俺たちはシロウを追って電車に乗り込んだ。隣の車両にはシロウが本を読みながら座っている。どうも気づいている様子はないようだ......。
「......って、何やってるんだあいつらは?」
鈴とセシリアは張り付くように、でも見つからないように隠れながらシロウを見ている。どうやら二人の気分はすでに探偵のようだが、明らかに二人の行動は奇行だ。俺たちの他に客がいなくてよかった。
「――――と、着いたみたいだな」
駅名は聞き逃してわからなかったが、駅に着くというアナウンスを聞いてシロウが立ち上がる。それに合わせて座っていた俺と箒も立ち上がる。
「――――行くわよ」
シロウが出て、ドアが閉まる直前に鈴が先行して追いかける。最後に車両から出た俺の鞄が挟まりかけたことは秘密だ。
「けっこう田舎ですわね」
駅を出れば背丈が疎らなビルがいくらか並び、ちらほらと空き地も見受けられる。セシリアの言うとおり、田舎ではあるが都会でもある。言うなればその中間点。これが普通の日本の風景だ。ただ、IS学園が特別なだけ。
「何ぼうっとしてんの!早く行くわよ!!」
「わ、わかってる」
鈴に急かされたので、走って三人を追う。前には三十メートル位離れてシロウが歩いている。
「......なんだか賑やかになって来たな?」
駅から歩いて十分ほど経つとなんだか駅と同じ位にがやがやと人の声が目立つようになって来た。途中まで静寂としていたのに。
「おそらく商店街がここから近いからなのでしょう」
「え?なんでわかるんだそんなこと?」
俺ですら来たことのない場所なのに、イギリスから来たばかりなのにセシリアの言葉は妙に断定的だ。
「なぜって、それは駅にあった近辺の地図を見たからに決まっているじゃありませんか」
「え?」
一瞬固まってしまった。だって、俺たちはすぐに駅を出た。だから、地図を見たのも一秒も満たないかもしれないと言うのに、セシリアはこの近辺を把握しているのか?実はセシリアってすごいやつだったのかもしれない。
「あ、角を曲がったわよ」
先頭を走る鈴が喋り、俺たちも前を向くと、シロウは左の角を曲がって行った。
そして、壁から顔だけを四つだして確認するが――――
「あれ?いない?」
――――シロウの姿がない。そこにいるのは木の前で不安気な表情で見上げる少女が二人だけだった。......ん?よく見ると、木のそばにシロウの鞄が立て掛けられている。
「少し離れてろよ」
シロウの声が聞こえたかと思うと、木の中からシロウが飛び出してきた。
シロウの手には紐の付いた風船が握られていた。少女らはそれを見た瞬間パァッと明るくなった。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
どうやら木に引っかかった風船を取っていたようだ。二人はまだ幼いというのにきちんと礼を言い鈴と同じ髪を二つに結んでいる少女が風船を受け取った。
「君は風船は持ってないのか?」
「私は......その、ここに来る途中に割っちゃって......」
シロウが紫色の髪の少女に聞くとシュンと俯いてしまう。
「そうか......。よし、じゃあこの手を見てごらん」
何か思いついたのか、俯いた少女の目の前に右の手の平を差し出した。
「何もないじゃない」
思いの外食いついたのはその隣で見ていた少女だった。
「君の好きな色は何色かな?」
「えっと......、じゃあ、ピンク」
少女がおずおずと答えた。その答えにシロウは頷き拳を握り締めてまた口を開いた。
「じゃあ、三つ数えよう。そしたら君の好きな色の風船が出るからさ」
「そんなの出来る訳ないじゃない」
またもや食ってかかるのは隣にいた少女。シロウの言う事を真っ向から否定している。
「わからないぞ?取り敢えず三つ数えてみよう」
「「一、二......」」
