正義の味方と未知なる科学   作:春ノ風

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幕間 苦難

電気もつけず、月光のみ照らす薄暗い部屋の中で一人結跏趺坐を取って座る少年がいた。

 

「............」

 

腕を組み、目を瞑るその姿は近寄りがたい雰囲気を醸し出しているが、少年の家には少年以外の者は住んでいないので気にする必要はない。

 

「世界が動いたか............」

 

少年が思考を巡らしているのはただ一つ。先の戦いについて。今回は何とか刺客を撃退出来た。だが、次はいつ、だれが現れるかわからない。もしかしたらもう来ないという可能性もあり得ないとは言い切れないが、それでもやはりそれは楽観的観測に過ぎない。出現する方が確率は高い。なんせターゲットである少年は未だ健在なのだから。

 

「............学校は辞めるしかないな」

 

五月も過ぎて友達も増えつつあったがそれは仕方のないこと。もう誰も巻き込まないようにするため今後の方針を決めるにしてもまずその選択をするのが賢い選択とも言えるだろう。

 

――――そう決意した時、携帯電話のメール受信音が鳴った。ディスプレイを見れば相手は織斑千冬。この世界において少年の最大の理解者だ。

 

「............?」

 

メール本文には一文字も書かれていない。一体なんのいたずらかと思ったが、何かのデーターが添付されていた。

 

「え?」

 

データーを開けばそれは一人の人物が写っていた。おそらく証明写真だろう。カメラに真正面から写された被写体を見れば容易に連想出来たが、少年が驚いたのはそれではない。むしろ、問題は被写体の人物にあった。

 

これは一体何なのか。その真相を知るためにこれを送った当人である千冬に電話をかけようとしたらその前に千冬から電話がかかってきた。

 

「千冬か?この写真は一体何だ!?」

 

少年は電話に出るや否や早速件の写真について問い質す。その対応に呆れた千冬はいろいろと聞きたいこともあったが、さっさと用件だけを話すことにした。

 

『やっぱりお前はこの写真の人物を知っているのか?』

 

「知っているも何も以前話しただろ!?私の幼馴染だと!」

 

少年はフランスにいた頃幼馴染の話をしたし写真も見せた。だから当然千冬も知っているはずだろと言うのだ。普段と比べて言動が荒いが、そんなことには動じず淡々と千冬は説明に入る。

 

『こいつが今度IS学園に転入するそうでな』

 

「――――なに?」

 

思いがけない報告。否、少年はこのことを入学する前から知っていた。だから、十分にこの事態は予測出来たはずだし、少年もその時が来ることを望んでいた。

 

きっとその報告を聞けば喜びと嬉しさで満ち溢れると思っていたし、これを昨日聞けば事実そうなっていただろう。

 

だが――――タイミングが悪過ぎた。

 

いつ来るかもわからない敵を前にそのニュースはよろしくない。むしろ、最悪だ。その人物は少年が平穏に暮らして欲しいと望む者だから。

 

――――世界はこうも思い通りにいかない――――

 

少年が望んだたった一つの平穏すら世界は許さない。少年は改めて思いしらされた。世界は不平等・不公平の上で成り立ち廻っているのだと。

 

――――ドンッと八つ当たりと言わんばかりに壁を殴る。殴られた壁は新築であるというのに無残にヒビが入った。

 

『何だ今の音は?』

 

「.............何もない。気にするな」

 

千冬は勘が鋭い上に下手に知られたら介入しかねない。この会話が電話でよかったと思う。面と面を向かって話してたら動揺を隠せないでいただろうから。

 

『?……まぁいい。今回はその幼馴染について聞きたいことがあるんだ』

 

「何か問題でもあるのか?」

 

『ああ、実はだな――――』

 

――――そうして、シロウは予想外の問題にまた愕然とした。

 

+ + +

 

「............はぁ」

 

食堂で気を落としため息をつくのは一人の乙女。こちらはこちらでまた近寄りがたい雰囲気が形成されている。固有結界『乙女の青息吐息』と名付けよう。効果は他者を寄せ付けない。

 

「どうかしましたの?鈴さん」

 

............特定の条件を満たした人物を除いて。

 

「ん。ちょっとね......。そういうセシリアも何か浮かない顔じゃん」

 

「わたくしもその......、ちょっとありまして............」

 

そう言ってマイナスイオン......ではなくこの場合はネガティブイオン(仮)を撒き散らしながらセシリアは鈴と対面するように座る。おかげで固有結界はさらに増大したように思えるがさすがにそれは気のせいだ。

 

「「............」」

 

長い沈黙が続く。どこもかしこも騒がしい食堂なのになぜかこの場だけサイレント状態。

 

――――ここでお互いの心情はわからないが何となく理解しあえた。理由はわからないがおそらく、セシリア(鈴)も自分と同じく憂鬱な気持ちになっているのだろう、と。

 

――――そして、乙女の直感とは凄まじいもので、その推測は正確に的を得ていた。............というか、それが固有結界の条件だったりする。

 

鈴は突然の乱入者にクラス対抗自体中止になって勝敗も決まることなく終わってしまった。ということはあの賭けも無効という結果に終わってしまった。買い物くらい頼めば普通にOKしてくれるだろうが、それはそれ、これはこれ。鈴のプライドは他者よりもかなり高く、あの賭けを今さら無かったことにしてデートに付き合えなんて到底言えない。

 

セシリアはセシリアでシロウとの進展が一切ない。一切だ。それどころか、それどころか最近では恋人どころか、どこをどう間違えたのか先生と生徒のような関係になってきた。順調に路線を走ってたつもりがレーンを間違えて山手線に乗った気分。近づくことが出来ないもどかしさはもうどうしようもない。それに加えて、漸く出来た見せ場をシロウは見てないというまさに悪夢。というか、これは夢だと信じてほっぺたをつねったりしていたのはご愛嬌。

 

「「............はぁ」」

 

――――そうしてまた二人は深くため息をついた。

 

 

 

 

 

「――――なんて風に二人が落ち込んでてさ。何でかわからないけど声もかけられなかったよ」

 

「一夏、お前また何かやったのか?」

 

「いや、別に何も覚えはないぞ?」

 

半分は一夏に関係しているのだが、一夏が気づくことはまずない。あり得ないくらいの唐変木なのだがそこが一夏のいいところであり欠点だったりもする。

 

「......まぁいい。今日はお前も疲れたろ。もう電気も消すぞ?」

 

「ああ、おやすみ。箒」

 

「おやすみ、一夏」

 

――――そうして二人は気付かぬ平凡で平穏な夜を過ごした。

 




明日、漸く正ヒロイン登場します。

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