思いの外一話投稿から時間が経ってしまい、申し訳ありませんでした(´・ω・`)
本来の予定だと、二、三日後には投稿しようと思っていたのですが……
それができなかった要因もなくなり、これからは書けるぜ! やったぜ(`・ω・´)ゞ
では、本編どうぞ!
――悪夢。
それは夢となり、幻想となり、自らの
しかし、それは往々にして誤解される。
自分に植え付けられたトラウマと、自分の過去の罪は一致しない、という固定観念。
実際、一致するのだ。気付かないだけで、稀なだけで。
自分の犯した出来事が、そのまま自分のトラウマに、なんて馬鹿らしいとも思われることが。
宝くじと同じだろう。一等が当たる可能性は無いに等しいが、
前例が少ない、反例で溢れ返っている。それだけでは、一つの可能性は否定しきれない。
悪魔の証明と同じように、不可能なのだ。全世界のトラウマ保持者を探し出さない限りは。
その特異な反例が――俺のことだった。
自分の手は赤黒い粘着性のある液体に染まって、濡れている。
がくがくと小刻みに震えるその手の中には、しっかりと握り締められた、銀色に光る研がれた包丁の柄。
それさえも、俺の醜い手と同じドス黒の紅に色付いていた。
戦慄、そして
それが自分の成したことだと知って、さらに恐怖のボルテージはメーターを振り切る。
手の震えが、一層と大きく、大きく。
曖昧に揺れる刃先は、目の前に倒れ込んだ人を力なさ気に指す。
間違えようがない、俺のよく見知った人物が、大量の赤に染色された液に浸っている。
浸っている。その表現は決して間違いではないのだろう。
一つ付け加えるならば、その液体の発生源は、その横たわった人物だということ。
一時。たった一瞬の狂気的判断は、俺の後悔を呼び寄せた。
手に持った包丁を、遠くへと放り投げる。
放った場所から反響して耳に届く、軽快な金属音。
共に、床に少しばかり付着する血液。
――俺は、走って逃げることしかできなかった。
走って、走って、逃げて、逃げた。
不思議と、涙は流れなかった。流すことさえも、許されないのだろう。
「――おっ、起きましたか。ちょっと強くやり過ぎちゃったかと心配したじゃないですか~」
「は、ぁっ……?」
不安定な自らの呼吸を耳にしたとき、目に入っていたのは、見慣れない天井とあの人外。
悔しくも、可愛らしい笑顔。
けれども、俺はそれに対して反応するような余裕は、到底なかった。
乱れる心拍と息のリズム。
呵責の念は、肥大化して俺を襲い始める。
「どうしました? 悪い夢でも?」
「何でもねぇよ」
冷淡に、最大級の警戒をぶつけながら、一先ず周りを見渡す。
音速の手刀を繰り出したのは人外で確定。心配した、などという軽々しい言葉で警戒を解くわけにもいかない。
シンプルな家具に、台所に広げられた調理器具、内装を見る限りは、木造住宅だろうか。
いずれにしても、俺が既視感を感じる物は一切なかった。
鍋が火にかけられていて、料理のいい匂いが漂ってくる。
「火、かけてんだろ。止めろよ」
「全く、突然呻き声を上げだしたから様子を見にきてあげたというのに……お姉さん悲しいですよ?」
「うっせぇよ」
一々言葉数が多い女だ。口数よりも、言葉数が多い。
そも、これを女と言えるのだろうか。
人外ならば、雄雌で分けるのが正解だろう。
呆れた顔をしながら、もう一度料理に取り掛かる人外。
普通に考えれば、この雌は家の主、か。
「出ていく。目が覚めるまで世話になったな」
「ちょっと、どこに行くんですか? 行く宛は? 生活は?」
「どこか適当に。行く宛とこれからの生活がないなら、野垂れ死ぬだけだ」
寝かせられていたソファから飛び起きて、玄関を探す。
ドアが沢山あるような家ではないので、すぐに廊下に続く玄関を見つけた。
鍵を開けて、出ていこうとしたその時。
俺の肩が掴まれ、動けなくなった。
犯人はもうあの人外しかいないが、その力が異様だった。
肩を抑えるだけで、俺の前進がすっぱりと止まってしまったのだ。
勿論、そこまで力強く行進したわけでもない。
が、完全に動けない。なのに、俺の肩自体は痛みがない。
「おい、やめろって――」
「いい加減にしましょうね? 私、そろそろ怒りますよ? 貴方なんて、殺そうと思えばいつだって殺せるんですからね?」
