度したいのかしら?)

 

(貴公とのそれは美しい思い出だ。どんなに尊い物も繰り返せば醜悪になってしまうと思わんかね)

 

(気付いたけど、あなたって追い込まれると饒舌になるわよね)

 

 

 そうして凛が握手をし続ける二人に茶化すように声をかけ、家路へ着くことになる。

 

 なんにせよこれで七つのクラスが揃った。バーサーカーはまだセイバーとランサーしか会っていないが自分を除けばあと四人のサーヴァントがいる。先は長い、バーサーカーは今後のどのように行動すべきかを今までのことを含めて考えた。

 

 この時、敵のことについて考えていたからかバーサーカーは凛に伝え忘れていることを思い出した。

 

 (二回目の接触でランサーに私の不死性がバレたかもしれないと話していないな……)

 

 凛の方へと意識を向けるとちょうど士郎と何やら話しているようだ

 

「だからあのクソ神父の胡散臭さはね……」

 

 どうやら先ほどの教会の監督者について少年と話をしているらしい、クソ神父と連呼する彼女の話の切れ目を待って、ランサーへの今後の対応を考えているとふとバーサーカーの脳内に電流が走る。

 

(ランサー……、クソ神父……、どこかで……、あっ……)

 

 この時ランサーとの初戦、バーサーカーの死に間際にランサーが言っていたことを思い出す。

 

 

 

冥土の土産に教えてやる。我が名は、うるせぇ黙ってろクソ神父! ……俺の名はクーフリンだ。誇るといいぜ

 

 

 この時、バーサーカーはランサーのマスターが神父という立場である可能性に気付く

 

(迂闊だった……。もしやマスターの師匠なら魔術師でもあるはずだ、ランサーとつながっている可能性はある)

 

 そしてその可能性をすぐさま凛に報告する。

 

 凛はこちらの話を一通り聞くと

 

(もし神父という立場の人物がマスターならあいつがそうである可能性は高いわ……)

 

(奴なら監督者でありながら聖杯戦争に参加するなんてこともやりかねない腹黒さよ)

 

(そうか……、それなら先ほどのメッセージも納得する……)

 

(でもねそれは置いといて……、いいかしらバーサーカー?)

 

 バーサーカーは凛の話し方に不吉の予兆を感じる。

 

(……なんだマスター)

 

(このこと、バーサーカーが報告してくれればすぐにわかったことだと思わないかしら)

 

 念話越しであるはずなのに彼女の満面の笑みをバーサーカーは幻視する。

 

(……不死人は死ぬと少し記憶の摩耗が……)

 

(ホウレンソウっていったわよね)

 

(ランサーの話はホウレンソウの約束以前のできごとだった……。それに結局、気付くことができた、これは誰もあずかり知らぬノーカウントな事象というものだと思わないか?)

 

(い っ た わ よ ね)

 

(……)

 

(今はあなたに罰を与えないわ………………、私の罰であなたの不死性がセイバー達にバレるといけないものね……)

 

 つまりそれは私を殺すという意味だろうかとはバーサーカーは恐ろしくて聞けなかった。

 

(心が折れそうだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく歩いた帰り道、凛と士郎、二人の家の分かれ道につく、凛は明日から敵になるのだと士郎を突き放すが、士郎は出来れば敵にはなりたくないと凛の言葉も暖簾に腕押しで、二人の会話は夫婦漫才じみていて明日から殺しあう仲になる者同士になるとは思えない。

 

 バーサーカーから見れば凛は完全に士郎に情が移ったように見える。そのことを念話で伝えれば凛が強く怒り、士郎に八つ当たりをする。さらにはセイバーも士郎に聖杯戦争の心構えについて説教を始め、会話に収拾がつかなくなる。

 

 そんな時に

 

 

「――ねぇ、お話は終わりそう?」

 

 コロリと鈴のような声が通る。その声に全員が坂道の上に目をやる。

 

 そこには月を背にした巌のような巨人とその傍に立つ少女がいた。

 

 銀の髪を持つ妖精のような少女と鍛え上げたでは足りないほどの体の厚さと太さを持つ大男

 

 そのアンバランスな組み合わせを除いてもそこに立つ男はあまりにも強烈だった。英霊というものは只人のなかにいて埋もれない存在であるが、彼はその英霊の中にいても際立つ存在感であろうことが本能で理解させられる

 

