インフィニット・エクシリア   作:金宮 来人

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アフター

《おーい、そろそろ休憩にするぞー》

「ん?もうそんな時間か・・。わかった。」

作業服を脱ぎ、染みついた油の匂いが鼻をよぎる。

「はぁ、なんであの区域はうまく作動しないのかねぇ?」

「さぁな、俺にはとんとわからんな。」

同僚と休憩室でコーヒーを飲みつつ談笑。仕事に文句はないがこうも捗らないと流石に疲れは出るし文句も出てくる。

「あ、そうそう。そう言えば今日は早上がりするんじゃなかったか?ってさっき課長が言ってたぜ?」

「は?…やべぇ!!今日何日だ!?」

「いや、今日は×日だが?」

やっべぇ!完全に忘れてた!

「い、今何時だ?」

「え?えっと、午後四時半くらいだな、それが?」

四時半、ここから急いで片道一時間ちょっと。間に合うが、着替えとかの時間を考えるとギリギリだ。

「すまん、俺の機材片づけておいてくれ!」

「お、おう。代わりに今度昼飯一回奢れよな。」

「おう!じゃあ、先。お疲れ!!」

「おう。お疲れ!」

そう言って全力ダッシュ。更衣室で着替えてシャワールームで油を落としそのまま外着に着替える。そして、また走って自家用車に乗り法定速度内で急ぎ、走り始める。

「あぁぁ、ヤバい、遅れたらなんて言われるか・・。」

そんな独り言が漏れながらも車を走らせ続けた。しばらく走ると見えてきた大きな建物、宙港、《MARS》だ。時間はギリギリ、なんとか間に合った。

「えっと、集合場所は…」

周りを見渡して集合場所である噴水を探す。

「あ、やっと来た!こっちよ、一夏(・・)!!」

その元気な声は右手の方から聞こえて来た。その声の方向に歩いていくとすぐに探していた人たちを見つけた。

「お、すまんすまん。遅れたか?」

昔からの中の良いメンバーと顔を合わす。全員が揃っていた。

「いえ、まだ先ほど皆さん集まったばかりですのよ?」

セシリアはまた一層美人となった。今じゃ一族のトップで会社の女社長だし、凄いよ。

大物政治家やハリウッドスターからも結婚を迫られたりしたってニュースになってたし。

「そうそう、さっきやっと鈴が来たばっかりだしね。」

シャルロットは今じゃIS学園の人気教師だ。教え方がうまいし、優しい。さらに美人と来ているから人気も高い。千冬姉とシャルで二大美人教師として学園内でファンを二分したくらいだからな。最近の悩みはラブレターを貰いすぎる事らしい。《主に女性からだが。》

「あ、シャル!それ言わないでよ。」

鈴は自分の腕で中華料理屋を始めた。ミシュランとかそう言うのはよくわからんがなんか一流高級店とかそう言うのと違って大衆食堂みたいな気軽に行ける店だ。人気メニューは麻婆豆腐と酢豚。鈴はその二つには絶対の自信があるらしい。前に有名シェフが来て麻婆豆腐にケチをつけた事があったらしいけど、その時に、『アンタに言われて味を変えるほど、アタシは落ちぶれちゃいないよ。気に食わないなら帰れ。』と言って、追い出した。あれはかっこよかった。《その後、そのシェフは色々後ろ暗いことしてたらしく捕まったが。》

「鈴も、危なく遅れそうになったんだから少しは悪いとは思わんのか。まったく昔と変わらんな。」

ラウラ、姿も性格もあの頃のままだ。但し、その服にはあのころに無かったオシャレというものが見える。アイツに可愛いと言われて撫でられていた時の顔は今でも覚えている。アイツはなんか妹をあやす兄みたいな顔をしていたし、ラウラもそれがうれしそうだった。やっぱりあいつには人を変える何かがあったんだろう。俺もこうして変われたし。

「なによ!ラウラだって階級とかそんなのが変わった事以外何も変わりないくせに!」

「まぁまぁ、落ちつけよ。」

喧嘩しだした二人をなだめようとするが、なかなかおさまらない。そこに嬉しい援護が来る。

「そうだぞ、お前たち。ここは公けの場だ。私達も社会人なのだからもう少し慎みを持て。特に鈴とセシリア、ラウラは世界から注目されているんだから。‥一夏、そろそろ移動しないか?」

箒は綺麗になった。あの頃より落ち着きを持ち、怒りやすい気質は消えた。怒る時は怒るがそれはすぐに手が出るようなものではなくしっかり物事を見据えて言葉にするのがいつもとなっている。今はまだ、神社で巫女さんをしている。

