一ピクセルの恋   作:狼々

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めちゃくちゃ遅くなってすみません。
とあるゲームにハマりまくってました。

ウマ娘っていうんですけどね。


幻想郷における妖怪とは人間に限りなく近い亜人らしい

 全身の疲労に耐えられず、キングサイズのベッドに倒れ込む。

 

 吸血鬼妹との追いかけっこは、壮絶なものだった。

 能力、建物、さらには開けた外まで利用して、夕食が始まるまでの時間を稼ぎきった。

 終わった頃には足が棒になり、肺が潰れたかと錯覚するほど痛かったほどボロボロの状態だった。

 

「ああそうだ、河童のとこ……」

 

 予定では今日、できあがっているはずだ。

 取りにいかなければ。思考はまどろみ、意識がぼんやりと霞む。

 巨大な寝台の上。体の渇き。睡眠するのにうってつけの環境が揃った今、目を開け続けることは案の定不可能だった。

 

 

 

 瞼にぶら下がる倦怠感を振り払ったのは、爽やかな陽光──ではなかった。

 

「おはようございます」

 

 人の声がして飛び起きた。

 俺のすぐ隣で礼をする十六夜。それ以外に人はいない。

 気付かなかったのか、ドアの音も聞こえた覚えがない。驚きと寝起き不明瞭が混ざり、声も出せなかった。

 

「朝食の時間です。皆様が起床を済ませている中、一人寝坊助がいると思われたため迎えにあがりました」

「お、おう。そうか」

「ええ。準備を済ませ次第、ダイニングへ」

 

 最低限のみを言い渡し、影も残さず虚空へ消えた。

 時間が飛ぶといった感覚は、何度体験しても慣れない。

 いや、正確には彼女が飛んでいるのか。

 割り込まれた時間の意識が存在しないため、自分が時を跳躍したと錯覚してしまう。

 

 ダイニングにはメイドの言葉通り、全席が埋まっていた。

 吸血鬼曰く、「私は早寝早起きがモットーなの」とのこと。

 朝型な吸血鬼というのも存在否定に近いが、世の中には色々な吸血鬼がいるらしい。

 

 食事を終え、屋敷を秘密裏に抜け出す。

 一日遅れで研究所へと旅立った。

 到着する前に里で河童の好物を十五ほど購入。現在持ち合わせた(きん)いっぱい分だ。これだけあれば不足はないだろう。

 

 ──と、たかをくくっていたのだが。

 

「じゃあ、お代で十六本いただこうか」

「十六、っすか」

二八(にはち)で十六だよ。さあさ勘定だ」

 

 なんとラボの河童は狙ったように、一本多く胡瓜(きゅうり)を要求した。

 手元に控えるは十五。これだけ数があれば遠目に一本足りないことは悟られないものの、数えられたらすぐにバレる。

 となれば、この一本分を()()()しかない。

 

「じゃ、数えるから見ててくれ」

「あいよ」

「ひいふうみいよう、いつむうななやあ──なあ、今何時(なんどき)だ?」

「ん~、その数え方で言うと九つだね」

「とお、とお余りいち──」

 

 その勢いのままに、きっちりと十六までを数え上げる。

 しかし十五を数え終えても、俺の手にはまだ一本残っていた。

 

「とお余りむっつ。ほら丁度だ」

「うしし、まいどあり。こちらが研究商品さ」

 

 大量の胡瓜と交換に、望みの品を渡される。

 リボルバー式の拳銃が二丁。なるほど、一丁で八本というわけだ。

 一言ありがとさん、と礼を済ませてその場を去ろうとしたとき。

 

「なあな兄さん。ちなみになんだが、あんた(とき)うどんって知ってるかい?」

「さあな? 存じ上げないなあ」

 

 時うどん。有名が過ぎる(はなし)である。

 二人組の男達が一杯八(もん)、計十六文のうどんを食べたが、金を出しあっても一文足りない。

 そこで、兄貴分の方が勘定中に時刻を聞き、聞いた時刻の続きから数えを再開することで一文ちょろまかしたまま勘定を終えて帰る、といったものだ。

 

「残念。どうやったかは知らないけど、こりゃ十五本だよ」

「んなわけない。ちゃんと数えたろ?」

「もう一度数えた方がいいかい? あんたが面白いことしたのに免じて見逃そうと思ったんだがねえ」

 

