fate/stay night 夢よ永遠に   作:fate信者

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遠坂との約束

「それじゃあ先輩、今日も一日頑張りましょうね」

桜は一年の廊下へ移動する。

 

「じゃあ士郎、私もいくわ」

 

イリヤは三年の廊下へ移動していった。

 

ーーー

 

俺たちは階段を上がって二年の廊下に出て、

 

「はうわ!?」

 

ばったりと、生徒会長と出くわした。

 

「な、何故に遠坂と一緒にいるのか衛宮士郎!」

 

「あら。おはよう柳洞くん。朝からハウワ、とはご挨拶ね」

 

「く、目覚めから嫌な予感がしたが、暗剣殺とはな!

ええい、いいからこっちに来い衛宮!

遠坂の近くにいたら毒がうつる、毒が!」

 

ぐい、と強引に人の手を引く一成。

遠坂は何も言わず俺と一成を眺めた後、何事もなかったように二年A組の教室へ向かう。

 

「ふん、行くがいい。誰も止めはしないからな」

 

「……」

 

遠坂は無言で俺たちの横を通り過ぎる。

と。

 

「士郎、昼休みに屋上」

 

一瞬。一成に聞こえないように、そんな言葉を囁いてきた。

 

ーーー

 

昼休みになった。

 

朝の一件以来、一成は“裏切り者“扱いして近寄って来ない。

 

「……さっきのは悪ノリしすぎたか」

 

ちょっと反省。

朝、どうして遠坂と一緒にいたのか、と詰問され、

「休みの間に親密になったんだ」と答えたのがまずかった。

問題はどんなふうに親密になったかだと思うのだが、そこまで説明できる筈もなく、一成はクラクラと目眩を起こしながら去っていった次第である。

 

「……まあちょうどいいか。しばらくは一人で色々やらなくちゃいけないからな」

 

関わる人間は少ないに越した事はない。

さて、とりあえずやるべき事といったらーーー

 

ーーー遠坂との約束がある。

一方的な発言だったが、呼び出すからには話があるのだろう。

 

ーーー

 

昼飯を買って屋上へ。

夏場なら生徒たちで賑わう屋上も、冬の寒さの前には閑古鳥を鳴かさざるを得ない。

いくら冬木の冬が暖かいと言っても、屋上の寒さは我慢できるものじゃない。

冷たい風にさらされた屋上にいるのは自分と、

 

「遅いっ! 何のんびりしてるのよ士郎!」

 

寒そうに、物陰で縮こまっている遠坂だけである。

 

「遅れたのは悪かったと思ってる。

思ってるんで差し入れを持ってきたんだが、その様子じゃ要らないか」

 

売店で買ってきたホットの缶コーヒーをポケットに仕舞う。

 

「う……アンタ、ぼくとつな顔してけっこう気が利くのね」

 

「ただの気紛れだよ。ほら、もうちょっとそっち行けよ。

ここだと風が当たるし、人目につくだろ」

 

ほら、と缶コーヒーを渡しながら物陰に入っていく。

ここなら人がやって来てもすぐには見つからないし、校舎の四階から見える事もない。

 

「ありがと。次は紅茶にしてね。わたし、インスタントならミルクティーだから。それ以外はありがたみがランクダウンするから注意するべし」

 

「あいよ、次まで覚えていたらな。それよりなんだよ、こんなところに呼び出して。人気がない場所を選ぶあたり、そっちの話だと思うけど」

 

「と、当然でしょ。わたしと士郎の間で、他にどっちの話があるっていうのよ」

 

「ああ、それはそうだな。で、どんな話なんだ」

 

「……なによ。随分クールじゃない、貴方」

 

「? まあ、寒いからな。できるだけ手短に済ませたい。

遠坂はそうでもないのか?」

 

「! そんな訳ないでしょう、わたしだってさっさと用件だけ済ませるつもりに決まってるじゃない!」

 

うん、そうだとおもった。

別に判りきってる事なんだから、怒鳴らなくてもいいのに。

 

「まあいいわ。

それじゃ単刀直入に利くけど、士郎。貴方、放課後はどうするつもり?」

 

「放課後? いや、別にこれといって予定はないよ。生徒会の手伝い事があったら手伝うし、なかったらバイトにでるし」

 

「……はあ」

 

「……なんだよ、その露骨に呆れた顔は。言いたい事があるならはっきり言ってくれ。出来るだけ直すから」

 

「……まったく。貴方がどうなろうとわたしは構わないんだけど、ま、一つだけ忠告してあげるか。今は協力関係なんだし、士郎は魔術師として未熟すぎるから」

 

「またそれか。魔術師として未熟だっていうのはもう耳にタコだ。気にしてるんだからあまり苛めないでくれ」

 

「苛めてなんてないわよ。ただ士郎が学校の結界に気づいてないようだから未熟だって言ってるの」

 

「?」

 

学校の結界……?

 

「待て。学校の結界って、それはまさか」

 

「まさかも何も、他のマスターが張った結界だってば。

かなり広範囲に仕組まれた結界でね、発動すれば学校の敷地をほぼ包み込む。

種別は結界にいる人間から地肉を奪うタイプ。まだ準備段階のようだけど、それでもみんなに元気がないって気づかなかった?」

 

「……」

 

そう言えば……二日前の土曜日、なんとも言えない違和感を感じたが、アレがそうだったっていうのか?

