お久しぶりです。遅くなってしまい、申し訳ありません。
こちらは、テスト期間やら何やらで色々忙しかったです(´;ω;`)
早速書き溜めを消費しつつも、忙しさに四苦八苦。
言い訳は言っていられない! 遅くなったが投稿だ! これ以上はまずい! ということで。
では、本編どうぞ!
異常なほどの加速度を受けながら、空を駆ける俺。
具体的には射命丸が俺をぶら下げている状態だが、最早自分が飛んでいることと等しいだろう。
決して優雅な飛行ではない。
吹き飛ばされそうなくらいに吹き付ける逆風が、それをはっきりと示している。
「大丈夫ですか~? これ、かなり遅い方なんですよ?」
「えっ。嘘、だろ……?」
「あ~、ほら、はたてが追いつけるくらいですからね~」
「なになに? 私がどうしたって?」
声が聞こえたのは、後ろから。
かなり動かす制限が首にかかりながらも、振り返る。
かなりイマドキな女子高生といった感じの、恐らく射命丸と同じ鴉天狗。
背中には同じような、烏の翼を広げている。
イマドキと言っても、流行に乗っているようなわけではなく、手に持っている携帯電話は、折りたたみ式のものだ。
「って、その子は? 見慣れない顔よねー」
「えぇ、見ての通り外来人です。名は片桐 氷裏さん。性格も目つきも悪いので気を付けてね」
「おい。羽をもいでやろうか」
「うわっ、本当に怖いわねー」
初対面の人外に、怖いなどと言われたくない。
こちらとしては、人外の化け物と会うことすら怖いを既に通り越すレベルなのだ。
飛行能力を持っている時点で、俺を上空に連れ出して落とせば、抵抗なく殺せる。
いつ殺されても、おかしくないのが事実。
そんな人外が、二人に増えるこの状況。
丁寧な対応を求められても、一方的に俺が困ってはい終了。
冷静になったところで、それは片鱗さえも変わることはない。
「それはそうと、今日も新聞配達? 頑張るわね」
「この人が来たからね、号外を出さなきゃいけないのよ」
「射命丸は、どのくらいの頻度で新聞を出すんだ?」
「多いときには、号外を入れないで月に五回くらいですかね」
この六月も、もう終わりに近づいている。
ネタを探していた原因も、何となくだがわかる気がした。
そうなると、俺は完全に利用されているわけで。
こちらとしても、利用し返さないわけにもいかない。
引っ張ることのできる情報は、残さず蓋を開けるつもりだ。
「ほら、人里ですよ。一旦降ろしますから、人里の範囲は貴方に一任します。私は、別の遠いところに配達に行ってきますからね」
「了解。適当にバラ撒いて来ればいいんだろ?」
「ちゃんと丁寧に頼みますよ?」
着地直前に、一気に浮遊感が戻る。
先程のまでは、浮遊というよりも、飛翔でなびかれる感覚が強かった。
地に足が付いたとき、彼女の声が人里に反響する。
「文々。新聞、号外で~す!」
思いの外、配達に時間がかかった。
というのも、記事の内容が俺なので、質問攻めが避けられなかったのだ。
昼は過ぎ、お腹も空いてきた頃合いで。
「迎えにきましたよ~、っと」
「なあ天狗。俺、腹減った」
「私も同じですから、文句言わないでください。今から行く場所があるので、それからです。あと、射命丸です」
そう言うや否や、飛翔に入る。
俺は、空が大好きだ。雄大に佇むところがたまらない。
それの満足感すらも感じさせてくれない速度で、飛翔。
「はい、着きましたよ」
「はやっ!?」
「ふっふっふ、これでも私、この幻想郷では最速ですからね」
「……神社で、いいよな?」
堂々とした赤鳥居。本殿に賽銭箱。
この構造からして、神社の境内であることは確かだろう。
「えぇ、そうですよ。名は博麗神社。あっちの巫女服の方は
射命丸の指差す先で、巫女が境内を掃除している。
大きな赤いリボンを頭に付けた、赤白の巫女服。
