そうして、今は夕食の時間になりました。夕食は旅館で豪華に刺身のある懐石みたいなものだ。いやぁ、贅沢だよね。
「これ、なに?」
隣に座るシャルが刺身の横にある緑色を指さして言った。
「ワサビ。刺身につける薬味。昔は殺菌作用とかの意味で。今では魚臭さを抑えたり、刺身の味を引き立てる意味で付いている。」
正直言うとコジマ粒子とか言いそうになったが抑えた。ま、コジマはマズイ。
「へー、そうだんだ。…」
「ちなみに、」
シャルを見ないで続ける。
「それだけ食べるとものすごいからい。ホースラディッシュを更に辛くしたモノだと思えばいい。」
それを言いながら見るとシャルがピタッと止まる。
「あ、あはははは・・・。」
それだけ食べようとしていたらしく、乾いた笑いでごまかすシャル。
「アンタねぇ‥。」
反対側の鈴も呆れてるしな。
「それでさ、・・・」
「何?」
「アンタの『ソレ』‥何?」
その指さす先には僕の料理がある。
「僕の夕食。」
それが、一体何だと言うのだろうか。鈴と反対側のシャルは驚いた表情で僕を見ている。気がつくと周りのみんなも僕を見ている。何があると言うのだ。
「いや、立木・・。その、【量】はおかしいだろ。」
なんだ?ただ僕のは他の人より少し多いだけではないか?
「少し多いだけ。とか考えてるんだったらアンタの頭、ちょっとおかしいわよ?」
「…。少しならいいか。」
「考えたの?!」
シャルから突っ込みが入るが多少おかしい事はわかっている。僕がまともだったらおそらくとっくの昔に自殺とかしていただろうからな。
「ま、まぁ、お前が食えるんならいいが・・。」
このくらいの量がなんだと言うのだろうか。刺身が六人前、ご飯は御櫃、他の副菜も多いがすぐに食べれる量だ。その証拠にもう御櫃は空だし、みそ汁に漬物、おひたしとかは食べ終わって器を積み上げてある。
「刺身が残ってるのは…好きだから?」
「結構好きらしい。」
あまり生魚とかが食べれる環境になかったから、仕方ないじゃないか。凄いこれ美味しいよ。そのまま食べ続けて数分で完食。
「ごちそうさま。」
「食ったな‥。あの量を・・。」
「あぁ、凄いな‥。」
「いつもの三倍はあったわよ、あれ・・。」
「それをいつもと同じくらいの時間で食べてる‥。」
「立木は三倍速い‥と。」
なんか色々おかしい評価をされた気がするがまぁ、いいか。それよりも料理がおいしくてとても満足です。
そして、部屋割は僕は廊下の突き当たり、織斑先生の部屋の隣だった。一夏君は織斑先生と同じ部屋らしい。ま、そりゃそうなるだろう。コーヒーが飲みたくなった僕は缶コーヒーを買いに行こうと思い廊下に出る。・・・いや、出ようと手を引き戸にかけた所で廊下から声が聞こえた・。
「ちょ、押さないでくれません?!」
「しかし、私が見えないのだ‥。もう少し寄れ・・。」
「ね、ねぇ、立木はどうしてるかな・・?」
「もし、もしよ・・誰かが押し入ってきてたら立木じゃ強く言えそうにないわね‥。よし、いくわよ・・。」
「わ、私は・・・どうしよう・・教官を見るべきか・よm、じゃない婿殿を見るべきか‥。」
なんか聞こえて来たが無視して廊下に出る。
「・・何してる?」
廊下から部屋をのぞく二人の女子。さらにシャルと鈴がこっちに向かってこようとしていた。ラウラはどっちに行こうかうろうろしているし‥。
「あ、あはははは・・。」
「えへ・・。」
鈴とシャルは笑ってごまかそうとする。その二人にでこピンしてお仕置きする。
《バチン》
「いだあぁぁぁ・・。」「うぅぅぅ・・」
「何を騒いでいるんだ馬鹿者!」
その声に織斑先生が廊下に出てくる。
「「あ・・。」」
「…貴様らは何をしている‥?」
「えーっと、・・その。」「お、おほほほほ・・。」
「「「「「うぅぅ・・・。」」」」」
五人は織斑先生に正座させられて叱られている。
「その、マッサージでしたのね‥?」
「それ以外に何があるんだよ?」
オルコットが言った一言に一夏君が当たり前だろ?と言いたげな声で答えている。まぁ、僕も一夏君が姉に手を出す事は無いと思うが・・。逆ならあるのか?
