トルメキアの黒い巨神兵   作:銀の鈴

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トルメキアの白い魔女〜進撃〜

――姫様が倒れ(冬眠し)た。

 

 

それを聞いた瞬間、(巨神兵)は全てを理解した。

 

それは、少し考えれば分かることだった。

 

(巨神兵)の姫様が、どれほど誇り高く可愛らしい王女だったとしても、彼女はまだまだ幼女といえる年齢なのだ。

 

幼女が軍で命懸けの任務に就き、そして年の離れた兄達と玉座をかけて争っているのだ。

 

その心労の程は、(巨神兵)の想像を絶しているだろう。

 

幼女が倒れる(冬眠する)のも当然といえた。

 

「うむ、ここは俺の出番だな。姫様が療養(冬眠)している間に状況改善をしてやろう」

 

それ故に、(巨神兵)は自らが積極的に動くことを決めた。

 

「できれば、クソッタレな兄達を消しとばしたいところだが、姫様は反対するだろうな」

 

(巨神兵)としては、手っ取り早く姫様の兄達を物理的に排除したいところだが、(巨神兵)の姫様は武力による王位は望んでいなかった。

 

「仕方ない、地道な方策をとるか」

 

生まれたばかりの(巨神兵)だが、(巨神兵)には前世の記憶というアドバンテージがあった。

 

その記憶の大半はサブカルチャーといわれるものの知識だったが、その知識は(巨神兵)の行動指針となり歴史を変える力となった。

 

 

 

 

絶対王政とはいえ、民衆の支持は蔑ろには出来ない。

 

その考えのもと、(巨神兵)は愚かな民衆を扇動して姫様の味方につけた。

 

「フハハハハ、世界は姫様に管理運営されるべきだ!」

 

(巨神兵)は、あっさりと扇動されていく民衆を前にして嗤う。

 

やはり、優秀な姫様が世界を統べなければ愚かな人間は滅ぶだろうと確信しながら。

 

とはいっても、別に(巨神兵)は特殊な思想におかされているわけではない。

 

ただ、(巨神兵)はこう思ったのだ。

 

『俺と仲のいい幼女が世界の王となる。これ、萌えね?』

 

――と。

 

 

 

 

民衆を味方につけた(巨神兵)は、すぐさま軍へとその触手をのばす。

 

「ククク、戦いは数だぞ、俺の姫様の()達よ」

 

クシャナ殿下が統括する第3軍は、(巨神兵)が動くと同時にその傘下に加わった。

 

特に寡黙で冷静に見える外見をした男が、(巨神兵)の指示を受ける前に他の軍団に対しての調略を開始していた。

 

さて、ここで思い出してほしい。

 

まず、旗頭となるクシャナ殿下は民衆から圧倒的な支持を受けている。

 

そして、第3軍の将軍となり、政治的な発言力と軍事力を手に入れた。

 

さらに、巨神兵という世界を滅ぼしえる圧倒的な“絶望”という力を個人的に所有している。

 

つまり、常識人ならクシャナ殿下に逆らう奴はいないだろう。

 

この予想通り、一部の例外を除き、各軍団はクシャナ殿下の支持、又は中立を表明した。

 

 

 

 

大地を埋め尽くすは、第3王子を旗頭とする貴族連合。

 

それが、(巨神兵)の敵だった。

 

貴族連合に対するは、クシャナ殿下直轄の第3軍と(巨神兵)のみだった。

 

その光景はまるで、巨像の群れに立ち向かう虫けらの集団にみえるほどの戦力差だった。

 

だがこれは、他の軍団が日和見を決め込んだせいではない。

 

(巨神兵)がこう言ったのだ。

 

“貴様らはただ見ているがいい。クシャナ殿下の“世界を統べる力”というものをな、と。

 

(巨神兵)から感じられる凄絶な気配とその言葉に、各軍団の将軍達は身体が震えるのを抑えられなかった。

 

そして、将軍達は理解した。

 

今日が“トルメキアが生まれ変わる日”なのだと。

 