何より目につくのは、かなり肌の露出の激しさだ。脇などは、それが顕著に表れている。
かなりの美系だが、まな板なのが玉に瑕だろうか。
まぁ、そういうのが好きな趣味の奴もいるので、これだけの風貌なら男には困らないだろう。
「よぉ、博麗の巫女さん。可愛いな」
「あんた、今朝の新聞の奴ね。そう思うなら、私に賽銭貢ぎなさい。結界修復も手間だったのよ」
「性格可愛くねぇ~……」
前言撤回。超困りそうだ。
顔はいいけども、性格がアレという、モテない男がいかにも引っかかりそうだ。
結婚したら、さぞ尻に敷かれることだろう。
「で、そこの天狗にあんたを連れさせたのは、言いたいことがあるからよ。今日の七時、ここに来なさい」
「いや何でだよ。俺、飛べねぇよ」
「同じように連れてきてもらいなさい。それについても、色々話すわ。紫と一緒に、ね」
また、この名だ。『また』とはいえど、二回目だが。
昨日の夜、射命丸が言っていたはずだ。『夜だけど、することがあって間に合わない』と。
あの時は、夜であることに気を取られて、紫が誰なのかを聞いていなかった。
間に合わないというのは、彼女の空いている時間か、俺達の就寝時間なのだろう。
「了解です。私が責任持って連れてきますよ」
「えぇ、そうしてもらえると助かるわ。後、そいつにはお賽銭も用意させると尚良し」
「はいはい、百円くらいは入れてやるよ。あっ、財布、外の世界の家にあるわ! いや~惜しかったな~、どうしても入れたかったんだがな~!」
「こ、こいつ……! まぁ、紫に持ってきてもらうから、別にいっか」
どうやらその『紫』という人物。
この幻想郷と外の世界を、本当に自由に行き来できるらしい。
昨日の射命丸の口振りからするに、そいつに頼めば紫なる人物以外も行き来できるらしい。
帰る手段があるのなら、すぐさま帰りたい。
そう思うことは、なかった。
俺が何を言う前に、再び全身は空気の圧でなびく。
服だけでなく、足とかもう、すごくなびいている。
身体の一部がなびくという稀有な体験をして、景色は一瞬にして切り替わる。
照りつける夏の日差しさえも切り裂く様は、目を見張るどころではなく目が飛んでいきそうだ。
実際俺から言わせてみれば、確かに驚きはするものの、目は乾くだけだ。
「ん~、もうお昼の二時ですかぁ。今から昼食、食べます?」
「相当に腹減った」
「ですが、今から食べて夕食、食べられますか?」
「量による」
「……それじゃあ、昼食は食べないで、夕食と兼用のブランチと洒落込みましょう!」
「ブランチだと、朝と昼だわ」
ブランチは、breakfastとlunchの混成語だ。言葉のまま、朝食と昼食。
しかしながら、ふと気付く。昼と夜の食事の兼用の名は、聞いたことがない。
結局、俺は渇望した昼食を迎えることなく、夜になってしまった。
この時ばかりは、射命丸を焼いて食おうかとも思っていたのだ。
天狗とはいえ、鴉なのでセーフとも思ったが、そも鴉が食べられるのか知らなかったので断念。
「で、そんなこんなで何も食べずに午後七時。今は博麗神社に向かっていて? 夕食も抜きで用事なんですがいかかでしょうか射命丸さんよぉ」
「いかかでしょうか、と言われましても……今から、夕食を食べにいくんですよ」
夜で辺りが暗いということもあり、ゆっくりと飛んでいる。
朝や昼のように飛ばさず、俺でも景色を楽しめるほどの遊覧とも言える。
となると、この鴉は遊覧鳥なのか。新種だな。
「博麗神社でか? 神への貢物根こそぎ奪って食べるとか、俺より性格悪いじゃないかよ」
「違いますよ、宴会です、え・ん・か・い。わかります?」
宴会。人々が一箇所に集い、酒を仰ぎ、食べ物を貪り食う。
そんな抽象的なイメージしか持たない俺には、少しばかりのわくわく感があった。
ともあれ、食べられれば何でもいい。死ぬほど腹が減っているんだから。
