fate/stay night 夢よ永遠に   作:fate信者

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登校

ーーーそうして朝食は終わった。

 

こっちの予想通り、藤ねぇは遠坂にことごとく言い負かされて撃沈。

結論としては、学校では極力秘密にして、家では藤ねぇが監督するって事で決着。

そうと決まれば人数が増えて嬉しいのか、藤ねぇは上機嫌で学校に行ってしまった。

 

朝食を終えて、学校に行く前にセイバーに声をかける。セイバーはやはり冷静に、

 

「学校では凛の指示に従うように。

危険が迫った時は私を必要としてください。

それでマスターの異常は感じ取れますから」

 

と、実にあっさり部屋に戻っていった。

 

そんなこんなで登校時間。

 

「それじゃ行きましょうか。

このあたりの道は不馴れなんだから、学校までの近道ぐらい教えてよね」

 

となりには制服姿の遠坂凛。

……もう薄れつつあるが、それでも制服を着た遠坂は優等生然としていて緊張する。

学校一の美人と一緒に登校するっていうだけでも冷静でいられないのに、くわえて

 

「先輩。戸締まり、できました」

 

「士郎~~、早くしなさ~い」

 

今日はイリヤに桜まで一緒だった。

弓道部員の桜は、本来なら藤ねぇと一緒に登校する。が、今朝は何を言うでもなく居間に残り、朝食の後片づけをして俺が登校するのを待っていた。

イリヤはいつも通りに俺を待っていた。

たまに、イリヤは友達との用事があると先に行ってしまうこともあるが、今日はどうやら違ったらしい。

 

「え、なに? 桜に鍵持たせてるの、士郎ってば?」

 

「持たせてるよ。桜は悪いコトなんてしないし、ずっと世話になってるからな。……ああ、その分でいくと遠坂にはやれないが、別にかまわないだろ」

 

「……それは構わないけど。どういう意味よ、それ」

 

「悪いコト、するだろ。それにおまえ、鍵なんかなくても困らないんじゃないのか?必要ないモノを作るほど酔狂じゃないぞ、俺」

 

「ーーーあっそうですかっ。ええ、士郎の言うとおりこれっぽっちも要らないわよそんな物!」

 

ふん、と顔を逸らす遠坂。

慣れてきたのか、遠坂のこういう仕草も味があるなー、

と素直に思う。

 

「…………」

 

「? どうした桜、戸締まりが出来たのなら行こう。

今朝は遠坂もいるし、出来るだけ早めに行きたいんだ」

 

「はい、そうですね。先輩がそう言うのなら、そうします」

 

元気のない声で言って、桜は俺たちの後に付いてくる。

 

「バカ士郎」

 

「え? なんだってイリヤ」

 

「ふん! なんでもな~い」

 

……まいったな。

藤ねぇが遠坂に言い負けてから、桜とイリヤは妙に元気がない。

藤ねぇは納得しても桜やイリヤは納得してないのだろう。

 

「……ちゃんと話さないとダメかな……」

 

そうだな。出来るだけ早くに機会を作って、桜とイリヤにも遠坂と仲良くしてもらわないといけないかーーー

 

坂道は生徒たちで賑わっている。

時刻は朝の七時半過ぎ、登校する生徒が一番多い時間帯だ。

そんな中、

こんな目立つ面子と歩いていようものなら、そりゃあ周りから奇異の目でみられまくる。

 

「………………」

 

何か忘れ物でもしたのか。

遠坂はさっきからこんな調子で黙っている。

 

「どうした遠坂。なんか坂道あたりから様子が変だぞ、おまえ」

 

「え……? やっばりヘン、今朝のわたし?」

 

「いや、別に変じゃないが、その反応が変だ」

 

「先輩、その説明は矛盾してます。遠坂先輩が訊いているのはそういうコトじゃないと思いますけど……」

 

「? 何を訊きたがってるっていうんだよ、遠坂は」

 

「士郎、凛は周りから見られているから、どこか自分の姿がおかしいのでは、とおもってるんじゃないかしら?」

 

「そ、そうだけど、やっぱりイリヤ先輩から見てもヘンですか?