これが後に、“トルメキアの白い魔女”と畏れられることとなるクシャナ殿下の――

 

 

 

――歴史に名を刻む、最初の戦いだった。

 

 

 

 

 

 

それは、クシャナ殿下が倒れ(冬眠し)てから僅か二日間ほどで起こった出来事だと赤毛の部下は聞いた。

 

この二日間は赤毛の部下にとって夢のような日々だった。

 

敬愛するクシャナ殿下とのキャッキャウフフな日々は生涯、赤毛の部下の脳裏から色褪せることなく残ることだろう。

 

望めるなら、この夢のような日々を続けたいと赤毛の部下は血涙を流すほどに苦悩するが、それを望むのはクシャナ殿下への不忠となるだろう。

 

赤毛の部下は決断する。

 

この王都で起こった出来事をクシャナ殿下に報告することを。

 

だが、それは明日の朝でも許されるだろう。

 

安からな寝息を立てて眠るクシャナ殿下を愛でながら赤毛の部下は呟く。

 

「せめて、今宵だけはただの子供として安らかにお休み下さい、殿下」

 

赤毛の部下は、明日の朝、心を鬼にしてクシャナ殿下の布団を引っぺがす覚悟を決めた。

 

それが、敬愛するクシャナ殿下を再び血に濡れた道へと戻すことだと知りながらも。

 

「すぅ、すぅ」

 

「うふふ、こうしていると本当に可愛い普通の子供のようね」

 

幸せそうな微笑を浮かべる赤毛の部下。だが直ぐにその微笑は苦しそうな表情に取って代わられる。

 

「殿下、お優しい殿下が苦しむと知りながら殿下を血塗られた表舞台へと引き摺りだす私達を許して下さいとは言いません。私達は恨まれる覚悟はとっくに出来ています。ですが、この呪われし世界を救えるのは殿下をおいて居ないのです。愚かで浅ましい願いだと承知しております。私の命如きでよければいつでも殿下に捧げます……ですから、どうか…どうか、お願いします。力なき我らをお救い下さい……」

 

赤毛の部下の魂からの嘆願だった。

 

だが、当然ながら深い眠りについているクシャナ殿下にその声は届かない。

 

だから、赤毛の部下が握っていたクシャナ殿下の手が、赤毛の部下の手を“私に任せるがいい”といわんばかりに力強く握り返されたのはただの偶然だったのだろう。

 

 

 

 

「しまった!? つい武力行使をしてしまったぞ!」

 

「ど、どどどうするんですか!? 巨神兵殿!!」

 

寡黙で冷静にみえる外見をした男が巨神兵に焦りながら詰め寄る。彼も知っていたのだ、クシャナ殿下が直接的な武力行使を望んでいなかったことを。

 

だからこそ、彼は数の暴力で兄王子達の権力を削ぐために尽力していた。だが、第3王子が武力決起したせいで、大軍に興奮した巨神兵が力をつい振るってしまったのだ。

 

その時、寡黙で冷静にみえる外見をした男も同じように興奮して巨神兵を嗾けるような言葉を発していたので同罪だった。

 

このままだとクシャナ殿下に嫌われてしまうと巨神兵と寡黙で冷静にみえる外見をした男は顔色を悪くする。

 

「うぐぐ、こ、こうなったら」

 

「こ、こうなったら……?」

 

何か閃いたのかと、寡黙で冷静にみえる外見をした男が一縷の望みをかけて巨神兵に目を向ける。

 

「野生の巨神兵が現れて暴れたことにしよう!」

 

巨神兵(本物のバカ)は言った。

 

「なるほど!! それなら仕方ないですよね!!」

 

驚愕の賛成だった。

 

後にクシャナ殿下は語ったと伝えられている、

 

 

「ふむ、あの時ほど、男という生き物がバカだと思ったことはないな」

 

 

――と。




あっさりと国内の敵対勢力を殲滅しました。次回からは、ほのぼの日常編が始まる……かも?

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