「‥金宮‥?」
「一夏君、ちょっと飲み物を買いに行こう。さぁ。」
「え?ちょ、ちょっと・・」
一夏君を掴んで廊下に退避。ヤバい、織斑先生の目がすっごい怖い事になってた。
「どうしたんだよ‥?」
「コーヒーが飲みたくて。」
一応始めの目的はそうだったのに色々と寄り道してしまった。
「まぁ、あいつ等に飲みモノ買ってきてやるか。」
「それくらいは奢る。」
僕等は自動販売機に向かって歩いていった。
朝、目が覚めたのでコーヒーを買おうと廊下を歩いていると、
「あ、立木か‥おはよう。」
「おはよう。一夏君、何してる?」
「いや、その・・。」
そう言いながら顔を向けた先には地面から生える《ソレ》。
「…ウサミミ?」
「そう‥よっと、おわ!?」
それを引きぬいて尻もちを突く。その後空が光り、何かが急降下してきた。一夏君を引いて三歩くらい下がる。するとそこにニンジン型の《何か》が刺さった。
「…ふっふっふ~。ひっかかったね、いっくん!」
中から出て来たのは天才と名高い篠ノ之束博士だった。
「あれ?君は…まぁ、いっか。私は箒ちゃん探してくるからねー、またね、いっくん。」
そう言ってどこかへと走り去る。
「…まぁ、気にするな。」
「わかった。」
僕は頷いてそこを後にする。
「言っといてなんだが‥納得するのかそれで‥。」
何か言っていたが気にしない。うん、聞こえない。そこの先にあった自動販売機で当初の目的である缶コーヒーを買って飲みながら時間をつぶす。そろそろ朝食の時間か‥。
飲みほした缶を捨て食事に向かう事にした。うん、おなか減った。
朝食を食べていると食事後、専用機持ちは全員集まるように言われた。つまりはいつものメンバーな訳だが‥。
「で、ちふ・・織斑先生、なんでここに箒もいるんですか?」
一夏君が危なく「千冬姉」と呼びそうになり出席簿を構えられた所で訂正して言い直していた。
「それはだな‥「ち~いちゃ~ん!!」…はぁ・あれの所為だ・。」
指をさす方向には土煙りを上げながら走って来る一人の《アリス》もとい、篠ノ之束博士だった。
「とうっ!」思いっきりジャンプし空中で一回転。そのままの勢いで織斑先生に飛び着きに行く。しかし織斑先生はその博士の顔を空中でキャッチ、さらに右に逸らしてそのまま博士は篠ノ之の方へと飛んでいく。
「あーれー、おぉ、ほーうきちゃーん。」
「姉さんですか。お久しぶりです。‥よっ。」
そのまま飛んできた姉に挨拶をしながらぶつからないようにかわす。そして、岩に直撃。
「ぐべっ‥!…うぅ、箒ちゃん酷い~。」
「姉さんこそ飛んでこないで歩いてきたら、握手の一つくらいは出来るのですが。」
「そっか、さすが箒ちゃん!頭いいね!」
「姉さんほどではありませんが‥。」
なんか二人でのほほんとした会話してるんだけど‥。
「で、先生‥箒が居る理由はもしかして・・。」
「そうだ。あの馬鹿が新しい専用機を作った。篠ノ之専用の機体だそうだ。」
「そうそう、そうなんだよー。箒ちゃん専用に作った新しい機体…」
そう言いながら空を指さし、皆がそっちを見る。…衛星軌道上から何かが落ちてくる。そう思った僕はラウラ、シャルを引っ張り二歩後ろに下がる。するとそのすぐ目の前に銀色のひし形した物体が高速で降ってきた。
「ちょっ!?どこから来てんのよ‥って、あんた達何ちゃっかり避難してんのよ!?」
「危ないといけないから一応。」
もし何かあればすぐに海に飛び込んで衝撃に耐えるようにする予定だったから。
「なんか腑に落ちないけど‥。」
そう会話をした後、ひし形の物体に皆が注目する。
「…これが箒ちゃん専用の機体、その名も《紅椿》!!」
そう言って紅椿の装甲を展開し搭乗できるようにする。
「さぁ、箒ちゃん。フィッティングとファーストシフトさせようか。先に大体のデータは先行入力しているから後は現在のデータに書き換えるだけだからすぐ終わるからね…」
篠ノ之はそのまま紅椿を装着。それに繋がったコンソールから束博士は凄い速度で処理していく。
「‥‥はい終わり。早いね、流石。私―。じゃ、箒ちゃん、飛んでみようか。多分思った通りに動くから。」
「はい。」
そう頷いた篠ノ之は今まで見たどの機体よりも早く空を飛んだ。
「なるほど‥これほどとは‥。」
そう言いながら自分の手を開いたり閉じたりする篠ノ之。その後、武器を展開しその性能を確かめながら色々と説明していく。
他のみんなもそれを見てそっちに気を取られていた。
「《紅》、白と並び立つ色‥か・・。」
僕の呟く声は誰にも聞こえなかった。
そして事件は起きた。