おかしいな、今朝は眠いながらもちゃんとブローしたし、制服だってシワ一つないと思うんだけど……やっぱり慣れない家で寝たもんだから目にクマでもできてるってワケ!?」

 

「なんでそこで俺に怒鳴る。

遠坂が寝なれないのは俺の所為じゃないし、仮にそのせいで遠坂の目にクマが出来ていたとしても大したものではありませんコトじゃない。気にするな」

 

「なに失礼なコト言ってるのよ。

女ってのは生まれた時から自分の身だしなみを気にするものなの!

ああもう、今まで外見だけは完璧でいようって取り繕ってきたのに、それも今日でおしまいってコトかしらね……!」

 

「だから、なんで俺を見て怒鳴るんだよ遠坂は。

なんで遠坂が変なのかは知らないが、間違いなくそれは俺のせいじゃない。八つ当たりは余所でやってくれ」

 

「違いますよ遠坂先輩。

先輩は今日も綺麗です。

みんなが遠坂先輩を見ているのは、わたしたちと一緒だからです。先輩、今まで誰かと登校した事なんてなかったから」

 

「え……? なに、その程度の事でこんな扱い受けるわけ? ……侮れないわね。十年も通ってれば学校なんてマスターしたつもりでいたけど、謎はまだ残ってたわけか」

 

ふーん、と真剣に考え込む遠坂。

つーか、今日も綺麗ですっていう賛美を当然のようにスルーするおまえは何物か。

 

「……わかんないヤツだな。遠坂が誰かと登校すれば騒ぎになるのは当然じゃないか。それが男子生徒なら尚更だ」

 

「ですね。けど遠坂先輩、そういうの気にしない人なんです。だから今まで浮いた話ひとつなかったんですよ」

 

「へえ……そりゃ良かった。外見に騙されて泣きを見た犠牲者は、いまのところ一人だけってコトだからな」

 

周囲の視線にさらされながら校門をくぐる。

校舎に入ってしまえばそれぞれ別行動だから、周りの目もそれまでの辛抱だろう。

 

「……ふん。朝から頭いたいのがやってきちゃってまあ」

 

ぼそり、と遠坂が呟く。

遠坂の視線の先には、登校する生徒たちを邪魔そうに押しのけてくる顔見知りの姿があった。

 

「桜!」

 

「あ……兄、さん」

 

びくり、と体を震わせる桜。

慎二は俺たちの事など目に入ってないのか、早足で一直線に桜まで近寄った。

 

「どうして道場に来ないんだ! おまえ、僕に断りもなく休むなんて何様なわけ!?」

 

慎二の手があがる。

それを、

 

「よ、慎二。朝練ご苦労さまだな」

 

掴んで止めて挨拶をした。

 

「え、衛宮……!?

おまえーーーそうか、また衛宮の家に行ってたのか、桜!」

 

「……はい。先輩の所にお手伝いに行っていました。けど、それは」

 

「後輩としての義務だって? まったく泥臭いなおまえは。怪我したヤツなんてかまうコトないだろ。いいから、おまえは僕の言う通りにしてればいいんだよ」

 

ふん、と掴まれた腕を戻す慎二。

……桜に手をあげなければ握っている理由もないし、こっちも何もせずに手を放した。

 

「しかしなんだね、そこまでうちの邪魔して楽しいわけ衛宮? 桜は弓道部の部員なんだからさ、無理矢理朝練をサボらせるような真似しないでくれないかな」

 

「む」

 

それを言われるとこっちは反論できない。

桜がうちに朝食を作りに来てくれるのを止めていない時点で、俺は桜の朝を拘束しているコトになる。

 

「そんなコトありませんっ……! わたしは好きで先輩のお手伝いをしているだけです。兄さん、今のは言い過ぎなんじゃないですか」

 

「は、言い過ぎだって? それはおまえの方だよ桜。衛宮がなんだって言うんだ。別にいいっていうんだからさ、ほっといてやればいいんだよ。

衛宮みたいなのはそっちの方が居心地がいいんだからさ」

 

「兄さん……! ……やだ、今のはひどい、よ……」

 

