正義の味方に施しを   作:未入力

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虚飾

「なぁ遠坂、俺たちは一体どこに向かってるんだ?」

 

冬木の町並みを踏みしめ、前を歩く遠坂の背に問いかける。

その問いかけはセイバーも同じく考えていたのか、彼女の方からも遠坂に先を促すような視線が向けられる。

 

「隣町の言峰教会。そこが今回の聖杯戦争の監督役がいるところよ」

 

遠坂は一瞬だけ返答のために振り向くと、直ぐに正面へと向き直る。

歩幅を大きく、ずんずんと先へ進む背中をセイバーと二人して追いかける。

ランサーはいない。いやいないというのは語弊があるか。

霊体化、というらしいサーヴァントなら誰もが持つ能力によってランサーは今姿を消している。

 

正直、こんな日の高いうちからランサーの姿を外で見せるわけにはいかない。

胸に埋め込まれた赤い宝石、黄金の鎧、浮世離れした相貌。見るものを惹きつける要素に事欠かないランサーは目立ち過ぎる。

それが隠せるというのなら、利用しない手は無いだろう。

加えて、この霊体化している間は実体化している間に比べ、魔力の消費量が少なくて済むらしい。

 

「最も、サーヴァントによっては霊体化を嫌うものもいるがな。理由はそれぞれだが…我ら過去の者が肉体を得たというのであればわからない話でもあるまい」

 

とはランサーの言葉。

とにもかくにもランサーはその霊体化を嫌うサーヴァントには当てはまらないらしく、外出にあたりその身を空に解いてくれた。

ならば霊体化していないセイバーはそれを拒んだのかというとそうではない。

 

彼女は霊体化ができないらしい。

その理由について彼女も遠坂も語ることは無かったが、どうやら通常のサーヴァントとはどこか違った存在であるようだ。

セイバーは今、白いブラウスと青いスカートといった姿で隣を歩いている。

その横顔の向こうに見慣れた風景が見える様が、どこかちぐはぐで、でも美しい絵画のようで、しばし目を奪われた。

 

「あら、衛宮君ったらセイバーみたいな娘が好み?」

 

思考の外から聞こえた声にはっとする。

見れば、振り返った遠坂の顔に意地の悪い笑みが浮かんでいた。

 

「…そんな訳あるか」

 

ちらりと横を伺えば、今の会話が聞こえていたであろう彼女は素知らぬ顔で歩き続けている。

 

「あーあー、意地っ張りは大変だわ」

 

それはどちらに向けられた言葉か、何に向けられた言葉か。

セイバーと二人して居心地の悪さに軽く視線を交錯させながらも、教会へと続く道を歩いた。

 

 

 

「待て、一旦止まれ」

 

ランサーが霊体化を解き、姿を現したのは教会の姿がくっきりと見え始めた頃だった。

 

「どうしたの、ランサー」

 

遠坂が不思議そうに尋ねる。

だがそれに答えたのは、ランサーではなくもう一人のサーヴァント。

 

「勘違いかと思いましたがやはりそうですか。凛、あの教会の中にサーヴァントがいます」

 

その言葉に驚愕の表情を浮かべたのは遠坂。

 

「なんですって!?それどういうこと?教会にサーヴァントなんて…、元々滞在していたにしろ誰かが差し向けたにしろ重大なルール違反よ、それ」

 

言うが早いか、遠坂が走り出す。

もし仮にサーヴァントが教会に差し向けられたというのなら、それはルールなど知らぬとばかりに手段を選ばないマスターが存在するということ。

遠坂にとって教会の主の生死は二の次らしいが、そんなマスターがいるのならサーヴァントの一つでも確認しなければ気が済まない。

そしてそれ以上に警戒すべきなのは、教会の主がサーヴァントを隠していたマスターだったという可能性。

 

どちらにせよ、サーヴァントの気配が感じられる今のうちにそのサーヴァントの姿を一目見なければならない。

 

走り出したと同時に遠坂はセイバーに目配せする。

瞬間、セイバーの姿が青い騎士の姿へと変化した。

このあたりにもはや人影はない。つまり神秘を隠す必要がない。

頷いたセイバーは遠坂を担ぎ、弾丸の如く加速した。

アスファルトが弾け飛び、欠けらが舞い散る様がその踏み込みの凄まじさを物語る。

 

