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肌を焦がす殺気は消え失せた。
俺が両手を上げてから数秒後のことだ。
「ふむ……もうよいでしょう、お嬢様」
「ええ、十分すぎる。来なさい小僧」
背くことなくスカーレットの前に、射命丸との間に割って入った。
俺の
「私、最初から貴方の命なんて取るつもりなかったの。願いは何かしら。聞くだけ聞いてあげるわ」
「嘘つけ。本気じゃなかったら、アレはなんだってんだ」
「あら、あまりにもひどい有様だったら、という前提を言い忘れてたわ」
この蝙蝠が、と言いかけた口を閉じる。
言った未来のことを考えると、おちおち悪態もつけない。それこそ殺されかねないだろう。
「人間が望む程度なら大抵は叶えてあげられると思うわよ? これは私の想像を超えた褒美よ。気が変わらない内に言うだけ言ってみるのも悪くないんじゃない?」
「じゃ、この屋敷とそこの便利なメイドくれよ」
「ふふっ、冗談が上手ね。気が変わらない内に、と言ったはずだけれど」
恐ろしい。表情も目も変わっていないはずなのに、空気がピリつく感じがする。
これ以上は軽口すら叩けなさそうだ。
当初考えていた願いを口にすることにした。
「一週間、ここに置いてくれ。タダでとは言わない。馬車馬の如く働かせてもらうからさ」
「なんてこともないわ。それよりも、貴方はそのために命賭けてたの?」
「勿論。デスゲームも案外悪くないな。死ななきゃだけどな」
雰囲気が緩んだのを感じて、いつもの軽口を挟む。
スカーレットはそれに応じるほどの余裕はなかったらしく、ただただ呆れ返っていた
「まあ、取り敢えず。この子はここで面倒見るから、天狗は山に帰りなさい」
「え? いやいや、帰るわけないじゃないですか。何のためにここに来たかわかりません」
「困るわ。これは彼の望みであって、私の我儘じゃないもの」
「というわけだ。さ、帰った帰った」
「この人でなし……! 恩知らず!」
「助けを乞うた覚えもないし、恩を感じた覚えもないな」
そう言うとすぐに、天狗は目にも留まらぬ速度で扉を跳ね開けた。
恐らく相当怒って帰っていったのだろう。俺に返ってくる風圧がそれをひしひしと感じさせる。
「……それで? ここに転がり込んで何がしたいの?」
「さっすが予知能力者。話が早すぎて俺が置いてかれそうだ」
射命丸が出ていったのを待っていたかのように、スカーレットは口を開く。
実際、彼女は待っていた。俺が話す環境が整うまで。
「弾幕ってヤツのイロハを教えてくれ。一匹の鴉天狗にどうしても勝ちたいんだ」
「無理ね」
吸血鬼の即答だった。
射命丸の言うことを疑うつもりはなかったが、やはり覆らない種族差があるのだろう。
「俺はそうは思っちゃいない」
「でしょうね。あまりに差が歴然だと、比較すらままならないもの」
「正直、一週間死ぬ気で頑張ったとして、アイツにどれくらい近付ける?」
「五秒もったら御の字ね」
「マジか」
「大マジね」
そう、驚かずにはいられない。
なせなら──
「五秒
「……ふふっ、あっははは!」
幼い吸血鬼があどけなさを含んだ大笑いを見せた。
沈着な印象のある十六夜ですら、少々意外そうな顔をしている。
「くくっ、面白い。やっぱり殺さなくて正解だったわ。その減らず口がたまらないわね」
「そりゃどうも」
「いい意味で私の気を変えるのが上手い男ね。特別よ。咲夜、フランを呼びなさい」
「……よろしいのでしょうか。恐らく彼は──」
「大丈夫。フランに勝つことは万に一つもないけれど、死ぬことも多分ないわ。死んだら……そうね、まあ、その時よ」
「御意に」
丁寧にお辞儀を残したまま、まばたきの隙間を縫って存在を消した。
とはいえ、一つ気がかりなことが聞こえた。
「おい。死ぬってなんだよ」
「言葉の通りよ。死ぬかもね、運が人並みなら」
「なら大丈夫だな。今まで俺は神に見放されたことはないんだ」
「へえ。貴方、
横目に見たスカーレットの表情は、こちらを探る笑みを浮かべている。
ちらと見てすぐに、部屋の大扉を意味なく見つめてこう言う。
俺がこの手の質問をされたとき、どう返すかは決めている。
「愚問だな。
「奇遇ね、同感よ」
