正義の味方と未知なる科学   作:春ノ風

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本当なら二十二話も明日投稿出来るはずだったのにな……。なんでデータ消えてたんだろうか。皆目見当つきません。


第二十一話 届かない想い

――――轟音が連続して鳴り響く。その音の発生源は五五口径アサルトライフル。音も凄まじいがそれに比例するかの様に威力も高い。当たれば痛いじゃすまないなと、くだらない感想を抱きながら一夏は必死に逃げる。

 

「逃げているだけじゃ練習にならないぞ!」

 

「――――っ!そんなこと言われても......」

 

シロウの厳しい言葉に反応し、一つ愚痴をこぼす。だが、一夏には愚痴をこぼす余裕などない。しかし、それをするということは相手からすれば隙を見せているようなものだ。

 

「余所見は駄目だよ!」

 

「――――げ!?」

 

次に放たれるのは六一口径アサルトカノン。注意が一瞬シロウに逸れた一夏は避けることも出来ずに被弾する。

 

「そこまでだ!!」

 

シロウの言葉に今日の練習相手のシャルルは追撃することなくまっすぐにシロウの下に駆け下りた。

 

「――――お、おい!俺はまだ出来るぞ!!」

 

立ち上る煙の中から一寸してから出てくる一夏の第一声にシロウは首を振る。

 

「いや、シャルの勝ちだ」

 

「なんで!?」

 

未だ納得出来ない一夏はシロウに掴みかかるように近づいてくる。だが、一夏が納得出来ないのも仕方がないと言える。今の戦いでダメージはアサルトカノンの一撃だけ。まだまだ余力を残している上に負けず嫌いの性格だから余計にこの判決を認められないのだろう。

 

「一夏、お前足を止めただろう?」

 

「え......?」

 

シロウに言われて一夏は思い返す。......確かに最後の一撃を受けた時、一夏は足を止めた。それは一夏自身認めることだ。だが、だからと言ってそれが即負けに繋がるのか疑問に思った一夏にシロウはさらに説明する。

 

「一夏が被弾した時、既にシャルは追撃しようとしていて、十中八九一夏はその攻撃から逃れることは出来なかった。仮に逃げることが出来たとしても万全の状態で何とかシャルの攻撃を避けているだけなのにどうやってダメージを受けた状態で勝つことが出来るんだ?」

 

「ぐぬぬ......」

 

シロウの言うことは正論である。シャルルの攻撃を見切ることが出来ず近寄れないままの一夏には勝ち目はない。それがわかっているのか一夏は反論出来ないでいた。

 

「......もう少しで学年別トーナメントがあるから急がないと駄目なんだがな......」

 

確かに一夏は箒や鈴との訓練で近接戦闘ならそれなりの形になってきていたが、遠距離を主体とする相手とは相性が悪いのか動きがぎこちなくなっていしまう。

 

「一度射撃武器を使ってどういうものか体感してみたらどうかな?撃つだけでもだいぶ違うと思うし......」

 

シャルルの提案にシロウはふむ、と手に顎を乗せて考える。今までほとんど実戦練習を中心に行っていたため、一夏は射撃武器を使ったことがない。だが、シャルルが言うように一度肌で体感してみれば射撃武器の特性を把握できる可能性はあるし、その経験は無駄にはならないだろうと考えたシロウはそれを実践することにした。

 

「それもそうだな。......確か一夏も後付武装(イコライザ)はないんだよな?」

 

「ああ、そんなこと言われてたな」

 

「じゃあ悪いがシャルの射撃武器を貸してやってくれないか?」

 

「うん、いいよ。......ちょっと待ってね。使用許諾(アンロック)するから」

 

そう言ってシャルルは五五口径アサルトライフルの使用許諾を発行する。一夏はその発行方法の手際のよさに感心した様子で見物していた。――――と、ここでようやくシロウはアリーナの南側の観客席からある少女の視線に気づいた。

 

「(ラウラ......)」

 

その少女とはラウラ・ボーデヴィッヒ。シロウがドイツにいた頃、千冬を除いた中でシロウと最も関わりが深い人物であったと同時に最も影響を受けた人物と言える。

 

ラウラという少女は自他ともに認める生粋の軍人であり、その身に纏う雰囲気は冷ややかなものだった。そのため、軍内部でも浮き気味だった彼女だが、シロウと出会い、今まで持っていなかった少女らしさを身につけたことで、今の仲間にも受け入れられるようになった。

 

そんな少女が一体何の用があるのか?という疑問はシロウの中には既にない。ラウラがIS学園に転入して来た時点でこの時がやってくるというのは想定していたからだ。

 

――――ラウラの隻眼がシロウに訴えかける。『話がある』と。その意味を十分に理解したシロウは一つ溜め息をついて頭を掻いた。

 

「シャル。すまないが、もう少し一夏の訓練に付き合っていてくれ」

 

「うん、わかったけどシロウはどこかに行くの?」

 

「ああ、少し用事ができた」

 

そうしてシロウは一言断りを入れてアリーナを出ていった。

 

+ + +

 

アリーナを出たシロウはそのまま歩を休めずに南側観客席の出入り口に向かう。

 

「......!」

 

少し歩いたら、反対側からもラウラが歩み寄ってくるのが見えた。

 

「......」

 

「......」

 

二人は対面するが、元来両者ともに口数が多いわけではないから場に沈黙が漂う。シロウを見つけた女子生徒が近づいてくるが、端から見れば険悪のムードの中に介入できる勇者はいないわけで、結局女子生徒は足早に遠のいてしまう。......ちなみにあと三回同じようなことが起きている。