「こちらも行くとしよう。どうやら一刻を争うようだ」

 

ランサーの肩に無造作に担ぎ上げられる。

ひやり、と汗が伝う。セイバーの速度は正に砲弾と呼ぶに相応しいものだった。

ランサーもサーヴァントであるのならあれだけの速度を出せると考えるのが自然だろう。

 

「待て、ランサー。お前まさか───うおっ!!」

 

目の前の景色が引き伸ばされて行く。隣に見えていた木々が次の瞬間には遥か遠くに見える。

全く、サーヴァントの身体能力というのは恐ろしい。

人の身であればどうやっても数分はかかるであろう距離をランサーとセイバーは数十秒で走破した。

 

「大丈夫か、シロウ」

 

地に降ろされ、声をかけられる。

意外なことに、頭が一瞬くらっとした程度で軽く頭を振る程度でその異常も無くなった。

 

「ああ、それより…ここでいいんだよな」

 

教会を見上げる。

遠坂の鋭い視線。セイバーとランサーがそれぞれのマスターを追い越し、前列へと躍り出るその姿から察するに、ここに件のサーヴァントがいるらしい。

二騎について教会へ一歩一歩近づいて行く。

あと10歩。10歩でその扉に手が届く。昼間とはいえサーヴァントがいる以上、戦闘になる可能性がない訳ではない。

ごくり、と喉を鳴らす。

 

その時、その扉が内側から開いた。

 

「セイバー、そしてランサーですね」

 

その扉の向こうから外へ歩み出てきたその姿は清廉さを感じさせる少女だった。

敵意は見られない。だがランサーの姿勢が微かに沈み、臨戦態勢に入ったのを見るに彼女がサーヴァントで間違いないらしい。

 

「一目でサーヴァントを見抜くってことは、あなたもサーヴァントね?」

 

確認の意図を込め、遠坂が尋ねる。

 

「ええ。ですがお話なら中でお願いします。サーヴァントが昼間から対峙している状況は喜ばしいものではありませんから」

 

そう言って少女の姿をしたサーヴァントはゆっくりと後ろに下がった。

招き入れる仕草の後、完全に教会の中へと彼女の姿が消えて行く。

 

遠坂と顔を見合わせる。

どちらともなく頷くと、サーヴァントの後を追い教会への残り僅かな距離を歩き出した。

 

 

「ふっ、誰かと思えばお前だったか、凛」

 

教会の中、サーヴァントともう一人、静かに佇む神父がいた。

目視した瞬間、どうしてだか心の内がざわつく。

不快感、嫌悪感、そのどちらとも違う居心地の悪い感情が動いている。

 

「ええ、綺礼。あなたに聞きたいことがあってね。でもやめたわ。まさかあなたがサーヴァントを従えてたなんて、これじゃ全うな監督役とは言えないわね」

 

そう言って遠坂は視線を教会の入り口に佇むサーヴァントへと向ける。

だが、その視線を向けられたサーヴァントは不思議そうな顔をするばかり。

代わりに、得心いったと神父が笑い出す。

 

「私が彼女を従える、か。それは勘違いだ凛。彼女は何者にも従わない、彼女が従うとしたらそう、それは神のみだろう」

 

「ええ、私はその方のサーヴァントではありません」

 

「信じられると思う?」

 

「いや、その神父の言葉にもサーヴァントの言葉にも嘘はない」

 

両者の言葉を虚偽だと断じようとする遠坂をランサーが止める。

何を根拠にしているかは不明ではあるが、そこには絶対的な自信が見て取れる。

 

「そこのサーヴァントの言う通りだ、しかし私が何を言おうとお前は納得せん。続きは彼女に聞くがいい」

 

そう言って神父は視線を未だ正体不明のサーヴァントに移すよう促す。

人間三、サーヴァント二、都合十の瞳に見据えられた彼女は一度しっかりと頷くと、口を開く。

 

「私はあなたがたの言う通りサーヴァントの一騎。ですが私にマスターはいない」

 

マスターがいない──?