振り返った先の人外は、恐怖そのものだった。
顔も目も笑っているはずなのにも関わらず、狂逸的な威圧を全身から感じた。
俺は瞬時に悟る。この生き物は、ヤバイと。
語彙力の問題ではなく、ヤバイ。
人の限界・人智を越えた、本物の化け物、人外。
「そ、そうかよ。だったらやればいいじゃねえかよ。お前にとって人の一人や二人、どうでもいいだろ。ましてやさっき会ったばかりだ」
俺がやっとの思いで出した声は、震えに震えていた。
玄関のノブを握っているから隠れているものの、手を離せば震えてしまっていることだろう。
こいつこそが、曰く『妖怪』なのではないだろうか。
そんな疑問が、すぐに頭をよぎった。
「貴方こそ話を聞いていました? 私はネタが欲しいんです。貴方に死んでほしいと心から願ってるわけではありません」
「じゃあそれこそ俺を殺せばいい。一日分のネタにはなるだろ」
「私が自首するような新聞配ってどうしろと言うんですか……」
溜め息を吐いた人外は、すぐに顔色を変えた。
何か、いい案を思いついた、というように。
「じゃあ、料理の味見担当してください! 今日限りでいいですから! ほら、さっき寝かせたでしょう?」
「いや、何で俺なんだよ」
「いいじゃないですか~!」
「ちょっ、揺らすな、揺らすなって!」
こいつの力は、本当に規格外。
そんな力で、俺の体を両手で揺さぶったら、どうなるか。
答えは、視界のブレが半端ない。
意識さえも飛びそうで、酔いにも似た感覚が回ってくる。
人外の顔が、映ったりフェードアウトしたりを繰り返す。
首から上が飛んでいきそうだ。シャレにならないかも、と思わせるので、さらに怖い。
「わ、わかったわかった! 取り敢えず手をどけろ!」
「やった! 私の勝ちですね」
「勝ち負けはないだろうが……あったとして、人外に勝てるわけねえだろ」
俺がそう告げた瞬間、納得がいかない顔をした。
両頬は膨らみ、明らかに自分の不満を体現している。
恐怖は失せた今、不覚ながらも……可愛いと、思ってしまった。
いくら人間じゃないとはいえ、顔は人間。
それも、かなりの美形だ。
今交流があった中でわかった性格だけでも、勿体無いと思うほどに。
「むぅ、その『人外』っていうの、やめてください。確かに人じゃないですが、化け物みたいじゃないですか」
「人外に人外と言って何が悪い。名前でもあると言うつもりか?」
「えぇ、立派に。
……正直に、驚いた。
心から、こいつに名前はないものだとばかり思っていた。
まさか、名前が。しかも和名が出てくるとは。
「なんですか、その『意外だな』って顔は。で、そちらの名前は?」
「味見担当に名前は要らんだろ。人外に呼ばれるほど大層な名前でもねぇよ」
「あっ、また人外って言った! 射命丸です、しゃーめーいーまーるー! 文でもいいんですよ?」
「呼ぶわけねえだろ、それにうっさい」
さっさと味見を済ませて、早めに出ていってしまおう。
そう思いながら、玄関から台所へと引き返す。
戻っていくにつれて、料理の匂いが強くなっていく。
この匂いからして、味噌……だろうか。
鍋蓋を開け、匙と小皿を取る。
中を見る限りは、味噌汁。オーソドックスな見た目だが、人外が作った物。
本当に人間の舌に合うのか、不安にもなってきた。
一匙ばかりを掬い取り、一思いに口に運んだ。
深みのある、しかしあっさりとした赤味噌の味。
あご出汁がしっかりと効いていて、特有の旨味が口の中で広がって、味は濃すぎず、薄すぎず。
喉を通り越していく液体が全身に染み渡り、僅かな暖かさを拡散させてゆく。
「……旨いな」
「ほうら、どうです? もっと褒めてもらってもいいんですよ?」
「あ~そうだな、旨い旨い。その性格さえなければもっと美味しく感じるんだろうな~」
「ひどい!」
とはいえ、人間に食べられるもので本当によかった。
人肉とか、不可思議な生命体の骨とかは入っておらず、安心だ。
入っている具材を一瞥した限りでは、なのだが。
大根、白菜、厚揚げに豆腐……ふむ、よくよく見ても、食べられそうな物だ。
「はい、じゃあ俺の役目終了。じゃあな」
「待ってくださいって! 何でもしますから!」
「ん? 今何でもって……」
言ったからには、守ってもらわないとなぁ?
