fate/stay night 夢よ永遠に 作:fate信者
今回は長くなりすぎました。
暇があったら読んでください。
では、どうぞ!
広い、荘厳な礼拝堂だった。
これだけの席があるという事は、日中に訪れる人も多いという事だろう。
これだけの教会を任されているのだから、ここの神父は余程の人格者と見える。
「遠坂。ここの神父はどんな人なんだ」
どんな人かって、説明するのは難しいわね。十年来の知人だけど、わたしだって未だにアイツの性格は掴めないもの」
「十年来の知人? それはまた、随分と年季の入った関係だな」
「私の後見人よ。ついでに言うと兄弟子にして第二の師っていうところよ」
「え、兄弟子って、魔術師としての兄弟子?」
「そうだけど。なんで驚くのよ、そこで」
「だって神父なんだろ!? 神父が魔術なんて、そんなの御法度じゃないか!」
教会は異端を嫌う。
人ではないヒトを徹底的に排除する彼らの標的には、魔術を扱う人間も含まれる。
教会において、奇跡は選ばれた聖人だけが学ぶもの。
それ以外の人間が扱う奇跡は全て異端なのだ。
「いや。そもそもここの神父は魔術師側の人だったのか」
「ええ。聖杯戦争の監督役として派遣されたヤツだもの、バリッバリの代行者よ。ま、もっとも神のご加護があるかどうかは疑問だけど」
「ふうん。で、その神父はなんて言うんだ?」
「名前は言峰綺礼。父さんの教え子でね、もう十年以上の腐れ縁よ。ま、できれば知り合いたくなかったけど」
「同感だ。私も、師を敬わぬ弟子など持ちたくははなかった」
かつん、という足音。
俺達が来たことに気が付いたのか、その人物は祭壇の裏側からゆっくりと現れた。
「呼び出しにも応じぬと思えば、変わった客を連れてきたな。ふむ、彼が七人目という訳か、凛」
「そう。一応魔術師だけど、中身は素人だから見てられなくって。
たしかマスターになった者はここに届けを出すのが決まりだったわよね」
「そうだ、なるほど、ではないその少年には感謝しなくてはな」
言峰という神父は、ゆっくりとこちらに視線を向ける。
「私はこの教会を任されている言峰綺礼という者だが。
君の名はなんというのかな、七人目のマスターよ」
「衛宮士郎。けど、俺はまだマスターなんて物になった覚えはないからな」
腹に力を入れて、神父を睨む。
「衛宮ーー士郎」
「」
背中の重圧が悪寒に変わる。
神父は静かに、何か喜ばしいモノに出会ったように笑った。
「礼を言おう、衛宮。よく凛を連れてきてくれた。君がいなければ、アレは最後までここには訪れなかったろう」
神父が祭壇へとあるみよる。
「では始めよう。衛宮士郎、君はセイバーのマスターで間違いないか?」
「確かに俺はセイバーと契約した。けどマスターとか聖杯戦争とか、そんな事を言われても俺には判らない。マスターっていうのがちゃんとした魔術師がなるモノなら、マスターを選び直した方がいい」
「これは重症だ。彼は本当に何も知らないのか、凛」
「だから素人だって言ったじゃない。その辺りからしつけてあげてよ」
遠坂は気が乗らない素振りで神父を促す
「まず君の勘違いを正そう。
いいか衛宮士郎。マスターという者は他人に譲れる者ではないし、なってしまった以上辞められるものだもない。
その腕に令呪を刻まれた者は、たとえ何者であろうとマスターを辞める事はできん」
「っ、辞める事は出来ないって、どうしてだよ」
「令呪とは聖疵でもある。マスターとは与えられた試練だ。都合が悪いからと言って放棄する事はできん。
その痛みからは、聖杯を手に入れるまでは解放されない。
お前がマスターを辞めたいと言うのであれば、聖杯を手にいれ己が望みを叶えるより他はあるまい。そうなれば何もかもが元通りだぞ、衛宮士郎。
おまえの望み、その内に溜まった泥を全て掻き出す事もできる。そうだ、初めからやり直す事とて可能だろうよ。
貴様のその見えない火傷の傷をなかった事にすることも」
「っ!」
「綺礼、回りくどい真似はしないで。私は彼にルールを説明してあげてって言ったのよ。誰も傷を開けなんて言ってない」
神父の言葉を遮る声。
「と、遠坂?」
「そうか、こういった者は何を言っても無駄だからな、せめて勘違いしたまま道徳をぬぐい去ってやろうとおもったのだが。