どういうことだ、と混乱する。

サーヴァントとはマスターがいて初めて存在できるのではなかったか。

 

「───私はルーラー。この聖杯戦争の調停役として召喚されたサーヴァントです」

 

ルーラー?

疑問符を浮かべる俺と違い、遠坂にはそのルーラーという言葉に聞き覚えがあったのか二騎のサーヴァントと共に目を見開く。

 

「ルーラー… なるほどね。ということはこの聖杯戦争には」

 

「結果が予測できない異常が確認されました。私が召喚されたのはそのためです」

 

会話が理解できない。

そんな俺を見かねたのか、遠坂とルーラーと呼ばれたサーヴァントはそのルーラーというクラスについて説明を始めてくれた。

曰く、ルーラーとは通常召喚されることのないクラスである、と。

ルーラーは中立を保ち、聖杯戦争が正しく行われるよう監督する。

聖杯自身に召喚されるサーヴァントのため、マスターが要らず、規約を破るものにペナルティを与える。

それが召喚される理由は大きく分けて二つ。

『その聖杯戦争が特殊な形式によるものであり、結果が予測できない場合』

『聖杯戦争の結果によって世界に歪みが出る場合』

 

「今回はその内の一つ目、結果が未知数であるため裁定者として私が呼ばれました」

 

「理解できたかな?彼女は中立の立場であるがゆえにまず真っ先にここを訪れた、という訳だ。召喚された原因たる異常については話す必要もない。ランサーたるそこのサーヴァントを連れてきた、ということは全て察しがついているのだろう?」

 

神父の言葉に遠坂は頷く。

 

「ええ、じゃあもう一つ質問いいかしら。聖杯戦争に異常があるのは理解した。なら聖杯は?聖杯の方にも何か異常はあるのかしら」

 

ルーラーは静かに瞳を閉じるとゆっくりと首を横に振る。

 

「いえ、私を召喚できた時点で聖杯のシステムとしては異常はないと思われます。しかし、聖杯戦争に確かな異常が発生しているのも確か。それを執り行う聖杯にも何かが起こっている可能性は否定できませんね」

 

「今聖杯に接続することはできないのかしら」

 

「できません。この身はルーラーなれどいくつかの特権を除き、他のサーヴァントと然程の違いはありませんから」

 

そう、と一言呟くと遠坂は一人静かに考え込み始めた。

その異常の中心たるランサーはと言えば、教会の壁に背を預けルーラーをじっと見据えている。

 

「ランサー、あなたにも聞きましょう。何か心当たりはありますか?」

 

視線に気づいたのか、ルーラーはランサーに意見を求める。

だが、そんなものはない、とランサーは首を振った。

 

「生憎だが、召喚時から今まで気付いたことなどなくてな。もう一騎のランサーに聞こうとそれは同じだろう」

 

それで手詰まり。誰も決定的な情報を持たず、語る言葉の全てが推測の域を出ない以上、更なる会話に意味はない。

 

「つまり、こういうことね。聖杯戦争自体には異常が観測されている。だからルーラーが召喚された。でも聖杯の異常についてはわからない。ルーラーを召喚できた以上、何かの不都合がある可能性は低いけど、確実とは言えない」

 

その結論がここに来た収穫だ。

上々、とまではいかないが悪くはないだろう。

少なくとも現在の状態を多数の視点から、そしてルーラーのお墨付きで理解できたのは大きな収穫だ。

 

 

「わかった、それなら俺がやることに変わりはない」

 

「そうだな。聖杯の状態が不確定というだけで諦める魔術師など居はしない。ならばオレとシロウのやることにも何も変化はない、ということだ」

 

俺とランサーが決意を固める横で、ランサーの言葉を肯定し遠坂、セイバーが頷く。

 

「当たり前、その程度で止まる魔術師がいるかっての。ルーラーが出て来た以上私達のやることも変わらない」

 

結局、誰の行動にも変化はないということだ。

宣言する言葉は同じでもそれからの行動は大きく異なるが。

俺たちは聖杯戦争を止めるために動き、遠坂達は聖杯戦争の参加者として動く。

 

「話が纏まったのなら、帰るがいい。マスターともあろうものが、長居する場所ではない」

 

