fate/stay night 夢よ永遠に 作:fate信者
石足りるかな~
だけど、引いてやる!
「今度こそ教えてくれないかい?君が誰なのか」
切嗣のこの一言が、静かな星の下にいる私の耳に響く。
切嗣の顔は、真剣そのものだ。
「切嗣……そうですね。それに答える前に、或る少女の話をしましょう」
そうだ。
この話は愚かで哀れな王様が一人の女性に変わってゆく奇妙で摩訶不思議な物語だ。
切嗣も最初戸惑っていたが、私の顔を見て、了承してくれた。
「むかーし、昔、ブリテンと言う国が有りました。
その国の或る少女は、人々を助ける為に王になりました。
ですが、王になった日、王はまず感情を殺しました。
人々を救うには感情が一番邪魔だったのでしょう。
それからの王は凄かった。
戦場に出れば百戦百勝。
玉座に座れば理想の王。
いつの間にか王には最高の騎士達が付いて来てくれました。
それからも、文字通り負け知らず。
敵対した相手を蹂躙していました。
そんなある日、新しい騎士がやって来ました。
その騎士は優秀でした。
ですが、その騎士は事あるごとに『自分を王にさせろ』と言ってきました。
王にとって、その騎士は良く思えなかった。
ですから、王はその騎士に向かって言ったのです。『お前は王になれない』と。
その後に問題が起きました。
その騎士の反乱です。
普通なら王が勝てる戦いでしょう。
ですが、王には最高の騎士達がいなかった。
五人は王のやり方に反対し、一人は女絡みで居なくなり、三人は敵に回り、最後まで王に着いたのは一人だけでした。
故に、王は苦戦をした。
そして、悩んだ。
自分の一体何が悪いのか?
だが、答えは出ず、王は最後の戦いに出向いたのです。
戦いは酷いモノでした。
燃える荒野。
山の様に積まれる死体。
憎悪の視線。
それだけで、王は辛かった。
自分がやってきた事を否定されている様で、自分がやってきた事をバカにされている様で……
そして、最後は相討ちでした。
王の槍は騎士の心臓に、騎士の剣は王の心臓に。
騎士は直ぐに絶命しましたが、王は生きていました。
王の持つ剣には不思議な力が有るのです。
その剣の主は、老いることなく死ぬこともない。
その名を……」
「……エクスカリバー」
私が言う前に切嗣が先に言いました。
切嗣の顔は何処か生気を抜かれている様に元気がなく、只ぼんやりとしていました。
「あの、キリツグ、話を続けても良いですか?」
「えっ! あ、ああ、良いよ」
切嗣は私の話の続きを聞く。
「ゴホン! では、話の続きです。
王は生きていましたが、王の心臓は騎士の一撃によって致命傷を負ってしまいました。
王は動けずに、自分が築いた死体の山で倒れているだけです。
ですが、王の目の前に一人の騎士が来ました。
その騎士は、王を最後まで支えてくれた、
忠義を体現した様な人でした。
王は騎士に向かって最後の命を口にしました。
自分の持ってる聖剣がある限り、自分は死ねない。だから、この剣を湖に投げ入れろと言ったのです。
それで、王は死んだのでしょう。
ですが、その前に王はある夢を見たのです。
万物の願いを叶えるモノ。
……その名を『聖杯』」
「聖杯」と言う言葉に切嗣は少し反応したが、特に何も話さない。
つまり、話を続けろと言う事でしょう。
「聖杯を求める戦いを王は続けました。
王も聖杯を求めたのです。
『万物の願いを叶える』
もし、それが本当であれば、王は願いを口にしたでしょう。『自分が王であった事を無かった事にしてくれ』と。
ですが、万能の杯を得られるのはたったの一人。
その中で王は、あと一人倒せば、聖杯を獲得出来る状態だったのに、王のマスターは絶対命令権を使い、聖杯を破壊してしまったのです。
そのあと、王は故郷で涙を流して慟哭しました。
そして、王は自分の事を責め続けました。
まるで、自分が悪かった様に……」
私の話を一通り聞くと、切嗣の顔は真っ青でした。
まるで、箱を開けたらお化けが出てきた様な顔でした。
「そうか、君を悲しませてすまない。いくら、僕の判断だろうと君に許可を取らなかった僕が悪かった」
切嗣はそう言うと私に頭を下げました。
「キリツグ、謝るのは全てを聞いてからでも遅くはありませんよ?」
私はそう言って、切嗣の顔を上げさせた。
「えっ?! まだあるのかい?」
切嗣は驚いているが、そんなのお構い無しだ。
第五次聖杯戦争の事。
その時のマスターが士郎だった事。
イリヤが敵マスターだった事。
その他に言いたい事を全部言った。
最後に、士郎が私を救ってくれた事も含めて……
「はは、そうか、僕の努力が無駄になっちゃうのか。あの争いは十年後に起こるのか。あの大気中のマナの量ならもう少しかかると思ってたんだけどね……」
切嗣は笑っているが、それは、苦笑いだとすぐ分かる。
私は話を逸らす様にある疑問を口にする。
「何故私が普通の人間とは違うと気づかれたのですか?」
そう。
いくら、エーテルで出来ているからと言っても、解る筈がない。
その様に加工をしてある筈だ。
「まあ、魔術回路の量が多すぎたのには疑問も有ったけど、余程の名家ならあれぐらい有るだろう。
だけど、僕とアルトレアさんが会ったのは2、3年前。
それから、アレトルアさんは変わらなかった、姿も何も、ね。
本当に何も変わっていないから、不審に思ったんだ。これだけでは、理由にならないかな?」
切嗣はそんな風に言いましたが、普通2,3年前の人を記憶し続けますか?
