Fate×Dark Souls   作:ばばばばば

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2話

 

「嘘……、死んじゃった……」

 

 過去、未来で聖杯戦争が始まる前にサーヴァントがマスターを殺すという事例は数あるが、その逆を成し遂げたのは彼女が初めてだろう。

 

「どうすんのよこれ……」

 

 まさかあの程度で本当に消えると思っていなかった彼女は動揺を隠し切れない。

 

 聖杯戦争をサーヴァントもなしに勝ち抜くのは難しい、サーヴァントがいなければ彼女の聖杯戦争は残念ながらここで終わりということになる。

 

 

「貴公、狂っているのか……、急に襲いかかるなど」

 

「うぇっ、生きてる!」

 

「先ほどの攻撃は、じゃれあって死ぬことぐらいよくある話と思って事故としておこう、だがそう何度もやるのはやめて欲しいぞ……」

 

 

 しかし、騎士は生きていた。

 

 

「私は不死だと言っただろう」

 

「本当だったのね……」

 

「嘘など初めからついてない」

 

「……それにしてもどういう仕組みなのかしら、あなた完全に消滅したわよね」

 

「それはだな……、あれを見ろ」

 

 だが、男は殺されたばかりというのに別段背中を気にした様子もなく、すたすたと歩いていくと、立ち止まる。

 

「あれ?」

 

 騎士が指差す先には焚き木があった。しかも室内のカーペットの上に

 

「あれは篝火、不死人はあそこから蘇る。どうやら死んでも私は元の世界には帰らないようだ」

 

「ならあなたは何回死んでもペナルティは無いってこと?」

 

「いやある。一度死んだ私の生命力は落ちる。しかしこれ以上は死んでも下がらない、安心してくれ」

 

 

 彼女が見た所、耐久がEからE-へと下がっている。

 

 

「……安心ね」

 

 こいつは何を安心してほしいのか、ただでさえ低いステータスが更に下がったのだぞと、騎士殺しの張本人である彼女は考える。

 

「先ほどから私への態度が悪いが、もしかして貴公は私を間違えて呼んでしまったのか?」

 

「……そういうわけじゃないわよ」

 

「そうか」

 

 触媒を用いない召喚は狙った英霊を呼ぶことはできないが、呼び出した召喚主に性質の近い、つまり相性の良い英霊が呼び出される。

 

 そこまで彼女が考え、つまりこの英霊が自分との相性が良いと、聖杯に判断されたと気づいてしまい、つい口が開いてしまう。

 

「ありえないわね」

 

「どっちなのだ? やはり、呼ぶつもりはなかったのか……」

 

「……呼んだのは私よ」

 

「そうか」

 

 こんなボケボケの英霊が自分と似たようなやつとは考えたくない、彼女は思わず今後への不安からか父の形見のペンダントを見てしまった。

 

「あ……」

 

 しかし見てみるとそれは父の形見ではない。

 

「そのろう石のペンダント……、その白いろう石で私を呼んだのか」

 

 そのペンダントは彼女が使う宝石魔術の触媒、しかも怪しい老婆から上質な滑石と騙されて買ってしまった、ただのろう石のペンダントである。

 

 すぐさま彼女はペンダントを落とした場所を見る。底にちょうど転がっている灰を被った赤い宝石。

 

「間違えたッ……」

 

「やはり間違えて呼んだのか」

 

「だから違うわよ!」

 

「えぇ……」

 

 

 取り返しのつかないこととは、かくも些細なミスでおこるものであろうか

 

 つまりは儀式の失敗、なんでもないようなチョークの代わりにしかならない脆いクズ石を彼女は触媒にした結果、このボロボロな騎士を召喚したのだ。

 

 その事実に気づいた彼女は思わず脱力してしまう。 

 

「……もう今日は寝るわ」

 

「私はどうすればいい」

 

「…………あなた、まだ私に従うつもり? 私、あなたを少し邪険に扱ってたわよ」

 

 酷いことどころか一度殺した事実を捻じ曲げて少しだけ邪険と表現する彼女、しかし当の騎士は全く気にした様子はない。

 

「別に構わない、私は協力者で、貴公はこの世界の主だ、貴公の勝利が結果として私の勝利となる」

 

 その滅私の一言に彼女は思わず言葉に詰まる。思えばこの騎士の言動はふざけているとしか思えなかったがその態度は真摯だったと凛は気付く。

 

「……貴公じゃないわ、私はあなたのマスター」

 

「では私は貴公をマスターと呼ぼう、私のことは好きに呼んでくれていい」

 