大人数が集まるとなれば、それなりに食事の量も用意されるはずだ。
安全運転ならぬ安全飛行を暫く続けて、ようやく博麗神社が見えてくる。
昼のように神社とその周りだけが明るく、人々の騒ぐ声が離れたここからでもはっきりと聞こえてくる。
その煩さの中に、俺と射命丸が少し速度を上げて飛び込む。
着地して、俺の大好きな空を見た。
星々が煌めく夜空は、昼とはまるで表情が違う。
もっと言うと、やはり外の世界の空とは全くの別物のようにも思えてくる。
澄んだ空がどこまでも高く見える様子が、この幻想郷の自然の豊かさを体現しているようだ。
幻想郷の殆どを知らない俺でも、ここが自然で溢れていることくらいはわかる。
空を見れば、それこそ一発で。
「あら、来たのね。来なくてもよかったのよ?」
「うっせぇ、博麗の巫女。昼はあんだけ金せびっていた癖して、何を言う」
俺が夜空に心を掴まれていると、博麗の巫女に話しかけられた。
俺としては正直、あまり関わりたくない相手だ。
射命丸と同じく、容姿だけはいいので、思考が一瞬揺らぎそうになってしまう。
繰り返すようだが、俺も男だ。こればかりは仕方がない。
「はいはい、どうとでも言いなさいな。早いところ挨拶、済ませなさい」
「はぁ? いや挨拶って、何のだ。それに、何で俺なんだよ」
「聞いてないの? この宴会、あんたの幻想入り歓迎のために人数集めて用意したのよ。一応、主役のあんたが前に出て挨拶しないと、宴会も本格的に始められないわ。軽く一言二言でいいから」
俺のために、これだけの人数が集まって用意を進めた。
嘘かとも疑ったが、このタイミングでわざわざ宴会など起こさないだろう。
「で、あんたは何でこいつに教えてないのよ」
「いやぁ、サプライズの方が面白いじゃないですか。ほら、片桐さんも挨拶してください。観念するんです」
「誰が反抗するなんて言ったよ。最初から黙ってするつもりだ」
そう告げるだけ告げて、集まりの先頭へと向かう。
これ以上あの二人と話していると、無意識に下らない口論になりかねない。
彼女らの言う通り、さっさと挨拶を済ませるのが吉と見た。
それに、腹が減ってどうにかなりそうだ。挨拶をちゃっちゃと終えて、自分も食事を頂くとしよう。
俺が皆の視界に入る目立つ位置に立つと、あれほど騒いでいた連中が、急に静まり返る。
新聞で顔を知っているだけあってか、俺が挨拶をすることについてもわかっているらしい。
突如にして出来上がる妙な緊張感に少し驚きつつも、公演を始める。
自己紹介は、公演だ。自分をどれだけ良い人間のように見せるか。それが鍵だ。
第一印象一つで、この幻想郷での待遇も天と地ほど差ができるだろう。
「え~っと、皆さん、こんばんは。今朝の新聞でご存知の方も多いと思いますが、一応。片桐 氷裏です。今日のこの宴会は、僕のためとのことで。非常にありがたい限りです。僕から言いたいことは、これからよろしく、ってことだけですかね。では、特に他にはありませんし、皆さんお手元のお飲み物をご用意ください」
俺のかなり騙しの効いた挨拶を終えて、乾杯の挨拶まで済ませてしまおうという巧妙な手口。
これによって、俺はできるだけ早くに料理にありつけるわけだ。
と、今更になって気付く。
自分がたった今乾杯の挨拶をしようとしながらも、俺自身がグラスを持っていない。
どうしようものかと少し慌てていると、射命丸から飲み物を手渡された。それも、ウインク付きで。
いまいちウインクの意味がわからない上に、オレンジジュースだ。子供っぽいと思われているのだろうか。
加えて妙に可愛いので、一周回って呆れや苛つきがなくもない。
しかしながら、この際飲み物の種類やウインクはどうでもいい。
高々と右手のグラスを挙げて、この場全員の飲み物の準備ができたことを確認した。
