Fate×Dark Souls   作:ばばばばば

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3話

 遠坂凛は夢を見る。

 

 その夢には音はなく誰かの目線から見た世界であるようだ。

 

 見える景色からは岩肌が後ろへと素早く流れていく

 

 その動きからどうやらこの景色の主はなにやら走っているらしいと凛は思い至った。

 

 しかしよく見ればその景色はひどく揺れており、どこか必死さを感じ、それを疑問に思っていると目線の主が走りながらに後ろを向くことで景色が変わる。

 

 そこにはぼろきれのようなローブをまとい、手には小刀を持つ者たちが数人が映っていた。

 

 ここで凛はこれがただ走っているのではなく逃走であると気付く

 

 追いすがる者たちの顔は皺だらけで歪み切った顔であるが、その中で殺意を持つ目線だけがまっすぐにこちらを見ている。

 

 視界の主は必死に逃げているなかで目線の先に切り立った斜面が見えた。

 

 どうやらそこから飛び出して追っ手を撒こうとしているのだろうか、なけなしの体力を振り絞って加速を試みようとしているが視界の主は走ることに集中しているのだろう。

 

 右の岩、その人影が見えていない

 

(あっ……)

 

 瞬間、目の前の物陰から急に男が飛び出した。

 

 男から鉈が素早く振り下ろされ、騎士は男から一撃をもらう、しかしローブの男の一撃は軽く、鎧の最も厚い肩の部分に阻まれてケガらしいケガにもならない。

 

 

 だがそれは確かに騎士の命を奪う一撃だった。

 

 

 その一撃で立ち止まったところで後ろから敵が追いすがる。

 

 

 その後の展開はあまりにも順当なもので、男たちは直ぐに逃亡者を引き倒し、めいめいの獲物を突き立てる。飛び出す血しぶき、あざ笑う男たち

 

 視界が小刻みに震えているのは痛みの絶叫からだろうか、目の前には錆びた板のようなナイフをこちらの顔に振りかぶる敵の姿が見える。

 

 そのこぶしをおろしたナイフの切っ先を見つめ続け、左の視界が消失し、視界が全く動かなくなった。

 

 視界の主は死んだのだろう、滑稽なほど哀れな死にざまとしか言いようがない

 

 視界はゆっくりとぼやけていき、今まで見た何よりも深い暗黒が視界を包んでいくのであった。

 

 

 そこで遠坂凛は夢から目覚める。

 

 

「……」

 

 

 おおよそ最悪の目覚め、体は冷や汗で冷え切って、気分はすこぶる悪い、彼女の萎える気力の中で何とか部屋から這い出るとドアの前には原因と思われる奴がいた。

 

「目覚められたかマスター、昨日の探索の報告がしたい」

 

 サーヴァントとの契約ではマスターとサーヴァント相互に魔術的なつながりができる。おそらく先ほどの悪夢はこの騎士の過去だろうと彼女はあたりを付ける。

 

「どうされたのだマスター?」

 

 しかしこの男、部屋の前で微動だにせずにいつから待っていたのだろうか

 

「まだ寝起きで本調子ではないようだが重要な話だ。敵と遭遇し交戦、私は負けたが敵の情報は得た」

 

 思いがけない言葉に凛の意識は直ぐに覚醒する。

 

「詳しく話して」

 

 そして語られる情報は彼女の想像よりも価値のあるものであった。

 

 

 

 

「なるほど、クー・フーリン……、ケルト神話の半神半人の英雄ね……」

 

 彼女は敵ランサーについて考察する。

 

 アイルランドの大英雄、バーサーカーから聞いた戦闘の情報からも間違いなくランサーのクラスで現界しているだろうと彼女は考える。

 

 戦いにおける情報の優位、ここで敵の真名が割れたのは凜にとって大きなアドバンテージであった。

 

 彼女が思考を巡らせているとバーサーカーがふいに声をかける。

 

「そのことだが一つ質問してもいいだろうかマスター」

 

「なに?」

 

 今までの彼の質問は現状の確認かトンチンカンなものだけなので思わず身構える。

 

「何というか……、私とランサーは霊体、……つまりは同じサーヴァントなわけだな?」

 