ふん、情けは人の為にならず、とはよく言ったものだ。つい、私自身も楽しんでしまったか」
「なによ。彼を助けると良いことあるっていうの、アンタに」
「あるとも。人を助けると言う事は、いずれ自身を救うという事だからな。と、今更おまえに説いても始まるまい。
では、本題に戻ろうか、衛宮士郎。
君が巻き込まれたこの戦いは『聖杯戦争』と言うモノだ。
七人のマスターが七人のサーヴァントを用いてサーヴァントを繰り広げる争奪戦ーーという事ぐらいは凛から聞いているか?」
「聞いてる? 七人のマスターで殺し合うっていう、ふざげた話だろ」
「そうだ。だが我らとて好きでこのような事を行っている訳ではない。全ては聖杯を得るに相応しい者を選抜する為の儀式だ。なにしろモノがモノだからな、所有者の選定には幾つかの試練が必要だ」
「待てよ。さっきから聖杯聖杯って繰り返してるけど、それって一体なんなんだ。まさか本当にあの聖杯だって言うんじゃないだろうな」
聖杯。
聖者の血を受けたという杯。
数ある聖遺物の中でも最高位とされるソレは様々な奇蹟を行うという。
その中でも広く伝わっているのが、聖杯を持つ者は世界を手にする、というものである。
もっとも、そんなのは眉唾だ。なにしろ聖杯の存在自体が有るが無いものに近い。
確かに望みを叶える聖なる杯は世界各地に散らばる伝説・伝承に顔を出す。
だがそれだけだ。
実在したとも、再現できたとも聞かない架空の技術、それが聖杯なのだから。
「どうなんだ言峰綺礼。アンタの言う聖杯は、本当に聖杯なのか」
「勿論だとも。この町に現れる聖杯は本物だ。その証拠にサーヴァントなどという法外な奇蹟が起きているだろう。
過去の英霊を呼び出し、使役する。否、既に死者の蘇生に近いこの奇跡は魔法と言える。
これだけの力を持つ聖杯ならば、持ち主に無限の力を与えよう。物の真偽など、その事実の前に無意味だ」
「」
つまり。
偽物でも本物以上の力があれば、真偽など問わないと言いたいのか。
「いいぜ。仮に聖杯が合ったとする。けど、ならなんで殺し合いなんてするんだ。聖杯があるんなら殺し合いなんてせずに、皆で分ければいいだろう」
「もっともな意見だが、そんな自由は我々にはない。
聖杯を手にする者はただ一人。
それは私たちが決めたのではなく、聖杯自体が決めた事だ。七人のマスターを選ぶのも、七人のサーヴァントを呼び出すのも、全ては聖杯自体が行う事。
これは儀式だと言っただろう。聖杯は自らを持つに相応しい人間を選び、彼らを競わせてただ一人の持ち主を選定する。
それが聖杯戦争ーー聖杯に選ばれ、手に入れる為に殺し合う降霊儀式という訳だ」
「」
淡々と神父は語る。
反論する言葉もなく、左手に視線を落とす。
そこには連中が令呪と呼ぶ刻印だ
「納得いかないな。一人だけしか選ばれないにしたって、他のマスターを殺すしかないっていうのは、気にくわない
」
「? ちょっと待って。殺すしかない、っていうのは誤解よ衛宮くん。別にマスターを殺す必要はないんだから」
ぽん、と肩を叩いて、遠坂は意外な突っ込みをしてきた。
「はあ? だって殺し合いだって言ったじゃないか。言峰もそう言ってたぞ」
「殺し合いだ」
「綺礼は黙ってて。あのね、この町の聖杯は霊体なの。だから物として有るわけではなく、特別な儀式で呼び出す、つまり。降霊するしかないって訳。
で、呼び出す事は魔術師だけでも出来るんだけど、これが霊体である以上私たちには触れられない。この意味、分かる?」
「分かる。霊体には霊体でしか触れられないんだろ。
ああ、だからサーヴァントが必要なのか」
「そういう事。ぶっちゃけた話、聖杯戦争っていうのは自分のサーヴァント以外のサーヴァントを撤去させるってコトよ。だからマスターを殺さなければならない、という決まりはないの」
「」
なんだ、それならそうと早く言ってくれれば良いのに
全く、遠坂もこの神父も人が悪い。
とにかく、これで安心した。
聖杯戦争に参加しても、遠坂が死ぬような事は無いわけだから。
「なるほど、そういう考えもできるか。
では衛宮士郎、一つ訊ねるが君はセイバーを倒せると思うか?」
「?」
セイバーを倒す?
