fate/stay night 夢よ永遠に 作:fate信者
気がつけば日は落ちていて、居間には俺とセイバー、遠坂が集まっていた。
俺はついさっき目が覚めて、セイバーは何時の間にか居間にいて、遠坂はついさっき部屋の改装が終わったらしい。
……落ち着かない。
この二人は完全なまでの異分子だ。
この家に客が来ることなんて滅多にないので、よけい違和感があるのだろう。
いや、そもそも。
この二人、和風の建物にとけ込める外見をしていない。
「…………」
そんなこんなで時刻は夜の七時前。
全員で居間に集まったものの、何をするでもなく黙りこくっているのは、精神衛生上よろしくない。
「二人とも、少しいいか。今後の事で話をしておきたいんだけど」
「ちょっと待って。その前に一つ決めておきたいんだけど、いいかしら」
「うーーいいけど、なんだよ」
「何って夕食のことよ。士郎、ずっとアルトレアさんとイリヤ先輩との三人暮らしだったのよね?」
「……? まあそういう事になるけど」
「なら食事は自分で作ってきたのよね?」
「そりゃ作るだろ。姉さんたちに迷惑はかけたくないからな」
「ふ~ん、シスコン」
「……ほっとけ」
「なら提案なんだけど、夕食の当番を交代制にしない?
これからしばらく一緒に暮らすんだし、その方が助かるでしょ?」
「……ふむ。確かにそうだな。ついいつもの調子で考えてたけど、遠坂がうちで暮らすなら家族と同じだ。飯ぐらい作るのは当たり前だし、俺達も助かる」
「決まりね。じゃあ、今日は士郎が当番ってコトで。
もうこんな時間だし、作戦会議は食べてからにしよ」
「?? いや、夕飯が交代制なのはいいけど、朝飯はどうするんだ。朝飯も交代制か?」
「あ、朝はいいのよ。わたし食べないから」
「なんだそりゃ。勝手なコトいうな、朝飯ぐらい食べないと大きくなれないぞ」
「余計なお世話よ、人の生活スタイルに口を挟まないでちょうだい。
……とにかく今日の夕飯は士郎が作るの! ちゃんとした食べ物を出さないと話なんてしないからね」
何が気にくわなかったのか、遠坂は不機嫌そうにこっちを睨んでいる。
「……分かったよ。かってに作るけど、セイバーも飯は食うんだろ?」
「用意してもらえるのでしたら、是非。食事は重要な活力源ですから」
「了解。それじゃ大人しくしてろよ、二人とも」
……ん? ちょっと待て、何かを大事な事を忘れてるような……?
そうだ! アルト姉ぇとイリヤだ。
まだ、買い物してるなんてあり得ないよな。
「セイバー! アルトねぇとイリヤって帰って来てたか?」
「アルトレアとイリヤスフィールは二時間前ぐらいに帰って来てタイガという人に呼ばれたみたいで今日は帰ってこないらしいです」
「了解」
エプロンを手にして台所に移動する。
幸い、冷蔵庫にはアルトねぇが買ってきた食材が入っていた。
米はさっき起きた時に炊いておいたので、あと三十分もすれば出来るだろう。
台所からセイバーと遠坂を盗み見る。
「…………む」
どうみても和食より洋食という顔ぶれだ。
遠坂はともかく、セイバーに豆腐と納豆の味が判るかどうか疑問すぎる。
「いや、そもそも箸を持てないんじゃないかな、セイバー」
などと少しだけ迷ったが、気にしても仕方がない。
ザッと考えて、まず揚げ出し豆腐。汁物は簡単な豆腐とワカメのみそ汁に。
下ごしらえが済んでいる鶏肉があるので、こいつは照り焼きにして主菜にしよう。
豆腐の水切り、鶏肉の下味つけ、その間には大根をザザーと立て切りにしてシャキッとしたサラダにする。
大根をおろしてかけ汁を作ってししとうを炒めてーー
「今後の方針は決まっているのですか、リン」
「さあ? 情報がないならなんとも言えないけど、とりあえずは他のマスターを捜し出すコトが先決かな。
残るマスターはあと四人。こっちがマスターだって知られずに捜し出したいけど、さすがに上手くはいかなきわよね」
……む。
おとなしくしてろって言ったのに、なんで物騒な話をしているんだおまえたちはっ。
こっちは三人分の飯の支度でかかりきりだって見て判らなーーつーか見てもいねぇ。
「遠坂! 四人じゃないぞ、五人だろ! マスターだって判ってるのは俺とお前しかいないじゃないか!」
揚げ出し豆腐用の、大鍋を持ち出しながら声をあげる。
