インフィニット・エクシリア   作:金宮 来人

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ハーメルンよ!私は帰って来た!!
~という事で投稿いたします。


第16話

コーヒーを飲み終えた二人は部屋に戻って行った。食事はすましているし、さっきシャワーを浴びたので後は寝るだけなのだが‥なんか胸騒ぎがする。

引きだしからタロットカードを出して投げる。その中から一枚取り見ると、

「The Magician、魔術師・・か。・・ん?」

見るとそのカードの裏にもう一枚はりついている。

「The Tower。塔のカード、しかも逆・・?」

魔術師は正位置、可能性、エネルギー、才能、チャンス・・創造と物事の始まりもあったか?あと、塔は正位置も逆位置も悪いカードだが‥。逆位置の意味は誤解、緊迫、突然のアクシデント。ん?何か引っかかる‥創造、始まり、突然のアクシデント。

…‥!篠ノ之束!アクシデントなら何か問題が?!

コレはまずい。あの人に何かあるとIS世界の均衡が崩れるかもしれない。

しかし、どうすれば‥。そう言えば、変身時なら時間軸と距離は飛べるか!後はどこにいるかだが、勘に任すか‥。篠ノ之束博士をイメージし考えると気がつく。即座に変身しスリークウォーターで飛びながら槍をふるう。

「絶影!」

対象の頭上に移動し攻撃する技だがそこで上手くかわせばいい。間に合えよ!

 

私は焦っていた。運悪く今回に限ってマシンが不調を起こした。ステルスも通常兵器用のバリアもうまく機能するか分からない。流石にいくら天才の私でも器材がなきゃ修理もできない。

「篠ノ之博士、我々と共に来ていただけませんか?」

そう言って目の前に立っているのは黒い服に身を包んだ男たち。

「抵抗しなければ悪いようにはいたしませんよ?」

そう言ってにやりと笑う。このゲスが!その笑いの意味はわかってんだよ!

「あんた達がそんな殊勝な考えしているとは到底思えないんだけどね。」

「我々も貴女が抵抗しなければ別に何もする気はありませんよ。さぁ、博士、こちらに来ていただけませんか?」

「絶対いやだ!あんた達みたいな男に従う気も、あんたらの上の言い成りになる気も無い!」

「…そうですか、では。総員、構え。」

その号令で全員が武器を構える。

「上からは多少怪我をさせても連れてこいと言われているのでな。狙え、足辺りなら運ぶのが楽になるだろう。」

そう言って男が足に狙いをつける。ホントについてない・・。こんなとこで失敗するなんて全くついてないよ。

「‥撃て。」

その一言と共に上から黒い『何か』が勢いよく落ちて来た。その衝撃で砂埃が上がる。私も後ろに吹き飛ばされごろごろ転げた。一体何が?これもあいつ等の攻撃?だったら思いっきり殺す気じゃん!

しかし、その黒い『何か』は人の形をしていた。そして、こっちに向き声を発した。

「篠ノ之束だな?無事か?」

・・・・・・・・誰?

 

丁度頭上に出た時には男が数人女性に向かって銃を構えていた。トリガーに指がかかっており、今撃つ気なのはすぐに理解したのでそのままの勢いで地上に落下。男と女性の真ん中に割り込み楯になる。‥勢いが良すぎて女性はごろごろ転げていたが。

声をかけると、

「一応まだ無事だけどさ、転げたせいでちょっと頭が痛いよ?」

「それはすまないが急を要すると思ったのでね。それより、・・こいつらは?」

「いや、君も十分訳が分からないやつだけどね。まぁ、今は君の方が信じれるか。・・あいつ等は私を攫おうとしていたんだよ。多分ISを作らせるのが目的だろうけど。」

「‥了解了解。さて、どうする?」

「とりあえずここから逃げたいのだけど、マシンが不調起こしてね、ステルスもかけられないから下手に逃げられないの。」

「ふむ、じゃあ、先ずは・・消すか。」

消すと言いながら見たのは男の方。銃を構えこっちを警戒しているのが分かる。会話を聞いてどうするか考えているのだろうが、甘い。リーダーらしき男が消すという言葉に反応して銃を構えるが、

「遅い。」

地面を一蹴りして懐に潜る。そのままの勢いで心臓の位置に槍を刺す。振り返りながら後ろの男の頭をつかみ地面に叩き潰す。さらにその反動を使い後ろに跳びあがり、縦に一回転して勢いをつけて槍を投げる。その一投で男を三人まとめて貫く。