少女たちはシロウの言うがままにカウントを始める。
「「......三」」
二人が数を言い終える。心なしか、一つ数字が増える毎に声が大きくなっている気がする。やっぱり、あれだけ幼いと何か期待もしてしまうのだろう。
そして――――
「「あれ?」」
――――そこから風船が現れると思っていたのに、シロウが手の平を開けても握る前と同じで何もなかった。
「やっぱり何もないじゃない」
「残念ですぅ」
二人からは不平不満の声が挙がる。だが、当人のシロウは意味深な笑みを隠していない。それを見た二人は首を傾げてお互い目を合わす。
「あ!?」
ようやく紫色の髪の少女が現状を理解したのか目を大きく広げて驚いた。
「どうしたの?」
もう片方の少女はなぜ少女たち驚いているのかわからないと言った風に不思議がっている。
「お姉ちゃん、リボンに......」
「リボン?」
少女が自分の髪を結んでいるリボンに触れて気づいたのか、リボンに付いた紐を手繰り寄せてあるものを触る。すると少女は驚いた表情でシロウと紫色の髪の少女を交互に見た。
「......はい、どうぞ」
そして、シロウはツインテールの少女のリボンにいつの間にか結びつけられたピンク色の風船をほどき紫色の髪の少女に手渡した。
「ありがとうございます!」
少女は先ほどよりも大きな明るい声で礼を言う。
「ありがとう、お兄ちゃん。じゃあ、行こう」
「うん、お姉ちゃん」
少女たちは手を取り合って、走り去って行く。最後に振り返って手を振る様は実に可愛らしい。
......でもあの手品どうやったんだろ?いきなりツインテールの少女の影からふわりと浮いて出てきた。今度シロウに教えてもらおう。
+ + +
少女たちと別れたシロウは鞄を拾い、またトコトコと歩き出した。そして、当然のごとく再開される追跡はまたもや鈴を先頭にして始まった。
「商店街に行ってるということはフルーレは晩ご飯の食材でも買いに行くつもりなのか?」
「多分そうだろう。シロウは毎食自分で作るって言っていたし」
「そう言えばシロウさんの趣味は家事と言っていましたわね」
「あ、女の人二人に話しかけられた」
「なんですって?」
他愛のない推測を話していたら、見張っていた鈴が声をあげる。なぜかそれに一番反応したのがセシリアで瞬間移動でもしたかのように鈴の隣にいた。俺たちも後ろから見るとシロウは二人の女性から声を掛けられていた。
「Darf ich Sie etwas fragen?(ちょっといいですか?)」
「Was machst du?(どうしました?)」
「Wo ist die nächste U-Bahn-Station?(最寄りの地下鉄はどこですか?)」
......何か言っているのは聞こえる。でも何を話しているかわからん。三人の表情を見ると三人ともわかっていないようだ。ということはシロウが喋っている言語は少なくとも中国語や英語ではないようだ。
「......おそらくあれはドイツ語かしら?」
「セシリアわかるのか?」
「少しなら......。でもあそこまで流暢には話せませんわ」
さすがセシリア。これでシロウが何語を話しているかわかった。だが、肝心の内容は全くわからんままだ。
「ほら見ろ、一夏。あの外国人ガイドブックを持ってるぞ」
箒に言われて気がついた。シロウと話していない方の外国人がガイドブックを持っている。ということはおそらく道を聞いているんだろう。案の定、シロウは道を教えるように指さしながら何か話している。それを教えてもらった外国人二人は頭を下げてその教えられた道を歩いていく。
「しかし、欧米人って人形みたいな顔立ちだな」