「あら、顔を出せってうるさかった癖にいざ来たらそれ?」

 

「それはそれ、というやつだ。先のお前達ではないがこの時間にサーヴァントを何体も招き入れていれば癒着を疑われる。それはこちらとしても、望むものではない」

 

「ま、それもそうね。じゃ、帰りましょ衛宮君」

 

その瞬間、蛇の舌でなぞりあげられたように肌が騒つく。

それは何故か。この悪寒の原因はどこにあるのか。

 

「衛宮、か。そうか、お前が」

 

それは歓喜か、憎悪か。

俺の五感に異常を叩きつける神父の視線にはザラついた感情が秘められている。

 

「なるほど、ならばお前が聖杯戦争に参加するは必然だったか」

 

「どういう、意味だ」

 

「何を言う。十年前の火災、あのような悲劇を繰り返さないためお前はマスターになったのではないのか。衛宮切嗣の息子であるならば、お前が参加する理由など他にはあるまい」

 

今、なんと言ったんだ。こいつは。

一息のうちに語られた言葉に込められた情報が多すぎて理解が追いつかない。

 

「ふ、その様子では知らんようだ。いいか衛宮士郎。十年前の火災、この街に住んでいる者ならば誰もが知るあの火災、あれこそは聖杯によって引き起こされた災厄だ。死傷者五百名、焼け落ちた建物百三十四棟に及ぶそれは、相応しくないものが聖杯に触れたというだけで引き起こされたものだったのだよ」

 

脳裏に、焼け落ちた空を幻視した。

地には黒く焼け焦げた大地、いや大地のみではない。

建物も人も、空気も、何もかもが黒く焼き尽くされていた。

頭が揺れる。吐き気が喉に迫る。

 

ふらつく足を支えるように、体を抱きとめる感触。

 

「大丈夫ですか──?って凄い汗…!ランサーさん、何か持っていませんか!?」

 

「持っている訳がないだろう。オレはサーヴァントだが従者(サーヴァント)ではない。持っていたとしてもだ、心に巣食う闇を払う物などそう多くはない」

 

隣で誰かが騒いでいる。

だがその言葉は俺の耳には入らない。

今俺が知覚できるのは目の前の神父の言葉のみだ。

 

「衛宮切嗣の跡を継ぐのならば、お前はこの聖杯戦争に参加しなければならなかった。いずれ不当に奪われる命を救う、というのであればな。何せ相応しくない人物が聖杯を手にした結果は既に示されているのだから。もっとも、あの頃の衛宮切嗣を見れば───ふ、これは言わずともよいことか」

 

「───確かに、そうかもしれない。礼は言わないが、俺の意思は固まった」

 

そう、何も変わらない。意思を更に強固にしただけだ。

あの災厄が聖杯戦争により引き起こされたというのなら、俺はそれを必ず止めるだけ。

もう、俺のような無為に奪われる命を出さないために。

俺があの災厄で生き残ったのならばそれは───。

 

「それは何より。では凛共々去るがいい」

 

これで話は終わり、と神父は背を向けた。

そこでようやく、左腕を掴む感触を、体を支える存在を理解する。

 

「あ、ありがとう。支えてくれてたんだよな。おかげで楽になった」

 

「いえ、当然のことをしたまでです」

 

それでも、ともう一度例を言って神父に背を向ける。

遠坂とセイバーは既に教会から退出していた。

その後を追うため、僅かに歩幅を大きくする。

 

その背中に

 

「───喜べ少年、君の願いはようやく叶う」

 

愉しみを見つけた誰かの声が聞こえた。

振り返れば、いつのまにか神父は再びこちらを見据えている。

 

「正義とは、討つべき悪がなければ成立しない。お前の最も尊き願いと、最も醜い願いは同一のものだ」

 

その言葉は内に眠る矛盾を糾弾する。

違う、と叫びだそうにも、それができない。

 

「なんのことだ?」

 

置いてけぼりになったランサーとルーラーの頭の上に疑問符が浮かぶ。

 

「おや、衛宮士郎。お前は自分のサーヴァントに自身のあり方も伝えてはいないのだな。そこの男はな、正義の味方などという妄念に囚われた男の残した忘れ形見だ。あの男の息子なら、と思えばやはり息子も息子で、父親の妄念を継いでいたという訳だ」