「そうね」

 

「なぜ、同じサーヴァントでこちらは凡百の不死人、あちらは神人なのだ?」

 

 至極真っ当な質問であるがその疑問は彼女がはるか昨日ぶりに怒りとともに飲み込んだものである。

 

「どうしてもよ、聖杯の選ぶ英霊だってピンキリなの、言っておくけどあなたをサーヴァントとして能力を五段階で評価して、その能力は一番下よ」

 

「うむぅ……しかし私も筋力なら自信が……」

 

 筋力E+が何を言っているのだろうか、小さくついた+を自信と表現するのは大胆すぎると凜は心で毒を吐く。

 

 このどうしようもない状況からか、つい彼女は愚痴を呟いた。

 

「あなたの敵対する全ての敵が貴方の能力の全てを超えているわ、そもそも宝具もないし、霊体化だって……、英霊としてできることの方が少ないんじゃない……」

 

 

 思わずきつい言い方になってしまったと彼女は気づく、相手は自分の命令をくみ取り、最大限その命令を完遂した。

 

 それに対しての自分の言動が礼を失しているのではないかと彼女は少し思ったのだ。

 

(いいすぎたかしら……)

 

「……」

 

 思わず話を止めて顔色を窺う

 

「どうした? マスター」

 

 バーサーカーは全く気にした様子もなく、凛の罵倒にも近い分析をまるで何でもないという顔で聞いていた。

 

「……あんたこんなに言われっぱなしで怒らないの?」

 

 英霊と呼ばれる存在ならプライドの一つぐらい持っているものだろうと続けて彼女は問いかける。

 

「なに、私は間違いなく弱者だ。事実ならば怒ることもないだろう」

 

 帰ってきた言葉はさっぱりとしたもので、彼女にとっては普通に言い返されるより心にきいたのだろう、彼女はごまかすように話を続けた。

 

「……そうね、でも助かったわ、あなたが持ってきた情報の価値は大きいもの」

 

 事実を事実のまま受け入れられる人間は少ない。

 

 事実とはそれだけで直視し難く耳に痛い、それをできる人間はただの阿呆か、それとも……

 

 

「まぁ私は強敵との勝ち負けを勝ち数で競うなら、まだ誰一人として勝ったためしはないからな」

 

「……そう」

 

 

 どうやらこれはただの阿呆であると彼女の冷静な思考は判断を思いなおした。

 

「しかし今後、私は何をすればいい? 引き続きの囮か?」

 

「そうね、本当だったら霊体化して私についてきて欲しかったのだけど……あなたできないでしょ」

 

「いや待て、それについては昨日から考えていたことがある。つまり周りから見えずに行動を共に出来ればいいのだろう?」

 

 

 ―――私にいい考えがある。

 

 

 などと全くいい予感を微塵も感じさせない一言を放ち、そのまま騎士は何やら準備をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 肌寒い空気が痛いくらいの冬の朝、遠坂凛は、学び舎までの道を赤いコートに身を包みながら歩いている。

 

 

 彼女の通学はいつも一人、もちろん今日も連れなどはいない

 

 見かけには……

 

 彼女が庭付きの家、その前に飼われている凶悪な顔をした番犬の前を歩くとき、番犬は狂ったように彼女の方を吠え出した。

 

「グゥルルルゥ……ワンッ‼ ワンワンッ‼」

 

 しかし、よく見るなら犬が吠えているところは彼女ではなくその後ろに向かって吠えていることがわかるだろう。

 

「ワンッ‼ワンッ‼ワンッ‼」

 

 とうとう彼女が通り過ぎても番犬は誰もいないところを吠え続け、よだれを振りまいている。

 

 誰も気づくことは無かったが、飛び散ったよだれが不思議なことに空中にとどまっていることに注意深い人間なら気づけただろう。

 

 次の瞬間、砂袋をたたいたかのような低くそして鈍い音が番犬に向かう

 

「キャンッ‼ ……キャウ~ン……」

 

(ちょっと!?、人の家の犬に何してるのよ!!)