でも、それを覚えていたから切嗣は私の違和感に気づけたのでしょうね。
「まあ、確かに。」
「アルトレアさん、お願いがあるんだけど、聞いてくれないかな?」
切嗣が私にお願いをしてくるなんて珍しいですね。
「良いですよ」
私が了承すると、切嗣は立ち上がって土蔵の方へ走って行きました。
そして、切嗣が戻ってくる時に何か棒状の様な何かを袋に包んであるモノを持ってきた。
ーーはて?
「キリツグ、これは、一体?」
私が言うと、切嗣は袋から中身を出しました。
これは、見たことがある。
これは、そう!
士郎が見ていた番組に出ていました。
「これは、日本刀。本来なら、士郎が大きくなってから渡そうと思ってたんだけどね。
どうやら、神様は僕に待つ時間もくれないらしい」
切嗣はおかしな事を言い出した。
待つ時間がない?……………!?
「キリツグ、何を言っているのですか?
それでは、死ぬ間際の人みたいですよ!?」
私が切嗣の間違いを訂正する。
そんなワケが無いと自分に言い聞かせながら……
「はは、それがね、僕のからだはボロボロでそんなに生きてられないんだよ。保って明日、早くて今日、かな?」
「そんな……」
私は悲しかった。
やっと、切嗣と分かり合えてきたというのに、これはあんまりだ。
「だから、最期に誰かに会いたかった。その相手が君で嬉しかったよ。
……さて、心のモヤも取れたし、もう、思い残す事はほとんど無いかな」
切嗣は安堵の表情で言った。
それは、今まで見てきた中で一番安らいでいた。
「キリツグ! 士郎は、イリヤはどうするんですか!!
一番悲しむのはあの二人でしょう」
「確かに、ずっとあの子達を見届けたかったんだけどね……アルトレアさん、僕の分まで頼めないかな?」
切嗣、貴方は何故?
何故、そんな事を言うんですか!?
「士郎との約束はどうするんですか?!」
「悔しいけど、それも、どうやら無理みたいだ。だから、アルトレアさん、この日本刀を士郎に渡してくれないか?
この刀は僕が良いなと思って買ったモノなんだ。
あと、魔術で少し加工をしてある。
だから、この刀は士郎をきっと守ってくれるはずだよ」
切嗣は笑顔で日本刀を私に差し出す。
「この誓い、必ず果たします。
士郎のことも、イリヤのことも、後のことはお任せください……父上!」
切嗣は私の手に日本刀が有るのを確認した後に、空を見上げる。
「ーーああ、本当に、いい月だ」
彼はそう呟き、眠る様に亡くなりました。
彼の表情は穏やかで、自分が死ぬ事を全く考えていない顔でした。
そして、私は彼と過ごした日々を思い出す。
その日常は楽しく、可笑しい、最高の日々でした。
私が日常を思い返すと、居間の扉が開く音がしたので、見やれば、其処には士郎が立っていた。
「アルトねえ、まだ、起きてるの?」
士郎は目を擦りながら訊いてきた。
「すみません。シロウ、私もすぐ寝ます」
「あれ?爺さん、寝ちゃったの?」
士郎はそう言って切嗣の横まで歩いて来て、起こそうとしています。
「爺さん、起きろよ。こんな所で寝ると風邪引くぞ?」
私は士郎の言葉を聞いていると泣きそうになる。
ーー士郎、切嗣はもう風邪を引きませんし、起きる事もありません。
「シロウ、キリツグも疲れている様ですし、あとは私が部屋に運んでおくので先にお休みなさい」
士郎には平然と伝えたが、ほとんど虚勢だ。
「ん?うん、わかった。アルトねぇもあんまり夜更かしすんなよ」
そう言って士郎は自分の部屋に戻って行った。
一人だけ、残された私はもう一度空を見上げる。
やはり、空には雲が無く。
真っ黒な世界に太陽よりも輝いている
一つの月が在りました。
僕らの切嗣が…。
ですが、僕は切嗣を名前だけでも出しまくってやる。
そして、次回からやっとfate stay night編かな?
あと、切嗣が途中で脱落したので魔術を教えているのはイリヤスフィールです。
イリヤスフィールはあんまり魔術を教えていませんが、魔術はめっちゃ出来ると言う設定です。
高校生からスタートします
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