 

神父の言葉にランサーの表情が険しくなる。

腕を組み、その眼差しで俺を射抜く。

 

「……確かに、正義を謳うのならば討ち果たすべき悪が必要だ。オレのような戦士(クシャトリア)もまた倒すべき誰かがいなければ成立しない。それと同じだ」

 

そして、未だ言葉の出ない俺に追い討ちをかけるように、ランサーが呟いた。

 

「シロウ、我がマスターよ。無辜の民という弱者を救いたいというお前は正義という集団秩序をよしとするのか?正義という概念が倒すべきものとして選んだものが、例えお前が救おうとした弱者だとしてもか?」

 

出るべき言葉など、元々俺のうちにはなかった。

ランサーの言葉はどこまでも正論で、考えまいとしていた何かを暴き出す。

これが悪意によるものであれば、怒りによってそれを忘れられただろう。

だが、ランサーの言葉はどこまでもただ事実を指摘するだけのものだ。

ただ真実を見せるだけのものだ。

 

だから、俺はその真実と正面から向き合わなきゃいけない。

 

「俺、は────」

 

正義の味方にならなきゃいけない。

何のため───?

誰のためだ───?

 

決まってる。あの日俺と同じように暴力的に幸せを奪われた誰かのために。

生き残った俺にはその義務がある。

 

「──答えられないのであれば、一つだけ言っておこう。弱者の味方でありたいのなら、正義に肩入れするのだけはやめておけ。そうでなければ、非情に徹することだ」

 

「そんなこと、俺は───!」

 

その瞬間、俺とランサーの間にルーラーが割り込んだ。

 

「そこまでにしておきましょう。ランサーもあなたも熱くなりすぎです。それ以上議論をしたいのであれば、あなた方の居場所に戻ってからにして下さい」

 

俺とランサーにそれぞれ掌を翳し、もうやめなさいと行動でも訴えている。

正直、ありがたかった。

俺は、ランサーの言葉に何一つとして返せるものを持っていなかったのだから。

 

「すまないな、衛宮士郎。まさか君のサーヴァントがそこまで反応するとは思っていなかった」

 

口元を釣り上げ、神父がそう言う。

嘘吐け、と何となく思うが、証拠はない。

 

「ああ、世話になった」

 

今度こそ、教会から出るために一歩一歩来た道を戻っていく。

見送りのつもりなのか、ルーラーの姿が、すぐ隣にあった。

 

扉に手をかけ、押し開く。

そこで、意を決した声でルーラーが口を開く。

 

「シロウ君、でしたね。貴方の想いも、迷いも、間違ってはいません。存分に悩みなさい。きっと貴方なら、ちゃんとした答えを見つけられますから」

 

そう言って、花のように笑う。

 

「そうだな。目指すものはともかく、今のシロウの行動に間違いなどない。その行動に救われる者もいるだろう。自分の行く末を決めるのは、それからでも遅くはない」

 

ランサーもまた、僅かに笑みを浮かべる。

 

「ありがとう、そうする。なぁ、ルーラーあんたこれからどうするんだ。サーヴァントが教会にいるのはマズいんだろ?」

 

「そうですね…。とりあえず、夜までは暇ですので街を見てみようと思いますが」

 

「いや、そういう意味で聞いたんじゃ…まぁいいや。なら案内するよ」

 

どこかズレた返答をするルーラーに苦笑する。

なんだかこの二日間サーヴァントというものに振り回されっぱなしでこういう笑い方をする事が増えた気がする。

 

「いいんですか?ありがとうございます!」

 

そう言って笑うルーラーと共に教会を出る。

どうやら見送りではなく、最初から彼女も外へ出るつもりだったようだ。

ばたん、と背後で扉の閉まる音がした。

遠く、教会の敷地と道路の境には遠坂とセイバー。待っててくれたのか。

 

待たせたなら、怒ってるよな、と急ごうとする。

が、その腕をルーラーが掴んだ。

 

「忘れていました。シロウ君、貴方に聞きたいことが───」

 

───あなたはアーチャーの行方を知っていますか?

 

 




士郎の内側のみが前に進んでおりますね。

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