そりゃあ、何でもっていったら何でもだろ。
オール、全て、一から十まで、どんなものでも――というのは置いておいて。
「はぁ、わかったよ。疲れた。ネタだろ?」
これ以上続けても、キリがない。
諦めながら言うと、彼女の顔がぱあっと明るくなっていく。
そう嬉しそうにされると、こちらとしても困る。
そんなに期待できるほどの情報は、生憎だが持ち合わせていない。
「はいはい! では、貴方のお名前と年齢から聞かせてもらいます」
どこからか、手帳と筆記具を取り出して、メモの準備をした彼女。
これから、取材が始まるという状況の人外の顔は、真剣そのものだった。
「……
「へえ、何だかかっこいいですね。由来は?」
「ただ冬産まれってだけ、特になし。生まれたときから、そんなに期待される人材でもなかったからな」
すらすらと進むペンを動かす人外は、さながら記者だ。
彼女曰く、本当に記者なようだが。
この姿を見ると、妙に腑に落ちる感覚を呼ばれた。
似合っているというか、慣れている雰囲気、貫禄がある。
上手く説明できないのだが、優秀だと一目見てわかるような印象だ。
「『期待される人材でもなかった』、というのは具体的にどういうことで?」
「……言いたくない」
「わかりました。では、どうやってこの幻想郷に?」
俺の答えたくない事柄には、すぐに退く。
マスコミとは、一風違ったスタンス。
とことん問い詰めるのではなく、得られる情報から得る。
その佇まいは、少しだけ立派に思えた。
「ここ、幻想郷っていうのか。この幻想郷に来たのは……えっと、ただ走って山の中に入っただけだ。どの瞬間から入ったのかは、厳密には俺にもわからない」
「やはり、外来人でしたか」
「外来人、ってのは?」
この場所。曰く、幻想郷。
日本の県名・地名・町名・村名としても、他の単語としても聞いたことがない。
となると、間違いなく俺がいた場所とは異次元の場所だ。
異次元じゃないにしろ、公にならないような所であることは確かだろうか。
「貴方達が住む世界を外の世界としたとき、結界で隔離されたのがこの幻想郷。外の世界から幻想郷に迷い込んだ人間を、俗に外来人と呼んでいるのです」
聞いた限りでは、ほぼ異世界と呼んで差し障りないに等しい。
仮にそうでないとして、ここが俺の知る場所ではないという事実は確立された。
ならば、俺としても情報が欲しいところだ。
少しでも、有益となりそうな情報が。
こいつは記者。家を建てて定住しているということは、この幻想郷の住人の一人だ。
持っている情報を得るには、うってつけとも言える人物だろう。
ここで無闇矢鱈に飛び出すのは、惜しい。
俺の考えが、変わる瞬間だった。
「へぇ、じゃあどうやったら戻れる?」
「紫さんに頼めば大丈夫ですけど……することがあって間に合いませんよ? もう夜ですし」
「は……? よ、る……?」
「えぇ。貴方が寝ている間に、夕方はとっくに終了しています」
慌てて窓を見た。
満点の星空が、堂々と広がっている。
外の世界では中々見ることが叶わないほどの、綺麗で多くの星々。
ということは、この幻想郷は外の世界のように文明は進んでいないのだろうか。
それとも、進んでいるが意図して自然環境を多く残し、結果として星が沢山見えているのか。
どちらだとしても、俺には幻想郷が美しく、綺麗だと思えた。
「味噌汁は、晩御飯だった、と」
「えぇ。他にも作っていますが、味見します、担当さん? 夕食一緒に食べてもいいんですよ? あ、それともご飯要らないですかね? さっきまで出ていく~とか言ってましたし?」
「うっ……」
美味しい味噌汁を味見させておいて、この口調。
やはり、俺はこの女が苦手だ。調子を掌握されている気がしてならない。
いくら情報収集に最適な人材だからとはいえ、馬が合う気がしない。
「あ、食べたいならどうぞ一緒に食べましょう? そんな無理にとは言いませんよ」
「……よろしくお願いします」
「では、条件付きで。私のこと、そろそろ人外呼ばわりを止めてもらえるとな~、と」
この程度で、助かったと言うべきか否か。
言うべきなのだろう。この女を調子に乗らせると、絶対に面倒だ。
それだけはわかる。
「……射命丸」
「ん、合格です。いつかは文って呼んでもいいんですよ?」
「当分は射命丸だ。というか、ずっと射命丸だ」
「全く、冗談が通じませんね~」
軽い冗談を受け流しながら、目を奪われた宵闇を見る。
月が出ていない分、個々の星の輝きは、最高潮に達している。
風情のある月を見るのもいいが、星だけでも違った魅力を感じた。
「いいところでしょう、幻想郷」
「まぁ、そうだな」
今回ばかりは、この射命丸に同意だった。
ありがとうございました!
多少コメディ色も入れないと、ただのラブになってしまう。「コメディ」とはって言われちゃう(´・ω・`)
ちょっとずつ、入れていきたいでち!(*´ω`*)
名前に関してのセンスは、目を瞑ってほしい(´;ω;`)
タグにもある通り、戦闘の描写も一部入れる予定です。
スペカとか……うん。ぎょめんね(´・ω・`)
謝るとは何なのだろう。
ちなみに紫さん、活動時間は夕方から夜中にかけてらしいですね。
前に書いたやつは、知らなくて設定全無視するという(´・ω・`)
ま、まあ勉強になったからいいかな(震え声)
ではでは!