 

 殴った数瞬に姿を現したのは甲冑の騎士、バーサーカーであった。

 

 「静かに眠る竜印の指輪」で音を消し、「幻肢の指輪」と奇跡「見えない体」の併用で存在を薄め、隠密状態で凛に同行していたのだ。

 

(よだれを付けたな……、絶対に許さんぞ犬カスども!!! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!! )

 

(ちょっ!? 急にどうしたのよ、ただの犬でしょ……?)

 

(この汚らわしい四足糞犬畜生め……)

 

(どうしちゃったのよバーサーカー?)

 

(マスターはこの糞足糞犬畜生をどうみるのかね)

 

(えっ……、犬は犬でしょ、人の家のペットよ)

 

(いいかマスター、この糞足犬糞糞が人類の隣人たり得ると本当におもっているのか)

 

 なぜ彼がここまで犬を嫌うのか彼女は一切わからない、一切わからないが彼女の明晰な頭脳はこの件に関わらない方がいいと判断する。

 

(このような糞糞糞糞糞なぞ死に絶えればいい……そう思わんか?)

 

(はぁ……)

 

(犬畜生め……、冒涜的殺戮者……、貪欲な血狂い共め……、奴らに報いを……、不死人の怒りを……、ギイッ!ギイイッ……)

 

(なんでこんなサーヴァントが来たんだろう……)

 

 

 

 

 彼女はバーサーカーなのだから狂化ぐらいするだろうと決め込み、道を急ぐ、しばらくしてバーサーカーが落ちつくころにはすでに学校の校門前だった。

 

さすがに人がひしめく教室までついていくことはできないため放課後までバーサーカーは学校という施設を一回りする。

 

 学校探索では敷地内にいくつものメッセージや血痕が残されていることにバーサーカーは気づいた。

 

(この場所はなにやらきな臭い、流石はマスターの学院だ……)

 

 

 

 そうしてバーサーカーが『危険=マスター=学校』という図式が出来上がり始めるころ、凛からの呼びかけがかかる。

 

 

 

(もう放課後よこっちにきて)

 

 バーサーカーは彼女のもとにすぐさまたどり着き、この学校の印象を話しだす。

 

「しかし、この学び舎なにやら不吉だな……」

 

「意外ね、あんたも結界に気づいてはいたのね」

 

 もちろん結界などそんなことは知らないバーサーカー

 

「結界だと? どんなものだ?」

 

「仕掛けたやつは分からないけど、もしもこの結界が発動したら恐らく魔術師でもない人間は死ぬわね」

 

「ならばここはすでに、敵の内、わざわざ来なくてもいいのでは」

 

「それは逃げよバーサーカー、誰が、どうしてこんなところに仕掛けたのかは知らないわ、でも私が管理するこの冬木の土地にこんな勝手をしたの……、報復はする、絶対よ」

 

 彼女の表情は変わらないものの言葉の端から強い怒りを感じる。

 

「結界自体の解除は難しいけど、こんな大きな結界よ。どこかに結界を維持するためにいくつか起点があるはずよ、それを探すわ」

 

「起点?具体的に何を探せばいい?」

 

「おそらくは何かの印が学校のどこかしらにあるからそれを解除するわ……、私も大体の場所しかわからないけど二人がかりならまだ楽よ」

 

 そうして起点を探し始めた二人

 おそらく時間がかかると凛は踏んでいたが彼女の予想はいい意味で裏切られた。

 

「見つけたぞ」

 

 バーサーカーが乱雑に散らかった物置からすぐにポスターの裏にある印を見つける。

 

「やるわねバーサーカー、あんたにそんな繊細な魔力探知の才能があるなんて」

 

「いや、私にそんな才能は無い、マスターが勉学に励む間、あからさまに怪しい場所にあたりを付けておいたのだ」

 

「謙遜しなくてもいいのよ、さっきから迷わずに見つけているじゃない」

 

 バーサーカーのおかげですぐに済むかもしれないそう考えていると

 

「これは別次元の不死人が残したメッセージを見ているだけだから、そう大したことじゃない」

 

「ん?」

 

 バーサーカーが何やら意味の分からぬことを言い出した。別世界への干渉など、第二魔法の領域なのだが言い間違いだろうかと彼女は聞き流そうとする。

 