「じゃあ貴方はバーサーカーよ」

 

「あぁ、よろしく頼む、マスターよ」

 

 ここに契約はなった。どんなに弱いサーヴァントでも使い所はある。過去は変えられないのならこれからを考えなければいけない。

 

 そう考え直して彼女が指示を出すのは素早い。

 

「死なないなら、どんどん外の敵の情報を集めるわよ、最悪、戦闘してもらってもかまわないわ」

 

「しかし、先程聞いたが、この時代の人々は鎧など着ないのだろう? 下手に注目を集めてしまうのは下策では?」

 

「そんなの霊体化して透明になればいいじゃない」

 

「霊体化とやらで透明にはなれない、方法がないわけでもないが私には完全な霊体での移動とやらはできない」

 

「そう……、もうあなたが何をできなくても驚くこともなくなったわ……、じゃあ服貸すからそれ使って」

 

 もともとここは古い物置部屋である。すぐに凜が埃を被った棚から適当な男物のシャツとズボンを取り出した。

 

「感謝する」

 

 騎士の装備が瞬間的に平服へと切り替わる。

 

 瞬間騎士の素顔があらわになる。

 

 その顔は一言で言えばミイラであった。

 

 全くの精気を含まず干からびた皮膚は骨の上に貼られただけ、その目はすでになく、虚ろな穴が開いている。この顔で外に出たら町中パニックは必至だろう。

 

「これで、目立たずに探索ができるな」

 

「そんなわけ無いでしょうが! なんで鎧が目立つことが分かって、その顔で外にでようと思えるのよ!」

 

「あぁ、そうだったな、しかしこれは指輪をつければ見た目だけは生者に見せかけられる。そもそも貴公が私を殺したからこの見た目になったのだぞ」

 

 そう言うと騎士の指の指輪が瞬時に切り替わり、おどろおどろしい顔も普通の人間のようになる。

 

 良くも悪くも特徴のない顔立ち、何か偉大なことをなしたとは思えない村人顔であった。

 

「それは……、悪かったわ、でもそれはあんたがあまりにもフザケたことを言うからでしょ」

 

「そうかここではフザケたことを言うと殺される世界なのか……じゃあ気をつけて行ってくる」

 

 間違ったこの世界の知識の訂正をする前に騎士は部屋を出ていってしまう。

 

 本当ならサーヴァントだけを危険な場所に行かせて自分だけ安全地帯にいることは彼女の哲学に反するが、バーサーカーが不死なこと、そもそも弱すぎてサーヴァントがマスターを守れないことを考えて一人で行かせる作戦を彼女はとる。

 

 

 

 ……なにより、もし二人同時に死んで、あのトボけた男だけが何食わぬ顔で蘇ることを想像したら、無性に腹が立つと考えたからという理由も彼女にとっては少なくない。

 

 

 

 

 

 こうしてバーサーカーによる探索が始まった。

 

 

 そして外に出たはいいがバーサーカーはふと疑問を持つ。

 

(そも、どうやって他のサーヴァントとやらを探すのだろうか……)

 

 考えてもしょうがないことに気づき、彼はとりあえずこの人里離れた屋敷から、光ある町へと降りていく。

 

 道は整備されており、襲いかかる獣はいない、次第にバーサーカーは町の中へと入っていった。

 

 町は常に街灯に照らされ、見たこともないような同じようで少し違う形の家屋が密集している。

 

(なんと奇妙な場所なのだ……)

 

 そんな風にあたりを見回しながら歩いていくと、前方から次第に人が近づいてくる。暗い夜に紛れる上下に漆黒の装い、怪しげな人物がこちらにゆっくりと近づきそして視線が交わった。

 

(くるか?)

 

 そして通り過ぎる謎の男、その正体であるスーツを着た会社員をバーサーカーは見えなくなるまで監視する。

 

(あの上下そろえた黒装束……、アサシンとやらではなかったのか……、いや、格式めいたものを感じる、儀礼用の服装にも見えたな)

 

 そうして続けて歩くうちに前方から強烈な光と唸り声とともに高速で近づいてくる物体。この狭い道では避けるのは難しい。

 

(あの速度…………当たってしまえば体がバラバラだ)

 

 ならばどうするか、彼は一瞬の内に判断を下す。

 

 彼の経験則では瞬間の判断で生き残れた確率はそう多くはなかった。

 

 しかし何もせずにいて生き残ったことは一度とない。

 

 そう考えた彼は相手を引き寄せてから一気に避けようと、道端に身体を寄せていつでも動けるように体に力を入れる。

 

(こい!)

