fate/stay night 夢よ永遠に 作:fate信者
「話は解った。
それで、遠坂。その結界とやらは壊せないのか」
「試したけど無理だった。結界の基点は全部探したんだけど、それを消去できないのよ。私にできるのは一時的に基点を弱めて、結界の発動を先延ばしにするだけよ」
「ん……じゃあ遠坂がいるかぎり結界は張られない?」
「……そう願いたいけど、それも都合のいい願いでしょうね。もう結界は張られていて、発動の為の魔力は少しずつ溜まってきている。アーチャーの見立てだとあと八日程度で準備が整うとか。
そうなったらマスターか、サーヴァントかーーどちらかがその気になれば、この学校は地獄になる」
「じゃあ、それまでに」
「この学校に潜んでいるマスターを倒すしかない。
けど探すのは難しいでしょうね。この結界を張られた時点でそいつの勝ちみたいなものだもの。あとは黙ってても結界は発動するんだから、その時まで表には出てこない。だから、チャンスがあるとしたら」
「……表に出てくる、その時だけって事か」
「ご名答。ま、そういう訳だから今は大人しくしてなさい。その時になったら嫌でも戦う事になるんだし、自分から探し回って敵に知られるのもバカらしいでしょ」
凍えた屋上に、無機質な予鈴が鳴り響く。
昼休みが終わったのだ。
「話はそれだけ。わたしは寄るところがあるから、家には一人で帰って。寄り道は控えなさいよ」
じゃあね、と気軽に告げて、遠坂は去っていった。
「…………」
気分がいい訳がない。
マスターはマスターだけを襲う、なんて話が気休めにもならない事を知って、まっとうな気持ちでいられる筈がない。
「学校に結界、だとーーー?」
何も知らない、無関係な人間を巻き込むつもりなのか。
そんなのはマスターでもなんでもない、ただの大量殺戮者だ。
そいつが結界とやらを起動させる前に見つけて、見つけて
ーーー完膚無きまでに、倒さなければ。
俺の家族を守る為に。
ーーー
帰りのホームルームが終わって、教室から生徒たちの姿が減っていく。
いつもなら生徒会室に顔を出すところだが、遠坂に早く帰れと言われた手前、寄り道せず屋敷に戻るべきだろう。
ーーー
門には鍵がかかったままだった。
「……そうか。こんなに早く帰ってきたのなんて久しぶりだ」
学校が終われば、大抵はちょっとした手伝いかバイトに精を出して、まっすぐ帰る事なんて珍しかった。
いつもは帰ってくれば門が開いていて、中では桜とアルトねえが夕食の支度をしてくれていたりする。
この一年それが当たり前になっていて、大切なコトが薄れかけていたのか。
門の鍵を自分で開ける、なんて些細な事で、桜が来てくれている有り難みを実感した。
「ただいまー」
声をかけて廊下にあがる。
とりあえず居間に行こうとした矢先、金髪の少女が現れた。
「帰ったのですね、マスター」
「……」
一瞬。
声を詰まらせてしまった。
ーーー余りにも彼の少女は自分の姉に似ていたから。
「シロウ? いま帰ってきたのではないのですか?」
静かな声が自分の名前を呼ぶ。
「あ……セ、セイバーだよな。わるい、いきなりなんで、驚いた」
その、一瞬だったが、彼女をセイバーではなく自分の姉だと錯覚してしまって。
「? 私はマスターの指示に従ってここに待機していたのですが、間違っていましたか?」
「あ……いや、こっちの勘違いだから気にしないでくれ。
そ、それより体の方はいいのかセイバー。頻繁に眠るって言ってたけど、今はその」
「起きていても支障はありません。
ーーーいえ、可能なかぎり戦闘時以外は眠っていた方がいいのですが、それでは勘が鈍りますから。
定期的に目覚めて体を動かしていなければ、いざという時に動きが鈍ります」
「……そっか。言われて見ればその通りだ。人間、一日中寝てたら頭が痛くなるし、セイバーだって眠くて眠ってる訳じゃないんだし」
「そうですね。眠りを必要とする疲れはありません。
ですがシロウ、貴女は眠りすぎると頭を痛くするのですか?」
「痛くなるだろ、そりゃ。普通、一日の半分も寝てたら体の調子を悪くするって。俺の場合は頭が痛くなって目が覚めるから、半日も眠ってられないけどさ」
「……不思議な話ですね。私はそのような事はありませんでした。今も昔も、眠ろうと思えばいくらでも眠れますし」
「ーーーむ。それはなんか、生き物として間違ってると思うぞセイバー。一日中寝てるなんて勿体ない。眠気がとれたら起きて遊んでいた方が楽しいだろ』
「……そうですね。確かに、その方が無駄はありません」
「だろ。今は俺のせいでそうなっちまったけれど、俺から縁が切れたら普通の生活サイクルに戻れよ。
俺が言える事じゃないけどさ、これがクセになって一日中寝てたらぐうたらなヤツだ、なんて思われるから」
「それは、すでに手遅れかもしれません。私は皆にそう思われていたかもしれない」
む、とわずかに眉を寄せて考え込む。
……軽口のつもりだったのだが、セイバーに生半可な冗談は通用しないようだ。