「これのおかげで前もランサーに会えた。別次元でもおおよその道筋は同じらしいな」

 

「ん?」

 

 ―――こいつは何を言っているのか……

 

「あぁ……、つまりだな別次元だからといって基本のマスターは貴公なのだろう、おおくの先達の知恵を使えるのはかなり有利に……「ねぇ……」ん?」

 

「私、そんなこと初めて聞いたのよ……」

 

「不死人たちは次元のねじれた世界でお互いを助け合うために定型文でのメッセージを送りあうことができる。言ってなかったか」

 

「こっちの世界にはホウレンソウってのがあるのよ……Anfang(セット)

 

「急になんだ、ホウレン槍?」

 

なにやら言葉の響きに不吉な語感をバーサーカーは感じる。

 

「報告ッ!」

 

 彼女は騎士の胴に滑り込み肉薄する。

 

(この技は! 以前の!!)

 

 バーサーカーはすかさず凛と自分の間に腕の壁を作る。

 

「連絡ッ!!」

 

 その動作は全て円、流れるように腕を引く。

 

「相談よッ!!!」

 

 肉体の加速と魔術により、その拳は破滅的な速度で騎士の胸に置いた腕の上からも突き刺さる。

 

 一見すれば打撃、しかしその衝撃は鎧貫きの一撃より鋭くバーサーカーの胸を突き抜けていく、まさに強力な槍の一突きといえるだろう、ホウレン槍とはつまり奥義であったとバーサーカーは得心した。

 

 

「ホウレン槍……みごとな戦技だ」

 

 バーサーカーは膝をつきながら喀血して、凛への畏怖の念を強めた。

 

「ちがうわよ!!」

 

 その後、彼女の説教は続き、正しいホウレンソウの意味をバーサーカーは知って、ようやく情報の共有がなされていないことに怒っていたと彼は気付く

 

「あんたができること、知っていることをすべてと私に伝えなさい! 互いに情報を共有することが報連相よ!!」

 

「分かった。これからはホウレンソウは必ず守る……」

 

 バーサーカーが口から血を流しながら、震える手で何やら瓶のような物を取りだす。

 

「だがまず、これを飲ませてくれ……」

 

 その瓶はなにやらあたたかな色に満たされているが、バーサーカーはそれを傾け一口飲み込みこんだ。

 

「何それ」

 

「これはエスト瓶、これこそ不死人にとっての宝具といえるかもしれんな、分かりやすく言うとこれを飲めば不死人は手足が取れても内臓がこぼれていようと回復する」

 

「ちょっとまって、飲めば体が治るなんてどんな理屈かしら」

 

「その説明には不死人……、ダークソウル……、ソウル……とにかく長い話になるから時間があるときでいいだろう、大事なことは不死人が真に回復する方法は基本的に篝火か、このエスト瓶が主だと覚えてくれ」

 

「まぁ、今のところはいいわ」

 

「伝えるべきこととして、防具や武器については本当にいろいろあるが、何より重要なのは……」

 

 装備や武器と聞いて凛は思わず口を挟む

 

「その限界に近い鎧と剣以外を持ってたの?」

 

 言外にバーサーカーの持ち物がぼろだと言っていることに気づいたのだろう、彼は少しムッとしたようだ。

 

「まて……この長剣は見た目こそボロだが私の中の装備では一等級の性能だ」

 

 見た目は古いがその機能は強力、確かに古今東西そういう逸話をもつ道具もないわけではない、それに魔術的には古さと内包する神秘は比例する。

 

 バーサーカーの持つ剣や鎧もそういったものなのだろうと凜はあたりを付けた。

 

「見た目の古さぐらいに由緒ある剣だってことかしら」

 

「ちがう、そうではないんだ。この剣はもともと本当にただの剣だった。それに古いから何かを秘めてるわけでもない、ついでに言えば私自身の身体能力も、もとは人から外れてはいなかった」

 

 しかしその予想を裏切って、この剣はただの剣だったとバーサーカーは語る。

 

「どういうことかしら」

 

「さっきの話の続きだ、重要なのは私たち不死人はソウルの業を扱う、全ての生命はソウルを持っている。今は出来ないが、不死人はそのソウルを業によって武器、装備、自分の肉体さえも強化できる。他に道具の取り出しも物体をソウル化してやっているな、以前もらった服もあるぞ」