 一目見たその雰囲気だけで彼が物語の主人公じみた英雄だと理解させられ、まるでこちらが退治されるべき悪ではないかという妄想をしてしまい、受ける圧力は背骨と氷柱を取り換えられたような怖気をこちらに植え付ける。

 

「うそ……、あいつ桁違いだわ……」 

 

 つい口からでた凛の言葉はポロリとこぼれた何の力もないつぶやきだった。それは明らかな絶望を前にした人間が話す悟りと諦めを含んだ声と似ていると感じられた。

 

 銀色の少女が口を開く

 

「こんばんは、お兄ちゃんは二回目だよね、リンは初めまして、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンっていえば分かるかな」

 

 凛はその言葉に聞き覚えがあるようで、反応を示す。幼い少女はそれをみてうれしそうにしてこちらを見ると

 

 

「じゃあ殺すね、やっちゃえ、アーチャー」

 

 歌うように逃れえぬ死刑宣告を読み上げる。

 

 瞬間、巨体が坂から落ちるようにしてこちらに迫る。

 

 反応できたのはセイバーしか居なかった。セイバーが坂を駆け上がり敵とこちらの中間地点で接敵し小爆発がおきる。

 

 そのままアーチャーとセイバーによる暴風にもにた剣戟が繰り広げられる。

 

 すぐさま凛の元へと行き、バーサーカーは凛に提言する。

 

(敵のサーヴァントは強く、マスターは躊躇いがない、セイバーもランサーと戦って本調子でない、共闘するにしても勝ちの目は薄い。マスターは逃げたほうがいい)

 

 バーサーカーが見るに凛と士郎はアーチャーを見た時から冷や汗が止まっていない、それは恐怖か怯えか、彼我の戦闘力との差が優秀な彼女なら良く分かっているはず、状況から考えて凛は提案をすぐに飲むと思っていた。

 

(戦うわ)

 

 しかし返答はシンプル。顔をしかめながらもバーサーカーへ向けた煌々と光る凛の目はまぶしいほどまっすぐにこちらを射抜いていた。

 

(敵は強い、なぜ戦う?)

 

 バーサーカーはなぜと問いながらも一つの答えしか望んでいなかった

 

(相手が強いことが諦める理由にはならないわ)

 

(まさしく、その通りだマスター)

 

 怯えて恐怖し、それでも強敵に立ち向かおうと決意したのだろう。その在り方はどこかバーサーカーを強く共感させた。

 

(リン、ここで全滅してもし私がまだこの世界で甦ることがあったなら我が名にかけて必ず仇を討とう、必ずだ)

 

(縁起悪いわね……、そもそもあんた自分の名前覚えてないでしょう)

 

(では私のソウルにかけようか)

 

(はぁ……)

 

 どうやらバーサーカーなりの覚悟は凛に伝わらなかったようだが彼は気にせずに動き出す。

 

 彼はアーチャーを見た時から途方もない強敵と位置づけていた。したがって彼のとる選択は一つ

 

 彼は姿を隠したまま武器の一つである大弓を取り出し。敵を狙いやすい位置取りをする。

 

 バーサーカーは常人を超えた膂力でなければ扱えない大弓を構えて大きく引き絞ると狙いを付け始めた。

 

 見えない場所から強力な一撃を加える。いかなる強者といえど不意をつく一撃を避けることは困難、二対一ならなおさらである。

 

 隠れた姿で敵を射撃する。バーサーカーの行う戦法は王道を好むものにとっては卑劣ではあるがその合理性ゆえに不死人達の常套手段でもあった。

 

 しかしその卑劣に輪をかけて卑怯な意図を持って矢をさらに絞る。

 

 バーサーカーは幼い少女の顔面にためらいなく矢を放った。

 

 協力者(サーヴァント)ではなく世界の主(マスター)を消す。幼い少女の顔を吹き飛ばすなど全うな英霊たちならば顔をしかめるが不死人には関係ない、不死人にとっては当たり前の行動理論により矢は直進する。

 

 不意はついた。

 

 矢は弓を離れて敵のマスターに向かう、バーサーカーは攻撃が通ったと考え視界の端でとらえていたアーチャーの方を見る。

 

 アーチャーは先ほどからバーサーカーに一目もくれずに棍棒を片手にセイバーと戦っていてこちらに注意を向けてはいない

 

 セイバーとアーチャーの戦いはアーチャーが優勢で進んでいるようだ。

 

 弓兵がなぜか棍棒でセイバーと武器を交えて、そしてあまつさえ圧倒している。

 

