トルメキアの黒い巨神兵   作:銀の鈴

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トルメキアの白い魔女〜交渉〜

「どうやら君が言う通り、俺は巨神兵のようだな」

 

天空を焼く炎を放った後、彼は静かに呟いた。

 

「うむ、恐らくはこの腐海で眠っていた巨神兵の卵が何かの拍子で孵ったのだろう」

 

「何かの拍子? 巨神兵ってそんな簡単にポコポコ生まれているのか?」

 

「いや、生きた巨神兵などそなたが初めて確認された例だろうな」

 

「ほう、レアキャラということか。それにしてもあれだな」

 

「ん、なんだ?」

 

「君は自信満々に喋っているけど、巨神兵については何も分かっていないみたいだな」

 

その物言いに私は少しカチンとくる。

 

「ほう、私はこれでも勉強家だ。誰よりも巨神兵についても学んでいるぞ」

 

「それならさっき言っていた卵が孵った何かの拍子について、推測とかないのか?」

 

「ふむ、そうだな……例えば地熱で孵ったとかか?」

 

「そんなんで孵るならとっくの昔に孵っているだろう」

 

「むむ、それなら地殻変動で地中深く埋まっていたのが地上に押し出されて孵ったんじゃないのか?」

 

「周囲を見渡してもそんな大規模な地殻変動が起こった形跡はないぞ」

 

「うぐぐ、それじゃあ、それじゃあ……」

 

「それじゃあ、なんだ?」

 

「うう……」

 

「どうした? なにも思いつかないのか?」

 

「うるさーい!! 仕方ないだろう!! 腐海内でのことなんだから細かい事が分かるか!!」

 

細々とうるさい巨神兵を一喝する。

 

まったく、大きな図体をしているくせに細い事をいう奴だ。

 

私が説教をしていると、こいつは何を思ったのか突然頭を撫でてきた。

 

「子供扱いするでないわ!!」

 

私は再び一喝した。

 

 

 

 

説教がひと段落した所で仕切り直しといこう。

 

「うむ、それでそなたの正体が分かったところで、私も自らの立場を明らかにしよう」

 

私の言葉に彼の顏がこちらに向いた。

 

彼にとって、人間世界での私の立場など意味がないかもしれないが、現状では数少ない交渉材料だった。

 

トルメキアの皇女だという事で彼の興味を引き、完全に味方に引き込めなくても、この腐海から脱出するまでは友好関係を築きたいと考えている。

 

先ほどまでの蟲共との戦闘を思い返せば、それしか我らが生き残る方法はないだろう。

 

「私はトルメキア王国第一皇女、クシャナ。先ほどは危ういところ助力いただき感謝する」

 

私は心からの誠意を込め彼に頭を下げる。

 

王族らしからぬその行為に、後ろで部下達が騒つくが黙殺した。

 

この瞬間こそ、われらの生死を分ける分水嶺となる。

 

私は深く頭を下げたまま、彼の言葉を待った。

 

それは数秒だったのかもしれないし、数分だったのかもしれない。

 

けれど、私にとっては数時間にも感じられた長い時間だった。

 

そして、ついに彼が口を開いた。

 

「皇女……つまり、姫様か! 初回イベント無事クリアって事だな!」

 

 

――意味不明だった。

 

 

 

 

ジロジロと彼に見つめられる。

 

その視線からは悪意は感じられず、純粋な好奇心だけを感じた。

 

「ほう、これが本物の姫様か。姫様なのにドリルヘアじゃないんだな」

 

ドリルヘアとは……?

 

彼の視線が私の頭に向いているようだから、髪型の事だろうか?

 

私の髪は訓練の邪魔にならないように編み込んでいる。もちろん、兜を被るためでもある。

 

「なるほど、兜を被るために編み込んでいるんだな。ところで、後ろの奴らも付けているけど、そのマスクはなんだ?」

 

「これは防毒マスクだ。これが無ければ、数分で腐海の毒で肺が腐るぞ」

 

「なんだと!? じゃあ、俺はどうなるんだ! 防毒マスクなんて持っていないぞ!」

 

私の言葉に彼は驚いたようだ。

 

慌てて、自分の口を抑える様がなんだか可愛らしく思えて笑みが零れた。

 

「ふふ、そなたは大丈夫だろう。伝説の巨神兵なのだし、それに別段体に異常は感じていないのだろう?」

 

もしも巨神兵に腐海の毒が効くのなら、彼はとっくに死んでいるだろう。

 

これまで無事だったのだ。

 

巨神兵に腐海の毒は無力だと考えていいだろう。

 

「なるほど、巨神兵は呼吸器官が強いという事だな。健康優良児でなによりだ」

 

こ、呼吸器官がつよい……?