 

 バーサーカーは一瞬で以前渡した服に早着替えをして、さらに一瞬で甲冑姿に戻る。

 

「自分の強化や器具の強化……、つまりその鎧にも強化が施されているの?」

 

 魂の強化? もしそれが真実ならそれは第三魔法の領域では? いやまさかそんなわけがないだろうと凛は訝しむ、つまり自分たち魔術師とは違う魔術体系により強化された品々が彼の装備ということなのだろうと結論付けた。

 

「この剣と甲冑は昔から身に着けていた…………、気がする…………、とにかくこれが落ち着くんだ。立派な鎧だって本当にあるんだぞ」 

 

 どうやらボロの鎧は彼の趣味らしい

 

「……そう」

 

「ホントだぞ? まぁ、道具については、投擲武器、敵にも味方にも使う薬品、武器にあわせて使う物、特殊な物、持ってはいるが大半は使う機会は多くないと思うがな……」

 

「本格的には落ち着ける場所で話すべきでしょうけど、できるだけ説明してもらっていいかしら」

 

「ふむ……道具をいくつか説明するか」

 

 そういうと彼は古く脆くなった骨を出す。

 

「これは……骨?」

 

「篝火は遺骨によって燃えている……この骨片を使うことで不死者は篝火にいつでも帰ることができる」

 

「いわゆる転移ね、それは不死者にしか効果はないの?」

 

「ないな、使えるのは不死者である自分だけだ」

 

「まぁでも使いどころはありそうね」

 

 バーサーカーは骨をしまい次に白い枝を取り出す。

 

「確かにそうだな、次はこれだ。幼い白枝という、使えば場所にふさわしい何かに変身する。よく待ち伏せなどに使われていたな、恐らくこれはマスターも使えるぞ」

 

「変身術は珍しいわね、あとで使ってみてもいいのかしら」

 

「マスターになら道具の融通などしてもかまわない、大して使わないものも多いからな」

 

このような調子でバーサーカーは次々と見たことのない品々を紹介する。それは魔術師にとって興味深くあった凛は途中まで魔術師然として聞いていたのだが、最後に今回の聖杯戦争にまず使わないだろう鉱石の説明をすると凛の話の食いつき具合がひどく、バーサーカーは若干引いていた。

 

 

「いやもう石の話はいいだろうマスター……」

 

「いい!? あの光る鉱石を正しくカットして売り出せば、いくら儲かると思ってるの!? もっと石ないの!? 石!!」

 

「次は何にするか……、珍しいものだと、あっ……」

 

 バーサーカーが取り出したものは奇妙な模様が付いたこぶし大の石である。凛は魔術的な視点からこの石が今まで見た鉱石とは一線を画すものだと理解する。

 

「これも見たこともない鉱石だわ、すごい……しかも並外れた魔力を感じる……、これはなにかしらバーサーカー!」

 

「あぁ……、これはだな、輝く竜体石……、だったかな」

 

「竜体石ね、どんなものなの?」

 

「読んで字のごとく竜の体の中にあった石だ。使うと、力が上がる。あと……、まぁ素早くはなるな……」

 

 どうやら見た目通りの力を秘めているらしいがバーサーカーの歯切れはなぜか悪い

 

「すごいじゃない! これって私も使えるの?」

 

「やめてくれマスター!!」

 

「えっ……」

 

「ウム、竜の力は死ぬまで解けない、覚悟がなければ使うべきでないものなんだ」

 

「死ぬまで……、確かにそれは危険ね」

 

「あぁ、そうだ、そろそろ結界の印を探そう」

 

「あっ! ねぇ、バーサーカーなら何度死んでも大丈夫だから竜体石を使ってもいんじゃないかしら」

 

「それに気づいてしまったか……、君は頭がいいな……、いいかマスター、私はこの石はよほど切羽詰まった時しか使わない」

 

「そんなに強くいうならいいけど……、おそらく最後の起点は屋上よ」

 

 

 

 

 何もない屋上、しばらく探せばすぐに印は見つかった。そしてちょうど凛が印を消し終わるとき、空から何者かの声がかかる。

 

「消しちまうのかい、嬢ちゃん? もったいない」

 

 赤い槍を肩に担ぎ、こちらをフェンスの上から見下ろす青い槍兵。

 

「そこに姿を消して隠れてるあんたもそう思うだろ?」

 

 すぐさま距離を取り、入れ替わりに影が凛の前に踊り出る。だが目の前にいるのは全く知らない、生き物だった。

 

(えっ、バーサーカー?)

