箒が手をつないでいる一夏が身じろぎをすると次の瞬間、一夏の腕についている白式から光があふれだし、一夏を包み込む。その光に驚いて手を放し、一・二歩下がった箒はなんの根拠も無いのにもう大丈夫だと確信していた。
『セカンドフォーム…シフト、『セツラ』。』
その音声と共に光が収まり中からは傷も何もない完全な状態での一夏が立っていた。
「い、一夏!」
「あぁ‥ただいま、箒。」
にこやかにほほ笑む一夏に箒が飛びつく。それを抱きしめ肩をぽんぽんと叩く一夏。
「箒、今はアイツを止める事が先だ。行けるか?」
「あぁ!大丈夫だ。」
「なら、行くぞ!」
一夏はそこから空に飛び福音に向かって飛んでいく。白式をはるかに凌ぐ速度を軽く出す『雪羅』で福音に強襲をかける。
「うおぉぉぉぉおおおおお!!」
背中ぎりぎりを通りそこに零落白夜を短期発動してブレードを振う。福音の背中にあるエネルギーの翼を切り落とし、さらにそこから急上昇。怪我にならないよう表面を走らせるようにまた短期発動した零落白夜を使い、エネルギーを一気にえぐり取る。
『一夏!よし、このまま押し返すぞ!』『一夏、お帰り。』『遅いわよ。』『一夏さん、お気を付けてくださいね‥。』
ラウラ、シャルロット、鈴、セシリア、それぞれの反応をして一夏に声をかける。
『――――…―――。』
その際に何か声が聞こえたような気がした。もしかしたら福音の声だったのかもしれない。
そんなことも思ったがそれよりもこのパイロットを助けることと福音の暴走を止める事、それが第一だと思い直し、もう一度攻撃をかけようとした。
しかし、予想外な事が起きる。見ると、福音のエネルギーが切れ暴走状態も止まっている。
そして、《何か》に抱えられて空中に居た。そう、黒い人型に・・。
「‥ど、どういう事だ‥?」
そこに居たのは黒いフルスキンの人。自分を護って死んだはずの《金宮立木》がそこに居た。正確に言うとその変身状態なので顔は見えなかったが。
そしてその機能停止した福音を箒に渡す。
『…アンタ、死んだんじゃなかったの?』
鈴は信じれないものを見たような表情をし、
『金宮さん・・?!』
セシリアはただ驚愕する。
『立木‥どうして‥』
シャルロットはどういう事か分からず困惑し、
『立木‥織斑先生が死んだと言っていたが、一体どういう事だ‥?…顔を見せてくれ。』
ラウラは真実を見極めようとする。
「…全員撤収してくれ。コイツとは俺が話をつける・・。」
『『『『『『一夏!?』』』』』(さん)!?』
『お前分かっているのか!?コイツが本物かどうか‥いや、はっきり言えば偽物の可能性しかないんだぞ!それなのに一人残るって‥・』
ラウラが驚きながらも叱るように叫ぶ。しかし一夏は黒い人型から顔を反らさずただ落ち着いたように話す。
「大丈夫だ。皆は先に戻ってくれ。」
『し、しかし一夏さん・・。』
「良いから。行ってくれ。」
食い下がるセシリアにはっきりと断り、それでも顔を反らす事はない。
『…全員戻ろう。‥一夏、ちゃんと戻って来いよ。』
箒は一夏が諦める事はないと気がついて全員を促し、最後に一言だけ言って旅館の方に引き上げて行った。
◆
「はぁ‥いきなりプライベート回線で皆は帰してくれないかっていうから驚いたぜ‥?」
『すまないね。すでに話すための器官も無いんでな。』
ただ首を振るしかできず、自らの口で話す事は出来ない。そう伝えた。
「そうか‥とりあえず、さっきまで居た島がある。そこで降りて話そうか。」
『了解。‥あの簡易チャージャーの音声は聞いたか?』
「あぁ、お前凄いよ。あんなこと考えてたなんてな‥」
島に突き地面に降りて一夏はISを解除する。『僕』は変身を解くかどうか迷う。すでに時間は残されて居ない。ならば話す時間ぐらいの為には‥と思い直し一夏の表情を見ながら変身を解く。
「お、お前…その格好・・」
『これが、力に溺れた者の末路だ‥なんてね。ま、後悔はしてないよ。『守れた。』それで十分だ。』
体はすべて皮膚は黒くなり、眼は黒い瞳だったのが赤に変わっっていた。
『この体も時機に消える。最後に話せてよかったよ。』
右手を見ながら開く、閉じると動かして一夏の方を見る。
『一夏、最後の頼みだ。今僕はISのコアを心臓の変わりにしている。が、すぐに僕自身は消えるだろう。そしたら残ったコアを学園に持ち帰ってくれないか?』