 

まあ、たしかにそういう事なのだろう。

 

それにこやつは生まれたてのようだから、健康優良児というのも正しいのだろう。

 

だが、しかし……

 

なんというか、世界を焼いたと伝えられている存在であり、恐怖の代名詞として恐れられている巨神兵を表す言葉として、ソレが適切なのかと疑問に思うのだが。

 

少し考え込んだせいか、彼が私の顔を覗き込むように顔を寄せてきた。

 

近くで見た彼の目が、私を気遣う色を帯びていることに気づく。

 

ふふ、どうやら私は先入観とやらに囚われすぎていたようだ。

 

巨神兵にまつわる伝説など所詮はお伽話に過ぎない。正しい記録などトルメキア王国にすら残されていないのだ。

 

カビの生えた伝説などより、目の前にいる彼を正しく見て判断するべきだろう。

 

そして、私の直感は彼を優しい心を持つ者だと告げている。

 

それだけで十分だ。

 

「すまない。少し考え事に集中していたようだ。それで話はなんだったかな」

 

「いや、話は別にいいんだが、それよりも考え事ってなんだ? なにか心配事なら相談にのるぞ」

 

無視をする形になってしまった彼に謝罪をするが、彼はそんな事を気にもしていない。そればかりか私の事を心配までしてくれる。

 

 

「ああ、実は私達が乗っていた艦艇が墜落してしまってな……」

 

 

ふふ、僅かなやり取りでも分かる。

 

 

「それで、救援がくるまでこの腐海で……」

 

 

彼は善良な人間……でなく、善良な巨神兵なのだろう。

 

 

「それなら俺が救援がくるまで護衛をしてやるよ。なんならついでに国まで送っていこうか?」

 

 

魑魅魍魎が蠢く王宮で、謀略と策略と共に生きてきた私とは真逆な存在だ。

 

 

「それは助かる。国に帰ったなら必ず礼をしよう」

 

 

私はそんな善良な人間……じゃなくて巨神兵を利用することしか考えていない。

 

きっと私は碌な死に方をしないだろう。

 

憎悪と怨嗟の声を向けられながら破壊と絶望を撒き散らす最悪の魔女として、最後は朽ち果てることだろう。

 

だがそれでも、そんな魔女を信じてくれる者達がいる。

 

最悪な魔女でしか、成し遂げられない事がある。

 

血みどろの道を歩くには理由がある。

 

そう、たとえこの善良な巨神兵を……

 

 

ゴオーン!!

 

 

その時だった。エンジン音を響かせてドルクの艦艇が姿を現した。

 

「殿下っ、ドルクの艦艇が!」

 

「まさか腐海の中まで追ってきたのか!?」

 

「あれが姫様の艦を落とした敵か。なるほど、突発イベントだな。では――落ちろ! 蚊トンボ! ハイメガ粒子砲!!!!」

 

私の頭上にあった巨神兵の口から凄まじい炎が放たれる。それは二度目で慣れたのか、一度目よりも収縮された高密度の炎のように感じられた。

 

 

ドゴォオオオオーーーーッンン!!!!

 

 

その凄まじい炎が命中して、ドルクの艦艇は一瞬も耐えられずに大爆発を起こした……もちろん乗組員達は全滅だ。

 

その破壊は、一切の牽制も警告もなく躊躇なく成された。

 

 

こ、こいつ――

 

 

 

「フハハハハッ、汚い花火だぜ!」

 

 

 

――悪い巨神兵だ!!

 

 

 

 

 

 

 




ついに暴かれた巨神兵の邪悪なる本性!
その暴虐なまでの毒牙は、ついには可憐なる殿下にまで向けられる!
忠実なる部下達は殿下を守り抜くことが出来るのか!?
次回っ『進撃の巨神兵!』乞うご期待!!

注意:次回内容は予告なく変更となる可能性があります。ご了承をお願いします。

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