 

 硬化して干からびた黒い肌、鋭い爪の手には棘だらけの直剣を握っている、そして何よりトカゲのような顔に大きくねじれた角、まるで山羊頭の悪魔がそこにはいた。

 

 

「ウバシャァァァァァ」

 

 

 発する声にも一切の理性が感じられないまさに怪物

 

 

「そいつはバーサーカーかい、わかりやすいねぇ、なかなかに悪趣味な顔だ」

 

「グルルルルルル」

 

(うわ、キモッ……)

 

(聞こえているぞマスター、ここは危険だ早く距離を取ってくれ、奴は俺が引き付ける)

 

(やっぱりバーサーカーなのね……)

 

(私だ。こっちの面は割れているからな、どう見ても同一人物に思われないように竜体石を使うことになった……、くそッ!)

 

「おいおい、そんな顔で睨むなよ、俺はちょっとあいさ……」

 

 ランサーの言葉が言い終わらないうちにバーサーカーはフェンスに近づき「咆哮」を使う、音は空気を揺らす波となり周りの敵をよろめかせた。

 

 バーサーカーはバランスを崩したランサーにさらに切りかかり、フェンスの向こう側に落としにかかる。

 

「はっ……、結局は化け物か」

 

 落ちながらに余裕すら見せるランサーは軽々と着地し、続けてバーサーカーが落下しながら切りかかるがランサーは素早く避けた。

 

 剣を地面に突き刺して不気味に蠢くバーサーカーに不吉なものを感じてランサーは距離を取る。

 

「グルルルル」(落下の衝撃でダメージが……)

 

 実際、その震えは膝にダメージが来ているだけなのだが

 

 

 仕切り直しとなり、お互いに睨みあう中で先に動いたのはランサー、様子見の素早い突きが繰り出される。

 

 しかしこれはバーサーカーにとって初見ではない、勝手にランサーがこちらの実力を測っているうちがチャンスと考え、逆に前に飛び込み切り、仕留める勢いで切りかかる。

 

「おっと!」

 

 バーサーカーは剣を振りぬくが剣先は空をかすめるのみ、ランサーは突きの姿勢のままバーサーカーからの攻撃をそのまま避けたのだ。

 

(なんてむちゃくちゃな奴、化け物じみた動きだ……)

 

 体勢は崩れているならさらに畳みかけようと接近するとこちらに急所に正確に槍が振るわれ、それをよける形となり再びお互いに距離をとる。

 

(この戦いの勝利はランサーを倒すことではない、私が不死人であるという情報的優位のために私の存在が見破られないことが勝利条件だ。このまま時間を稼いでマスターが離脱すればあとは逃げるなりどうとでもなる)

 

 ランサーは対峙したまま口を開く

 

「おかしいな……貴様の剣は臆病とまで言える慎重な剣筋だ。バーサーカーなどにはとてもじゃないが似合わんな」

 

「グギャギャ……」

(バーサーカーではあるのだがな)

 

「さらに言うなら、つい昨日、同じような戦い方をする奴にあった」

 

「ギシャァ……」

(この流れは……、非常によくない……)

 

「おまえ……、昨日のサーヴァントだろ」

 

「……ウギャシャァァ!!」

(カマをかけているんだろ!……剣筋も何もまだ数回しか剣なんぞ振っていないんだぞ!?)