さらに刺し、切り、潰し、残るはリーダー格一人になる。

「な、なんだよ?何なんだよ!お前!?」

「五月蝿い。貴様らは何者だ。言わねば‥あれと同じになるだけだが。」

そう言って頭を掴み、くりっと死体の山に向ける。一気に引きつった表情になり男は口を開く。

「ふ、亡国機業【ファントム・タスク】だ・・、ほ、ほら、言ったぞ?な?」

そうだな。言ってくれたな。

「他には?」

「お、俺は下っ端だからほとんど知らない!ほ、ほんとだ!」

「よく言った。まぁ、情報をしゃべってくれたことには礼を言う。」

「ほら言っただろ?な?だったら・・」

「だが、貴様はこの姿を見てしまった。証拠は残さないに限る。いいか?僕は面倒が嫌いなんだ!」

そう言い放ち男を投げ上げ、槍で貫く。さらにそのまま投げて死体の山の上に置く。

「…すいません博士。見苦しいものを見せました。」

「・・・ホントに君は敵じゃないのかい?」

「それは今から証明したいので少し場所を移しましょう・・。失礼。」

「ひゃ!?」

自然な動きで篠ノ之博士を抱える。ん?これって所謂、

「お、お姫様だっこなんて・・初めてだ。」

「・・跳ぶので口は閉じてください。」

今度は何となく浜辺の生き物を想像して跳ぶ。行きついた場所は浜場だった。

「こ、此処は?」

「さぁ?」

「え、ちょっと、下ろして‥えっとここを、こうして・・ロシア!?さっきまでヨーロッパにいたよ!?」

まぁ、所謂ワープみたいなものだし・・。あ、そろそろ変身とかないとまずいか。

「そこに、空き家らしき建物があるので入りましょう。」

ドアノブを回しても鍵がかかっていたので、裏口のかぎを壊す。人が居なくなって間も無いのか全然埃っぽくなかった。そのまま地下室に行き明かりをつける。

「さて、先に僕の自己紹介を。」

「うん、凄く気になってるんだよね。君の声、どっかで聞いたことがある気がしてるし・・。」

変身を消し、顔を上げる。すると博士は凄い驚いた表情をしていた。

「IS学園所属、二人目の男性パイロット。正体不明の男子学生、記憶喪失の少年とも。金宮立木。さっき見た通り化け物だ。」

「き、君があの黒い男だったのかい?」「そう。」

肯定すると「ふわぁ・・」と、驚きの声を上げている。

「なら、君の目的は一体何だい?」

「目的は、ISの兵器転用を止め宇宙に向けさせる。」

「‥宇宙に!?」

博士は僕の言葉に凄い反応を見せる。それはそうだろう。もともと、宇宙空間でのマルチフォ-ムスーツだったはずなのに世界の奴らは兵器としか見ないのだから。

「そのための手を貸していただきたい。」

「どういう事か聞いても良いかい?」

もちろんと頷いて肯定。というか、その話をするために連れて来たんだから。

「‥いま、ISは兵器としての転用が進み、世界はそうとしか考えていない。これでは二次移行【セカンドシフト】したとして、その役目から逃れられない。その考えをつぶし、宇宙に目を向けさせるのが目的。」

まだ信じられないのかどういう事か悩み考えているようだ。

「人は争う。その行きつく先は破壊、そして破滅。争いは何も生まず、破壊しかもたらさない。これでは人類は諦観のうちに壊死するだろう。僕はそれを良しとしない。」

そこで切って、はっきりと今までの無表情から少し意思を含め、言う。

「だから、僕自身が必要悪となり世界中の価値観を変える。《彼ら》が歴史を創るなら僕は、‥僕自身を糧とする。そして、貴女は正義側として世界を導いてほしい。僕の変わりに・・。僕は‥化けものだから。」

服をめくり変質した肌を見せつつ頭を下げてお願いする。彼らの未来を正してほしいから。

「君は・・、君はどうなるの?」

「僕は死ぬ。遅かれ早かれ。この黒いのが体を蝕み・・・ね。さっきの力を使う代償だ。」

「使わなければ?」

「世界を変えることは出来ない。僕一人の命なんて安い。使わない手は無い」

そして、もともとこの世界の住人でない僕の命なんて、それこそ異物だ。

「天秤に掛けるまでも無い・・か。そうだね、この世界が平等で合った事など一度も無いからね。」

博士は頷いて納得したようだ。

「とりあえず、その時がきたらまた話す。…では。」

僕はまた変身して跳び、部屋に戻る。

すぐさま変身を解き冷蔵庫からコーヒーを出して飲みながら、深く椅子に座る。

「はぁ、‥これで、良いのだろうか‥。」

そのつぶやきは部屋の窓から満天の星空へと消えて行った。

 

私は(・・)彼が部屋から居なくなった後、近くに工具を見つけてマシンを修理した。応急処置ではあるが起動したから、すぐにラボに戻り完全に治す。

作業が終わって安心して椅子に座りコーヒーを飲む。

「彼は‥何なんだろうな‥。うん、この世界も面白くなってきた。」

そう一人で呟きコンソールに手を伸ばす。彼の言う話に近づけるように私も頑張ってみようかな?

…そこで気がつく。私も彼に興味を持ち始めた事に・・。

「でも、【彼】は、【死ぬ】気なんだよね・・。どうにかできないかな?」

そう思うが、あの黒く変色した肌を見る限り私でも無理なのだろう。一目見てもどうなっているかすらわからなかった。彼に残されてる時間は少ないのかもしれない。

「…残念だけど、その分、彼の思うシナリオになるように協力するしかない‥か。」

私には箒ちゃん、ちーちゃん、いっくんが居れば良いけど、彼はその上に皆と私の幸せも考えてくれた。

「ふふ、甘いんだなぁ。でも、嫌いじゃないかも・・。」

考えるほどに気になって行く彼。でも、その思いの分、悲しみを知ることになるのはまだ先の事である。

 


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