「お前は…一緒に行けないのか?」
『無理だな。もう…ほら。崩壊が始まってる。』
僕が指さす先にあるのは足、ではなくすでに足の先から金色の粒子となって消えゆく姿だった。
『ホントは暴走するかなっとも思っていたが…そうしたくないと願っていたら丁度こうなった。』
けらけらと笑うように初めて笑った表情をした。それが皮肉にも最期とは僕らしい。
「お前が笑ったの、初めて見たよ・・。わかった。お前の頼み受けるぜ。」
『すまないな、面倒かける。‥あぁ、もう腕も消えそうだ。・・最後に握手してくれ。』
そう右手を差し出す。すぐに一夏も握手に応じてくれた。その手を引っ張り近づけて肩を叩く。
『面倒を押し付けてすまないな。では、《…世に平穏のあらん事を。》』
そう言ってボクは完全に光の粒子へと代わり消滅した。
◆
一夏は島に残ったコアを拾い上げ青空を見上げる。
「わかった。絶対、絶対に成し遂げてやる。‥《世に平穏のあらん事を》…か。」
右手を上げ拳を空に突き上げた。
少しするとその場から撤退し旅館に戻る。
そのしばらく後にその島に降り立つ二人の姿が合った。
「行かせていいのか?《スコール》」
「今からならまだ間に合うぞ?」
黒と青のISを着た二人の女性がそう言って話している。
『大丈夫よ、《彼》との交渉した通り、《織斑一夏》が彼の言ったシナリオ通りに進めば私たちは一層儲ける事が出来るわ…。それに次も敵とは限らないでしょう。‥しかし、彼がシナリオから外れた時は…ま、その時はその時よ。《オータム》《エム》帰って来なさい。』
「分かった。サイレントゼフィルス、撤収するぞ…。」
「こっちも了解したぜ、《スコール》。アラクネ帰還する。」
二機のISが撤収し、その島には何も残って居ない。その光景は遠く飛んでいる海鳥しか見ている者はいなかった。
●
時間は少し巻き戻り一夏が気絶している間の事。ここはその海域のすぐ近くを進行していた潜水艦。その中には三人の女性と一人の男がいた。正確にはその男は少年と言っても良いような顔で傷だらけ、しかも、ところどころ出血もしていた。
「…こいつ‥どうする?」
本当はそんな予定はなかったのだが、ちょうど近くに落ちて来たIS。利用しようと思い拾ったら世界でも有名になった男、二人目の男性IS操縦者金宮立木だったのだ。但し、すでに脈はなく呼吸もしていない。つまりは死んでいるのだ。
「うーん、どうしようかしらねェ・・おっと?」
《チャリ‥》
その時丁度潜水艦が揺れ首にかかっていた懐中時計が左胸の上に。すると懐中時計は光を放ち胸からもう一つの懐中時計を生み出す。
「!?‥いったい何が起きているんだ!?」
織斑千冬によく似た顔をした少女は光を受けて驚きながらも何かあればすぐ動けるように臨戦態勢をとる。黒髪の女性は何かあった時の為に金髪の女性を背中に隠す。
光が収まった後、目の前には何もない状態だった。
「何が起きたんだ?・・!」
「…。」
さっきまで完全に死んでいたはずの立木が目を開き少女たちの方を見ていた。
「な!?貴様は死んでいたはずだ!」
「‥―――。」
立木はパクパクと口を動かし、何か話そうとするが声が出て居ない。理由は肺が機能していないから呼吸も声を出すための息もできない。その事に気が付き少し考えた後、そこにある機械類にスピーカーが合った事に気がつく。ISの機能で通信機能を開きそこにつなげて会話を試みる。プライベート回線の応用なら声に出さなくても音声は流れるからだ。
『‥僕は、死んだはずでは?‥あとここは?』
「その質問に答える前に貴方の事を教えてちょうだい?私達もこの状況をまだ飲み込めていないの。」
そう返事をしたのは金髪の女性。この中でもリーダーで一番頭の切れる人物だ。
『あー、そうですね。僕は金宮立木。IS学園の生徒で世界で二人目の男性IS操縦者。』
「そんな分かり切った答えじゃなくて、もっと細かい情報が欲しいのだけど‥まぁ、いいわ。私は《スコール》。ここは潜水艦の中で、海中に落ちて来た所を私たちが拾った。あと、私達も貴方は死んでいたと思っていたんだけど、懐中時計が光って二つに増えた後、一つは消えてたの。そしたらあなたが目を覚ました。これがここまでの経緯よ。」