 バーサーカーの矢が弓から離れた時にアーチャーはセイバーの体を弾き、その一瞬の間に弓矢をとりだし見当違いのところに構えようとしていた。

 

 バーサーカーの視界の端ではアーチャーが弓を構えようとして次の瞬間その手先がブレて見えなくなる。

 

 全く同時にバーサーカーは腹部に強力な衝撃を感じて地面に転がっていた、

 

 気配を断ったのになぜあんな適当な射撃で正確にこちらを撃ち抜いたのかは分からない、わからないが当ててきたのだから相手はこちらの場所が分かると認めるしかないだろう、しかしそんなことよりもバーサーカーにはもっとわからないことがあった

 

(なぜ矢があたってないッ!)

 

 大矢は少女にあたる前に消し飛んだ。事実だけ並べるなら、アーチャーが射った矢がバーサーカーの大矢とバーサーカーの腹部を吹き飛ばしたという結果である。

 

(ありえないほどの速度だ、あの一瞬で二射したのか?……、飛んでる矢に別の矢をぶつけるなどインチキも大概にしろ)

 

 しかし思考は弓矢の衝撃以外の要因としか考えられない内臓の酷い苦痛で遮られる。

 

(クソッ、弓矢に毒か!)

 

 バーサーカーは酷い激痛を感じながら矢を抜いてエスト瓶をあおり苔玉を飲み込むが少し収まったと感じた瞬間、毒がぶり返してきた。毒消しが効いていないのは明らかでこのままではジリ貧で消滅する。バーサーカーは指輪を変え必死に回復と解毒を繰り返す。

 

 時を同じくして、アーチャーと相対していたセイバーも鮮血を流し剣を杖に何とか立っているほど追い込まれていた。

 

 その姿では相手の攻撃を避けることもままならない

 

 それに対してアーチャーは全くの無傷、難なく叩き伏せたセイバーから距離を取りそのまま命令を待っている。

 

 あまりに一方的な展開を見ているイリヤは心底どうでもよさそうに声をかけてくる

 

「なんだか他にもネズミがいたみたいだけど、まぁ勝てるわけがないよね、アーチャーはギリシャ最大の英雄なんだから」

 

 その言葉に凛が反応する。

 

「ギリシャ最大の英雄ってまさか……」

 

「そうよ?私のサーヴァントはヘラクレスなの、あなたたちとは違う、私の最強の英霊よ、どう、お兄ちゃん絶望しちゃった?」

 

 その名はヘラクレス、ギリシア神話に登場する半神半人の英雄だ。彼は多くの英雄の中で……いや、おおよそ全ての英雄譚の中でも有名な英雄といってもいいだろう、英霊としての格は上の上、最強のサーヴァントといってもそれは全くの自惚れではない

 

 その場にいる誰もが息をのみ言葉を出せない、このまま少女が命令を下せばそこにある命がすべて刈り取られるだろうと皆が確信している。

 

「じゃあもうセイバーは邪魔だから……」

 

 士郎はその一声を聞く前に駆け出しセイバーの前にかばうように立つ、あるいは彼が身を犠牲にすることでイリヤが引くという活路もどこかの世界ではあったのかもしれない、しかし高い技量を持つアーチャーは士郎を無視し、少女の命令通りに不要な他人を傷つけないでセイバーのみを撲殺できるだろう。

 

 イリヤが続きの言葉を口に出そうとする。

 

 

 

 

 

 

「マスター、ヘラクレスとはどのような奴なのだ?」

 

 

 

 

 

 

 だからこんな場面で口を開け、こんなことを聞くことができる奴というのは間違いなく狂人の類(バーサーカー)だろう

 

 バーサーカーはいつの間にか距離を置いた場所から姿を表していた。

 

 

「――――は」

 

 あまりにも場違いな質問を真剣な声色で話すバーサーカーを見て、誰かの引き攣るような息の音が聞こえる。

 

 バーサーカーの存在を認識し、それを聞いたイリヤは目を丸くして、一拍おいて破顔する。

 

「ふっ……、うふふ……、あーはっはっはっは、 嘘でしょリン、あなたいったいどんな田舎サーヴァントを召喚したの!弱すぎて冗談でも面白すぎるわ!!」

 

 英霊は現世の知識を与えられる。英霊でヘラクレスを知らない英霊など相手の顔も分からないほど狂っているかモグリでしかありえないので、これは高度な冗句か実力差を考えられない身の程知らずの挑発だろうと真っ青な凛以外全員は考えるだろう。