セシリアや他のIS学園の生徒を見て、何度か思ったことはあるが今の二人はさらに人形めいていた。白く輝く銀髪にルビーのように紅い瞳。しかも二人ともほとんど同じ顔だったから双子なのだろうか?しかし、胸だけは明らかな差があったな......。第三者がどちらがどちらかなのか判断を付ける時は多分胸を見て判断するんだろうな......多分。
「......一夏は欧米人が好みなのか?」
「は?」
なぜか不機嫌モードに入って睨んでくる箒さん。なぜだろう?俺、いつスイッチを押したのか全くわからん。
「へぇ、一夏って欧米人なんかがタイプなんだ?」
なぜか便乗するように鈴も迫ってくる。箒とは違って鈴は笑顔。だが、目が引き攣っている。多分鈴も怒っているのだ。その証拠にばっちり血管マークが浮き出ていた。......二人でジリジリ寄ってくる様は実に怖い。というか恐ろしい。
「シロウさんが行きますわよ!」
セシリアが俺たちに伝える。おかげで二人は離れていく。この時のセシリアは天使のように見えてしまったぞ。今度食堂で何か奢ってやろう。
「 君たち、暗くなる前に帰りなさい」
「はーい玄霧先生。ほら、帰るよケリィ」
「待ってよシャーレイ」
地元の中学校の前で、眼鏡を掛けた先生と思わしき男性がまだ残っている生徒をたしなめるように声をかける。注意された生徒たちは先生にさよならの挨拶をした後、俺たちを通り過ぎて駆けて行く。
......きっと、名前からして外国人なんだろう。しかしIS学園もそうだが、近年海外からの移住率が半端ないな。さっきのドイツ人は観光だろうけど、この街でもけっこう外国人っぽい人がたくさんいたな。銀髪で黄金色の目をしたシスターや、真っ赤に決めこんだ金髪の男性。シロウを追うだけでいっぱい見かけた。あ、でも純日本人みたいな黒髪黒目の和服美人もいたな......。
そんな人間観察染みた真似をしながらシロウを追いかけているとようやく商店街に着いたらしく、まだいくつかの店が開いている。
シロウから遅れて商店街に入ったら、もう夕方刻だと言うのにまだ活気があって賑やかだ。
「ん?シロウは?」
「あれ?」
少し周りに気を取られすぎたのかいつの間にかシロウの姿を見失ってしまった。それは他の三人も同じなのかみんなきょろきょろとシロウを探している。
――――すると、いきなり携帯電話の着信音が鳴り響く。みんなの目が一斉に俺の鞄にへと向けられる。そそして、鞄から取り出した携帯電話を開いて画面を見る。どうやら電話を掛けてきたのは俺たちが探している当人のシロウからだった。
「も、もしもし?」
おそるおそる応答ボタンを押し、電話に出てみた。
「あ、一夏?」
「お、おう。どうした?」
できるだけ平然とした態度で応じてみたが、シロウは何も気にするよう素振りはなさそうだ。だが、所詮それは気のせいだった。顔の見えない携帯電話の会話は相手の表情など見ることはできない。
「クク......。ところで一夏たちは晩ご飯どうするんだ?」
「は?晩ご飯?」
意味のわからない質問だった。スピーカーモードにしているので他の三人にも聞こえていたが、三人とも首を傾げる。
「それとも、お前ら今から帰って食堂でたべるのか?別に俺の家で食べて行ってもいいんだぞ?」
......そこまで言われて気がつかない間抜けはここにはいない。みんな驚いた表情でそれぞれの顔を見合した。
「......えっと、いつから気がついてた?」
「アリーナを出たあたりからだけど?」
「最初から気が付いてたのかよ!?」
「......あれで尾行してるって言うつもりだったのか?あれじゃあ、ただの俺の後ろをついて来てるだけじゃないか。俺はてっきり追跡術の練習でもしているのかと思ったんで声を掛けなかったんだが」
「「「「............」」」」
......なんか呆然とした。気づかれるとは思っていたけどまさか最初から俺たちがつけていたことに気がついていたとは......。そうならそうと早く言ってほしかった。俺たち相当の間抜けじゃないか。