そんなの無理に決まってる。
そもそもアイツには魔術は通用しないし、剣術だってデタラメに強い。
セイバーを倒したいのなら、魔術や剣術では無理だ。
それこそ、銃やマシンガンと言ったモノを用意しないと無理だと思う。
「ではもう一つ訊ねよう。つまらぬ問いだが、君は自分がセイバーより優れていると思えるか?」
「??」
なに言ってるんだ、こいつ。
俺はセイバーを倒せないんだから、俺がセイバーよりすぐれてるなんて事ありえない。
今の質問はどっちともマスターである俺の方がサーヴァントより弱いって答え、に
「あっ!」
「そういう事だ。サーヴァントはサーヴァントをもってしても破りがたい。ならばどうするか。
そら、実に単純な話だろう?サーヴァントはマスターがいなければ存在できぬ。いかにサーヴァントが強力でも、マスターが潰されればそのサーヴァントも消滅する。ならば」
そうだ、これは至極当然の行為じゃないか。
誰もわざわざ疲れる道を歩かない。
楽が出来る方に行くのが普通だ。
つまり、勝ち残りたいのなら、サーヴァントではなくマスターを殺す方が楽に決まっている。
そして、マスターが死ねばサーヴァントも必然的に消滅をする。
「ああ、サーヴァントを消す為にはマスターを倒した方が早いってのは解った。
けど、それじゃあ逆にサーヴァントが先にやられたら、マスターはマスターではなくなるのか?
聖杯に触れられるのはサーヴァントだけなんだろ?
なら、サーヴァントを失ったマスターには価値がない」
「いや、令呪がある限りマスターの権利は残る。マスターとはサーヴァントと契約できる魔術師の事だ。令呪があるうちは幾らでもサーヴァントと契約できる。
マスターを失ったサーヴァントはすぐに消える訳ではない。彼らは体内の魔力が尽きるまでは現世にとどまれる。そういった、マスターを失ったサーヴァントがいれば、サーヴァントを失ったマスターと再契約をし、戦線復帰が可能という訳だ。
だからこそマスターはマスターを殺すのだ。下手に生かしたら、新たな障害になるかもしれないからな」
「じゃあ令呪を使い切ったら?そうすれば他のサーヴァントと契約出来ないし、自由になったサーヴァントも他のマスターとくっつくだろ」
「待って、それはー」
「ふむ、それはその通りだ。令呪さえ使い切ってしまえば、マスターの責務からは解放されるな。
もっとも、強力な魔術を行える令呪を無駄に使う、などという魔術師がいるとは思えないが。
いたとしたらソイツは半人前どころか、ただの腑抜けという事だろう?」
「っ」
なんか、癪だ。
あの神父、さっきから俺を挑発してるとしか思えないほど、人を小馬鹿にしてやがる。
「納得がいったか。ならばルールの説明はここまでだ。
さて、それでは始めに戻ろうか衛宮士郎。
君はマスターになったつもりはないと言ったが、それは今でも同じなのか。
マスターを放棄するというのなら、それもよかろう。
君が今考えた通り、令呪を使い切ってセイバーとの契約を断てばよい。その場合、聖杯戦争が終わるまで君の安全は私が保証する」
「? ちょっと待った。なんだってアンタに安全を保証されなくちゃいけないんだ。自分の身ぐらい自分で守る」
「私とておまえに構うほど暇ではない。だがこれも決まりでな。私は繰り返される聖杯戦争を監督する為に派遣された。故に、聖杯戦争による犠牲は最小限にとどめなくてはならないのだ。マスターでなくなった魔術師を保護するのは、監督役としての最優先事項なのだよ」
「繰り返される聖杯戦争?」
ちょっと待て。
繰り返されるって、こんな戦いが今まで何度もあったってのか?