 こう言われたらおしまいだ。

 俺が行ったのは、まさに時うどんの手法だ。

 九つを数えず、十から数えて一本分多く数えた。

 所詮は「ごまかし」なので、改めて数え直されたらどうしようもない。

 

「ちょっとした遊び心さ。丁度手元に十五。今は九つ。やれって言ってるようなもんだ」

「私も体験する日が来るとは思わなんだ。これだけあって面白いもん見れたし。一本くらいは、まけてやってもいい」

「さっすが。そこんとこ河童さん、わかってるねえ」

「その代わり、今度は四つで来るんだよ」

「粗悪品を高値で買えってか?」

 

 ちなみに、この時うどんには続きがある。

 

 

 ちょろまかした様を見た弟分の方が、今度は自分がやってみたくて仕方がなく、別のうどん屋で試みる。

 同じようにうどんを注文した。

 しかしながら、長いこと待たされる。だしは苦い。ぬるい。麺はのびている。

 とまあ、うどんの出来はお世辞にも良いとは言えないものだった。

 いよいよ勘定というときに、八つまで数えてついに。

「今何時(なんどき)や?」

 と口にする。

 

 すると思惑通り、店主は時刻を口にしたのだ。

「四つです」

「いつつ、むっつ──」

 と。せっかく八つまで数えたのに五つから数え直した結果、まずいうどんを食べさせられた挙げ句、余計に高い金を払って失敗するといったオチがつく。

 

 時うどんは西の噺で、東には時蕎麦という名前の噺もある。

 内容は似ているものの、兄貴分の成功を見た弟分が失敗する様が面白いとの評価。一般的には時うどんの方が面白いとされている。

 

 

 一悶着起こりそうだったが、回避できた。

 後はこの一週間、こいつを使い倒すだけだ。

 

 滝の隠れ家から紅魔館へと逆戻り。

 地味に遠い上に便利な鴉天狗タクシーも不在なため、移動に一時間弱程かかった。

 何食わぬ顔で館へと戻ったが、門の前で不審人物の女が居座っていた。

 

 中国風の格好、いわゆるチャイナドレスを着ているのだが、色は情熱的な赤ではなく緑色だ。

 これほど目立つ格好の人物を忘れることは不可能に近い。朝食の時間に見かけたばかりだった。

 食事を終えるとそそくさとどこかへ行ってしまったため、話しかける暇すらなかったため、俺と彼女の接点は限りなくゼロに等しい。

 

 これが屋敷の関係者であることに間違いはない。

 だが、こんな格好で()()()()()()()()()()()されると不審者として扱いたくもなるというものだ。

 

「また眠って……居眠り門番にとってはいつものことですよ」

「うわっ! マジ心臓に悪いからやめてくれ……」

「私にどうこうできる問題ではないので」

 

 虚空から出現したのは、時を止めるメイドだ。

 背中を預け、鼻に提灯までぶら下げて寝ているチャイナ女を見て、思わず溜め息を吐いていた。この様子と発言だと、どうも今に始まったことではないらしい。

 

「侵入者には強行突破される。居眠りが平常運転。穀潰しのいいところです」

 

 慣れた手付きで、チャイナ女の鼻提灯を割った。でこぴんであっさりと。

 

「ふあっ、敵襲!?」

「お目覚めかしら。気分はいかがかしら?」

「あはは、えっと……快眠でした!」

 

 顔を青ざめさせた後、ビシッと効果音が付きそうなほどに素早く敬礼の姿勢を取っている。

 現場は説教ムードになりそうだが、どう考えても本当に感想を聞いているわけではないだろうに。

 名前すら知らないが、俺まで呆れてくる。

 

「そう。次眠ったら夕食抜きよ」

「ええ~!?」

「当然よ。働かざる者食うべからず、そのまま次の日まで寝てなさい」

「そんな殺生な~」

「黙りなさい中国。とにかく、次様子を見にきたときに寝てたら、わかってるでしょうね?」

 

 細い目から放たれる眼光は丹念に研がれた包丁を思わせるほどの鋭さだ。他人事のはずなのに俺まで少し怖くなってきた。

 ってか、中国って。確かに中国っぽいことには変わりないけれども。

 カンフーポーズを取れば、ドラが後ろで鳴っていそうではある。想像したら今度は笑えてきた。

 

「っと、昨日からのお客さんですか。これはこれはお恥ずかしいところを」

「悪いがその言葉を否定する自信はない」

「ひどいなあ。ともあれ、自己紹介を」

 