「それでどうする?俺の家で夕飯食べて行くか?食べるなら食材も買って帰るけど......」
どうする?と三人の顔を伺うと、なぜか鈴が俺の携帯電話を奪い取った。
「上等よ!不味かったら土下座してもらうんだからね!!」
.....一体何が上等なんだろうか?というかなぜ不機嫌?全く以て乙女心というのは不可思議だ。
「......なんでさ」
うん、シロウの意見はひどく至極真っ当だ。そう思うのはきっと俺だけじゃないはずだ。
+ + +
あの後、一夏たち四人はシロウと合流して買い物をした。その時、時間もあまりないということで、二組に分けて買い物をした。その組み分けでセシリアがかなり舞い上がり、箒と鈴がいがみ合った。この組み分けで実質的な被害を受けたのは残念ながら一夏一人と言う結果だったが、それはまた別の話。
そして、無事に買い物を終え、シロウの家に着くと四人は驚愕の声をあげる。だが、その声にも国内組と国外組との差にギャップがあった。国外組であるセシリアと鈴は昔ながらの武家屋敷に感激し、このような屋敷を見慣れた一夏と箒はフランス人であるシロウがこのような家に住んでいることに驚いていた。
「まぁ、なにもないけどゆっくりしていってくれ」
居間に案内された四人は出されたお茶とお茶請けを口にしながらくつろぎ始める。
「何か手伝お......」
料理の手伝いをしようか、と申し出ようとした一夏がシロウを見た途端固まった。それに気づいた三人もシロウを見ると同じように固まってしまった。
「ん?何かおかしいか?」
いきなり固まった四人が不思議に思ったのかエプロンをつけながらシロウが尋ねた。シロウは気付いていないが、そのエプロン姿に度肝を抜かれたのだ。桜の花びらが描かれた桃色のエプロン。普通ならば男性がそんなものをつければ引かれるのがオチというのに――――
「「「「(なんで違和感がないんだろうか?)」」」」
――――見事なまでにマッチングしている。その融け込めている様が逆に女性陣にはショッキングだったりする。
+ + +
――――結局、一夏の申し出もシロウはやんわりと断った。客の立場である一夏に手伝わせることはできない。それに鈴にシロウの料理の腕前も見せたいのだそうだ。
そうして、四十分ほどで料理も完成した。テーブルの上に運ばれたのは酢豚、海老のチリソース、チンジャオロース、八宝菜、水餃子など、中華料理のレパートリーだった。しかも、見た目も上品に仕上がり、香りも食欲をそそるしでまさしく一級品。まさかここまでの腕前を披露されるとは思わなかった一夏と箒とセシリアの三人は言葉を失ってしまった。
「この私に中華料理とはいい度胸ね......」
だが、ただ一人。鈴は敵意すら感じられる目つきでシロウを睨みつけていた。料理の腕前を見る、と。しかもジャンルが中華料理となればこれは中国人である鈴に喧嘩を売っているようなものだ。少なくとも鈴はそう受け取っている。
「勘違いするなよ、凰。これは純粋に転入祝いとして考えた末が中華料理だったんだ。別に他意はないさ」
「フン、どうだかね。......まぁ、いいわ。本場の味とどのくらい違うか私が見極めてあげる」
鈴はそう言って小皿に酢豚をよそい、口にする。だが、一口噛むごとに鈴の表情が変わり、その表情はまるで苦虫を噛み潰したかのようだ。
「..................おいしい」
長い沈黙のあと、ようやく一言つぶやいた。それはひどく小さな声だったが、みんなには十分聞こえていた。そして、周りが笑い始めたからか、徐々に鈴の表情が赤く染まっていく。
「なに笑ってんのよ!特に一夏!!あんたには絶対笑われたくないわ!!」
「なんでだよ!?」
「理由なんてないわよ!ただ癪に障るだけ!!」
「ひどくないか、それ?」
「......うん、まさに唯我独尊だな」