「それ、どういう事だよ。聖杯戦争っていうのは今に始まった事じゃないのか」
「無論だ。でなければ監督役、などという者が派遣されると思うか?
この教会は聖遺物を回収する任を帯びる、特務局の末端でな。本来は聖十字の調査、回収を旨とするが、ここでは聖杯の査定の任を帯びている。
極東の地に観測された第726聖杯を調査し、これが正しければ正しいモノであるのなら回収し、そうでなければ否定しろ、とな」
「726って…聖杯ってのはそんなに沢山あるのか」
「さあ? 少なくとも、らしき物ならばそれだけの数があったという事だろう」
「そしてその中の一つがこの町で観測される聖杯であり、聖杯戦争だ。
記録では二百年ほど前が一度目の戦いになっている
以後、約50年周期でマスターたちの戦いは繰り返されている。
聖杯戦争はこれで五度目。前回が10年前であるから、今まで最短のサイクルと言う事になる」
「な、正気かおまえら、こんなことを今まで四度も続けてきたって!?」
「まったく同感だ。おまえの言うとおり、連中はこんな事を何度も繰り返して来たのだよ。
そう。
過去、繰り返された聖杯戦争はことごとく苛烈を極めてきた。マスターたちは己が欲望に突き動かされ、魔術師としての教えを忘れ、ただ無差別に殺し合いを行った。
君も知っていると思うが、魔術師にとって魔術を一般社会で使用する事は第一の罪悪だ。魔術師は己が正体を人々に知られてはならないのだからな。
だが、過去のマスターたちはそれを破った。
魔術協会は彼らを戒める為に監督役を派遣したが、それが間に合ったのは三度目の聖杯戦争でな。その時に派遣されたのが私の父という訳だが、納得いったか少年」
「ああ、監督役が必要な理由は分かった。
けど今の話からすると、この聖杯戦争っていうのはとんでもなく性質が悪いモノなんじゃないのか」
「ほう。性質が悪いとはどのあたりだ」
「だって以前のマスターたちは魔術師のルールを破るような奴らだったんだろ。
なら、仮に聖杯があるとして、最後まで勝ち残ったヤツが、聖杯を私利私欲で使うようなヤツだったらどうする平気で人を殺すようなヤツにそんなモノが渡ったらまずいだろう。
魔術師を監視するのが協会の仕事なら、アンタはそういうヤツを罰するべきじゃないのか」
微かな期待を込めて言う。
だが言峰綺礼は、予想通り、おかしそうに笑った。
「まさか。私利私欲で動かぬ魔術師などおるまい。我々が管理するのは聖杯戦争の決まりだけだ。そのあとの事など知らん。どのような人格者が聖杯を手にいれようが、協会は関与しない」
「そんなバカな! じゃあ聖杯を手にいれたマスターが最悪なヤツだったらどうするんだよ!」
「困るな。だが私たちではどうしようもない。持ち主を選ぶのは聖杯だ。そして聖杯に選ばれたマスターを止める力など私たちにはない。
なにしろ望みを叶える杯だ。手にいれた者はやりたい放題だろうさ。
しかし、それが嫌だというのならお前が勝ち残ればいい。他人を当てにするよりは、その方が何よりも確実だろう?」
言峰は笑いを噛み殺している。
マスターである事を受け入れられない俺の無様さを愉しむように。
「どうした少年。今のはいいアイデアだと思うのだが、参考にする気はないのかな」
「そんなの余計なお世話だ。第一、俺には戦う理由がない。聖杯なんて物に興味ないし、マスターなんて言われても実感がわかない」
「ほう。では聖杯を手にいれた人間が何をするのか、それによって災厄が起きたとしても興味はないのだな」
「それはーー」
それを言われると反論できない。
くそ、こいつの言葉は暴力みたいだ。
こっちの心情などおかまいなし、ただ事実だけを容赦なく押し付けてくる。
「理由がないのならそれも結構。ならば10年前の出来事にも、お前は関心を持たないのだな?」
「10年、前?」
「そうだ。前回の聖杯戦争の最後にな、相応しくないマスターが聖杯に触れた。そのマスターが何を望んでいたかは知らん。我々に判るのは、その時に残された災害の爪痕だけだ」