『…‥ありがとうございます。スキャンした結果、心臓の変わりにコアが入っていました。一時的に僕事態がISみたいなものになっているらしいですね。通りでISが視界に入らないと思いましたよ。で?どうするつもりですか?』
「どう、とは?」
あえて分かっているがしらばっくれて答える。
『おそらく貴女がたは普通の人達じゃない。ISが居る海域に潜水艦で入るなんて正気じゃないですからね。思い当たるのは、《亡国機業》、違いますか?』
「その通り。私たちはお金になる事なら何でもやるわよ。貴方を解剖すればどのくらいのお金になるのかしらね?」
わざとらしく挑発し、相手の出方を見る。ここで謝るようなら本当に解剖したり他国に売りつけることも考えて。
『お金、ですか。‥ならば、交渉しませんか?貴女がたは儲ける事が出来、なお且つ僕の目的の達成できる。どちらにも損がない話です。』
「何かしら?少しの儲けじゃ貴方を売った値段の方が儲けれると思うけど?」
『上手く動ければ、世界を相手に一気に稼ぐ事の出来る方法です。しかし、それにはある人物と状況が必要。その手助けをしてもらう。それが条件です。』
「‥話を聞きましょう。」
『貴女が賢い人でよかった。では、《クローズプラン》の説明をさせていただきます。これは、兵器であることのISの開発の停止を始めとした計画です。そして、IS本来の未来に戻す。さらに、地球を救うと言った大きな目標があります。』
「どういうことかしら?地球を救うとはどういう意味?」
『現在、世界は資源を使いすぎ、もう少しで枯渇するとも言われています。言わば地球という身体から骨や血を抜いている状況、そのままにしては時間の問題です。そこで宇宙、仮定としては火星や金星を目標とし、テラフォーミング、その後移住や新しい資源の発掘が出来れば、そこから一気に人類は進化します。ここで、貴女達の組織が介入して居ればレアメタル、新資源、移住先の土地代、宇宙船の開発、挙げればきりがないほどのもうける場があります。今のISがある状況なら開発はたやすいでしょう。ネックは、それを世界中の広める事、そのために貴女達の協力が必要。以上の説明で分かりましたか?』
「一応は、ね。ただこっちの思いに対して、請け分が少なかったりこの計画が失敗した時はどうしてくれるのかしら?」
『その時は‥彼をどうしようと僕は知りません。僕にとって彼は友達である前にこの計画の駒でもありますから。もちろん、この僕も駒にすぎません。必要でなければ動かす事も盤上にある必要もありません。』
「‥酷いわね。私達も駒にすぎないって言ってるようなものよ?」
『すべては人類に黄金の時代をもたらすため。そのためには、多少の犠牲は必要です。彼には《人を救う》と言う事を植え付けましたから、シナリオ通りに動くと思います。』
「そう。なら、良いでしょう。しかし、そのシナリオから外れた時は、契約は無効。好きにやらせてもらうわ。」
『それは結構。しかし、僕も時間がないようだ。コアの力で少しは動けるが・・ほら。』
スーツをめくるとすでに見えてない部分は真っ黒に変色していた。残るは顔と義手の部分が肌色なだけ。三人はその肌の異常さに息をのんだ。
『結局は長い命ではない。一時的な駒であるしかない僕はここまでだ。後は、貴女達に託すしかない。すまない。』
頭を下げ丁寧に謝る。
「まぁ、それじゃ、契約成立ね。で、今からどうするの?まだ彼等は戦闘してるみたいよ?」
『‥はぁ、じゃあ、最後の仕事に行きますか。拾ってくれてありがとうございました。最後ですが、このまま僕は死ぬでしょうからもうお話しすることはないでしょう。では。』
さっき光の中から現れた懐中時計を持って念じると、時計が光り外殻が現れた。
目の前のスコール達は驚いているが、それにかまって居る時間も無いのでさっさと出口に向かって行く。この形状なら、おそらくここから出れるだろう。
『では、行きますのでハッチを開けでください。』
そう通信すると上部の配管から水が入ってきていっぱいになったと同時にハッチが開く。そこから海上に飛んで出た。
『すべては私のシナリオ通り、残るは憎まれ役の幕引きだ。』
そう呟いて最後の戦場に向かった。
外殻を見て【仮面ライダークルスニク】とか言い合って友人とプレイしていたあのころが懐かしい・・。
【絶拳】には何度吹き飛ばされたのか・・。