そうして、みんながそれぞれの箸 (セシリアはフォークとナイフ)を持って食事を始めた。シロウにとってこの屋敷でわいわいと大人数で食卓を囲むのは久しぶりであったので、柄にもなく浮かれていた。だから忘れていたのだろう。否、忘れていたとしても、ここで気づくべきだった。学園から出る前に感じた寒気の正体を――――
ピンポーンというインターホンの音が鳴り、それと同時に廊下の奥から電話の音が鳴り響く。
「ん?なんだろう?」
シロウがこの屋敷にやってきて訪れた客などほとんどいなかったし、電話を掛けてきたのも政府の関係者くらいだった。だから、こんな同時に二つが鳴る事なんて今までなかった。
「一夏。ちょっと出てくれないか?」
いくら家主とは言え、体は一つしかない。なので、シロウは一夏に誰が来たのかを見に行くように頼んだ。
「ん、わかった」
「頼む」
――シロウは選択を誤った――
妙なテロップが流れたが、誰も気づくことはない。シロウと一夏は立ち上がり、シロウは電話へ、一夏は玄関にへと向かった。
「全く、なんで電話までこんなに遠いんだ?」
シロウが一人で愚痴る。前衛宮低では電話も玄関の側にあったのだが、この屋敷は回線の関係上玄関とは真逆の位置にあった。そして、ようやく電話のもとに到着して、受話器を耳にあてて応答した。
「もしもし」
「楽しい夜をお過ごs――――」
――――ダンっと受話器を戻した。
「あり得ないあり得ないあり得ないあり得ない......」
......どうやらシロウは今のをなかった事にしたいようだ。だがそれは仕方がないこととも言える。生前散々世話になったはずの者がこちらにもいたのだ。それはここが平行世界である以上その可能性は十分にあった。だがどうだろう?容姿も職業も、果てには性格まですべてが自分の世界にいた者と同じ者と出会ったというのにシロウは素直に喜べなかった。なんせ、初めて会ったのがあの性悪シスターなのだから。
自己暗示をかけながら電話から遠退こうとするが、再び鳴り響く。正直シロウは取りたくなかったが、この後何をされるのか全く分からないので意を決して応じることにした。
「......も、もしもし?」
心無しか......。その声はわずかに震えていた。
+ + +
「......も、もしもし?」
「いきなり切るとは酷いですね、シロウ・エペ・フルーレ」
この声を聞いて改めて悟った。こいつは間違いなくカレン・オルテンシアだ。妙な縁だとしみじみ思う。別に深い間柄でもないのになぜ平行世界に来てまでこいつに会わなければならないのだろうか?
――――先日の休日。散歩がてらに商店街に出掛けようとしたら、この電話の相手であるカレンが男性三人に絡まれていたのだ。女尊男卑の社会でよくやるなと思いながらも、見て見ぬ振りも出来ないので助けるために割って入って適当に男性三人をあしらって追い返した。
「あんた、どうやってこの番号を調べた?」
その後、助けてくれた礼にと強制的に喫茶店に連れてかれた。その時に名前は教えたが、電話番号を教えた覚えは全くない。
「先日はどうもありがとうございます」
「無視かよ!?」
「ところで今日ご友人が来られていますか?」
「......は?まぁ、来てるけどなんで知ってるんだ?」
人の話は聞かないし、唐突に話が変わるところもまるで同じだな。
「先ほど、貴方と同じ制服を来た学生を四人見かけましてね。何をしているのか見ていたら貴方を追いかけていたようなので」
......見られていたのか。別に俺がやった訳じゃないが恥ずかしいな。
「きっと今頃は晩餐会でもして盛り上がっているのでしょう?」
「盛り上がっているとまではいかないが、確かに今夕食を食べている最中だよ」
「ああ、それならよかった」
「......?何がよかったんだ?」
何がカレンに得する事でもあったんだろうか?