 

「......少し場所を変えるか?」

 

ここでは少し人が多いため、シロウが場所を変えるように勧めると、ラウラは拒否することなくコクンと頷いた。

 

――――そして、あまり人気のないところを選んだところ、小さな湖の畔に行き着いた。校内にこんな場所まで作ったのかと若干呆れながらも、道中に買ったココアを一口口に含んで漸く話を始める。

 

「......して、話とは?」

 

「......話というほどでもない。ただ質問に答えろ。――――なぜ、急にいなくなった?」

 

ココアを両手で持つその姿は小動物のような愛らしさがあるが、今のラウラの言動は小動物などではなく、獲物を逃さない肉食獣のようにも思える。

 

ラウラの佇まいから言い逃れは出来ないなと観念したシロウは正直に話すことにした。

 

「......俺がドイツ軍に入ったのは探しものの手段として利用するためだ」

 

「探しもの?一体何を探していたんだ?」

 

「なに......、ただの私用だ。ラウラには関係ないし、それももう終わった」

 

関係ないと言われてラウラはカチンときたが、それでも終わったというのならば深く追求する意味もないし、ラウラは過去を重要視していない。

 

「ならば帰ってこい!お前はこんなところにいるべきじゃない。シロウ!お前はドイツに帰ってくるべきだ!!」

 

ラウラが優先しているのは現在でも過去でもなく未来。まだ、シロウがドイツ軍にいた頃のように淡く、眩い未来を切望しているのだ。

 

「――――だから帰ろう。私とともにドイツに......。私にはお前が必要だ」

 

それは偽りなき本心。口には出したことはないが、一年前、ラウラのそばにシロウがいた時こそが幸せを感じていた。千冬に指導されている時よりも、仲間と笑い合う時よりも、だ。今まで恋などととは程遠い世界で生まれ、そして、育ってきた少女にはその気持ちの明確な答えなど持ち合わせていない。それでも、そばにいたいという純粋な気持ちは確立している。

 

「......俺はもうドイツには帰らない」

 

しかし、無常にもシロウの答えは『No』であった。ラウラにとって意外過ぎたその答えは文字通り裏切りに他ならない。

 

「――――ッ!?......なぜだ!?お前にとって私たちはどうでもよい存在なのか?」

 

激昂するラウラにシロウは押し黙る。

 

「............」

 

「答えろ!シロウ!!」

 

......どうでもいいはずがない。シロウにとってもドイツで過ごしたこの一年は大切な時間だった。これからその思い出が薄れることはあっても忘却することは決してないほどに......。だが、それでもシロウは拒絶した。

 

ラウラの知らぬところではあるが、既にシロウは光の当たる世界から消え去り、かつてのシロウが過ごした闇の中で生きていくことを決心している。誰も巻き込まないためにはその選択しかできなかったのだ。だから............

 

「――――勘違いするなよ、ラウラ。俺にとって君たちは何でもない些事に過ぎんよ」

 

............近寄る少女を冷たく突き放した。そして一寸の間もなく――――パッァァン!!という音が鳴り響いた。辺りには誰もいないこともあってその音はより大きく聞こえる。叩かれた頬はジンジンと痛むが、それ以上に目の前の少女を真正面から裏切ったことの方が痛く感じた。

 

「............」

 

頬を叩かれるだけじゃすまないということは自覚しているし、ラウラの性格からしてきっと怒髪天を衝くように激怒するだろうと思っていたシロウはどんな罰も受け入れるつもりだった。

 

「............二度とそんなことを口にするな」

 

しかし、覚悟していた罰はそれ以上下されることはなかった。ただ、今にも泣きそうな弱々しいラウラを見ることになるとはシロウは予想もしなかった。

 

――――シロウは一つ見誤っていた。ラウラの性格上、激怒するだろうと踏み、事実、ラウラは内心では仲間たちを貶めたシロウを許せないでいる。

 

しかし、それ以上にラウラはシロウを理解していた。戦い、争い、競い合う中で無意識下にシロウを理解しようとする想いが芽生え、いつしか自然とシロウを見ていた。そんな彼女だからこそ、シロウの行動には何かの理由があって、嫌われ役を演じているのだと察し、何とか怒りを鎮めようとした。

 

「............」

 

「............」

 

再び二人の間には沈黙が訪れる。お互いに以前まで抱いていた相手の人物像から変わってしまったことに一方は悲しんでいることは表情を見ても明らかだった。だが、もう一方は――――その表情からは何も読み取れない。今までラウラが見たことのないような冷たい目につい怯んでしまう。

 

「............話は終わりだな。一夏の訓練もあるから、俺はもう行くぞ」

 

......それだけを言うと、シロウは後ろを向きアリーナへと歩き始めた。

 

「ま、待てッ!!」

 

ラウラの制止の声も聞かず、シロウはずんずんともと来た道を帰っていく。

 

何も二人の仲を悪くしたかったわけじゃない。それよりも、会って話したいことはたくさんあった。一人になった後もシロウに追いつこうと努力した話を聞いて欲しかった。この一年で支えてくれた仲間のことを聞いて欲しかった。そして――――

 

「............待ってくれ」

 

二度目の制止の声もシロウの耳には届かない。それどころかその後ろ姿はぼやけるほど遠のいてしまった。

 

二人が来る前のような静寂さを取り戻した湖畔で少女は一人買ってもらったまだ蓋のあいていないココアを見つめた。

 

――――そして、どうしても伝えたいことがあった。シロウと出会ったその日から募らせたその想いを。

 

『幸せをくれてありがとう』と――――

 


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