「では、今夜は楽しみましょう。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
挨拶を済ませるや否や、皆が騒ぎ出す。
俺が来たときよりも大きい声で、迫力すら感じてしまう。
オレンジジュースを飲みながら、射命丸と霊夢の元へ戻る。
果汁百パーセントだと思われる酸味が、喉に気持ちいい。
「貴方……いくらなんでも、性格が変わりすぎなのでは?」
「まぁな。心にもないことを言ったり、嘘を吐くのは、昔から得意なんだよ」
「じゃ、さっさと紫を呼びましょうか。紫~!」
霊夢が何もない空間に、そいつの名を呼ぶ。
が、そもそも本当に何もないので、出てくるはずもない。
霊夢の呼び声には、静寂のみの反応が返ってくる。
逆に言えば、静寂しか反応がない。
「あれ~? 何かあったのかしら。先に料理を食べましょ。話はその後、食べながらでも遅くはないわ」
霊夢の言葉が終わって、三人で料理を取りに行く。
和食を中心に、洋食に中華も少しながら揃っている。
和漢洋が整然と並べられている様は、外の世界での宴会料理にかなり近い。
取り皿に大体の料理を取り分けて、少し離れたところで夜空を見上げながら、静かに食べる。
騒がしいのも嫌いではないが、今は特にそんな気分でもなかった。
「どうして、こんなに外れているんです?」
「いいだろ、別に。俺には丁度いいさ」
外の世界でも、振り返ってみれば同じようなものだ。
幻想郷でもそれが変わらない。ただ、それだけ。
俺は俺で、いつまでも俺だ。他人が成り代わることなどできない。
――ただ、俺は限りなく、他人に成り代わることが得意だった。
いや、『成り代わる』は大きな語弊があるだろうか。正確には、『偽り』が得意だった。
嘘の演説が得意な
「……で、俺の唐揚げ取った奴出てこい。おい射命丸」
「私じゃないですよ。大体、焼き鳥・唐揚げその他諸々、鶏料理は食べられません」
何というか、共食いの範疇なのだろうか。
ともあれ、俺の唐揚げが犠牲になった代わりに、良いことを聞いた。
何か困ったら、射命丸には鶏料理を口に突っ込めばいい、と。
しかし、まだ問題は解決していない。
俺の唐揚げ、本当にどこにいった。
射命丸が取っていないとして、俺は皆の場所からは外れている。
ついさっきまであったはずだ。誰かが取ったとは、到底思えない。
かといって、俺が食べた覚えもない。
――と、思案をしていると。
「ん~、醤油の味付けが絶妙ね、この唐揚げ。美味しいわ」
「……で、誰だよおい。人の食い物勝手に食べて、被害者の眼前で料理の感想を口にした気分はいかがなものだよ。あ?」
「すっごく気持ちが良いわね」
最低だ。俺が言うのもなんだが、最低だ。
それも、とても輝かしい笑顔で言っているのだから、また
ごく自然に会話が成立している今の状況。
それは全然、全く、一ミリたりとも、自然とは言い難かった。
目の前の何もない空間から女性の上半身が伸びていて、そこに空間の裂け目のようなものができている。
まるで次元を司るかのように、彼女はごくごく自然に、俺に話しかけているのだ。
俺自身も、ある程度慣れたのだろう。驚きはしなかった。
射命丸や姫海棠などの鴉天狗がいたならば、こういう変な種類がいてもおかしくない。
外の世界の常識は、もうとっくに捨ててある。早めに適応することが吉と見た。
と考えつつも、完全に手放しきれているかは、微妙なところだ。
「あ、そうそう。私は
上半身だけが見えている、金髪のかなり顔立ちの整った食べ物の窃盗犯は、俺の目の前で悠々と自己紹介をしていた。
ありがとうございました!
さてさて、言うのを忘れていた気がしますが。
主人公、能力持ちです、はい。
「オリ主能力持ち」が苦手な方は、Uターン推奨です。
次回は、口が悪い氷裏君の能力紹介になります。
次は……いつになるのかなぁ(´;ω;`)
ではでは!