「そうだな。こっちに車を置いているから皆乗ってくれ。」

「一夏が車?!事故しないでよ?」

「ははは、流石にあの頃のISの操縦と違って免許取ってから結構経っているからな。その心配はないぞ。むしろ、会社内では模範ドライバーとして有名だ。安心しろ。」

そう言って愛車の白い車を指す。

「そう?じゃあ、乗らせてもらうわよ?」

そう言って鈴は運転席の後ろに乗る。俺も運転席に乗り込む。

「あぁ、一夏の運転は安心できるからな。大丈夫だ。」

「…箒さん(・・・)?なんでそうやって自信持って言えますの?」

「そりゃ、何回も来てるからだよね?ほ・う・き?」

「あ、あぁ。そうだ。時々、一夏の様子を見に来ている。その‥千冬さんに言われてな。」

自分が言われてるわけじゃないのに顔が赤くなる。ヤバい、今この顔を見られたら・・。

「‥‥一夏さん。そんな顔しなくても分かりますわよ‥?」

バックミラーを見ると目が合う。《呆れた。》はっきりそう言いたい顔をしているセシリア。あぁ、恥ずかしい。

「で、何故お前はこんなに大きな車に乗っているのだ?一人暮らしなのだろう?」

ラウラが言うようにこの車は七人乗り用のワゴンタイプなのだ。

「あぁ、‥まぁ、えっと、会社の人は二人とか四人しかないからもし貸す事があれば使えるだろ?」

「はっきり、将来子供がたくさん欲しいからとか言っとけば?」

「鈴!?」「鈴!?お前!?」

声を上げたのは俺だけじゃなくてあたりまえのように助席に乗っている箒だ。まて、お前が焦ると・・。

「あらぁ~?アタシは一夏に言っただけなのに《な・ん・で》箒まで焦るのかしら~?」

鈴がこうなるだろう・・。はぁ・・。

 

「いっく~ん、やっほー。」

「あれ!?束さん?!」

IS学園の卒業式後、部屋に帰った俺の目の前に居たのは箒の姉、篠ノ之束さんだった。

「元気~私は電気―びりびり~なんちゃって。あ、こっちが重要なんだった、これこれ。」

「これは・・ISのコアですか?」

束さんの手に持っている物はISのコアだった。何故こんなものを俺に見せるのか。

「そうそう、これはたっくんのコアなんだよ。」

「たっくん・・・立木の!?」

え?アイツいつの間にISに進化していたの?!

「あぁ、ちがうちがう。たっくんが心臓のかわりにしていたコアで一応彼とこのコアが連動していたってだけなんだけど、…残念ながら、コアが止まっちゃったんだよ。」

「え?じゃあ、もしかして・・」

「そう。もう彼は完全に死んじゃったってことになるね。」

「…そうですか。アイツが‥」

「最後にいっくんに一言伝えてほしいと言われたから、聞いてくれる?」

「あぁ。おねがいします。」

「…『一夏、僕の思いは託す。そして、お前自身の目的を見つけ、それも成就してほしい。それを僕に向けて言ってくれ。それが僕にとっての手向けだ。』だって。」

「…ぐず・・は、い・・分かりまし・・た。ありが・・どうござい、ます・。」

 

しばらく走った後、車を止めたのは公園の前。皆を下ろし駐車場に車を止めて戻る。

「ここね?」

「あぁ、そうだ。」

車の後ろに乗せていた花束を持って皆の後ろに続く。公園の中央よりちょっと外れた木々の間、石碑が立っている所に集まりそれを囲むように立つ。

「・・これが?」

「‥俺の力じゃこれぐらいが限界だったよ。ただ、アイツは目立つの嫌いだったし、ちょうど良いかなって。」

「そうね。目立つの嫌いって言ってたしね。」

「アイツらしくこっそり、でもそこに居る感じがそっくりだ。」

そう言ってその石碑をなでる。

《プロジェクト『MARS』原案考案者 

≪金宮 立木≫ 

                     ここに眠る。》

簡素に、ただそれだけが書いてある石碑。でも、その文字列にどれだけの人の思いが込められているのか。今『ここ』に住んでいる人たちは彼がいなければここに居る事は出来なかっただろう。しかし、それも知らずここに住んでいる人は少なくない。

花を置いて皆は元来た道を戻り始めるが、俺は途中で振り向いてもう一度石碑の前に戻る。

「俺は絶対に、忘れたりしない。そして、皆がそれぞれ生きているこの世界…これが俺の答えだ。」

その言葉に反応したように一瞬だけ石碑が光った。

『ま、良いんじゃない?』

一瞬だけ立木の姿が見え、瞬きするとそこには何もなかった。それでも声がした気がした。見上げた空は赤く、だけどそこに《ある》。

IS学園卒業後、ISを使用しようとした戦争が起きた。規模は小さくあまり目立った事はなかったがそれによって世界の均衡は崩れ、ISを実戦投入しようと各国は研究し始めた。そこでやっと出来た俺の宇宙開発、火星移住プラン『プロジェクトMARS』それにより世界中の研究機関は注目した。戦争の原因も資源の奪い合いによるものだったため、プランに参加する際停戦協定を結び、結果それによってその戦争は終わっていた。

人が宇宙を目指す時、無限にも思える成層圏の向こうにはちゃんと宇宙はあった。そこを出て人類は自分の小ささを知ったようだった。

そして、今俺は自身のプロジェクトによって移住できるようになった火星に住んでいる。

 

        そして、俺は、

    

      「俺は、此処に居るぞ。」

    

      ここで、確かに、生きている。

 

 

           END

 




本当のラスト。自分の見据える最後の先はこのシナリオを考えていました。
私はアメリカ等の責任などは考えず、有ったとしてもこのプロジェクトはアメリカなどの先進国の協力なくしてはできません。
故にあったとしたらこのプロジェクトへの特別な融資や強制参加権、物資や人材の派遣等が有ったかもしれません。その裏にはおそらく亡国機業が美味しい思いをしていたでしょう。それも、また、必要悪であり、世界の歯車でもあるのだと私は思います。
コレで、【インフィニット・エクシリア】は終わりますが、此処までお付き合いくださり誠にありがとうございました。
時期作品も時を見てあげて行こうと思いますので、そちらも御覧くださいますと幸いです。では、またどこかで。

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