「いえ、先日のお礼ではやはり足りないと思ったので、そちらに出前を頼みました」
「出前?別にそんなのいいって。好きでやったわけだしさ」
「それでも私は貴方に報恩したかったので是非皆さんで食べて下さい。私の一押しなので」
......やっぱり並行世界だと性格が多少はマシになるのだろうか?俺の知るカレンはそんな聖母みたいな言動はしないと思う。
「悪いな。ところで一体何を頼んでくれたんだ?」
「麻婆豆腐でs――――」
最後まで言わさず電話を切った。そして、ようやく悟った。カレンはどこに行ってもカレンだということを。
「急がないとみんなが死ぬ」
それは間違い無い。居間に急ごうとするが、しつこくまた電話が鳴り響いた。
「何だよ!?」
「ちなみに着払いです」
「二重に最悪だな!!」
――――ダンッと再び受話器を荒々しく置いた。
そして、IS以上のスピードを出して居間に戻る。
「みんな大丈夫か!?」
戸を開け勢いよく居間に入る。
「お、遅かったか......」
――――だが、時すでに遅し。四人はレンゲを持ちながら紅く煮えたぎる麻婆の前で俯していた。
「はーい。迷える子羊をさっさと現世に送るタイガー道場でーす」
「............イリヤでーす......」
「どうしたのイリヤちゃーん?浮かない顔して?」
「だっておかしいと思わない?私まだ本編に出てる予定すらないのにリズたちは出たんだよ!?」
「従者に先を超された主としては複雑な心境なのね」
「そうなのよ。でも、おかしいと言えばタイガは何でここにいるの?」
「ギックン......」
「だって前回までこの話のオチはタイガで閉める予定だったって作者は考えていたはずよね?」
「......う、うるさーい!最後の最後であの性悪シスター使った方がよくね?みたいな事を言われて抗議しようとしたらすでに性悪シスターがスタンバっていたのよ~!!」
「フ、所詮師しょーには本編出演なんて夢のまた夢と言うことっすね」
「うるさ~い!お前も同類だろうが~!!」
「う......、思いがけぬ反撃に言葉が出ないわ」
「......お互い傷に塩を塗るなということよ。ところで今日はちゃんとシロウは来るのか弟子一号?」
「イエッサー。今日こそは間違いなく来ます。 アインツベルン式占いで占ってみましたから」
「胡散臭さ百パーセントね......。まぁ、いいわ。私たちがここにいるってことは誰かが死んだってことだろうし」
――――ドッーーン!!――――
「師しょー来ましたー!」
「うむうむ、今度こそはシロウだろうな......」
「「「「............」」」」
「「(なんか増えてるー!?)」」
「「「「............」」」」
「あれ?この娘ら本編のヒロインじゃない?」
「そうっすねー。本編ヒロインの箒と鈴とセシリアとついでにサブ主人公の一夏っす」
「うーん、弟子一号。この娘たちをさっさと送りなさい」
「あれ?師しょー。今回は何もしないんすか?気絶してるし今ならなんでも出来ますよ?」
「ばかもーん!!」
「うぅ......、横暴だ!一体何をするんですか!!」
「貴様こそ何を口走っているのかわかってるのか!!もし、私たちがヒロインを傷ものにしてみろ。たちまちこのコーナーの存続が危ぶまれるぞ!!」
「はッ!?そんな後ろ向きな考え一切なかったっす。さすがは師しょー。伊達に年はとってないっすねー」
「ふふん、そうだろそうだろ。でも口には気をつけろよ、弟子一号。今の発言は褒めるようで褒めてない、どころか貶しているようにしか聞こえないぞ?」
「その通りだから問題ないっす」
「チェーストッー!!」
「いったーい。何するんですか!?」
「おだまり!師への敬う気持ちを持たない駄目な弟子にはお灸を据えちゃる!!」
「もう我慢の限界っす。こうなれば下克上だ!!来て!!バーサーCAR!!」
「■■■■■■ー!!」
「すぐに誰かに頼るなんて駄目ね!この私が本当の強さというものを教えてやるわ!!」
「「「「(どうでもいいから早く戻してくれ)」」」」