 気を取り直すのが早すぎる。

 さっきまで叱られていたはずなのに、反省の色さえ見せずカンフーポーズを取っている。ドラが鳴ったに違いない。

 ここまで開き直っているのは逆に問題な気もするが、俺にとっては他人事なのであまり深く考えないようにしよう。

 

「私、(ホン) 美鈴(メイリン)と申します。『気を使う程度の能力』を持つ妖怪です。お見知り置きを」

 

 拱手(きょうしゅ)でお辞儀までされると、本格的に中華な音楽を流れていると錯覚しそうだ。

 そんな彼女も能力持ちの妖怪。ここには最早スタンダードな人間はいないんじゃないかと疑いたくなる。

 

「そうか。よろしく中国」

「話聞いてました?」

「もちろん。俺は片桐 氷裏だ。中国に造詣が深いわけじゃないから、多分気が合わないとは思う」

「本人の前で言いますか普通?」

 

 第一印象、とっつきやすいが進みにくい。

 どんな話題を振ればよいのか検討もつかない。

 先程告げたように、中国に深い理解があるわけでも知識を有しているわけでもないので、尚更だ。

 

「俺と話して職務怠慢になるよりマシだろ? 居眠り門番さん」

「痛いところを……時々ですよ、時々」

 

 警備が時々でも居眠りをしていいものかと聞かれると甚だ疑問である。

 とはいえ一端かもしれないが、彼女は門番らしい。ならば、俺が得られる経験値も眠っている可能性があるかもしれない。

 

「なあ。曲がりなりにも門番やってるってことは、肉弾戦は得意なんだろ?」

「色々鼻につく言い方ですが、否定はしませんね。時を止められる咲夜さんとか、そういう規格外な能力を除いた純粋な接近戦なら紅魔随一だと自負できるほどには。武術の達人と言われることもありますし」

 

 やはりそうだ。こいつは超接近型だ。遠距離でちまちまやるようなタイプに見えないとは思っていた。

 これが事実ならば、俺が最も技術を吸収できる寄生先は()()()()()()()()()()()

 遠距離型は弾幕を張ることが必須なため、俺には絶望的に向いていない。

 ならば、俺が学ぶべきは接近戦での立ち回りと技だ。射命丸に通用する云々はさておき、土俵に近づくためには必要であることには違いない。

 

「じゃあそんな接近戦のスペシャリストに聞きたいことがあるんだ」

「悪い気はしませんね。なんでしょうか?」

「格上の相手と戦うとき、一番の優先事項は何だ?」

 

 俺の問いに対し、中国は悩んでいるようだった。

「格上、格上……?」と漏らしているため、自分よりも強い相手を知らないのだろう。

 ますます信憑性がある情報が手に入りそうだ。

 

「強いていうなら、自分のレンジに持っていくことですかね」

「と言うと?」

「接近型は距離を詰めることが全てです。逃げ回られるより先に、自分が戦える敷地内に相手を入れるんです」

 

 つまるところ、速攻をかけるということだ。

 時間を与えることなく突撃。回避行動を取られる前に先手必勝の一撃を御見舞する。

 なるほど。

 

「つまりは脳筋ってことか」

「そうとも言いますね。力こそパワー!」

 

 ダメだ、これ以上は話しても無駄だろう。

 こいつは妖怪ということもあり、恐らく元からのポテンシャルが高いのだろう。

 駆け引きを挑むよりも、ゴリ押した方が勝率は高い。それもそうだ。納得がいく。

 だからこそ、俺は当たりの中の大ハズレを引いたということにもなってしまう。

 

「あーはいはい。参考になりましたー、あざす」

「失礼極まりない人間ですね。でも、真面目に考えてもこれが一番だと思いますよ」

「……一応、覚えとくよ」

「それがいいです。損があるわけじゃないですし」

 

 紅 美鈴は温厚な人間、もとい妖怪だ。

 物腰柔らかで、攻撃的とは真逆の存在に見えた。

 

 それを知覚して、俺は元の考えに戻る。

 彼女の言葉は事実であり、鍵となる可能性がある。

 往々にして、こういったタイプが戦うときは実力派だ。

 

 あまり長居をしていると時間がなくなってしまう。

 惜しいが、今日中国から吸収するのはここまでとした。

 

 二丁拳銃を弄びつつ、図書室へと向かう。




ありがとうございます。

ライスちゃんばっかり育成してます。
気になる方は「ライスシャワー ウマ娘」で検索かけてみてください。

めっちゃかわいいです。

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