 

「おかしいな、お前は確かに昨日殺したはずだが、どうして死人が歩いているんだ?」

 

(糞……、私だと確信している)

 

 まさかこの短い間でバーサーカーの戦略が破綻するとは思っていなかったのだろう、内心の動揺を悟られないためにわざと大物ぶった態度で答える。

 

「大したものだな……この姿を見て私だと気付くとは、早速の敗北というやつだ」

 

 時間を稼ぐためには、話をするべきだとバーサーカーは必死に頭を巡らす。

 

「なぜ生きてる?」

 

「貴公が殺し損ねたからに決まっているだろう、クー・フーリン殿、……逆に聞きたい、ここの結界は貴公らの仕業か」

 

「はっ……、こんな陰気なもん俺のじゃねーよ」

 

「ならば、ここは敵の術中、あえて今、ここで戦わねばならぬ理由もあるまい」

 

 あわよくば手打ちにならないかとバーサーカーは期待しないものの聞いてみる。

 

「まぁ確かにそうなんだが……お前、俺を騙しただろ、お前の言った真名もクラスも嘘っぱちってわけだ」

 

「……さぁ、しかし、まさか嘘をついたから卑怯だとでも?」

 

「俺が勝手に騙されたことさ、恨みはないさ。だがな、テメーは騎士として名乗りその最後の時に自分を殺した敵の名を求め、俺が返した」

 

「それがどうした?」

 

「わかるか?テメーは戦士達の死の矜持を汚したってことさ」

 

 どうやらランサーはバーサーカーの死に際の振る舞いが戦士とやらを侮辱したと考えているらしいと気付いた。

 

 同時に死に方などにこだわるという行為にバーサーカーは思わず肺から息が漏れてしまう

 

「フフっ……、死の矜持か……、死が一度しか訪れないなら、それはさぞ尊いことだろうよ」

 

 バーサーカーはただおかしいから笑ったのだが、ランサーは嘲弄と受け取ったのか殺気を飛ばす。

 

「英霊としての誇りはないのか?」

 

「誇りなんてものだけは持たないという誇りならあるがね」

 

「貴様……」

 

 どうやらこれ以上の会話の引き延ばしは不可能だとバーサーカーは悟る。

 

 会話がなくなり、あたりは静寂包まれる。

 

 怒りからだろうか先に動いたのはランサー、槍の利点を最大限生かした間合いの外から連続した突き、それをバーサーカーは無様に転げまわりながらよける。

 

 反撃どころか剣を合わせようとせずに回避に全力を傾ける敵にランサーはさらに不機嫌になる。

 

「戦う気があるのか貴様!」

 

 もちろん、バーサーカーにそんな気はない、己の命でマスターが逃げるための時間稼ぎを作る以外の目的はないからだ。

 

「こんな戦いしてたら日が明けちまう、もうしまいにしようや」

 

 

 一度大きく距離を取り、槍をかまえたる。

 

 

 ランサーのまとう空気が変わる。

 

 

 バーサーカーに背筋に悪寒が走る。

 

 今までの経験から、次に来る攻撃が相手にとって、こちらを一撃で葬り去る何かをするつもりだと瞬時に理解する。

 

 

 不死人の常識としてこの場合、取れる方法は二つ、一つは妨害で行動を止めさせる。

 

 そしてもちろん彼は、迷わずもう一方の手段を取った。

 

 その気配に気づき、もはや回避というよりは逃走といっていいほどの速度で距離を取り出す。

 

「無駄なこと……」

 

 ランサーの疾走、それは距離があればあるだけその最高速度を更新し続け、あっという間にバーサーカーの前へと飛び出した。

 

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)

 

 

 バーサーカーは必死に回避は出来ないと、せめて急所だけは避けようと身を捩るがそれも無駄に終わる。

 

「あ?」

 

 バーサーカーはその一撃を心臓のど真ん中に受けていた。バーサーカーは膝から崩れ落ち、ぼんやりとランサーを見ることしかできない。

 

「霊核を砕いた。今度は迷わずあの世に行けよ」

 

 ランサーはバーサーカーを無表情に眺めていたが急にどこかに目を向けた。

 

「誰だ――――!」

 

 ランサーの体が沈み込み何者かを追う、その遠くの小さい人影を見ながら、バーサーカーの体は消滅した。

 

 

 

 




凛がバーサーカーを呼ぶということは本来バーサーカを呼ぶべき陣営がアーチャーを呼びます。

次回、究極完全体ラスボス・アチャクレスにボロカスにされるダクソ主人公


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