fate/stay night 夢よ永遠に   作:fate信者

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久しぶりに書きました
今度からは頑張っていきたいです。


真っ白な少女と最強の敵

「ねえ、お話は終わり?」

 

幼い声が夜に響く。

歌うようなそれは、紛れもなく少女のモノだ。

視線が坂の上にいく。

空には輝く月

そこには。

 

「バーサーカー」

 

聞き慣れない言葉を漏らす遠坂。

…訊ねる必要などない。

アレは紛れもなくサーヴァントであり、

同時に十年前の家事を上回る、圧倒的なまでの死の気配だった。

 

「こんばんはお兄ちゃん。こうして会うのは初めてだね」

 

微笑みながら少女は言った。

その無邪気さに、背筋が寒くなる。

 

「」

 

いや、背筋どころじゃない。

体が、意識が完全に凍っている。

アレは化け物だ。

視線さえ合っていないのに、ただ、そこに居るだけで身動きがとれなくなる。

 

「やば。あいつ、桁違いだ」

 

麻痺している俺とは違い、遠坂には身構えるだけの余裕がある。

…しかし、それも僅かなモノだろう。

背中越しだというのに、彼女が抱いている絶望を感じ取れるんだから。

 

「あれ? なんだ、あなたのサーヴァントはお休みなんだ。つまんないなぁ、二匹いっしょに潰してあげようって思ったのに」

 

と。

少女は行儀良く、この場に不釣り合いなお辞儀をした。

 

「はじめまして、リン。私はアリア。

アリアスフィール・フォン・アインツベルンって言えばわかるでしょ?_」

 

「アインツベルン」

 

その名前に聞き覚えでもあるのか、遠坂の体がかすかに揺れた。

 

そんな遠坂の反応が気に入ったのか、少女は嬉しそうに笑みをこぼし、

 

「いくね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

歌うように、背後の異形に命令した。

バーサーカと呼ばれたモノが、坂の上からここまで、何十メートルという距離を一息で落下してくる!

 

「シロウ、下がって!」

 

セイバーが駆ける。雨合羽がほどけ、一瞬、視界が閉ざされた。

バーサーカーの落下地点まで駆けるセイバーと、旋風を伴って落下してきたバーサーカーとは、まったくの同時だった。

 

「っ!」

 

空気が震える。

岩塊そのものとも言えるバーサーカーの大剣を、セイバーの視えない剣で受け止めていた。

 

「っ」

 

口元を歪めるセイバー。

そこへ

旋風じみたバーサーカーの大剣が一閃する!

ざざざざ、という音。

バーサーカの大剣を受けたものの、セイバーは受け止めた剣ごと押し戻される。

 

「くっ!」

 

セイバーの姿勢が崩れる。

追撃する鉛色のサーヴァント。

灰色の異形は、それしか知らぬかのように大剣を叩きつける。

避ける間もなく剣で受けるセイバー。

彼女の剣が見えなかろうと関係ない。

バーサーカーの一撃は全身で受け止めなければ防ぎきれない即死の風だ。

故に、セイバーは受けに回るしかない。

彼女にとって、勝機とはバーサーカーの剣戟の合間に活路を見いだす事。

だが。

それも、バーサーカーに隙があればの話。

黒い岩盤の剣は、それこそ嵐のようだった。

あれほどの巨体。

あれほどの大剣を以てして、バーサーカーの速度はセイバーを上回っている。

繰り出される剣戟は、ただ叩きつけるだけの、何の工夫もない駄剣だ。

だがそれで十分だ。

圧倒的なまでの力と速度があるなら、業の介入する余地などない。

技巧とは、人間が欠点を補う為に編み出されたモノ。

そんな弱点、あの巨獣には存在しない。

 

「逃げろ」

 

凍り付いた体で、ただ、そう呟いた。

アレには勝てない。

このままではセイバーが殺される。

だからセイバーは逃げるべきだ。

 

「あ」

 

おれは、まずい。

体は麻痺してる癖に、頭だけは冷静に動くのか。

絶え間なく繰り出される死の嵐。

捌ききれず後退したセイバーに、今度こそ、

防ぎ切れぬ、終わりの一撃が繰り出された。

セイバーの体が浮く。

バーサーカーの大剣を、無理な体勢ながらもセイバーは防ぎきる。

それは致命傷を避けるだけの行為だ。

満足に踏み込めなかったため大剣を殺しきれず、衝撃はそのままセイバーを吹き飛ばす。

大きく弧を描いて落ちていく。

背中から地面に叩きつけられる前に、セイバーは身を翻して着地する。

 

「ぅ、っ!」

 

なんとか持ち直すセイバー。

だが。その胸には、赤い血が滲んでいた。

 

「あれ、は」

 

…なんて、バカだ。

俺は大事な事を失念していた。

サーヴァントが1日にどれぐらい戦えるかは知らないが、セイバーはこれで3戦目だ。

それに、彼女の胸には、ランサーによって穿たれた傷がある

 

「つ、う」

 

胸をかばうように構えるセイバー。

バーサーカーは暴風のように、傷ついたセイバーへと切りかかり

その背中に、幾条もの衝撃を受けていた。

 

「Vier Stil ErschieBung……!」

 