 

 そしてそのまま通り過ぎる謎の物体、正式名称、普通乗用車は彼に当たるどころか大回りして避けて行く

 

(中に人が見えた、あれこそがライダーではなかったのか)

 

 そうして、ポストを警戒し、電車から身を隠し、警察から逃亡し、見るもの全てを疑い続けた彼は一つの結論に至る。

 

 

 

(平和だ……)

 

 

 物陰に隠れて命を狙ってくる敵も、こちらを殺さんとする悪辣な罠もない、久方ぶりの人々の営みの光、活気溢れる街、どれも彼の世界が失ってしまったものである。

 

 彼は過度の警戒をとき、目的のものを探す。

 

 彼は何も闇雲に歩いているわけでは無い、彼は街に散らばるメッセージを探していたのだ。

 

「またあったな」

 

「頑張れよ」 「心が折れそうだ……」 「この先、毒ガスあり」 「俺はやった!」 「この先、強敵注意」 「この先、金持ち注意 だから 仲間が有効だ」 「太陽万歳!」 意味の分からぬ言葉からつぶやきまで地面に文字が浮かんでいる。

 

 これらはねじ曲がった時と場所にいる不死者たちが協力するために作り出した手段、決まった定型文をつなぎ合わせ、次元を超えた意思疎通する技術である。

 

 なおこのことを後に主人に伝えた時、彼は何故早く伝えなかったのかと、主人に再度殺されかけてしまうことになる。

 

(フム、毒ガスはなんとなく分かるが、金持ち? これはわからんが評価が一番多いな、私は今一人であるし……、一番わかり易いのは強敵注意か……)

 

 ジェスチャーが付いているメッセージは街の外れを示している。それに従って歩いて行くバーサーカー、

 

 

 しばらくしてついたのは薄気味悪い広場であった。

 

 

 何が薄気味悪いのかと聞かれたら、何よりその場所の空気があまりにも死んでいることだろう。

 

 木などはそれなりにあるのにまるで生き物の気配がしない、そしてこれはバーサーカーのみが気づいたことであるが、この広場には多くの血痕が残されていた。

 

 血痕と言ってもそれはただの血ではない、それは不死人同士にしか見えぬ、別次元の彼らの死の証拠であり、これに触れることで他人の死に様を追体験できる。

 

 このおびただしい血痕の量はここで多くの不死人が死んだことが分かる。

 

 つまりここにはいるのだ。不死人の多くを血祭りにあげることのできる何か(バケモノ)が、

 

 騎士はあたりのメッセージを見る。

 

「心が折れそうだ……」  「この先、すばやい奴に注意しろ」「刺突に注意」 「この先ダッシュ攻撃に注意しろ」 「引き返せ」  「立ち止まるな」「この先、刺突があるぞ」

 

 バーサーカーはすぐさま注意深く、数ある中の一つの血痕に触れて確認する。

 

 ある血痕の主は大盾を持ち片手には槍を持った不死人である。

 

 不死人の顔に油断はなく盾を構え、距離を詰めようと動き出そうとした……その真剣な顔のままに胸に穴が空き男は即死した。

 

 

 ある血痕の主は怯えの表情が張り付いている。

 

 彼は恥も外聞も無く転げ回る。一度目を避け、二度目も避ける、そして三度目に避けようとし、身体があり得ない折れ曲がり方をして死んだ。

 

 

 ある血痕は二度転げた後、敵に斬りかかる。

 

 一度目を振り抜き、二回目を斬りかかろうとした瞬間、喉がパックリ割れてもがきながら死んだ。

 

 

 バーサーカーは四人目の血痕に触れようとする。その時。

 

 

「よぉ」

 

 

 まるで旧友にでも会ったようなきやすさで声をかけられた。

 

 騎士の前方にはいつの間にか青い男がいた。よく見ればその肩には赤い槍をかけているのがうかがえる。

 

「町中でそんな堂々と歩いて、誘ってるんだろう? 乗ってやるぜ」

 

 バーサーカーは瞬時に気付く、こいつこそが英霊(サーヴァント)であると……、例えるなら存在の密度が違う。

 

 たとえ凡百の存在の中にいたとしても、青い槍兵は埋もれることなく一目見れば分かる威圧感を放っていた。

 

 

 バーサーカーは本来ならすぐさま戦闘体制に入り、敵と喋ることなどはないが、今回は情報収集のためにあえて軽口に付き合うことにする。

 

 

「ただ散歩をしていただけだ。まさかこんな大物に声をかけていただくなんて光栄だ。その獲物、貴公はランサーとお見受け致す」

 