彼女は未来を視ることができる。であるならば、この質問自体は無意味なものだ。
返答が予めわかっている質問など、するだけ無駄というもの。
この質問は彼女の疑問というよりも反語であり、「そんなわけないでしょう?」という確認に違いない。
吸血鬼の同意を得てすぐのこと。
「──えっと、はい?」
我ながらここまで間抜けな声が出るものか、と呆れたくなる。
しかし無理もない。目前の扉が開かず、急速に飛んでくるなど一生に一度あってたまるか。
扉が上下に二分して散り、その内上半分が俺の頬を掠めて壁に叩きつけられる。
避けることなど到底及ばない、ただ反応すらできなかっただけだ。
一歩立つ位置がズレていれば、この時点で俺は死んでいたか致命傷か。まず負傷は避けられていなかっただろう。
「申し訳ありません、お嬢様。後で修理しておきますので」
「構わないわ、直してくれれば。それより、今日は随分とご機嫌斜めなのね」
「当然。ドタバタとうるさいのなんの」
ぼやいた声は俺の聞き覚えのない声だった。
声の主は派手な改修工事が行われた箇所から、煙と共に咲夜に手を引かれてやってきた。
羽と思わしきものは木の枝から七色の水晶のようなものがぶら下がっているようだ。
赤と白を基調としたドレスとナイトキャップをした金髪赤眼の少女──いや幼女は、不機嫌を顔中に示している。眠りを邪魔された子供のように。
「こちら、私の妹のフランドール・スカーレットよ」
「へえ、妹か。俺は──」
そこまで言って、吸血鬼の妹が右手をこちらに差し出した。
握手かと思ったが、俺の方に手のひらを向けている。
何をしようとしているか、と推測する前に、開かれていた手が閉じた。
瞬間、俺の体が四散した。
スカーレットの頬、服。咲夜の鼻、メイド服。スカーレット妹の手。カーペットに壁、天井。
あらゆる箇所に血潮が飛び散り、俺の体がまるで最初からそこに存在しなかったかのように消失した。
風船が穴を開けられていないのに内側から破裂した、そんな感じだ。
「おいおい、勘弁してくれ。血の気が多すぎる」
俺は両手を上げ、降伏の意思を前面に出す。
咲夜もレミリアも、驚いた顔をして俺を見ていた。
扉が吹き飛んですぐに、能力を使った。
元々立っていた場所に
壁に背を預けながら、攻撃の意思がないことを明確にするしかあるまい。
「なに、あんた。
「知らねえよ。なんだよ『目』って。会って三秒で相手を爆発させる奴なんて信用の欠片も──」
そこで会話が途切れた。いや、切られた。
同じ所作で右手を握り、扉があった場所にいる俺の体が破裂。
血液が飛び、以下略。
「ほんっとに勘弁して。これ最後なんですホントに。もう代えがないからさ」
今度は両手を前で合わせ、懇願する。
テーブルの上に座った俺が、その役割を担う。
扉付近の俺も偽物。偽の偽。
しかし願いも虚しく、次はスカーレット妹から何を言われることもなく破壊された。
血液が飛ぶというものの、次の俺が現れた時点で飛んだ血は元からなかったように消えるのだが。
「なんて、言うと思ったか? 最後なわけねーだろ、馬鹿じゃあるまいし」
「……何、こいつ」
「失敬な。初対面から数秒で殺しにくる方が何こいつって感じだわ」
「変な人。殺す気も失せたし、飽きた」
その言葉を聞いて、先程まで話していた俺は消え去る。
レミリアの後ろへと退散していた俺があらわになった。
「マジで勘弁──」
そう一つ息吐く間もなく、残虐な吸血鬼の破壊行動は再開。
右手を軽く握るだけで体が吹き飛ぶというのだから、恐ろしいものだ。
「飽きたんじゃなかったのかよ」
「やっぱりそいつも違うのね。もういい。今度こそ飽きた。イライラも薄れたし」
初対面の俺でもわかるほど目に見えてストレスが溜まっていた彼女。
どうやらストレス解消という名目で四回も殺されたわけだ。
「コイツは本物だぜ。神に誓う」
訝しげにこちらを見つつ、吸血鬼妹は掌を見せつける。
力がこもった様子もないが、この世の全てを刈り取る不気味な気配があった。
脅しのつもりだろう。俺はたかをくくっていた。
しかし彼女の過去の言葉とは裏腹に、あえなく右手は閉じられた。
ただ。
これも裏腹に、五人目の俺が死ぬこともなかった。
「……なんてね」
「お見事。そいつは一本取られた」
俺は