いかなる魔術か、遠坂の呪文と共にバーサーカーの体が弾ける。

迸る魔力量から、バーサーカーに直撃しているのは大口径の拳銃に近い衝撃だろう。

だがそれも無意味

バーサーカーの体には傷一つ付かない。

セイバーのように魔力を無効化しているのではない。

あれは、ただ純粋に効いていないだけ。

 

「っ!? くっ、なんてデタラメな体してんのよ、コイツ!」

 

それでも遠坂は手を緩めず、

バーサーカーも、遠坂の魔術を意に介さずセイバーへ突進する。

 

「っ」

 

苦しげに顔をあげるセイバー。

彼女はまだ戦おうと剣を構える。

それで、固まっていた体は解けた。

 

「だめだ、逃げろセイバー!」

 

満身の力で叫ぶ。

それを聞いて、

彼女は、敵うはずのない敵へと立ち向かった。

バーサーカーの剣戟に終わりはない。

一合受ける度にセイバーの体は沈み、刻一刻と最後の瞬間を迎えようとする。

それでも、あんな小さな体の、どこにそんな力があったのか。

セイバーは決して後退しない。

怒濤と繰り出される大剣を全て受け止め、気力でバーサーカーを押し返そうとする。

勝ち目などない。

そのまま戦えば敗れると判っていながら踏み止まる彼女の姿は、どこか異常だった。

その姿に何を感じたのか。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」

 

絶えず無言だった異形が吠えた。

防ぎようのない剣戟

完璧に防ぎに入ったセイバーはもろともなぎ払う一撃は、今度こそ彼女を吹き飛ばした。

 

だん、と。

遠くに、何かが落ちる音。

鮮血が舞った。

最早立ち上がる事など出来ない体で。

 

「っ、あ……」

 

セイバーを切り伏せたバーサーカーは動きを止めている。

立ち尽くす俺と遠坂に目もくれず、坂の上にいる主の命令を待つ。

 

「あは、勝てるわけないじゃない。私のバーサーカーはね、ギリシャ最大の英雄なんだから」

 

「!? ギリシャ最大の英雄って、まさか!」

 

「そうよ。そこにいるのはヘラクレスっていう魔物。

あなたたち程度が使役できる英雄とは格が違う、最凶の怪物なんだから」

 

アリアと名乗った少女は、愉しげに瞳を細める。

それは敵にトドメを刺そうとする愉悦の目だ。

彼女はここで殺される。

ならどうするというのか。

彼女に変わってあの怪物と戦えというのか。

それは出来ない。

半端な覚悟でアレに近づけば、それだけで心臓が止まるだろう。

俺は、倒れている少女を見捨てる事は出来ない。

なにより、アルトねぇに似ている少女を殺させる訳にはいかない。

 

「いいわよバーサーカー。そいつ、再生するから一撃で仕留めなさい」

 

バーサーカーの活動が再開する。

俺は

 

「こんのぉおお!!」

 

全力で駆け出した。

あの怪物をどうにかできる筈がない。

だからせめて、倒れているセイバーを突き飛ばして、バーサーカーの一撃から助けー

 

「え?」

 

どたん、と倒れた。

なんで?

俺はセイバーを突き飛ばして、バーサーカーからセイバーを引き離して、その後はその後で何か考えようって思ったのに、なんで。

 

「が、は」

 

なんで、こんな。

地面に倒れて。息が、出来なくなっているのか。

 

「!?」

 

…驚く声が聞こえた。

まず、もう目の前にいるセイバー。

ついでに遠くで愕然としている遠坂。

それとなぜか、呆然と俺を見下ろしている、アリアという少女から。

 

「…そうか。なんて、まぬけ」

 

ようするに、間に合わなかったのだ。

だからそう、突き飛ばすのは無理だから、そのまま盾になったのか。

 

「こふっ」

 

ああもう、こんな時まで失敗するなんて呆れてしまう。

こういう大一番の時にかぎってドジばっかりだ。

 

「なんで?」

 

ぼんやりと、銀髪の少女が呟く。

少女はしばらく呆然とした後、

 

「もういい。こんなの、つまんない」

 

セイバーにトドメをささず、バーサーカーを呼び戻した。

 

「リン。次に会ったら殺すから」

 

立ち去っていく少女。

それを見届けた後、視界が完全に失われた。

意識が途絶える。

今度ばかりは取り返しがつかない。

ランサーに殺された時は知らないうちに助かったが、仏の顔も三度までだ。

 

「あ、あんた何考えてるのよ! わかってるの、もう助けるなんて出来ないっていうのに!」

 

叱られた。

きっと遠坂だ。なんだか本気で怒っているようで、申し訳ない気がする。

でも仕方ないだろ。

俺は遠坂みたいに何でもできる訳じゃないし、自由に出来るのはこの体ぐらいなもんだ。

…だから、そう。

こうやって体を張る事ぐらいしか、俺には、出来る事がなかったんだから

そして、衛宮士郎は意識を無くした。

 

「つまんない」

 

少女の独り言は闇の中で響いた。

 

 

 

 




少女の名前はアリアとなりました。
何でこんな名前にしたかと言うと、たまたま女性の名前ランキングを見てたらアリアという名前があったのでこれにしました。
アリアの見た目はイリヤの髪をショートカットにしただけです。
最後に評価、感想、誤字報告をまっています。

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