 

「ふふ……」

 

 イリヤはまだ笑いを止められないようでゆっくり息を整えてから見下すように話す

 

「いい?ヘラクレスの偉業を知りたければ、今すぐ夜空を見上げればいいわ、その空に浮かんでいる星々がヘラクレスの偉業を示しているわ」

 

 ヘラクレスはネメアーの獅子を絞め殺してしし座に、猛毒と切ってもすぐ生え変わる9つの頭を持つヒュドラーを岩の下に埋めてうみへび座に、他にも3つの頭を持つ犬の化け物ケルベロス、ディオメーデースの人喰い馬、そのほかにもヘラクレスの倒した怪物はもっといる。

 

 イリヤは彼の功績を次々と歌うように語る。

 

 ヘラクレスは一体でも打ち取れば英雄として名を遺す偉業を幾度となく成した男、正真正銘、英雄の中の選りすぐり、それに敬意を払うことをしない英霊などいないだろう

 

「なんと……、それはすごい……」

 

「分かった?あなたみたいな木っ端のサーヴァントとは違う本物の……」

 

 バーサーカーはイリヤの方に体を向け、アーチャーに顔だけを向けると

 

「つまり貴公は倒した敵を星にしてしまう力を持つ英霊ということか?」

 

「……は?」

 

「違うのか?ずいぶん煌びやかで豪壮な力だと思ったのだが 」

 

 あまりの頓珍漢な回答に誰もがバーサーカーを見る、凛たちは今度は息を飲むこともできずにバーサーカーの正気を疑うという益体の無いことをして、イリヤは一気に殺気立ちバーサーカーを睨みつける。

 

 アーチャーは初めから今に至るまで無言、しかし今まで目も向けなかったバーサーカーを初めて観察している。

 

「道化も過ぎると不快よ……、あなた」

 

「……んく」

 

 バーサーカーはイリヤの話をよそに何やら先ほどから瓶を口に傾けて合間に紫色の塊をむしゃむしゃと食べている。その態度にイリヤの我慢は既に限界だった。

 

「もしかして私達、あなたに馬鹿にされているのかしら……」

 

「こっちは真面目だ」

 

 そもそも彼は英霊という意識もなければ異次元の星辰がやれヘビに見えるだの獅子に見えるなど知るわけがないので心からの疑問を聞いただけなのだが

 

「アーチャー、こいつ殺して、ただ殺すだけじゃだめ、粉々に叩き潰して」

 

「それは無理だな」

 

「……あなた自分が何言ってるか分かっているの?」

 

 イリヤの怒りはもはやこの礼儀知らずの死でしか贖われない、そうイリヤは考える。

 

 

「いや毒でもう死ぬ、神経毒と出血毒……、これはヘビ毒か?」

 

 

 だというのに当の本人が簡単に死ぬと言って死ねばイリヤの立場はないだろう

 

 何やら独り言を言い始めるとバーサーカーは鎧の隙間から血を流し始める。もしも兜がなければそこには目と口の粘膜から多量に出血しているバーサーカーが見えただろう

 

 そしてそのまま頭から地面に倒れこむと同時に空気に溶けて消えてしまう

 

 消滅してしまったバーサーカーのいた場所をイリヤは唖然とした顔で見ていたが不機嫌そうな顔になると凛の方を向いた。

 

「御三家であんな英霊でもないような雑魚を出すなんて、没落具合は間桐もそうだけど遠坂家はもっと酷いわね、もう場所だけ貸してればいいわ、私たちの聖杯戦争に関わらないで欲しいわ、リン」

 

 その言葉は苛立ちからの侮蔑でなく魔術師としての本心から、迷惑だからやめてほしいという真剣さが含まれていた。

 

 だから凛も何も言い返せなかった。自分のサーヴァントが異世界から来た不死身の騎士様だとは

 

「まぁもともと挨拶ぐらいのつもりだったんだけどね、いまお兄ちゃんをすぐ殺しても楽しくないから取っておくわ、他の人に殺されちゃだめだよ」

 

 私が殺すから、そう少女は言い残すと去っていった。

 

 残ったのはボロボロになったセイバーとそれに手を貸す士郎、それと凛

 

 凛は少し前から考えていたことを士郎に伝える。

 

 

 

「衛宮君、私達手を組まない?」

 

 

 

 

 

 

 その声は震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、竜牙兵達に殺されかけるダクソ主人公
何にせよ各話一回は死ぬ

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