トルメキアの黒い巨神兵   作:銀の鈴

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今回は説明回です。適当に読み飛ばしても大勢に影響はありません。


トルメキアの白い魔女〜改革への序章〜

「最近ヒマだな。なんか知らんが、姫様は忙しそうにして俺の相手をしてくれんし」

 

貴族連合軍との争いが終結して一か月が過ぎた頃、巨神兵はヒマを持て余していた。

 

クシャナ殿下から外出禁止令を受けてしまった巨神兵は、日がな一日屋敷の中庭でゴロゴロするしかやる事がなかったのだ。

 

そんなヒマな巨神兵とは対照的にクシャナ殿下は、トルメキア国内の混乱を収めるため忙しく動いていた。

 

戦乱終結後、最終的にクシャナ殿下は、皇子派だった貴族連合軍に組みしていた貴族達の降伏を受け入れた。

 

もちろん、ただで許したわけではない。二度と反旗を翻せないように貴族達の権限は大幅に削り、その領地と財産の大半は没収した。

 

トルメキア軍にて地位を得ていた者たちもその任を全て解かれ、軍部は完全にクシャナ殿下の支配下におかれた。

 

だが、内政に関わる文官の職務に就いていた貴族達は簡単には解任出来なかった。

 

なぜなら文官はある程度の教育を受けた者でなければ務まらないからだ。

 

トルメキアという国でそのような教育を受けれるのは、貴族以外では限られた一部の裕福な者だけだ。

 

それゆえ文官には、家を継げない貴族家の次男以下の者が多かった。

 

そしてそんな状況のため、貴族だからといって文官を罷免すればたちまち内政は滞ることになる。

 

そんな愚策をおかすわけにもいかず、クシャナ殿下は文官の掌握に四苦八苦していた。

 

幸いなことは、文官を務めている貴族達は下級貴族が多く、彼らの大半は中立派だったことだ。

 

下級貴族は領地も持たない貴族であり、実質的には裕福な平民に近い立場であった。そんな立場であるから王位継承争いなどは彼らにとっては遠い世界のことであり、今回の騒乱にも殆どの者が参加しなかった。その為、下級貴族を処罰する理由がなく、彼らを解任しない理由となった。

 

だが、今回の件で貴族全体の地位がクシャナ殿下によって大幅に低下してしまった。

 

元々、大した権限など持っていない下級貴族に影響は殆どなかったとはいっても、貴族の一員である彼らがクシャナ殿下に対して好意など持てるわけがない。

 

だからといって叛意を抱くほどでもない。

 

下級貴族にとって、クシャナ殿下は雲の上の人であり、世界を滅ぼせる巨神兵の主人であり、軍部を牛耳る魔女であり、気まぐれな幼女であった。

 

はっきり言って、気にくわないが絶対に関わり合いたくない存在だ。

 

精々、彼らができるのはクシャナ殿下への不満を仕事の手を抜くという行為で発散することぐらいだった。

 

もちろん、手を抜き過ぎて自分達の評価が落ちるほどには手を抜かない程度の知恵は持っていた。

 

その結果、トルメキアの内政は理由は分からないが様々な面で動きが遅くなってしまった。

 

クシャナ殿下は薄々は理由に気付いていたが、効果的な対応策はなく不都合が生じる度に自らが動く羽目になっていた。

 

その為、クシャナ殿下は巨神兵の相手をする時間がなくなり、仕方なく巨神兵(大馬鹿)から目を離すという愚行(・・)をおかしてしまった。

 

 

 

 

「本当にヒマだな……そういえば、姫様が文官共の仕事が遅いってボヤいていたよな」

 

巨神兵は少しだけ考えた。

 

「ククク、仕方ないな。この俺が前世の知識を使って、内政チートとやらをしてやるか」

 

巨神兵はパンパンと手を叩く。

 

「お呼びですか、巨神兵殿」

 

寡黙で冷静に見える外見をした男が現れた。

 

「うむ、姫様のためにトルメキア国を発展させるぞ! その為にお前の手を借りたい!」

 

「おお! それは是非とも協力させて下さい! 今度こそ功績をあげてクシャナ殿下の側近に返り咲いてみせます!」

 

「フハハハハッ!! 俺に任せろ!!」

 

意味もなく空に向かって胸を張り、高笑いをする巨神兵を寡黙で冷静に見える外見をした男は頼もしく思った。

 

 

 

 

 

 




巨神兵が頼もしい――たぶん、彼の気の所為です。

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