「」
一瞬。
あの地獄が、脳裏に浮かんだ。
「待ってくれ。まさか、それは」
「そうだ、この街に住むものなら誰もが知っている出来事だよ衛宮士郎。
死傷者500名、焼け落ちた建物は実に130棟。未だ以て原因不明とされるあの火災こそが、聖杯戦争による爪痕だ」
「」
吐き気がする。
視界がぼやける。
焦点を失って、視点が定まらない。
ぐらりと体が崩れ落ちる。
だが、その前にしっかりと踏みとどまった。
歯を噛み締めて意識を保つ。
倒れかねない吐き気を、ただ、沸き立つ怒りだけで押し殺した。
「衛宮くん? どうしたのよ、いきなり顔面真っ白にしちゃって。そのーーほら、なんなら少し休んだりする?」
よほど蒼い顔をしていたのだろう。
遠坂が心配をしてくれるのが、とんでもなくレアな気がした。
「心配無用だ。遠坂の変な顔を見たら治った」
「ちょっと。それ、どういう意味よ」
「いや、他意はないんだ。言葉通りの意味だから気にするな」
「ならいいけどって、余計に悪いじゃないこの唐変木っ!」
すかん、容赦なく頭を叩く学園一の優等生・遠坂凛。
それだけで、さっきまでの吐き気も怒りも、キレイさっぱり消えてくれた。
「サンキュ。本当に助かったから、あんまりいじめないでくれ遠坂。今はコイツから、訊かなくちゃいけない事がある」
むっ、と叩き足りない顔のまま、遠坂は一応場を譲ってくれる。
「聖杯戦争は今回が五度目だって言ったな。なら、今まで聖杯を手にしたヤツはいるのか」
「当然だろう。そう毎回全滅などという憂き目は起きん」
「じゃあ」
「早まるな。手に入れるだけならば簡単だ。なにしろ聖杯自体はこの教会で管理している。手に取るだけならば私は毎日触れているぞ」
「え?」
「もっとも、それは器だけだ。中身は空なのだよ。先ほど凛が言っただろう、聖杯とは霊体だと。
保管してある聖杯を触媒にして本物の聖杯を降霊させ、願いを叶えさせる杯にする。
そうやって一時的に本物となった聖杯を手にした男は確かにいた」
「じゃあ聖杯は本物だったのか。いや、手にしたっていうソイツは一体どうなったんだ」
「どうにもならん。その聖杯は完成には至らなかった。
バカな男が、つまらぬ感傷に流された結果だよ」
先ほどまでの高圧的な態度は消え、神父は悔いるように視線を細める。
「話はここまでだ。
聖杯を手にする資格があるものはサーヴァントを従えたマスターのみ。君たち七人が最後の一人となった時、聖杯は自ずと勝者の下に現れよう。
その戦いーーー聖杯戦争に参加するかの意思をここで決めよ」
高みから見下ろして、神父は最後の判断を問う。
「」
言葉がつまる。
戦う理由が無かったのはさっきまでの話だ。
今は確実に戦う理由も意思もある。
けれどそれは、本当に認めていいのかどうか。
「まだ迷っているのか。
マスターに選ばれるのは魔術師だけだ。魔術師ならばとうに覚悟など出来ていよう。
それが無い、というのなら仕方があるまい。
おまえも、おまえを育てた師も出来損ないだ。そんな魔術師に戦われても迷惑だからな、今ここで令呪を消してしまえ」
「」
言われるまでもない。
俺は逃げない。
正直、マスターとか聖杯戦争とか、そんな事を言われても実感なんてまるで湧かない。
それでも、戦うか逃げるしか無いなら、逃げることだけはしない。
「マスターとして戦う。10年前の出来事が聖杯戦争にあるっていうんなら、俺は、あんな出来事を二度も起こさせる訳にはいかない」
俺はあの地獄の様な光景を二度と見たくはない。
だから、俺が止める。
もし、もう一度あの地獄が起こったら、俺やイリヤや遠坂そして、アルトねぇも死んでしまうだろう。
だから、俺は家族の為に戦うんだ。
士郎君が戦争戦争に参加しました。
多分、次の更新は来月になると思います。
最後に、評価、感想、ダメ出しお願いします。