だが、という事はーーー

 

「つまりーーー学校に、マスターがいる……?」

 

「そう、確実に敵が潜んでいるってわけ。分かった衛宮くん? そのあたり覚悟しておかないと、死ぬわよ貴方」

 

「……」

 

弛緩していた意識が引き締まる。

 

「……それで。そのマスターがだれかは判っているのか、遠坂は」

 

「いいえ。あたりは付いてるけど、まだ確証が取れてない。……まあ、うちの学校にはもう一人魔術師がいるって事は知ってたけど、魔術師イコールマスターって訳じゃないから。

貴方みたいな素人がマスターになる場合もあるんだし、断定はできないわ」

 

「む。俺は素人じゃない、ちゃんとした魔術師だ……って、待った遠坂、魔術師ならもう一人いるってうちの学校にか……!?」

 

「そうよ。

一人は真っ先に調べに言ったけど、令呪もなければサーヴァントの気配もなかった。

よっぽど巧く気配を隠しているなら別だけど、まずそいつはマスターじゃないわ。

だからこの学園に潜んでいるマスターは、士郎みたいに半端に魔術を知ってる人間だと思う。

ここのところさ、微量だけどわたしたち以外の魔力を校舎に感じるのよ。それが敵マスターの気配って訳なんだけど……」

 

あまりに微量すぎて逆探知が難しい、というところだろう。

 

「魔術師ではないマスターか。

遠坂が断定するからには相当な確信があるんだろう。

それは信じるけど、そうか……うちの学校、そんなに魔術師がいたのか」

 

「そんなにってわたしとその子だけだって。

魔術師ってのは家柄を大事にするでしょ? こんな狭い地域に二つの家系が根を張った場合、どうしても懇意になるものなのよ」

 

「そうなのか? けど俺は遠坂の家のこと、知らなかったけどな」

 

「衛宮くんちは特別。衛宮くんのお父さん、協会から離反した一匹狼だったんでしょうね。たまたまこの町は遠坂の管轄だからさ。

わたしたちにバレたら貰うもの貰う事になるし、それが嫌で隠れてたんじゃないかな」

 

「なーーーなんだよ、その貰うもの貰うって不穏な発言は」

 

「ふふーん、気になる? それは、士郎が一人前になったら取り立てにいくから期待してて」

 

「……まったく。ほんっとに猫被ってやがったんだな、お前ってヤツは。

何が学校一の優等生だ、この詐欺師」

 

「あら、いけない? 外見を飾るのだって魔術師としての義務でしょ。

ほら、わたしは遠坂家の跡取りだし、非の打ち所のない優等生じゃないと天国の父さんに顔を合わせられないのよ」

 

「? 父さんって、遠坂」

 

「ええ、私が子供のころ死んじゃった。ま、十分長生きしたから天寿は全うしたんだし、別に哀しんだりはしてないけど」

 

「……」

 

遠坂は、それが魔術師を父に持つ子供の在り方だ、とばかりに微笑む。

 

だが、それは。

 

「……それは嘘だ。人が死んだら哀しいだろ。それが肉親なら尚更だ。魔術師だから仕方がない、なんて言葉で誤魔化せるものじゃない」

 

「………………ま、そうね。

衛宮くんの意見は、反論できないぐらい正しいわ」

 

言って、遠坂は湯たんぽ代わりにしていた缶コーヒーを開けた。

……ちびちびとコーヒーを口にする。

遠坂の事だから、男勝りにぐいっと一気飲みするかと思ったが、こういうところは本当に女の子だった。

 

「話を戻すけど。

ともかく、冬木の町に魔術師は二人しかいないの。

他のマスターは外からやってきた連中か、魔術をかじったていどでマスターに選ばれたっていう代わり種でしょうね」

 

そうですか。

遠坂に言わせると、俺も立派な代わり種という事らしい。

 

「それは判った。けどさ、半端に魔術をかじっただけのマスターなら、こんな結界は張れないんじゃないのか」

 

「マスターが張ったんじゃなくて、サーヴァントが張ったのかもね。

サーヴァントは自分のマスターをえらべないもの。士郎みたいなマスターに当たってしまった場合、サーヴァント自信が色々策を練るしか勝機はないでしょ?」

 

「だろうな。気に障るけど、反論しようがないんで頷いとくよ」

 

「はい、素直で結構。

で、結界の話に戻すけど、この効果はすごく高度よ。

ほとんど魔法の領域だし、こんなの張れる魔術師だったら、まず自分の魔力を隠しきれない。だから間違いなく、この結果はサーヴァントの仕業だと思う」

 

「……サーヴァントの仕業か。なら、マスター自信はそう物騒なヤツじゃないのかな」

 

「まさか。魔術師にしろ一般人にしろ、そいつはルールが解ってない奴よ。マスターを見つければ、まずまっすぐに殺しに来るタイプの人間ね」

 

「? ルールが解らないって、聖杯戦争のルールをか?」

 

「違う。人間としてのルール。こんな結界を作らせる時点で、そいつは自分っものが判ってない。

いい士郎? この結界はね、発動したら最後、結界内の人間を一人残らず“溶解“して吸収する代物よ。

わたしたちは生き物の胃のなかにいるようなものなの。

…ううん、魔力で自分自身を守っているわたしたちには効果はないだろうけど、魔力を持たない人間なら訳も分からないうちに衰弱死しかねない

一般人を巻き込む、どころの話じゃないわ。

この結界が起動したら、学校中の人間は皆殺しにされるのよ。分かる? こういうふざけた結界を準備させるヤツが、この学校にいるマスターなの」

 

「……」

 

一瞬だけ視界が歪んだ。

遠坂の言葉を、出来るだけ明確にイメージしようとして、一度だけ深呼吸をする。

ーーそれで終わり。

不出来なイメージながらも最悪の状況というものを想像し、それを胸に刻み付けて、自分の置かれた立場を受け入れる。


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