「おいおい、槍を持っているだけでランサーなんて早計だぜ」

 

「私は信じるべきこの剣がある。私はセイバーのサーヴァント、真名はドン・キホーテだ」

 

 

 バーサーカーは嘘をつくことに一切の迷いはない

 

 

「へぇ……、俺はランサーさ、貴様に答えて真名を明かしたいのだがマスターがうるさくてな」

 

「おや、貴公もマスターと共にいないのか」

 

「俺のマスターはいろいろあってね、本当にフザケた野郎さ、今も耳の側でがなりたててやがる」

 

「そうかでは……」

 

 

 問いかけの途中、青い男は鋭く声を挟む。

 

 

「お互いの腹の探り合いなんざ面倒なだけだ、さっさとコイツで語り合おうぜ」

 

 青の男が肩に担いだ禍々しい槍を巧みに回して構えると同時に空気が切り替わる。

 

「同感だな」

 

 

 これ以上の会話の引き伸ばしは困難だろう。心臓が握られたような気持ち悪さに、バーサーカーは盾を構えようとしたが先程の血痕を思い出し、回避行動に移ろうと横に移動する。

 

 瞬間、先程の空間にすでにランサーが槍を突き出していた。

 

(早いッ!)

 

 ランサーはすでに追撃に移っていたが、バーサーカーはその一撃を更に転がり回避する。

 

 その無様な姿にランサーは大ぶりの一撃を当てようとしているが、それを待っていたかのように、打って変わってバーサーカーは逆に踏み込んだ。

 

(今ッ!)

 

 バーサーカーの一撃が入り、ランサーの体勢崩れる。

 

 またとない好機

 

 追撃したくなる気持ちを抑えバーサーカーはその場より後ろに下がる。

 

 すると先程まで居たバーサーカーの喉に槍の穂先がかすめる、崩れたままのとは思えないほどの鋭い一撃が通りすぎたのだ。

 

「ん? 今のを避けたか」

 

 ランサーは今の一撃を避けたのが意外だったのか、距離を取りこちらに不審そうな目を向けてくる。

 

「妙だな、セイバー、貴様、動きは大したことがないのに目がいいのか……、いいや違うな貴様の回避は見ていないのにまるで予測しているようだった。未来予知かあるいは高ランクの千里眼で俺の動きを見ているな?」

 

 未来というよりは別次元の記録ではあるがランサーの指摘はおおむね当たっている。

 

 いきなり、正解のど真ん中を突かれ内心の焦りが止まらないバーサーカーは軽口で応酬した。

 

「私は実力で避けて、貴公は切られた。ただそれだけだろう、貴公も本気では無いはずだ」

 

 もちろん口から出まかせである。

 

 今までの回避は全て運であるし、今までの猛攻が本気でなかったとするなら、もはや手に負うことは無理であろうことが、バーサーカーにはうすうす感じていた。

 

「ほぅ、そのとおりだ、今までのは小手調べ、次は本気で行かせてもらう……、と言いたいところだが、上からの命令でね、ここはお開きとしてもいい」

 

(軽口のつもりだったのだが、まだ底があるのか……)

 

 

「どうする?」

 

「無論、戦う」

 

 

 バーサーカーとしては情報を集めるという使命があった。

 

 その実力の一端に触れるため彼は戦うことを覚悟する。

 

 

 

「そうかい」

 

 次の攻撃にバーサーカーは一切反応できなかった。

 

 

 

 目の前に青が飛び込んできたと思えば、次の瞬間には身体に無数の穴が空いていた。

 

 彼の連撃に対応できず、もはや息をすることも困難となり地面に這いつくばる。

 

「いくら未来が予測できたとしても、貴様が対応できなければ意味は無いだろう? まっ、弱かったが、正面でぶつかる気風は嫌いじゃなかったぜ」

 

 バーサーカーは地面に倒れ込む、致命傷であるのは誰が見ても分かる。

 

 だがバーサーカーの仕事はまだ終わってない、彼は最後に気力を振り絞り問う。

 

「私を殺した……、誉れ高き貴公の……、名が……、聞きたい、貴公はいかなる英霊であろうか……?」

 

「冥土の土産に教えてやる。我が名は、うるせぇ黙ってろクソ神父! 俺の名はクーフーリンだ。誇るといいぜ」

 

「あぁ……,本当に……,ありが………とう」

 

 

 YOU DIED

 

 

 彼は微笑みながら満足そうに死んでいった。




次回、再度出会うランサーに正体を見破られブチ切れられ、士郎少年と仲良死

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