「ふん。まあいい、今日で衛宮の家に行くのは止めろよ桜。僕が来いって言ったのに部活に来なかったんだ。そのくらいの罰は受ける覚悟があったんだろ?」

 

「ーーーー」

 

桜は息を呑んで固まってしまった。

慎二はそんな桜を強引に連れて行こうとし、

 

「おはよう間桐くん。黙って聞いていたんだけど、なかなか面白い話だったわ、今の」

 

「えーーー遠、坂? おまえ、なんで桜といるんだよ」

 

「別に意外でもなんでもないでしょう。

桜さんは衛宮くんと知り合い、わたしは衛宮くんと知り合い。衛宮くんはイリヤ先輩と兄弟。だから、今朝は四人で一緒に登校してきたんだけど、気づかなかった?」

 

「なーーーえ、衛宮と、知り合い……!?」

 

「ええ。きっとこれからも一緒に学校に来て、一緒に下校するぐらいの知り合い。だから桜さんとも付き合っていこうかなって思ってるわ」

 

「衛宮と、だって……」

 

こっちを見つめる慎二。

……そこに、敵意や殺意ではなく、何処か安堵したような視線を感じたのは気のせいか。

 

「そ、そんなバカな。冗談がきついな遠坂は。君が衛宮なんかとつき合う訳ないじゃないか。

……ああ、そうか。君勘違いしてるんだろ。

ちょっと前までは友達だったけど、今は違うんだ。

もう衛宮と僕は無関係だから、あまりメリットはないんだぜ?」

 

「そうなの? 良かった、それを聞いて安心したわ。

貴方の事なんて、ちっとも興味がなかったから」

 

「うわ」

 

慎二に同情する。

俺だったら、しばらく立ち直れないトラウマになるぞ、今の。

 

「ーーーおまえ」

 

「それと間桐くん? さっきの話だけど、弓道部の朝練は自主参加の筈よ。欠席の許可が必要だなんて話は聞いてないわ。そんな規則、わたしはもちろん綾子や藤村先生も聞いてないでしょうねぇ」

 

「うーーーうるさいな、兄貴が妹に何をしようが勝手だろう! いちいち人の家の事情に首をつっこむな!」

 

「ええ、それは同感ね。だから貴方もーー衛宮くんの家の事をあれこれ言うのはお門違いじゃない? まったく、こんな朝から校庭で騒がしいわよ、間桐くん」

 

「っーーー!!」

 

じり、と慎二は後退すると、忌々しそうに遠坂を睨み付ける。

 

「分かった、今朝の件は許してやる。

けど桜、次はないからな。今度なにかあったら、その時は自分の立場ってヤツをよく思い知らせてやる。

……衛宮、勘違いしているお前に一つ言ってやる。

お前と遠坂達は世界が違う。

それだけは忘れるな!」

 

言いたい放題言って、慎二は早足で校舎へ逃げていった。

ーー??

慎二が最後に言った言葉はどういう意味なのだろう

それについて考える。と、

 

「ごめんなさい、先輩。

兄さんがその……失礼な事をいってしまって」

 

桜は俺だけでなく、遠坂にも謝っているのだろう。

 

「ううん、朝からいい運動になったわ。頭のギアがスパッと上がったし、ようやく調子が出てきたもの。口喧嘩好きなのよねー、わたし」

 

「兄さんが懲りていなければまたお相手をしてあげて下さい、先輩」

 

安心したのか、嬉しそうに微笑む桜。

遠坂は照れ臭そうにそっぽをむいてたりする。

 

「先輩も。あの、出来れば怒らないであげてください。

兄さん、先輩しか友達いないから」

 

「分かってるよ。怒るなっていうのは無理だけど、慎二はああいうヤツだってのは知り合った時から知ってる。

ま、何かの拍子でまた付き合いが深くなるのは目に見えてるしさ。気長にやっていくよ、アイツとは」

 

「はい、よろしくお願いしますね。先輩」

 

桜はぺこり、と一礼する。

 

「士郎~、もうそろそろ行こうよ」

 

「わかった、今から行く。

それじゃ行こうか桜、遠坂」

 

「はい!」

 

「ええ」

 


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