fate/stay night 夢よ永遠に   作:fate信者

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サブタイトルは適当です


眠り

……良かった。そんな事で良いなら、いくらでも受け入れる。

 

「そんなの良いに決まってるだろ。

辛くなったらセイバーは休んでていいんだ。

それで少しでも長く居られるんだったら、その方がずっといい」

 

「では、今後は頻繁に眠りに入りますが、その間は決して屋敷から離れないように。遠く離れた場所でシロウが襲われた場合、私はすぐに駆けつけられない。

空間を跳躍するなら話は別ですが、そんな能力を持つサーヴァントは稀です。

もし離れた場所で私を呼ぶのなら、令呪のバックアップが必要になります。

ですから、出来るだけ私から離れないようにしてほしい」

 

そうしたいのは山々だけど、簡単には頷けない。

セイバーといつも一緒にいる、なんて生活が想像できないし、こっちにだって都合がある。

 

「努力はする。けど本当にそれだけでいいんだな?

眠っていれば、そのーー」

 

「問題はないでしょう。このような事はなかったので断言は出来ませんが、前回も総戦闘数は七回に満たなかった。

私が倒さずとも、サーヴァントはサーヴァントによって減っていくのですから」

 

「そうか。

別に全員が全員とやりあわなくちゃいけないって訳じゃないんだ。うまくすれば、簡単にこの戦いを終わらせる事ができる」

 

俺が戦うのは人としての節度を外したヤツだけだ。

まさか全員がそんなヤツな訳がない。遠坂だってやる気だけど、アイツは魔術師としてのルールをきっちりと守るだろう。

だから、あと五人ーー残りのやつらがマトモならこっちから戦う事はないんだ。

セイバーは前回七回に満たなかったといっているし、今回もーー

 

「あれ?」

 

ちょっと待て。

前回、七回に、満たなかった?

 

「待ってくれセイバー。

その以前もセイバーだったのか?

いや、そうじゃなくて前回も聖杯戦争に参加してたのか!?」

 

「私がこの聖杯の争いに参加するのは二度目です。

その時も私はセイバーでした。

中には複数のクラス属性を持つ英霊もいるようですが、私はセイバーにしか該当しません」

 

……遠坂は言っていた。

七人のサーヴァントの中で、最も優れたサーヴァントはセイバーだと。

それを二回も連続で、この少女は成り得たという。

 

「それじゃ以前は、その……最後まで、残ったのか」

 

「無論です。前回は今のような制約はありませんでしたから、他のサーヴァントに後れを取る事もなかった」

 

当然のように言うセイバー。

それで、今更ながら思い知らされた。

この手には、あまりにも不相応な剣が与えられたのだという事を。

 

「……まいったな。それじゃあ不満だろセイバー。

俺みたいなのがマスターだと」

 

「私は与えられた役割をこなすだけです。聖杯さえ手に入るのであれば、マスターに不満はありません」

 

「そうか。それは助かるけど、それでもーー」

 

以前は万全だったのに、今回はもう二度も傷を負っている。

魔力を回復できない、という状態において、彼女は魔力の残量を気にしながら戦わなくてはならない。

その不自由な、足かせをつけられた戦いの結果がーー

 

「……」

 

あの、赤い血に染まった姿だった。

それが脳裏にこびりついている。

この、俺より小さくて華奢な少女が、無惨にも傷ついた映像が。

 

「シロウ。その後悔は、余分な事です」

 

「え?」

 

セイバーの声で我に返る。

 

「私も負け知らずだった訳ではありません。

私は勝ちきれなかったからこそ、こうして貴方のサーヴァントになっている。傷を負う事には慣れていますから、貴方が悔やむ事などない」

 

「慣れてるって……あんな、死ぬような怪我でもか」

 

「ええ、剣を取るという事は傷つくという事です。

それは貴方も同じでしょう。私だけが傷つかない、という道理はないと思いますが」

 

「それはーーそうだけど。

それじゃ怪我をしても構わないって言うのか、セイバーは」

 

「それが死に至る傷でなければ。

死んでしまってはマスターを守れなくなりますから」

 

「……なんだそれ。

マスターを守る為なら傷を負っても構わない、なんて言うのかおまえは」

 

「それがサーヴァントの役割ですから。

……確かに凛の言葉は正論ですね。

サーヴァントを人間として扱う必要などない。

私たちはマスターを守るための道具です。

貴方も、それを正しく把握するべきだ」

 

そう言い切って、セイバーは襖の方へと歩いていく。

襖の向こうは隣の部屋だ。

俺にはこの広さだけで十分なので、隣の部屋は使っていなかった。

 

「睡眠をとります。

夕食時には起きますので、外出するのなら声をかけてください」

 

す、と静かに襖が引かれ、閉められる。

 

ーー私たちはマスターを守る為の道具です。

貴方も、それを正しく把握するべきだーー

 

「……なんだ、それ」

 

なんか無性に頭にくる。

だって言うのに声もかけられず、一人立ちつくしてセイバーの言葉を噛み締めていた。

 

ーーー

 

縁側に腰をかけて、ぼんやりと青空を見上げる。

昼間っから眠ってしまったセイバーではないが、こっちも休息が必要だった。

……吐き気は治まったものの、体の具合は依然最悪。

おまけに、次から次へと予期せぬ展開を押し付けられて両肩がぐっと重い。

 

「ふう」

 

深呼吸をして、ぼんやりと庭を眺める。

とりあえず訊くべき事は訊いたが、右も左も判らない状況は変わっていない。

魔術師として先輩というか、ちゃんとした正規のマスターである遠坂はと言うと、

 

「ね、余ってるクッションとかない?

あとビーカーと分度器」

 

そんな感じで、うちの家具の物色に余念がない。

 

「……クッションは隣の客間のを持ってけ。

けどビーカーと分度器なんて、普通の家にはおいてないからな」

 

「はあ?信じられない、魔術師なら実験用具ぐらい置いておくものよ?」

 

文句だけ言って、忙しそうに別棟に戻っていく。

 

「本当に本気みたいだな、遠坂のヤツ」

 

遠坂がうちに泊まる、というのはもう確定らしい。

さっき別棟の客間に行ったら、一番いい部屋に

 

“ただいま改装中につき、立ち入り禁止“

なんてふざけた札がかかっていたし。

 

「……うん。別棟なら遠いし、問題はないよな」

 

セイバーだけでも緊張するっていうのに、遠坂まで身近に居られたら気の休まる所がなくなってしまう。

別棟なら距離があるし、いくら廊下で繋がっているといっても隣の家みたいなものだ。

こっちが近寄らなければ間違いななんて起こらないだろう。

……あ、けど飯時は顔を合わせるよな。

それに風呂だってこっちにしかないんだから、ちゃんと話合って使わないと。いや、それをいうならセイバーだって女の子なんだからーー

 

「ってバカ、なに考えてんだ俺は……!」

 

ぶんぶんと頭をふって、ばたん、と縁側に倒れ込んだ。

 

「はあ」

 

本日何度目かの深呼吸をして、ぼんやりと空を眺める。

疲れている為か、こうしているとすぐに眠気がやってくる。

 

「ああ、もうどうにでもーー」

 

なりやがれ、なんて捨て鉢になって目を閉じる。

……捨て台詞が聞いたのか。

目を閉じた、眠りに落ちる直前にーー

 

……ああ、今のこの状況を桜や藤ねぇに何て説明しよう




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寝ます

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