トルメキアの黒い巨神兵   作:銀の鈴

16 / 24
ハーメルンよ、私は帰ってきた!
お久しぶりです。なんとか年内に続きを投稿出来ました。


トルメキアの白い魔女〜不屈〜

「営業許可申請書……なんだこれは?」

 

トルメキアの実質的な統治者となったクシャナの元には、各部署より膨大な量の報告書類が上がってくる。

 

もちろん、それら報告書類は各部署にて精査・処理されたものゆえ、本来ならクシャナは最終的な決裁印を押すだけでよかった。

 

だが、現在絶賛混乱中のトルメキアでは、時折意味不明な書類がクシャナの元に上がってくる。

 

その多くは、クシャナに反感を持つ下級貴族の文官による嫌がらせであった。

 

今回の書類もその類だろうと察せられた。何故なら、たかが営業許可程度の申請書などが一国の統治者の元に回ってくるわけがないからだ。

 

クシャナは溜息を吐きながらも一応は書類に目を通す。そして、書類の申請者が “巨神兵” となっていることに気づいたクシャナの口元は楽しげに綻んだ。

 

「文官共の嫌がらせかと思えば……フフ、巨神兵()からの頼み事だったか」

 

クシャナにとって巨神兵は唯一の友であり、そして恩人でもあった。

 

彼の頼み事であれば、クシャナは大抵のことは二つ返事で了承するだろう。

 

「ほう、トルメキアの周辺の荒地を開拓して畑を作りたいのか。そして、収穫物の加工販売の許可が欲しいと――この程度のことなら態々書類にせずともいいものを。意外と律儀な奴だな」

 

皇太子となったクシャナにとっては容易い願いだった。むしろ、今朝屋敷で顔を合わせた時にでも言ってくれれば、口頭で了承をした程度の話であった。

 

「最近は忙しくて放ったらかしだったからな。あいつも暇なのだろうな」

 

クシャナは、王位継承争い後の混乱を収めるため忙しく、巨神兵()との語らいも満足に出来ていなかった。そして、自分の目が届かないところで巨神兵()に騒動を起こされたくなかったので外出も認めなかった。

 

流石に一か月も屋敷に缶詰だと息も詰まるだろうと反省した。

 

「よし、承認っと」

 

ポンッと、クシャナは気軽に承認印を押して処理をした。

 

処理済みの棚に置かれたその書類を赤毛の部下は何となく手にとった。

 

書類の隅っこには、小さな文字でこう書かれていた。

 

[社名:クシャナ(姫様)殿下のお菓子屋さん]

 

[代表取締役:クシャナ(姫様)殿下]

 

赤毛の部下は当然のように思った。

 

 

──私も殿下のお菓子を食べたいなぁ、と。

 

 

 

 

トルメキア王都近郊には、岩石だらけで農業には適さない平野が広がっていた。そこに巨神兵と寡黙で冷静に見える外見をした男は訪れていた。

 

「ククク、岩石ごときならバルカン砲で十分だ! 喰らえっ!」

 

「なんと、あの手加減出来ず(・・・)の巨神兵殿が、程良い威力の攻撃を繰り出せるようになられている!?」

 

バルカン砲と言いながらも明らかに実弾ではなく、ビーム系の砲撃を繰り出す巨神兵。

 

その発言に虚偽ありだが、その程良い威力には偽りなしであった。

 

いつもの極太ビームだったなら、周囲一帯を吹き飛ばして巨大クレーターを作っていただろう。そうなっていたなら改めて埋め戻すのに多大な労力が必要だった。

 

だが、自称バルカン砲は岩石のみを器用に粉微塵としていた。そして、わずか数時間後には全ての岩石は消えており、その後には農業に適した広大な平野のみが残されていた。

 

「よし、まずは畑作りといくか!」

 

巨神兵は凄まじい勢いで地面を素手で耕していく。

 

「フハハハハッ、畑作りと亀仙流の修行も行えるとは一石二鳥とはこの事よ!!」

 

人生初めての挫折を味わった巨神兵だったが、彼はそれで終わるような巨神兵ではなかった。

 

――初志貫徹。

 

姫様を想う鋼の如き精神は揺るがなかった。

 

「ククク、鶏(マヨネーズの材料となる卵を産む鳥)を育てるよりは、てん菜(砂糖の原材料になるダイコンみたいなヤツ)を育てる方が簡単そうだからな」

 

ひ、姫様を想う鋼の如き精神は柔軟だった。

 

耕運機顔負けのスピードで広大な平野を耕す巨神兵。日が暮れる頃には大半の土地を耕し終わっていた。

 

「流石は巨神兵殿です。広大な平野をこの短時間で耕すとは……この目で見ても未だに信じられない偉業です」

 

寡黙で冷静に見える外見をした男は、畏敬を込めた眼差しを巨神兵に向ける。

 

「フフ、こう見えても実家では家庭菜園をやっていたからお手の物だ」

 

寡黙で冷静に見える外見をした男の言葉に満更でもないように答える巨神兵。

 

「だが、やはり専門家が必要だな」

 

「ええ、そうですね。土地を耕しただけで終わりではありませんからね。ある程度の小作人を雇う必要があります」

 

畑とは地面を耕して完成ではない。畑としての土を作る必要があり、水路なども必要だ。何よりも実際に作物を作るには巨神兵では細かい作業が出来ず、寡黙で冷静に見える外見をした男も軍の仕事があるので農業に専念は出来なかった。

 

「それに、砂糖を精製する施設も今のうちに建造する必要があるぞ」

 

てん菜を収穫出来たとしても、砂糖に精製出来なければ意味がない。そして、現在のトルメキアには巨神兵が欲するほどの量を精製できる施設はなかった。

 

つまり、お菓子を作る前段階として、てん菜畑と砂糖の精製施設が必要であり、その後もお菓子を作る施設が必要となる。

 

そして、当然ながらお菓子を販売する店舗も必要だ。

 

巨神兵が挑む道は、長く険しかった。

 

「フハハハハッ、だが心配はいらんぞ! この商売は姫様公認だからな。王室の資産は使いたい放題だ! これから人海戦術で突っ走るぞ!!」

 

「おおっ!? 殿下はそれほどの熱意をお持ちになっておられたのですね! わかりました。この私も全力を尽くしましょう。そして必ずや殿下の側近に返り咲きます!!」

 

 

 

──こうして、クシャナ(姫様)殿下を社長に据えたお菓子屋さん計画は始動した。

 

 

 




巨神兵は内政チートを諦めません!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。