レミリアとは反対方向であるため、結局一つ前の俺も本物ではなかったのだ。
「大嘘吐き」
「嘘なんて吐いちゃいない。俺は神を信じてないんだ。誓う神なんていないと信じてるね。つまり信じてることを信じてるのは信じてるってのに嘘をついていることには──まあいいか」
「ほんと、変な人」
「お褒めの言葉に与り、恐悦至極でございます」
「おにいさん、皮肉ってご存知?」
「ええご存知ですよ」
「敬語の使い方も学習した方がよさそうね」
「わざとだよ」
吸血鬼妹は殺気を放つことをやめたらしい。
代わりに僅かほどの興味も持ってくれたようで、思わずそっと胸を撫で下ろした。
扉が破れる前の位置であるレミリアの隣に戻る。
「止めに入ろうか少し迷ったわ」
「入ってくれてよかったんだが。一日に命を賭けすぎな気がするし」
「貴方が煽るからでしょう?」
「ごもっとも」
俺は幻想郷に来てから、ずっとこのキャラを貫いている。
特段ペルソナを意識しているわけでもないが、饒舌でいた方が自分らしいとは思っている。
お調子者は往々にして得をしやすい性格だと感じてしまう。
「さて、貴方を呼んだのは他でもないわ。この男が新しい
「人間でしょう?」
「今までも人間だったでしょう?」
「待て。そのおもちゃ扱いされてるらしい人間から一言言わせてほしいんだが」
「説明は後ほど私から差し上げますので」
吸血鬼姉妹で話が進んでいるようで、俺は蚊帳の外。
人を勝手におもちゃ呼ばわりされて困惑も疑問も抱かない人間などいるはずがない。
まして殺されかけた身だ。この状況の「おもちゃ」が含む意味によっては文字通りの地獄が待っていることになる。
「今日から一週間、貴方にはフランの遊び相手になってもらうわ」
「おままごとしてる時間はないんだが」
「余裕なんてないわよ。フランにとっては暇潰しでも、貴方にとっては被虐の極みだから」
「それ、どういうことだよ」
被虐の極み。それこそ地獄だ。
吸血鬼姉の方を考慮すると、妹の方も相当に強いと思われる。それこそ命の危機を感じるほどに。
現に俺はその片鱗を味わいかけたわけだ。
「大丈夫。死なない程度に、と警告しておくわ」
「まあ手元が狂ったり、変なことしなかったら死なないと思うよ、おにいさん」
「おままごとで死ぬ自信はさすがの俺でもないけどな」
「おにいさんって恐れ知らずなのね。じゃあ、早速遊びましょう。いいでしょう、お姉様?」
「……まあ、いいでしょう。夕飯までには終わることよ」
あっさりと許可を出した姉。
夕飯までにと時間制限を設けていたようだが、現在午後二時を回って少し。
午後五時に終了という希望的観測をしてみるものの、その間なんと三時間弱。
洋屋敷の振り子時計の遠回りで無慈悲な死刑宣告だった。
「おいおい、マジかよ」
「好きなところに逃げていいよ。一発くらいなら、吹き飛んでも生きてるはずだから心配しないでね」
それだけ投げかけられ、妹が掌をこちらに向けた。
また先程の破裂攻撃かと身構えるも、もう能力は解除してしまっているし対処の時間もない。
早くも命を諦めることになるのかと後悔するよりも先に、彼女の目的はそれではないことに気付いた。
彼女の腕の周囲を蛍の光のように輝く鈍い光弾がうろつきはじめた。
彼女の羽と思わしき水晶と同じく、七色に光っている。
僅かに感じるこの感覚は、既に知っているもの。光弾、つまりは
「あ~……これ、詰んだかもな。まあ、遊んでやるとするか」
「随分と強気ね」
「俺の性分でな」
強がってみるものの、不利どころの話じゃない。
俺は反撃に弾の一発もロクに出せない。
絶望的では済まない。「絶望的」とは限りなく望みが薄いときに使う言葉であり、望みがないときには使えない。
姉の言う通り、被虐の限りとはこういうことを言うのだ。
しかも、妹が弾を揃えるのに一秒もかかっていない。
こちらは空の拳銃、向こうは迅速かつ無限に次弾装填が可能なフルオート銃。
この戦争がどちらに分があるかなど議論の余地もない。
「で、いくら出すんだ?」
「コインいっこ」
「安すぎるぜ俺の命」
「あなたが、コンティニュー出来ないのさ!」
加速度的に速度を増す霊弾は、俺の命乞いを待ってはくれないようだ。
最近寒くなってきました。
体調管理にはお気をつけて。