「なに言ってるのよ。私と士郎、それにアリアスフィールで三人でしょ。貴方、バーサーカーの事もう忘れたの?」
「ーーあ」
……そうか、あの娘もマスターなんだっけ。
あまりにもバーサーカーが強烈だったから忘れていたが、それにしてもーーあんな小さな娘がマスターで、容赦なく俺たちを殺そうとするなんて。
「どうせね。貴方のことだから、アリアスフィールを敵だって認識してなかったんでしょ。それはいいから調理に専念しなさいってば。
士郎の実力が判らないと私が困るんだから」
「?」
俺の料理の腕がどう遠坂を困らせるか不明だが、言うことはもっともだ。
下ごしらえもそろそろ終わるし、ここからはガーッと一気に仕上げなければ。
「アリアスフィール……バーサーカーのマスターですね。
リンは彼女を知っているようでしだが」
「…まあね、名前ぐらいは知ってる。アインツベルンは何回か聖杯に届きそうになったっていう魔術師のかけいだから」
「……聖杯戦争には慣れている、ということですね」
「でしょうね。他の連中がどうだか知らないけど、アリアスフィールは最大の障壁と見て間違いないわ。本来バーサーカーっていう
理性を代償にして英雄を強くするんだけど、そういった“凶暴化した英雄“の制御には莫大な魔力を必要とする。たとえば貴方がバーサーカーになったらーー」
「このように話をする事もできませんね。
協力者としての機能を一切排除し、戦闘能力だけを特化させたのがバーサーカーです。ですがそれは手負いの獅子を従えるようなもの。
並の魔術師ではまずあやつれません」
「でしょうね。そこいらのマイナーな英霊がバーサーカーになった程度でも、並のマスターじゃ制御しきれない。
だっていうのにアリアスフィールは超一流の英霊を召喚して、そいつをバーサーカーにして完全に支配してた。
……悔しいけど、マスターとしての能力は次元違いよ、あの娘」
「……同感です。私たちの当面の問題は、その次元違いの相手に狙われている、という現状ですか」
「うん。わたしのアーチャーはまだ戦線に出られるほど回復してない。
セイバーはどう? もう傷はいいの?」
「……通常の戦闘ならば支障はありませんが、バーサーカーを相手に出来るほど回復はしていません。
バーサーカー戦の傷は完治しているのですが、ランサーから受けた傷には時間がかかるようです」
「そう。それじゃあやっぱり、当面は様子見をするしかないかな」
「それについては提案が。アーチャーの目は鷹のそれと聞きます。彼には屋敷の周囲を見張って貰う、というのはどうでしょうか」
「そのつもりよ。アイツには屋根で見張りをさせるから、怪しいヤツが近寄ってきたらすぐに判るわ。
……ま、バーサーカーに攻め込まれたら逃げるしかないけど」
二人は当然のように話を進めている。
……なんか、気にくわない。
人が真面目に飯作っているっていうのに、人をそっちのけで話をするなんてどういうつもりだ。
だいたい遠坂のヤツ、セイバーに気安すぎる。
。いや、そりゃあ俺はあんな気軽に話しかけられないから、遠坂がセイバーと相談してくれるのなら話ははやいんだがーー
「ーーん?」
食器棚のガラスに映った顔は、むっと眉を寄せていた。
……ヘンだな。なんで怒ってるんだろ、俺。
「ーーよっと」
三人分の食器を用意して、出来上がった夕飯を盆にのせる。
その居間に移動して、
「まったく。夕飯時に物騒な話するなよ」
どん、と遠坂の前に盆を置いた。
「? なに怒ってるのよ士郎。 あ、料理出しぐらいは手伝うべきだった?」
「別に怒ってなんかないけど。遠坂、馴れ合いはしないんじゃなかったのかよ」
じろ、と横目で睨む。
遠坂はへ? なんて目を点にしたあと、なんか、とんでもなくゾッとする笑顔をしやがった。
「協力体制を決めていただけよ。安心なさい、別に貴方のセイバーをとったりしないから」
「!!」
カア、と顔が赤くなるのが判る。
遠坂に言われて、自分が何に怒っていたのかに気づいてしまった。
「お、おま、おまえーー」
「あら違った? ならごめんなさいね、衛宮くん」
「く、この……勝手に言ってろ!」
だっ、と残りの料理を取りに台所まで撤退する。
……うぅ、完全に負かされた。
遠坂はにやにやと笑ったままだし、セイバーは相変わらず無表情だし。
……はあ。この先、この面子でやっていけるのか本気で不安になってきた……。